2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:(会場参加者が挙手したのを見て)あ、そちらの方、お願いします。
質問者3:今のお話にも少しあったんですけど、セキュリティのことでお聞きしたいことがあります。たぶん日本だと「データが盗られるんじゃないか」とか、すごく不安になってしまうところがあって。先ほどの処方せんも、例えば「どこかに行っちゃうんじゃないか」みたいな話があると思うんです。
そこはやっぱり国民性であんまりセキュリティのことを心配しないのか、もしくはアレックスさんがやっているような技術がしっかりしているということが浸透していて、不安がないのか。そこはどういう感じなんでしょうか。
齋藤アレックス剛太氏(以下、アレックス):まずご質問に回答すると、セキュリティを心配しないということは一切ないです。彼らはそういったところ、とくに行政に対する監視の目は厳しいです。その背景をお話しすると、30後半から40代以上の方はソビエト時代を経験されているんですよね。
日本の戦前を経験されている方と境遇は近いのかもしれないですけど、やっぱりソビエト時代に対する、かなり……嫌悪感というか。「あれはもういやだ。暗くて悪い歴史だ」という認識が強いんです。
そのときに汚職などを見てきたので、そういった背景もあって現政権に対する監視の目は厳しいんですよ。「ようやく独立を成し得た、だからこそちゃんとした政治を運営してほしい」というところがまず背景にあります。
それに加えてあるのが、ちょっと皮肉なものではあるんですけど、彼らの中に「人間ってもう信頼できるものではないよね」というところもあって。とくにソ連が崩壊する直前の頃は汚職がはびこっていたので、「人間が政治を運営する以上はなにかしらの汚職が起こってしまうだろう」という前提に立っているんですよ。
先ほど若宮さんからもご紹介があったと思うんですけれども、データの主権を個人に置く。そしてデータのトラッカーがあるというのは、あれはなんのためにやっているかというと、汚職がそもそも起きないようにする仕組みなんですよ。
それはどういうことかというと、例えば誰か悪意を持った政府の高官が若宮さんのデータベースにアクセスして、改ざんしようとします。若宮さんの血液型が登録されていた情報を変えてやろうと。
そうしたら輸血したときに死んじゃいますよね。じゃあそれをどうやって防ぐかというと、「誰が」「どの時点で」「誰のデータにアクセスした」というのを確実にトラックすることができるようにする。
そういう仕組みをエストニアは構築したんですよ。それが先ほどみなさんにも見ていただいた、データトラッカーという仕組みなんですね。
若宮正子氏(以下、若宮):そうですよね。だから、もしも横浜市のなんとかリンクさんであれをやって、サーバーから誰かの名前が出てきたとしたら、「誰か見たぞ」となって、おそらくもっと早くお縄になっていたかもわからないと思うんですけど。
やっぱりまずデータは、例えば私のデータ、医療情報だけじゃなくて市役所の成人検診とかインフルエンザのワクチンとか、いろんな健康に関するデータは全部一本化して、それを政府で預かっていただいている。
けれど、それはあくまでも自分のデータであると。だからセカンドオピニオンを聞くために「横浜共済病院にお願いして、MRIの結果を拝借して……」というのはおかしいんです。それは本来自分に属する情報ですからね。
だから「情報は国家なり」と国ベースで言ったのがさっきありましたけど、「私」の情報なんですよね。だから、みんな情報基本主義のような考え方がすごく徹底しているんじゃないかなという気がします。
アレックス:なので、極論を言うとエストニア人は、人間よりシステムのほうを信頼しているんですよ。
(会場笑)
そのシステムも、不正が起こらないように構築されているのが前提です。そこらへんがやっぱりブロックチェーンの設計思想と似ているのかな、というのは思っていますね。
若宮:それともう1つね、今ロシアの話がありましたけど、ものの本には……池上彰さんが言ったのかな、「次なるエストニアはアゼルバイジャン」なんですね。その次がアルメニア。要するにロシアの旧属国ですよね。
アレックス:うん、共産圏ですね。結局その辺りですね。
若宮:やり方はぜんぜん違っていて、アゼルバイジャンはスマートフォンだかガラケーだか……。
アレックス:モバイルですね。
若宮:モバイルでやるんですけどね。とにかく電子政府というものに執着しているというか。
アレックス:そうですね、アゼルバイジャンはエストニアに次いで、世界で2番目にe-Residency、電子居住制度を展開した国ではあります。僕も一応見てみたんですけど、やっぱりまだ完成度はエストニアのほうが高いのかな。エストニアはそういうところを対外に向けて出していくのが上手だなと思って見ています。
質問者3:ありがとうございました。
司会者:ありがとうございます。
(会場挙手)
じゃあ、前の方。
質問者4:今日はありがとうございました。話が少し戻ってしまうかもしれないんですけれども、いいサービスがあって家族の支えがあって、利用が活性化されていくというお話があったと思います。例えば、時間をかけてサポートができない家族や、家族がいない高齢者の方もきっといらっしゃると思うんです。そこはコミュニティが支えるとか、なにか仕組みがあるんでしょうか。
アレックス:それはエストニアで、ということですか?
