社会的事業には、政治や行政とのつながりが必要

町井恵理氏(以下、町井):では、藤沢さんお願いします。

藤沢烈氏(以下、藤沢):はい。安部(敏樹)ちゃんと一緒のサイコパスです(笑)。本当に共感が大事なんですけど、どこか客観的にも見ないといけないので、社会起業家は主観と客観を行ったり来たりできないと難しいと思いますね。

私の転機は2つです。1つはマッキンゼーに入ったこと。自分としてはNPOをやりたかったんですが、事業としてお金が続かないと意味がないと非常に感じたんです。社会問題って1年~2年では解決しませんから、3年、5年、10年と続けるためには事業化が必要だということで、コンサルの仕事をしました。

2つ目の転機は、震災があった後に復興庁に関わったことです。社会起業家として、実際に世の中を少しでも変えていくことを考えると、最近は事業化だけだとだめだと感じるようになりました。

復興庁に入って非常に感じたのは、やっぱり行政が復興関係の情報をとてもたくさん持っているなと。被災されてる方はどこにいて、どういう問題があるのかは、行政がつかみやすいところがあるなという感じがしています。

さっき社会起業家の3つの役割として、「社会化・事業化・制度化」と言ったんですけれども、まず社会化の段階で、そもそも情報自体がなかなかないと。なので、行政と連携しないと情報自体が取れない。今はほとんど社会問題が見えなくなっていますから、見えない問題を明らかにするには行政のアクセスがどうしても必要だと、復興庁に入ってとても感じました。

そして制度化のところですね。どれだけ事業をやっても、社会的事業の収益性は低いです。私は釜石市でやっていて、1つの地域でそこそこはできるんですけど、それを拡大するって非常に難しい。

そういう中で行政の力を借りることは、どうしても必要だと感じました。事業化も大事なんですけど、社会の問題をどこにあるのかを発見し、それを制度にしていくことを考えると、行政のやり方はどうしても知っていかなきゃいけないと感じています。

自分は政治家はやらないんですけど、政治の力はすごく大事だなと感じています。むしろ政治家と、事業家が関係することがとても大事になっている。政治家だと情報も取れるし、制度化ができます。どうしても公務員は政治家が決めたことをやりますので、政治や行政、起業家を、どれも同時にやるぐらいの気持ちでやっていくことが、これからの社会起業家には必要なんじゃないかな。

政治家に対しては、「むしろ政治家こそNPOを持ってください」と伝えるようにしています。逆に東北などでは、NPOを言いながらもその限界を感じて、地方議員になる人間もけっこう出てますね。だからそれはどっちもいいと思っています。どっちかではなくて、どっちもやっていくぐらいの気持ちが最近は重要なんじゃないかと感じてます。

社会の「理想と現状」の乖離をどう近づけていくか

町井:ありがとうございます。みなさんのターニングポイントを聞いてきました。今、社会起業家というキーワードが際立っていて、例えばソーシャルビジネスとかもそうです。企業でもSDGsという17の項目があり、こういった社会の取り組みに責任を持ってやっていくことが、国連で定められています。

やはり企業もそういったところに取り組む中で、私たち社会起業家としての役割はどういうところにあるのかを、意見があれば少しお伺いして、その後Q&Aに入りたいと思います。

藤沢:あと3分ですか?

町井:これはQ&Aに入る前です。

藤沢:Q&A。はい。

安部敏樹氏(以下、安部):今の話って、それぞれ個別の意見がある気がしています。僕はそこに関しては、すごくラジカルな考え方なんです。社会課題とは何か、という話からありますよね。もっと言うと社会と課題があって、課題は理想と現状の乖離です。それに対して「社会って何?」という議論から、本当は丁寧にしていかなきゃいけないですよね。

社会は、辞書を引くと地縁コミュニティーのようなものが出てくるんですよね。つまり昔は、地理的制約をベースにしていたと。山があって川があって海があって、その間にある三角形は、遺伝子情報もほぼ一緒だし、使ってる貨幣も一緒だし、これ以上細かく定義しなくていいっしょ、と。それがなんとなく社会と言われていたわけですよね。

