百貨店を歩いて「全部ここにある」と気づいた

坊垣佳奈氏(以下、坊垣):ありがとうございます。ではお待たせしました、北川さん、自己紹介をお願いします。

北川竜也氏(以下、北川):みなさまこんにちは。三越伊勢丹の北川と申します。今日はよろしくお願いいたします。実は私自身はこんなところで「百貨店がこうです」なんて掲げるような偉そうな経歴ではなくて。

坊垣:いやいや。

北川:実はもともと国際政治の世界や、大企業が海外に出ていくときの支援、あるいは会社を新しく立ち上げてEコマースの事業をやったりという、まったく百貨店とは縁のない世界でずっと過ごしてきたんですが、2013年に本当に貴重なご縁がありまして。

実はその直前にEコマースの会社を立ち上げたとき、いろいろ困ったことがありまして。会社をゼロから作ると、まず自分が何者かの説明をしてもなかなかわかっていただけないんですよね。

あるいはEコマースで売りたいものをメーカーの方、ブランドの方、工芸品を作っていらっしゃる方などに「売りたいんです!」と言っても、信頼していただけるまでの知名度も何もないという、非常に大きな苦労がありまして。

そんなときにふと、実はそこは伊勢丹じゃなかったんですけれども、百貨店を歩いていると「全部ここにあるじゃん」という思いをしていたことがあって。これが遠い関係にある百貨店に勤めることになったきっかけなのかもしれないですが、百貨店というのはすごいなと。

“次のクリエイション”を生みだす役割を果たしてきた百貨店

北川:自己紹介じゃなくて恐縮なんですけれど、実は僕、最初に中山さんのお話を聞いていて。

坊垣:あっ、はい。

北川:ビジョンを作り直されたと。

坊垣:はい、そうなんです。

北川:「生まれるべきものが生まれ」……。

坊垣:「広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」です。

北川:深く共感しまして。

坊垣:あっ、うれしい(笑)。うれしいです!

北川:なんでかというと、僕はよく「なんで百貨店にいるんですか?」「なんでそこを選ばれたんですか?」と聞かれるんですよ。今までの僕のキャリアからすると、大企業の中にいわゆるサラリーマンとして入るとか、創業340年の会社に入るということも含めて、「なんでいるんですか?」と。そう聞かれたときに、同じようなことを答えたんです。

百貨店では歴史上、多くのクリエイターやデザイナー、あるいは食品だったら新しいスイーツを作られた方などがデビューされましたよね。そこにお金の還流が生まれることで、次のクリエイションを生みだすという役割を果たしてきたんだよなと思っていて。

それをフィジカルな、リアルの場でやっているのが百貨店なんです。我々はリアルな世界に生きているので、これを100年後にも残していきたいという想いで百貨店にいるんです。ということをいつも答えていて、そういう意味では今日の中山さんの、Makuakeの考え方はすばらしいなと。これだけは言いたいなと思いました。

坊垣:ありがとうございます。ちょっとビジョンとしては長いかなと思ったんですが、言いたいことをちゃんと言おうと思ったらああなったんですよね。

北川:本当にすばらしいことだと思います。

坊垣:「広がるべきものが広がる」みたいなところは、まだまだ私たちでやり切れていないですが、広がるべきものが広がる中で、たぶん残るべき技術とか伝統とか、工芸品のサポートもされていますが、そういうものが残っていくところにつながっているでしょうし。

そのあたりはぜひ、ビジョンもご共感いただいたということで、引き続きいろいろとご一緒できればと思います。では、簡単なご紹介を。

三越伊勢丹の目標は「仕入れて売る」以外のビジネスモデルを作ること

北川:はい。ちょっと小難しい資料を用意しちゃったんですが(笑)。お客さまももちろんですし、我々働いているメンバーもそうですけども、我々はふだんの生活の中でオンラインの世界とオフラインの世界を行ったり来たりしながら、自分の用途やそのときのニーズに応じてツールを使い分けていきます。

(スライドを指して)大きく分けてこの図の左側のほうは、百貨店事業のデジタルトランスフォーメーションで、我々は「DX」と呼んでいます。右側のほうは、そういったベースを持ちながらも今までのバリューチェーンとは違う、新しいお客さまというターゲット、新しい商品ラインナップ、「仕入れて売る」だけではない儲け方などを作っていこうという考え方です。

この2つを融合させてデジタルトランスフォーメーションを進めようとしている。現在の私の担当は、(スライドを差して)この右側の方の新しい事業をいかに生み出していくか。なおかつ、さっき申し上げたバリューチェーンのような、百貨店が今までずっと依拠してきた一本足打法のビジネスモデルに、次のモデルをいかに加えていけるか。これが私の今のミッションです。

