2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:サイボウズ株式会社
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中根弓佳氏(以下、中根):このプロジェクトの中で、人事も一人ひとり自分ごととして考えて、自分たちから発信していける、そういう組織になりたいという思いがおありだったということなんですけど。
K2プロジェクトの第1回目で三島さんが、「僕も答えを持ってない」と。そういうことをおっしゃっていたんですけど、この言葉が出てきた背景はなにかおありでしたか?
三島茂樹氏(以下、三島):そうですね……あのとき、なんであんな言葉を吐いたかなということで、今日ここに来る途中にいろいろ整理してたんですけども。パナソニック、当社はまぁ大企業と言うんですけども、グローバルで言うと27万人、国内で6万人の会社なんですね。
中根:27万人ですよ、想像もつかない。
三島:先ほど(パナソニックA Better Workstyle編集局の)大西さんが「カンパニー制」と言いましたけども、国内に5つのカンパニーがあって。それが一つひとつのカンパニーでも1兆円から2兆円の売上があるという会社なんです。
中根:なるほど。
三島:そういう中でどの事業部でも、人事の活動に限らず経営活動すべてなんですけども、過去の成功体験を、経験の長いリーダーがその時代・そのときに合わせて最適化しながら、また前に進んでいくという。
やはり、どうしても経験の長いリーダーがいろんな活動のイニシアチブを取るというのが、これは人事の領域もそうですし、会社のすべての経営活動の領域でそういう傾向があるわけですね。
中根:なるほど。
三島:ところが、これはもうみなさんもたぶんご承知のとおり、パナソニックがいる経営環境は本当にデジタル化(が進み)、いろんなメガトレンドで変化しています。
パナソニックもいわゆる家電の会社ではなくて、BtoBの領域では社会課題の解決も(やっているが)、ものすごく多様化した課題解決が必要になる。あるいはBtoCの領域でも、非常にパーソナライゼーションに対応しなきゃいけない。
そういうニーズに対応していくサービス、あるいは製品を作っていく必要があるんですね。そうなったときに、経験の長い人の知見に基づいて、会社が新しい価値提供をしていくのは難しい。
中根:難しい。
三島:要はソリューションの相手である社会課題、あるいは個人一人ひとりの消費者のニーズ。これを実現することを、社員一人ひとりが自分化する。個人として自分化する。
「この社会課題の解決が自分の本当にやりたいことなんだ」とか、あるいは本当に求められる、あるいは誰もがわからないサービス・製品を未来に向けて発想すること。個人の立場になって必死に考え抜くんだと。社員一人ひとりがそういうことにならないと、新しい領域って開けていけないんですよね。
ところが中には、先ほど(動画の中で)うちの人事社員の発言にもありましたけど、どうしても昔からの成功体験に基づく人事のプラクティスを社員に押し付けてしまうんです。「社員が本当に何をやりたいかということを掴もう」というメンタリティが、人事職の全体にない。
中根:ない。なるほど。
三島:そういう中で、青野さんみたいに百人百様の人事制度なんて私は言えませんから。
中根:27万通りになっちゃいますね(笑)。
三島:ええ(笑)。代わりに、「私に答えはない」ということを申し上げたと。ちょっと長くなりましたけど、そんな背景ですね。
中根:なるほど。今ね、人事メンバーのメンタリティのお話が少し出てきました。どうしてそうなっちゃうんでしょうね。正解を求める、もしくは……なんて言うのかな、「正しいことを言わなきゃいけない」。どうしてそういうふうになっちゃったと思われますか?