それって、通信・交通が発達すると、そうならなくなってくる。その時代における新しい社会を再定義する必要がありますよ、というのがまず1個あると。さっき言った村づくりのような話も、けっこうそういうところに近いと思っていて。

あとはやっぱり今ある社会問題って、多くは……全部じゃないです。多くは、いわゆる外部不経済によって行われるものですよね。資本主義の中で解決できないから問題が残ってますよ、というときに、考え方が2つあると思っています。1つはその課題をなんとかビジネスベースに乗せるための工夫をしていくのが社会起業家であると。

もう1個は、いやもっとラジカルにいこうぜと。つまり「資本主義そのものの仕組みを変えていきましょう」と。なぜ今の仕組みの中で、社会的な課題のインセンティブ設計ができてないんですか、というのが根本的な問題ではあるんです。そこまでやっていきましょう、という話もあるかなと思うんですよね。

社会課題を貨幣化した「排出権取引」

阿部:ちなみに後者の事例などで、今うまくいってるかどうかは(別として)、僕がすごいなと思ったのは排出権取引ですね。あれは結局、何十年か見ている中でも、グローバルで社会課題を貨幣化してインセンティブ設計した事例ですよね。

ああいうものって、すごくおもしろいなと思いました。なぜあれができるかというと、CO2というのはppm(パーツ・パー・ミリオン)で、めちゃくちゃ明確に測れるわけじゃないですか。すごく正確に測れるものは、貨幣化するんですよ。

じゃあ、社会課題が何かというのは、おばあちゃんの心の痛みのようなものって完全に数値化できないですよね。全部は難しいというのはわかっているんだけれども、一方で排出権取引のような仕組みも含めて、社会性を貨幣化していくような仕組みはあるはずです。僕らはむしろそっち側を志向している組織ですね。資本主義そのまんまを、まるっと変えにいきましょうと。

それはたぶん、僕らみたいに比較的いろんな問題を扱って社会構造を変えたい人たちと、まず個別の問題が目の前にあるんだから、それを解決しなきゃというのは、時間のレンジも全然違うし、求めているものも違います。社会的な事業をどうとらえるかは、そのタイムスパンも含めて、たぶんそれぞれ個人の定義があるような気がしますね。

みなさんはどうですか。というか、俺がモデレーターみたいなことしてる。

(会場笑)

町井:意見はありますか(笑)。本当です。

身近な人を幸せにすることから生まれる豊かさ

小尾勝吉氏(以下、小尾):本当にそうですね。生きている間に資本主義がなくなるかどうかというと、なくならないと思うんですよね。共存していくものが必要で、僕はやっぱり「本当の豊かさって何だっけ」「本当の幸せって何だっけ」というのを、もう一度引き直す作業が社会起業家みたいなところなのかなと。きれいなところで言うと、そう思っています。

スケールだけのパラダイムで行くならば、海外に出ていったほうがいいわけですよね。それがセオリーですよね。そうじゃなくて日本でやるところの価値って、やっぱりそういうところなのかなとすごく思っております。

もう物も余っていますし、コトの時代や体験の時代と言われている中で、その組織の中に属する構成員、働く仲間たちの生きがいづくりが、価値として本当に大事なんじゃないかなと思います。

先ほどのセッションの中でも、ハーバード大学の研究の結果、身近な人との人間関係の質が豊かさを決めるという話があったじゃないですか。まさにその通りだなと思っています。だから、本当にそこを追求していった結果、内村鑑三さんの後世に残す最大の遺物の中にあるような、ああいう人たちのような生きざまを残すと。結果を残すことが大事なのかなと思います。

彼らはたぶん、ああいう勇気ある生き方を残そうと思って生きてたわけじゃないと思うしね。そう思った瞬間に利己になるので、違うのかなと思いますし、身近な人から幸せにするんだという、その輪が広がっていくイメージなのかなとすごく思います。

町井:ありがとうございます。