巨大ブラックホールはどれだけ“食べ”るのか?

ハンク・グリーン氏:大型の銀河のほとんどは、その中心部に「超大質量ブラックホール」を擁しています。例えば、天の川の真ん中には、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在します。これは、かなりの大型であるといえますね。

しかし「超大質量ブラックホール」という名が冠されてはいますが、実はこれより何千倍も巨大なブラックホールが、他にも存在するのです。では、ブラックホールには、どこまで巨大なものがあるのでしょうか。

ブラックホールは、中に物が落ちると成長します。ブラックホールは、よくあるイメージのように、物を掃除機のように吸い込むことはありません。どちらかといえば、谷底にぽっかりと開いた口に近いものです。物質が「中に落ちる」と表現するのは、このためです。

ブラックホールのお食事は、あまりお行儀が良いとはいえません。ブラックホールに向かう恒星やデブリは、一直線には落ちず、円に近い軌道を描きます。その間、物質同士が衝突したり、エネルギーを交換したりします。

そして実は、ほとんどの物質はブラックホールの引力から逃れてしまうのです。そのため、ブラックホールの成長はゆっくりです。ブラックホールが恒星やガス、チリをむさぼり喰う様子は、その悪食ぶりが永遠に続くかのように見えますが、実際には限界があります。

可視光線を含むすべての物が脱出不能となる限界を指す、ブラックホールの「事象の地平面」は、よく耳にしますね。実は、重要な境界はもう1つあります。みなさんは、これはあまり聞いたことがないでしょう。「最内安定円軌道」、略称は「ISCO」です。これは、物質がブラックホールの周囲を周回する「降着円盤」の、もっとも内側を指します。

この地点では、ブラックホール周辺で軌道を維持できるだけの速度を持つのは、可視光線だけです。光以外の物質は、排水孔へ排出される水のように、回転しながら落下を始めます。

厳密には帰還不能点を超えてはいないため、他の物質がぶつかってきた場合などには、ブラックホールへの落下を免れることができます。しかし、そのような邪魔が入らなかった場合は、逃れられるだけの速さを持たないため、結果として事象の地平面を過ぎる運命にあります。

ブラックホールが“食べ”続けて質量を増せば、引力も増強します。すると、一定の距離を保って安全圏を回っていた物質も、不安定になり、ブラックホールに向け周回しつつ落ちていきます。つまり、ISCOが外周に拡張するのです。

ISCOが拡張すると、ブラックホールはより多くの物質に接するため、「食事」はさらに続きます。するとブラックホールはより拡張し、さらに食べ続けることになります。これが繰り返されますが、長くは続きません。

ブラックホールの成長が止まる時

事象の地平面から一定の距離をおいた地点では、物質は、ブラックホールよりも物質自体の重力の影響を受けます。そのため、巨大なガス星雲は凝縮して恒星となることができます。そして私たちの住む銀河系も、中央のブラックホールに周回しながら落ちていくだけの単なる降着円盤ではなく、さまざまな天体が存在するのです。

ブラックホールがある質量に達すると、ISCOは上記の一定の距離を保ちます。言い換えれば、そうなった時点で、ブラックホールの周りを周回する物質はすべて、ブラックホールからあまりにも離れているため、ブラックホールに落ちることなく、凝縮して恒星になるのです。

ISCOがこの一定の距離に至る、ブラックホールに必要な質量は算出可能です。2015年の論文において、その数字が算出されました。ブラックホールは、理論上では50から2,700億太陽質量まで成長しうるとされました。極端に幅広い範囲に思えますが、この仮説は回転するブラックホールの存在をうまく説明できます。

ISCOは収縮し、ブラックホールは成長の限界を超える前に質量を増やします。限界に達すると、ブラックホールは質量に関わらず、物が直接落ちる時だけ成長します。とはいえ、物が直接落ちるのは、きわめて狭くほぼありえない軌道であり、起こることはまずないでしょう。実際には、その時点でブラックホールは成長が止まります。

とはいえ、それが終着点ではありません。それ以上の巨躯を持つブラックホールは実在します。なぜなら、ブラックホール同士が衝突し、1つに融合することがたびたび起こるからです。2つのブラックホールの質量は、1つの巨大なブラックホールへと融合されます。

どれほど巨大であれ、このように生成されたブラックホールは、新たに物質を取り込むことはできません。衝突することのみにより、成長できるのです。こうしたブラックホールの周辺にある物質は、決して飲み込まれることはないのです。