質問者4:エストニアです。
アレックス:どうなんでしょうね……先ほども申し上げたように、明確な答えは今手元にないというか、僕らもエストニアの高齢者ではないので(笑)。そこらへんはわからないところが、たぶんあると思うんですけれども。
一応まずファクトからお伝えすると、政府が提供しているプログラムはあります。エストニアは「タイガー・リープ・プログラム」といって、国民の誰もが1回ITのクラスを受けられるように、1990年代の後半から00年代にかけてやっているんですね。そういったところでまずレベルを底上げする取り組みがあります。
それにプラスして……とはいえ、「政府の取り組みで自己学習することができました」と答えたのは、全体のうち2人だけだったんですよ。
(会場笑)
なのでやっぱりそう見ると、自己学習とか、友達・家族からのサポートが非常に大きくなっていくのかなと思います。あとは国民性として「自分でやってみるか」と思われる方が多くいらっしゃるので。
そういった意味では自己学習のカバー範囲は大きいかもしれないですけれども、そこはまた日本と状況は異なってくるのかなと思います。
若宮:それと、例えばなにかをやるとするでしょう。最初はカードを差し込んで、アクティベーションするやり方がわからなくてうろうろしていると、すぐショートビデオが出てくるんですよ。
「あなた、今これをやりたいと思っているんでしょ」と、その手順をショートビデオでやってくれるんですよね。要するにマニュアルが中に組み込まれてるみたいな感じ。
アレックス:なるほど。そういう意味で言うと、やっぱり高齢者の方々がやる上では使い慣れた電話とか、ビデオチャットとかの中でサポート体制が整っているといいかもしれないですね。
若宮さんも常日頃からAIスピーカー、スマートスピーカーが高齢者にとって一番親和性があるデバイスなんじゃないかとおっしゃっているじゃないですか。
若宮:あれはね、だって寝たきりになっても喋ればいいわけですから。寝たきりでも操作ができる。それからやっぱりパソコンだってスマートフォンだって、「やさしい」と言ってもなんらかの操作手順を覚えなきゃいけないんですけど、あれ(スマートスピーカー)は初期設定だけきちっとしてもらえれば口で喋るだけで操作手順はいらないし。
例えば口で喋るほうも、おじいちゃんが方言しか言えないんだったら方言で登録すればいいんですよ。「テレビさつけてけろ」というのが「テレビをつける」ということに設定しておけばいいわけですから。
(会場笑)
そういうことで将来性があるのではないかと思います。そして、それをやることで介護の分量を減らすことができる。例えばうちなんかでも「暖房を18度にして」「やっぱり寒いから22度にして」と言えば、「はい、暖房は22度にします」と。
だけどお嫁さんなんかだったら、「さっき言ったでしょう。もう! 寒いに決まってるんだから」とかになりますよね。
(会場笑)
そういう意地悪は言わないですから(笑)。
アレックス:「はい」と言ってくれますからね(笑)。
若宮:まぁでも、意地悪を言うように設定してもおもしろいかも。
(会場笑)
司会者:それはそれでまた遊び心があるかもしれないですね(笑)。ありがとうございます。ちょっとお時間が少ないので、あと1人か2人。
(会場挙手)
じゃあ奥の方。
質問者5:お話ありがとうございました。エストニアはぜんぜん関係ないんですけど、先ほどから若宮さんのお話を聞いていて思ったことがあって。うちの祖母も84歳なんですけども、なにもかもが面倒くさくなっていて、外に出るのも億劫になっていて。
自分はインターネット系で仕事をしているんですが、孫がどういう仕事をして、と説明してもまったく理解しないんですね。若宮さん、ほかと比べてではないんですけど、毎日心がけていることはなにかありますか?
