社会的企業と一般企業の違いとは何か?

町井恵理氏(以下、町井):じゃあ、すみません。時間も短くなってしまったので、質疑応答に入りたいと思います。いくつかですね。3つぐらいですかね。誰か。

(会場挙手)

じゃあ、最初に手を挙げていただいた方。

質問者1:社会起業家と一般の企業との大きな違いが何なのか。もちろん課題を解決するというのはわかるんですけれども、私は2年次の研究プロジェクトの時に、「社会起業家をテーマにして研プロをやりたい」と言ったら、3人の先生から、同じ反応をもらったんですよ。

「企業たるもの、社会の課題を解決するために存在してるのであって、わざわざ社会起業家と名乗っているのは何なんですか」。ある人はさらにきつくて、「それは成長しないベンチャーの言い訳じゃない?」ということすら言われたんです。みなさんの考える社会(的)企業と一般企業の違いって何なんでしょう?

藤沢烈氏(以下、藤沢):(手を上げて)はい。

町井:お願いします。

藤沢:先ほどもお話した話で、企業でいるとどうしても収益責任ができてきます。さっきでいうと、社会化や制度化は儲かりませんので、どんどんやらなくなります。なので、決して社会問題の解決につながらないんだけども、事業が続くからやるという。一見、社会問題にアタックしているんだけれども、やっている社員はあくまで売り上げを目指していると(そう)なりやすいと思っています。

もちろん僕らも、従業員を食べさせないといけませんから、売り上げは必要です。ただ、根っことして、この問題はなんなんだと。本当にこの事業を通じて社会を変えられるのかと。社会問題の本質にアタックできているのかとかですね。あるいはこれが行政を巻き込んで制度にできるのか、ということを埋め込まれているのは、NPOなどだからできていると思っています。株式会社、特に上場している会社だと、それは難しいと感じています。

今あるすべての企業は、本当に社会の課題を解決しているか

安部敏樹氏(以下、安部):私も近い考え方です。本質的にはたぶん変わらないですよ。事業家である以上は、人を食わしていくというのは必須なんでね。逆に問いたいのは、「今あるすべての企業は、本当に社会の課題を解決してると思いますか?」という問いであって、その問いに、その先生にちゃんと答えてほしいですね。

(会場笑)

いやいや、それはやっぱりね。すでにこれまで作ってきた資本主義の仕組みの過ちという部分だとか、できていない部分から目をそらして、それを言っちゃいけないと思う。

逆に言うと、僕らは成長性を志向するかしないかでいうと、たぶんうちなんかは成長性を志向してるわけですね。なぜかというと、社会課題のプラットフォーマーを目指しているので、そういうものは単一であるほうがいいですよね。課題を整理しやすいし、課題の調査もより深くできるからです。

一方で、規模を追う必要はないけど、すごく大事な事業もあるじゃないですか。そういうときに、まさにその先生がおっしゃってた、1つのすごく単一な価値観で尺度を作ってしまっていること自体が、たぶん現代社会の難しさというか、問題の多くを作っている可能性が高いです。その意味では、たぶん新しい尺度を作っていく仕事ですよね。その尺度を事業の中にどう取り込んでいくかが1つの社会的な事業の定義として見ていいんじゃないかなと、僕は勝手に思ってます。

事業規模だけでなく、社会的インパクトに着目するのが社会起業家

白木夏子氏(以下、白木):私もちょっと一言いいですか。私自身は自分で「社会起業家」と名乗ったことはなくて、(周りに)言われるだけなんです。私は創業した時から株式会社を選んでいるし、やっぱりジュエリーブランドとして会社を成長させていくことがすごく大事だなと思っているので、「起業家です」と言っています。

ただ、私個人としては、自分はアクティビストだと思っています。それは、エシカルファッションやエシカルジュエリーを業界内に広めていく役割があると思っていたので、積極的に講演会に出たり、トークイベントに登壇したりしています。

私は人前でしゃべるのはそんなに好きじゃないんですけど、人を説得して業界を変えていくには、やっぱりちゃんとしゃべれる人にならなきゃいけない。すごくがんばってスピーチも練習して、こうやって人前に立っても赤面せずに話せるようになるまで、けっこうな努力をしました。

そんな形なので、自分は起業家としてとらえているけれども、個人としてはアクティビストというか、社会活動家として活動をしている人間もいますと。

町井:ありがとうございます。たぶんここにいる方って、社会起業家と呼ばれていますけど、おそらく白木さんがおっしゃる通り、自分が「社会起業家だ!」と言ってる人って誰一人いないと思うんですよね。なので、たぶんそこが一つ言えること。

