2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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水野梓氏(以下、水野):バーっとしゃべっていたら、いつの間にか20時半を過ぎています。みなさん、お疲れではないですか? すいません。ここまでバーっと話してきてしまったんですけど、私たちが用意していたのはこんな感じです。
磯野真穂氏(以下、磯野):素晴らしいですね。水野さんの廻しが非常にうまいので、ちゃんと質問の時間が残りました。
水野:いやー、よかった。
磯野:実は天神でやったときは、私がトークの時間を間違えて30分早く終わってしまったんですね。
水野:そんなことも!
磯野:はい。いろいろ聞き手の方が困るということがあったんです。
水野:(笑)。
磯野:今回は、水野さんのおかげです。
水野:よかったです。ほっとしました。ということで、会場からの質問にちょっと答える時間を持とうかなと思うんですけど、どなたか聞いてみたいことがある方はいらっしゃいませんか?
参加者2:うまく話せるかわからないんですけど、本を読みました。すごくおもしろかったです。個人的な話になりますが、あまり食べることとうまく付き合えなくて、ダイエットも本当に倒れたり、すごく悩んだりするタイプなんです。
ただ、「ラインを踏む関係」というのは、ある程度、築いてきた気がします。ある病気で服薬を始めて15キロ太ったんですけど、恋人からはとくに何も言われず、たぶんその恋人とは「恋人が会社を辞めちゃっても付き合っているだろうな」みたいな関係でもあります。
なのに「なんで私はまだダイエットとかでこんなにおかしくなっているのかな」みたいなことがあって、ビルトインされた「やせたい」みたいな願望って、取り除けないんだろうかということが気になりました。ダイエットのことを考えるのがすごく苦痛なんです。すいません。ちょっとこんな質問ですが、お願いします。
水野:めちゃくちゃわかると思って、ちょっとウルウルしながら聞いてしまった。
磯野:みんなビルトインされていると思うんですよ。だから「やせ願望」を捨てるというのは、たぶん無理だと思ったほうがいいんじゃないでしょうか。私もありますよ。
水野:私もあります。わかる。だから、すごく聞いていて「ああ、めちゃくちゃわかる」と思ったんですけど、社会が悪いですよ。
(会場笑)
だって、そういうのをめちゃくちゃ押し付けてきません? 最近読んだ『ハフポスト』の記事で(タレント/映画コメンテーターの)LiLiCoさんが「日本人は奥ゆかしいとか言うけど、絶対にそんなの嘘だね」って言っていました。
なぜかと言うと、簡単に初対面の人とか会社の同僚とかに「あれ? 太った?」とか「髪型、前のほうがよかったね」とか、そういう外見とか年齢について評価するから、といった内容でした。「海外じゃそんなこと言わないよ」って言っているんです。
私もその外見にパッと言及する文化がすごく嫌です。こんな社会で、しかもやせたら褒められるし、「そりゃそうじゃん!」と思うんですよ。だから、(「やせ願望」が)ビルトインされているのは当たり前ですよね。
磯野:「やせたいと思わせる社会が悪い」については、ちょっと微妙だと思うんですよね。なぜかと言うと、どの社会もやはり「理想の体型はこれ」というのを持っているんですよ。
例えばもう少し伝統的な民族で、飢饉がある社会に行ったら、太っていることのほうが理想なので、無理矢理太らされたりするわけですよね。それも相当な強制力じゃないですか。結婚式までに「太り小屋」というところに入れられて、「トイレ以外は行くな」と言われてずっとミルクを飲んでいるのって、最悪じゃないですか。こんなとんでもない強制ってあります? ひどい話ですよね。
例えば、私の本にも書きましたけど、「纏足」(注:中国で唐末期から1911年頃まで女性に対して行われていた風習。幼児期から足に布を巻かせて親指以外の足の指を裏側へ折り曲げ、強く縛ることで足の整形を行い、足が大きくならないようにする)というのがあって、あれなんて本当に足を脱臼のようにさせて、治療しながら足を縛るっていうめちゃくちゃな話です。