若宮:いえ、ぜんぜん心がけているわけじゃないです。
(会場笑)
ただ、私の周りにもそういうおばあさまやおじいさまはいます。おばあさまの場合だとね、孫。孫とビデオチャットをやる。まず娘さんがそれをやって、「ちょっとのぞきに来ない? 七五三の着物着てるのよ」とか言うと、「どれどれ」とか言って見に来る。
そこでうまーく手を抜いて、今度は「音が小さいなら、そうそう、そこをやると音が大きくなるよ」とか。そういうふうに、お孫さんを使うのがおばあちゃんの場合には効きます。
司会者:「使う」(笑)。
(会場笑)
若宮:で、今日本で一番問題なのは、おじいちゃんです。
(会場笑)
とくに不機嫌老人をどうするかが国民的課題なんですね。
(会場笑)
司会者:どうしたらいいですかね。
若宮:彼らは(外に)出て来ないんですよ。だからデイサービスにも行かないし、いろんな会合にも来ない。「くだらない」「程度が低い」とか言って。
(会場笑)
司会者:それでも引っ張り出してきたいですね。
若宮:そうなんですよね。で、おもしろいのはね、そういうおじいさんは、例えばバーチャルリアリティー(拡張現実)なんてあるでしょ。それを知ろうと思うと、図書館に行って本を3冊くらい借りて一生懸命読むわけですよ。そんなことをしなくたって、お孫さんがポケモンをするときについて歩けばすぐわかると思うんですけど、そういう発想がないのね。本で読んで難しい能書きを……。
(会場笑)
それが現実じゃないんですよ。拡張……なんだろう、仮想?
アレックス:仮想拡張現実(笑)。
若宮:はい、幻想みたいなものになっちゃって。おばあさんはそういうのをやらないんですね、本を買ってきて読むとかしないんです。もっとも私はときどき、今も本を書いて売っていますから、ぜんぜん本を読まないというのは困るんですけど(笑)。
(会場笑)
本屋さんに叱られる。
(会場笑)
アレックス:でも若宮さんはほら、いつも旅をされているじゃないですか。エストニアももともとご旅行で来る予定が、なんやかんやでワークショップとかをやられたりして。そういうのも1つのきっかけになっているのかもしれないですね、新しいことが次に。
若宮:そうですね、やっぱり生の人間とも触れてみたい、ということで。
アレックス:なるほど。
若宮:よく食べるんですよね。
アレックス:よく食べていますよね。エストニアでも僕らと同じ量を普通に食べていますからね。
司会者:へぇー!
若宮:子どもだってこーんな(大きい)マフィンかなにか、おやつにペロペロっと食べちゃう。
司会者:好奇心が旺盛。……よろしいですか? はい、じゃあラスト1人くらいで、ちょっとお時間がアレなんですけれども。
(会場挙手)
はい、じゃあラストでお願いします。
質問者6:日本だとなかなかみんな動かないじゃないですか。だからITを使えば便利になるのもいいんですけど、「おもしろくなる」という感じで広まればいいなと思っていて。
エストニアの人はITリテラシーが高いからこそ、例えばYouTubeを見たり、SNSをやったりアプリをやったり、あとは正子さんのようにゲームを作ったり。そういうふうにITを使いこなしているシニア、娯楽で使っているシニアはいらっしゃるんですか?