資本主義の限界がきていると言われてますけど、KPIとしてただ単に社会の規模を追っていくんじゃなくて、社会的にどういったインパクトがあるかを見ていくことが、たぶん社会起業家にはなってくるのかなと思います。

「初めの一歩」「巻き込み力」「事業化に伴うお金」の問題

藤沢:質問をまとめて取ったほうがいいかもしれない。

町井:じゃあ、いくつか。3ついきますか。奥の方と前の方。はい。あとそちらの方、お願いします。眼鏡の方です。

質問者2:今日はありがとうございました。起業をするというところで、初めの一歩目とか二歩目がすごく難しいなと感じています。みなさまの初めの一歩、二歩ぐらいのところを具体的に教えていただきたいなと思いまして、ご質問させていただきます。

町井:はい。次の方、お願いします。

質問者3:ありがとうございました。社会問題を解決する事業は、難所に人を巻き込むというのがあるのかなと思います。例えば協力してくれる人がいるけども、お金がない顧客の方が多いとか、逆に顧客はいるんだけど協力してくれる人がいないとか。そういう人を巻き込んでいくところで、みなさまが大事だと思っていること、もしくは実際にうまくいった事例をお聞かせいただければと思います。

町井:じゃあ、もう1人の方、お願いします。

質問者4:質問は、社会起業家に興味があってもやっぱり一番気になるのが、お金の問題があると思うんですね。自分自身はそんなに裕福なわけじゃないので、お金のことはやっぱり気になります。社会起業家の情報を見ると、やっぱり事業化がけっこう難しいといろいろ聞きます。そういった事業化の困難さが存在するのか、それにどう対応されているかというところ。

あと、自分及び社員さんの生計の問題があれば、ちょっと教えていただけたらと思います。お願いします。

町井:起業家としての一歩、また社会起業・社会問題として人を巻き込むためにうまくいった事例ですね。あと、社会起業家として事業化のところでお金の問題が出てくると。そういったところに対して、何か一言ずつコメントいただければと思います。答えられるところで……。

現場に行き、当事者と話をするところから始める

藤沢:じゃあ、最初に。僕は1番目と3番目に関係するところですかね。やっぱりお金の話を先にやってしまうと、本質的な社会解決にならないことがあるので、僕は感覚的には1年ぐらい、その問題に向き合うときに準備が必要です。

僕は復興の話をやっていて、復興の場合は比較的支援などが起きやすかったので、1年お金が入らないことはありませんでした。最初は200万円ぐらい自分で用意して、これがさすがに全部なくなったらやめようと思ってたんですけど、結果なんとか続いています。

あんまり最初からお金のモデルからいくと、けっこう難しいというか、本質を見誤る気がしているので、準備期間を持ったほうがいいと思うんですね。1年はとりすぎかもしれないので、半年とか。その間はあんまり仕事をやめないほうがいいと思っていて、その問題に向き合って、何が課題なのかを掘り下げる時間が必要なんじゃないかなという感じがしています。

だから、自分の場合は途中で、これはお金がとれるモデルじゃなければ、ボランティアでいいと思っていました。今は仕事を通じて課題解決できることが見えたのでやっていますけれども、それはたまたまですね。あまりお金を得ることを目的化してしまうと、それは普通に事業なので、ちょっと注意しないといけないんじゃないかと感じています。

そういう意味では、自分1人から立ち上がって、なんとかお金が得られるようになったら、だんだんと他のメンバーを巻き込むという順番でやるようにはしていました。

今は働き方改革で、副業・兼業がやりやすくなってきていると思うので、仕事をしながら実際に現場に行ってですね。リディラバのツアーに行ってもらってもいいかもしれません。実際に問題の当事者と話をすると。僕はできれば20人ぐらいに会ってほしいですね。本で読んだりしてやっちゃう人がたまにいるんですけど、それは続かないです。

私も復興の現場に行って感じたのは、当時、あれだけ東日本のことをみんなが議論していたんだけども、現場に行くと誰もいないんですね。ほとんど来てないです。例えば福島だって、東京からだったら、2時間ぐらいですぐパッと行けるわけなんですよね。なので、頭で考えたりネットで議論するんではなくて、実際に現場に行って話を聞くことが大事じゃないかなと思っています。