でも(当時の中国では)「そういう足の女性はセックスしたら気持ちいい」みたいなことだったそうで、意味不明ですよ。科学的な調査まで行われているんです。纏足の女性とセックスする気持ちよさはさっぱりわからないんですけど、そういう調査まで行われているんですよね。(このように「理想の体型」は)どの社会にもあって、それがビルトインされちゃうのはしょうがないと思うんです。
ただ、この資本主義社会の特徴はやはり、「あなたさえちゃんとしていれば、楽しくやせられて、きれいな体型になれますよ」ということと、「これを買ったらいけますよ」という商品が山のように出てくることだと思うんですよね。
だからこそ、「やせたい」という気持ちが過剰になりやすいと思うんです。しかも、永遠に止まらないですよね。「やせたら今度は腹筋を割りましょう」となるんですよ。
水野:女性だったら「胸を大きくしよう」とかですね。
磯野:そう。「胸を大きくする」とかです。私みたいに二の腕を大きくしたら、絶対にダメなんですよね。
水野:(笑)。
磯野:二の腕は、小さくしなくちゃいけない。だから、ヨガとかがいいとされるんですよ。コアトレとかしたら「骨盤まわり鍛えましょう」とか……。それがもう、永遠に終わらないんです。さらに年をとってきたら「いやいや、あなたはまだいけますよ」みたいなのもあります。
水野:「アンチエイジングしなさい」みたいなのですね。
磯野:そうそう。「永遠に終わらないんだ」という構造を知った上で、どういう距離を取りたいかだと思うんですよね。(「やせ願望」を)「捨てる」のはたぶん無理。僧みたいな人もいるかもしれないですけどね。
(会場笑)
いるかもしれないんですけど、私は距離の問題なのかなと思いますね。
参加者2:やせたい願望を完全になくすことができなくても、言語化することにすごくこの本(『ダイエット幻想』)が役立ったと思っています。やはりちょっと相対化したり距離を置いたりということで、ストッパーにはなりうると思うので、もう1回読もうと思っています。
(会場拍手)
磯野:私が仕組んだみたい。私は、(参加者2とは)初対面ですよ。
参加者2:でも、(『ダイエット幻想』を読むのに)2周しましたよ。
磯野:ありがとうございます。読書会もやろうと思っているので、よろしければご参加ください。
参加者2:はい。行きます。
磯野:そのお話で言うと、一番うしろに座って丸い眼鏡をかけている林利香さんという方がいます。立っていただいていいですか? 実は、林さんは「からだのシューレ」という私がやっているイベントを始めるきっかけを作ってくださった方です。この本(『急に具合が悪くなる』)の謝辞には3人しか載ってないんですけど、その1人なんですね。
林さんはもともと摂食障害の当事者だったということを公言されている方です。林さんはよく「自分の当たり前が何度も揺れるような体験というのが、(摂食障害から)出ることにつながった」とおっしゃっていますね。
林利香氏(以下、林):はい。
磯野:すごく素敵な方で、イチオシです。(イベントが)終わったら話していただければと思います(笑)。何回も「自分はこうだ」と思ってきたことを、具体的に揺らすような体験というのは、実際に相対化するのに役立つと思うんですよね。そういう体験がいろんな場面であるように思います。
水野:ありがとうございます。他に質問のある方は、いらっしゃいますか?
磯野:こちらの本(『急に具合が悪くなる』)のことでもいいですよ。
水野:はい。いかがでしょう? なかなか「我こそは」的な方は……いらっしゃらないか。
磯野:質問が出ないのは日本的ですね。
(会場笑)
水野:あ、そう言っていたら出ましたよ。お願いします。
参加者3:ありがとうございました。
磯野:強制させたみたいで、私には罪悪感しかないんですけど……。
参加者3:『急に具合が悪くなる』のことでいいでしょうか?