坊垣:ありがとうございます。私、伊勢丹大好きで。

北川:ありがとうございます。

坊垣:すごくよく行っていて。これはもうお仕事関係なくうかがっています。ほかの百貨店の方がいらっしゃったら非常に申し上げづらいですけれども、場づくりも常に新しい感じがしていて。すごく新しいことに積極的な会社だな、と感じています。

やっぱり、デジタルの領域でこれだけ考えてやられているのは、もちろん北川さんのチームがすばらしいこともありますが、北川さんのご経歴的にも、ぜんぜん違う領域をやっていたからこその新しい融合のかたちというか。

今の伊勢丹さんの状況を捉えて、「じゃあデジタルの領域とどう掛け合わせていくか」みたいなことをすごく考えられてやられているんだな、というのは本当に感じております。

北川:恐縮です。

坊垣:いえいえ。

モノだけではなく「新しい体験」をいかに提供できるか

北川:まさに今おっしゃったように、実は私たちのチームが特殊だということよりも、とくに新宿伊勢丹のお店のメンバー、あとは商品部の布陣、あるいはここに出ている食品のメンバーに進取の気性がものすごくあって。

新しいことをお客さまにいかにご提案できるか、モノだけではなく新しい体験をどれだけご提供できるかということにものすごく貪欲なんです。その努力があるからこそ、こういった取り組みもできたわけで。

実は私なんかはほとんどなにもできていなくて。そういったお店や商品部、営業部のメンバーが想いをもって、こういうものをかたちにしてくれたことが一番大きいと思います。

坊垣:実は伊勢丹さんとの取り組みは、もう4年になるんですよね。なので創業2年ぐらいの、たぶん「本当にこの会社大丈夫か?」みたいな時期から、伊勢丹さんの新宿本店2階の売場に私たちのエリアを設けていただいて。そこでプロジェクト実施中のものを展示いただくという取り組みをやっているんですね。

これ、実はすごく画期的なことでして。百貨店さんだけじゃなく、小売の業界はやっぱり売場面積に対していくらの売上が……というのがベースの世界なんです。この新しいかたちを採用していただいたというのは、たぶん社内でも新しかったんじゃないかなと。

北川:そうですね。最初は社内でも理解がなかなか進まなかったことだと思うんですが、やっぱり場があって実際にそこでモノを見ると「ああ、そういうことね」とわかってくれるんですよね。当時の経営陣ももちろんそうなんですけども、まずはそこを踏み出してくれたお店のメンバーが本当にすばらしいなと。

私たちがいくらデジタルの領域で「こんな新しいことがあるよ、おもしろいことがあるよ」と言っても、現場が具現化できなければそれはかたちにはなりませんし、ただの妄想になってしまいます。

我々はあくまでもそういった橋渡しをしただけで、本当にすばらしいのはお店のメンバーです。そういったもっともっと多くの、次のMakuakeさんとの展開を作っていけるように、どれだけサポートできるかが僕らのこれからだと思いますね。

坊垣:ちょうど今、新しい取り組みもご相談を始めたところなので、引き続きよろしくお願いします。

北川:よろしくお願いします。

品揃えとコンサルティング戦略が売りの東急ハンズ

坊垣:では丹下さん、お待たせしました。

丹下慎也氏(以下、丹下):みなさん、こんにちは。東急ハンズの丹下と申します。今日はどうぞよろしくお願いします。私は92年に東急不動産という会社に入りまして、主に前半戦はリゾートホテルを作って運営していました。そのあと本社に戻りまして、人事総務、広報などをやっていました。

ちょうど人事のときに、(中川政七商店の)荻野さんの前職のリンクアンドモチベーションさんと一緒に仕事をしたこともあります。(スライドを指して)最後に企画政策部と書いてありますが、企画政策部のときは伊勢丹さんとなにか新しいことやろうということで、北川さんとも。

坊垣:そうなんですね。

丹下:いろいろと勉強会を開いたりしたものですから、今日は不思議なご縁だなと思っていながら。

坊垣:ですね(笑)。

丹下:席に上がらせていただいています、どうぞよろしくお願いします。

坊垣:ありがとうございます。東急ハンズさんを知らない方はいらっしゃらないと思うんですが、念のために会社の説明ということで。

丹下:はい。私どもは1976年に創業していまして、42年ぐらいにわたっています。今、会社規模としては東急ハンズというお店で、海外も含めて54店舗(2019年7月末現在)。それから専門店業態等が20数店舗ありますので、そのようなかたちでやっています。

(スライドを指して)書いてあるとおり、「日々の暮らしを彩るさまざまなヒントを提案する」ということで、基本はみなさんもよく使っていただいている、渋谷店や新宿店にあるようなたくさんの品揃えと、それをきちっと伝えるコンサルティング戦略が売りです。それを今も愚直にやり続けよう、ということでやっています。