若宮:あったみたいですね。
アレックス:うん、ありましたね。
若宮:WebサーフィンとかYouTubeとか、ゲームをやっている人もいましたよね。
アレックス:メールが一番多かったのかな、確か。ちょっと手元に厳密な数字がないんですけど、メールでコミュニケーションをやっている方が一番多くて、その次がWebブラウジング。なので、ネットサーフィンみたいな感じで使っている。その次が確かソーシャルメディア、FacebookとかTwitterとか、そういうかたちだったと思います。
若宮:だからわりと日本で普通の大人、若い人から中年くらいの人が使っているような情報を楽しんでいらっしゃるみたいですね。
アレックス:そういう意味で言うと、僕らのアンケートも、60歳以上の高齢者を対象にということで。まぁ……「これ、基本的に自分で答える人はいないでしょう」と思って僕らも作っていたんですけど、結果的に半数の方が自力で回答していらっしゃいました。
若宮:そうなんですよ。それで任意記入項目みたいなのがありますよね、必須じゃないほう。そういうところも積極的に。
アレックス:書いてくれますよね。こっちがコメントを選抜するのが難しいぐらい。
若宮:(笑)。
アレックス:僕がけっこう感銘を受けたのは、「時間が節約できます」「足を運ばなくていいです」「だから趣味のガーデニングにもっと時間を割けます」「孫と遊ぶ時間が増えて」とか。やっぱり、役所で待つことがハッピーな人はいないと思うんですよ。あんな狭い所であと何番で、みたいな。そういう時間がなくなることも1つのハッピーなのかもしれないなと思います。
若宮:それでね、括りになるかもわからないんですけど、「日本のシニアにひと言」という中でね、英語で「Just do it!」と書いてあったの(笑)。
(会場笑)
「能書きをたれてないでさっさとやれ!」みたいな(笑)。
(会場笑)
アレックス:でもやっぱり、やるためのサービスも日本ではこれから出てくるところだと思うので。
若宮:そうですね。
アレックス:みなさんと話していても「こういうサービスがあったらいいのに」という声って、けっこうあると思うんですよ。僕らも常日頃から話しているじゃないですか。そういった声がもっともっと表に出てくれば。
今日は「エストニアはすごいな」で帰っていただきたくなくて、「エストニアでこういうことができるんだったら、日本でこういうこともできるんじゃないか」「エストニアにこういう課題はないけど、日本ではこういう課題があるよね」とか。そういったところに目が行くといいなと思います。
「マイナンバーカードはダメだ」じゃなくて、「エストニアのデジタルIDも人口130万人の小国でできたんだから、日本でならこういうことできるんじゃないか」という声がどんどん大きくなっていけば、もしかしたら3年後、4年後には。
若宮:そうです、そうです。
アレックス:ね。「デジタル国家・日本」というかたちで、もっと便利になっているかもしれないですよね。そうしたら若宮さんも家で全部……まぁでも若宮さんはそれでも足をいろんな所に運んでいますよね(笑)。
司会者:ね、旅好きで(笑)。
若宮:できればもっとほかの国もいろいろ、見たり聞いたりしてみたいと思います。
司会者:うん、そうですね。ありがとうございます。本当に貴重なお時間で、個人的にはやはりデジタルで便利になったぶん、時間を短縮したぶん、人間としての余暇を楽しんでいるんだなというのがけっこう印象に残りましたね。やはりそこなんだなと。便利になったからこそ、シニアの方は自分の人生を楽しまれるんだなというのがすごく印象に残りました。
今お二人がおっしゃったように、新しいサービス。私もそうですけれども、みなさんは今後シニアになっていきます。今の生活が当然できなくなっていくわけなので、今からそういった新しいサービスを、今ここにいる私たちが考えていく必要があるんじゃないかな、と思いました。
本日は貴重なお話でした。どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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