磯野:はい。大丈夫です。
参加者3:私は医療者なんですけれども、実は医療者仲間で、この本(『急に具合が悪くなる』)を読んでいる人間がけっこういて、みんなこれを読んだあとに言葉を失っているんですよ。「どういうふうに表現していいのか、わからない」という状況に陥っているんですね。
私も実際に、この本(『急に具合が悪くなる』)を2周しました。実際に数値とかそういったものにとらわれるとか、最後の「信頼するということはどういうことか」とか、そういったところですね。結局、医療者側としてものすごく「自分の立ち位置を、どう持っていったらいいのだろうか」みたいになっているんですね。
もちろんそういったことを意図してこの本が出たわけではないと思うんですけど、実はただ「けっこう衝撃が走っている」ということを伝えたかったです。
(会場笑)
水野:わかる。わかります。ありがとうございます。衝撃、走りまくりですよ。ツイッターで有名なお医者さんのヤンデルさんは「磯野ブーム到来」とつぶやいていましたからね。
磯野:そういう非常に上手な方が、磯野の本をどんどん紹介してくれるという状況が起こっているんですね。
水野:すごい状況になっていました。
磯野:簡単にまとめてしまうと、今お感じになったことって、「医学や医療というのは人間の生物学的な構造には入っていけるけど、人間の人生に本当に関われるのか」という話だと思うんですよね。それは逆に「関わっていいのか」という話にもなると思うんです。
今って予防医学というのがどんどん進んできて、すごく早くから介入しますよね。結果的にそれは人の人生、いわゆる個々の唯一性にタッチしていることになると思うんですけど、「あまりそこに対して自覚がないのかな」と思うところが、私にはちょっとあるんです。
やはり「正しい情報を与えることがみんなにとって幸せなんだ」という熱意が強くあると思うんです。そうなんですけど「医学の限界」というのもあって、個々の人生を扱うところまではいけないし、たぶん、そこにいってはいけない気がするんですよね。
それができないからこそ、うまく回っているところもあると思うんです。役割という部分があるからこそ、たくさんの患者さんが来てもうまく回せるというところがあって、それができないと医療が立ち行かない。たぶんですけど、この本(『急に具合が悪くなる』)は、それをある種、ちょっと赤裸々に見せてしまったところがあると思っています。
磯野:私は医療現場でずっとフィールドワークをしていて、『なぜふつうに食べられないのか』で当事者側のお話をしました。そして、こっちの『医療者が語る答えなき世界』で医療者の話をしたあとに、宮野さんと私が出会っています。
かつ、宮野さんの『出逢いのあわい』は彼女の博士論文が元になっているんですけど、その博士論文が書き終わった直後に(『急に具合が悪くなる』の)書簡を始めているんですよね。宮野さんはまさに「個別性」「唯一その人しかいない、その人が出会ってしまう偶然」を、ものすごく分析しているんです。
その意味ですごく噛み合ったところがあります。私たちは「機が熟していた」とでも言うのでしょうか。だからこそ(衝撃的な内容を)見せちゃったところがあるのかもしれないです。
参加者3:なんか、力を感じたんですよね。
磯野:(笑)。ちょっと「人生を入れ込んだ」という思いはあるので、それを感じていただいてよかったです。
水野:たぶん医療者かどうかは関係なく、本当に言葉を失います。私もゲラをいただいて返すとき、何て言って返したらいいかわからなくて、本当に「読みました。すごかったです」くらいしか言えませんでした。もう「すごかった」しかなかったんです。
磯野:(笑)。
水野:私はこのイベントの前までに、「なんとかこれで感じたことを書きたいな」と思って、noteにまとめたんですけど、すごく時間がかかってしまいました。
磯野:ものすごい長文のnoteが上がっていますので、矢島愛子さん、水野梓さんの検索をかけていただくと関連のnoteが出てくるかたちになっています。
水野:そうなっています。便利なシステムです(笑)。
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