人を巻き込むよりも難しいのは、コミットさせ続けること

町井:ありがとうございます。じゃあ、社会問題の、人を巻き込むところでうまくいった事例があれば。

安部:いや、巻き込むところって、むしろたぶん簡単なところですね。やっぱり理念的にもそういうのに関心がある人は、ボランティアとかプロボノも含めて多いじゃないですか。どうやって巻き込むかというと、僕はこういうところに来て、ここにいる誰かからも仲間探しもするわけですよね。

実際にみなさんの卒業生で、この間1人、新入社員が入りました。だから、そういう機会にもなったりするかなと思うんです。実際に人を巻き込むところよりも、巻き込んだ人を継続的にコミットさせ続けることが難しいのかなと思ってます。

そのために、確かに給料をちゃんと整備していくことはあるかなと思っています。うちだと今、年収でいうと下が350万円ぐらいで、上だと700~800万円ぐらいですね。このレンジで年収をもらっているんですけれど、やっぱりそうなってくるまでには少し時間がかかりましたよね。

今やっていく中で平均給与もどんどん上げていけるだろうし、そういう事業モデルまで作ってこられたから、僕らはやっぱり長期的には国連などと競争をしていくことになると思っています。それには、国連よりリディラバを選ぶような仕組みをやっていかなきゃいけない。それは(働く人の)条件面の改善も必要だよねというのは、めちゃくちゃ思うと。

お金になりづらいからこそ「稼ぐ」という気持ちが大事

安部:その時に初めの一歩に何をすべきかは、僕も(藤沢)烈さんと一緒です。僕はもともと、これを事業にするつもりでやったわけじゃなくて、ボランティアで始めたんですよね。ボランティアが600人ぐらい集まってやっていたんです。やっぱり集まってるという時点で、これはけっこう問題意識として似たようなことを思っているかも、という確信にもなっていたんですよね。

ボランティアでお金も払ってないのに、600人が動くってすごいじゃないですか。むしろ、ボランティアで動いてる状態から、事業化するときが一番悩ましかったですね。お金を入れてしまうことによって、関係性が崩れちゃうことは実際にあった。あるなと想定もしていました。思ったほどはなかったですけど、やっぱりみんな心の中でなにか思ったやつもいると思うんですよね。そういう話はあります、と。

あとはやっぱり、純粋に金になりづらいのはその通りです。だからこそ、マインドセットとして、「だから稼ぐんです」という気持ちは大事ですよね。僕は少なくとも5年~10年のスパンでみたら、この(社会起業家の)世界に年収1,000万の人は出てくると思っています。今もトップクラスにはいるかもしれないけど、それをボトムアップしていきたいと思っていると。

ただ、たぶんその人の能力はやっぱり高いものを求められるだろうなというのは、すごく思っています。つまり、本来的には事業にするのは難しいものを、「社会を良くしていくために事業として成り立たせますよ」という、そのスキルと心意気はちゃんと持っててくれよ、というのはありますね。今みたいな質問にざーっとまとめて答える感じで、そういうことを思ってます。

町井:ありがとうございます。本当にグロービスのネットワークってすごいと思っています。私も実際に始めた当時は20人で、15人がグロービスのメンバーでした。今も40人でやっていて、グロービスのメンバーがどんどん、どんどん入ってきてくれてます。しかも志も高くて、頭も良くてという感じで、すごくいいメンバーが集まってきてくれています。

ネットワークとしては、みなさんすごく良い場所にいると思うので、どんどん巻き込んでいけば問題ないと思います。

わかりやすく伝わる言葉を磨き続ける

白木:私も巻き込むときにやっぱり大事だったのは、自分が何の課題に関心があって、何を成し遂げたいのかを短い言葉で明文化して、誰にでもわかりやすく言っておくことがすごく大事だと思っています。

わかりやすければわかりやすいほど良くて、そうすると関心がある人や、アンテナが立っている人はやっぱり来てくださったりします。なので、わかりやすい言葉で自分のメッセージを伝えることは、みなさんもどんどん磨かれると本当にいいなと思っています。

それは組織のトップをやっていても、やっぱり大事です。なるべくシンプルな言葉で伝えるということですね。

町井:ありがとうございました。時間がきてしまいましたので、これで「社会起業家としてのキャリア」の分科会を終えさせていただきたいと思います。つたないモデレーターでしたけれども、ありがとうございました。

(会場拍手)