三島:1つは、それが成功していたからでしょうね。
中根:今までね、なるほど。
三島:それが成功してきたからだと思います。そのことが会社の成功と同期していたからだと思うんですけれども。ただ、中根さんがなぜそんなことをご質問するかというと「それでは成功が続かないところがあるでしょう」と問われたいんでしょうね(笑)。
中根:ありがとうございます、汲んでいただいて(笑)。
三島:その成功を続けていたのは何なのかというのは、やっぱり会社の中のいろんな制度とか、プロセスというものがあると思うんです。それがたぶん、今日のテーマの「モンスター」だと思うんですけどね。
そういうふうに「正しいことを言わなきゃいけない」とか、社員が本当に「何がやりたいか」を言えない。しかし、それは組織の中のカオスを抑え込んだ効率性にはつながる。それで成功を続けてきた会社ですので、経営者などが、あるいは人事のリーダー、私自身も含めて、そういうことを是としてきてるんですよね。
中根:なるほど。
三島:だから、経営者や私のような人事のリーダーが、モンスター化の一翼を担っていることは認めざるを得んかなと思いますね。
中根:なるほど。人事のみなさんもご経験おありかと思うんですけど、人事ってモンスターになりがちじゃないですか。「人事がこう言っている」とか、「人事がダメって言う」と。我々もモンスターになりがちなんだな、と思うんですけど。
じゃあなんで、みんなモンスターを作り上げちゃうんだろうと。ちょっと私、考えちゃうことがあるんですけど。私自身ももしかしたら、サイボウズのメンバーから見て、モンスターになっちゃうときもあるかもしれないんですけど。ふと思い返すと、私自身も誰かをモンスターにしてしまっているときがあるな、と。
モンスターって別に、いわゆる「上の人」とか「偉い人」とか「権限を持っている人」だけじゃなくて、「直接会話していない人たち」。サイボウズってもう人数が多くなってきたので、800人ぐらいになってくると、顔がちょっと見えづらくなってくるんですよね。
なんとなく勝手に「メンバーはこう思ってるんじゃないか」とか、「これは嫌に違いない」とか、「これを言ったらきっとまた『人事が』って言われるんじゃないか」みたいな。
「おっとっと、私自身もモンスターを作っちゃってるぞ」と思うんですけど。じゃあなぜ、私がモンスター作っちゃっているかというと……たぶんね、なんか逃げてるときなんですよね。モンスターを作って、モンスターのせいにしちゃうと、けっこう楽なんですよ。
そうじゃなくて、やっぱり自分が何をしたいのか、自分でこの責任をとるぞ、と思ったとたんにモンスターって消えていくな、と思うんですけれども。
きっとパナソニックの27万人、もしくは人事本部のみなさんも、「三島さんだったらこう言っちゃうんじゃないかな」とか、あるいは「三島さんから答えを降ろしてくれよ」ということを思っているかもしれない。そこはぜひ壊していきたいところですよね。
三島:そうですね。もちろん国内で6万人もいる大きな組織なので、人事の基本的な施策やポリシーは、私が答えを持っていなきゃいけない部分はある。それは前提ですけども。
ただ二律背反するところに、「これは2つの答えでいこう」とか、「これはちょっと今は答えを出せない」とか。あるいは「過去に同じ事象に対してこういう答えを出していたけれども、あれはやっぱり間違った見解だった」とか。人事のリーダーが今の時代に合わせて、間違いや失敗をさらっと認める(笑)。
まずそういうふうに、人事のリーダー個人が……これはなかなか、個人の資質によるところがあると思いますけれども。人事のリーダーは、本当にそういうふうにモンスター化しやすいので。
そういう役割に就く人は、自分の失敗を認めたり、考え方を改めるという、より敏感なトレーニングはしておかなきゃいけないと思いますね。
そういう中で私自身もこの4月から、モンスターにならないように(笑)。失敗を認める、知らないことは知らないと言う。そういう三島であることを、できるだけ個人として知ってもらおうと。
中根:なるほど。
三島:なんでみんな勝手に「三島さんはこういうふうに思ってるかもしれない」と思うかというと、私と部下の間に距離感がありすぎてですね。みなさんが、個人としての私をぜんぜん知らないからなんですよね。
だからどんどん距離感を詰めるとか、いろんなことを考えながら、モンスター化しないようにしていこうとしています。その1つとして「役員室から出たい」と言っているんです。
中根:あっ、そうなんですよ! 3回目のプロジェクトのときに。
なかむらアサミ氏(以下、なかむら):書かれていましたね。
中根:一人ひとり、やりたいことを書くんですけど。三島さんも来てくださって、「三島さんも書いてくださいよ!」と言ったら、「役員室から出たい」って。出ましょう! どうですか、大西さん?