大型店の共通商品は3,4割 商品の半分以上が独自仕入れ

坊垣:ありがとうございます。私、場づくりはすごく学ばせていただいていて。店舗によってかなり工夫がされているというか。

丹下:そうですね。

坊垣:私たちも渋谷店さんへのご相談は渋谷店さんに、新宿店は新宿店の担当の方にする、みたいな感じのお付き合いです。店舗ごとにかなり独自のスタイルをとれるんでしょうか。

丹下:ハンズは、現在は本部バイヤーがMDをしているんですけれども、もともとはお店ごとに販売員が仕入れてそのまま売るという、仕入販売制度をやっていまして。それが色濃く残っている社風があるものですから。

商品は店舗規模にあわせて5~20万SKUぐらい置いているんですけど、本部導入の共通商品は3~5万SKUぐらいで、大型店は残りは全部それぞれの店舗で商品選定を行っています。

坊垣:なるほど! 聞きました? 大型店は半分以上が独自の仕入れということですね。

丹下:大型店は3~4割ぐらいが共通で、あとはもうほぼ自分たちで入れてくる、選んでくるということでお店の特色を出していこうと。

坊垣:Makuakeでこのようなお取り組みをさせていただいているんですが、東急ハンズさんはすごく積極的に進めていただいています。今、全国4店舗(2019年8月時点)でMakuakeの販売ブースをご用意いただいているんです。渋谷は2017年10月からなので、2年ぐらいのお取り組みになるかと思います。

そこをきっかけにして、お話がやっぱり早くて。それぞれの店舗にお話をして、「ここの場所にしましょう、ああしましょう」というのも、本部にそこまで掛け合わなくてもかたちになるんですよね。

丹下:本部には一応、掛け合っているとは思いますが(笑)。でも勢いがやっぱり、店長のの権限が非常に強いので、自分たちで入れる場所を確保できさえすれば、入れることができるようになっていますね。

坊垣:何が言いたいかというと、やっぱりエリアごとにお客さんもまったく違うでしょうから、そこに合わせた店舗計画をしっかりされているんだなという印象ですね。

新しいものが生まれるMakuake×東急ハンズの親和性の高さ

丹下:そうですね。もともと当社は、サプライヤーさんを通じていろんな新しいものをお店に出していくんです。日本は生活大国なので、生活の知恵や工夫のアイデアが詰まったようなものをうちのバイヤーが選んで、それをお店に並べて。そしてお客様にハンズらしいコンサルティングで売っていくという仕組みなんですよ。

そういう意味でいうと、Makuakeさんがクラウドファンディングのときに選ばれるような商品と、知恵や感度などの感性の親和性が非常に高いというか。

坊垣:そうですね。

丹下:うちのバイヤーがめちゃくちゃ楽しくなる商品が多いですよね。

坊垣:そう言っていただけてうれしいです。やっぱりMakuakeは新しいものの生まれる場なので、新しい商品ばかりを扱っているんですよね。でもそれが、すぐに流通さんに取り扱っていただけて、みなさんの手に入るような場所に置いていただけるかというと、現状はそうじゃない。

その中で、うちを通すことで店舗内のMakuakeスペースを活用できるので、すぐそこに実行者さんの製品を並べていただけるという。これはかなり画期的だなと思っています。

丹下:やっぱりお客様がお店に来てくださる一番の理由は、「なにか新しいものを探しに来る」ということだと思うんです。そういう意味でいうと、今はなかなか発見も難しくなってきているんですけども。

坊垣:はい。

丹下:Makuakeさんの商品の基本は新しいものなので。私は2017年から東急ハンズに勤めていますけども、2016年に銀座のハンズエキスポで商品を取り扱いさせていただいたのが最初なんですよね。

坊垣:東急プラザ銀座のハンズエキスポでご一緒したことがありました。

丹下:めちゃくちゃおもしろいですよね。腸まで消化を助ける酵素が届くポップコーンとか、あと撥水性が高くて、蒸れないパーカーとか。そういうものがあって、なんとなく通常のものにプラスもうひと工夫されているものは、うちのバイヤーもめちゃくちゃ共感するし、お客様がそれを見て喜んで買っていかれる。

ハンズエキスポの売場がきっかけで「おもしろいな」と渋谷店が飛びつきました。そのあと「渋谷店がちょっといい」という情報があると、うちはお店の店長が「俺も俺も」と手を挙げて入れていくものですから。今は九州の大分店にも入ったので、5店舗で展開させていただいていると思いますね。

坊垣:ありがとうございます。このようなかたちで、やっぱり実際にバイヤーさんにもけっこう見ていただいているのかなと思っています。