大西達也氏(以下、大西):けっこう抵抗にあってますよね、これ。
なかむら:(笑)。
三島:そうですね。それまで個室じゃなかったんですけども、4月から役員という役割になってから。「伝統の人事担当役員」という配慮か、役員室に閉じ込められましてですね(笑)。
中根:伝統の(笑)。
三島:私は、相当「オープンオフィスがいい」と言ったんですけども。ただ、本社のチームメンバーだけじゃなくて、カンパニーとかいろんな方が来られるんですね。
中根:相談にいらっしゃると。
三島:私がどこにいるかは、はっきりさせておかなきゃいけないということで。
中根:どこにいるかわかるように、三島さんに風船を付けておけばいいんじゃないですか。
三島:まぁまぁ、それもそうですね(笑)。
大西:あとは僕らの居室に三島さんがいたら、ちょっとやりにくいという。そういう人がけっこういますね。
中根:やりにくい。あぁー……。
三島:そうですね。
中根:そんなことないですよね、三島さん。プレッシャーを与えるわけでもないですしね。
三島:どうですかね……わからないですね、それは(笑)。
(一同笑)
やっぱり、モンスターだから今日呼ばれていますので(笑)。
中根:なるほど(笑)。ただ、モンスターになりがちな人事とか、大企業のトップの経営をされている方はモンスターになりがちだからこそ、モンスターから変わるというのが、御社にとっては非常に効果的なのかもしれないなと。
三島:そうですね。ちょっと聞いていらっしゃる方が、「モンスター、モンスターって何を言っているのか」というのを私的にブレイクダウンすると……。
中根:(笑)。確かに。
三島:私、人事のリーダーって、先ほど言ったように……当社は非常に大量生産・大量規格型のビジネスで大きくなってきたので。効率性とか計画性とか緻密性とか、こういうものですべて予測される活動をやれというのが、すべての経営活動、人事活動、あるいは人事制度に埋め込まれているんですね。
ですから、どうしても人事制度の企画運営ややり方は、先ほどなかむらさんが言っておられたものと真反対ですよ。いろんなことを正確に、計画的に、しっかりやりたいというのがあるんです。ただやはり、会社の中で新しい事業領域、ビジネス領域をやるところは、そんなんじゃできないですよね。
その真反対に、人事のリーダーが振り切る。「計画的でなくてもいいじゃないか」と。失敗してもやり直したらいいじゃないか、あるいはトップが承認してなくてもやってみたらいいじゃないか、というのを、いろんな人事のトライアルの中でやるべきだと思います。
それってよく、人事の部長・課長は若い人が提案したら「お前やってみたらええやん」と言うてほったらかしにするんですけど、やっぱりそれは逃げで。ぐっと反対側に振ることを人事としてやるんだったら、人事のリーダーが反対に振るべきだと。それがモンスターになった人事の人が、非モンスター化するトリガーになると思いますね。
中根:なるほど。
三島:ちょっとそんなことを最近考えてみて。そういうふうにシンプルに考えたら、今までやっていることを本当に否定するというふうにすれば、うちの会社の場合は非モンスター化、世の中の常識に近づくのかなと(笑)。そういうことも、考え方としては持つようになってきましたね。……質問、なんでしたっけ?
中根:なんでしたっけ?(笑)。
三島:すいません(笑)。
中根:「役員室から出る」っちゅうところからですね。
三島:あぁ、そうですね。私が役員室にいると、本当に最適化された報告が上がってくるんですよね。情報についても。私が「イエス」としか言いようのないような書類になって、役員室の中に入ってくるんです。
中根:あぁ、なるほど。
三島:例えば役員室にチームメンバーから報告書が来るのは、「なんとかこれで通したい」という加工された情報が入ってくるんですよ。私としてはその前にそれを見たいと。ただ、それを否定するわけでもないんですよね。
もっとスピーディに、もっとアジャイルにみんなの仕事を進めるためには……ずーっと役員室にこもってなかったら、彼らが役員室に来るまで2日間かかるかもしれないものが、1日で終わるかもしれないわけですよね。そんな細かなことを含めて、変えていかなきゃいけないかなと思ってますけども。
中根:なるほど。今まで安心安全で、いろんな人たちの便利を担ってこられたパナソニックさんで、そのパナソニックを担う人事から変えていくことで。「27万人に張り巡らされた神経網」と先ほど裏でおっしゃっていましたが、その神経網から変えていくことができたら素敵だなと思いますね。
三島:そうですね。本当にパナソニックのような大きな会社は、いわゆる経理的な職能と人事の職能が、これヒトとモノとカネの、ヒトとカネなので。会社の経営の仕組みの中で、まさに社内では「神経系統」という表現をされているんです。
その中で、先ほど言いました1兆円、2兆円の会社のカンパニーの人事のトップとか、あるいはその傘下の1,000億ぐらいの事業部の人事の責任者。これでも非常に大きな組織の人事の責任者、リーダーなんですが、彼らが今私が言ったようなことを実感しながら、日常的に仕事で役割を果たしているかというと、必ずしもそうではないんですね。
昔の統制型の、計画的にしっかり社員がアウトプットを出すように、人事のいろんな活動をやっていると。今私が申し上げていることが、当社のいろんな事業上の人事のリーダーが言っていることと一致しているかというと、まだまだ道のりは遠い。
ということで、そこのチームにいる若い人たちから、このK2プロジェクトに参加していただいて。今そこの前線でがんばっている現役のリーダーから変えることはできないかもしれないけど、私はもうそこは割り切って、次代から変わる。
先に向けて手を打つということで、なにがアウトプットになるかわからないけれど、若い人たちにはどんどんこのK2プロジェクトに「とにかく入ってみろ」と。そんな言い方をして推奨しています。
中根:なるほど、ありがとうございます。もうお時間もなくなってきましたけれども、サイボウズはやっぱりまだまだ800人の会社で、パナソニックさんとはぜんぜん規模が違うんですよね。サイボウズとパナソニックさんの人事のあり方も、まったく違っていいと思っています。
サイボウズの場合は、ある程度の風土もできてきていますが、まだ800人の会社で、一人ひとりの自立も少しずつ支援できてきたという状況なので。
私としては人事が強力なパワーを持つんじゃなくて、人事がきれいな水を流して、いかにそこで泳いでいる魚が生き生きとするか、その環境を作る、仕組みを作る、プラットフォームを作ることに注力していきたいなと思うんですけど。ちょっとまたやり方、アプローチが違うのが非常におもしろいところだな、と感じました。
もう本当にあと数分になってきたので、ここで。たくさんの人事の方が聞いてくださっています。三島さんから、これから「変わりたい」「変えたい」と思っている人事の方へ、メッセージをぜひいただけますか。
三島:先ほど手を挙げられて、あまり大企業の方はいらっしゃらないんですけども。やっぱり大きな企業の場合は、新規の事業領域は新しい働き方、新しいメンタリティで、本当に社員がやりたいことを事業にしていく、会社の提供価値にしていくことが求められると思うので。
そのときには、私はサイボウズさんのように、社員一人ひとりがアウトプットを出せるように百人百様の人材戦略を変えていくのは、1つ学ぶべきモデルだと思います。
したがって、パナソニックの中にも新規の領域については、そういう柔軟な人事のプラクティスをやる、そういう事業領域を作る。そういうチーム、組織を作る。これをやっていきたいなと思うし。ほかの大企業でもそういうことをトライアルされたらどうかなと思います。
それともう一つ、伝統的なビジネス領域はやはり、それを支えてきた人事の慣行、プラクティスがあると思うんですけど。良いものは守ったらいいし、変えるべきところは変えたらいいと思います。
私自身は言いましたように、計画性・一律性・緻密性といったものが人事の制度運営とか感覚にものすごくあるので。これは部分的に、トライアル的に、どんどん変えていったらいいなと思います。
それを変えるには、私が思うに人事の社員、メンバー、部下に任せていたらダメだと思います。人事のリーダーがぐっと振り切るということを、思い切って勇気を持って言い出さないとダメです。
「あの人事部長があんなこと言い出すんだ」ということで、それは組織の中に伝染しますから。「あんなこと言ってもいいんだ」と。今まで言ったらダメだったことを人事のリーダーが言っているということは、責任者にもいい影響があると思うし。なんでも言っていい雰囲気は、それとなく伝染していくと思います。
最近、「ソフトリーダー」という言葉があると思いますけれども、会社のソフトウェアのところを変える、風土を変える。その引き金を引くことは、人事のリーダーはできるはずですので。ぜひそういうシチュエーションにある人事のみなさんは、勇気を持って。
中根:引き金を引く(笑)。
三島:反対に振り切って。
中根:振り切って!
三島:引き金を引くのは誰かを撃つんじゃなくて(笑)、自分がそっち側に行く、反対側に行くということですので。
中根:なるほど(笑)。
三島:人にやらせるんじゃなくて、自分が動くということですので。もしまたいろんなお聞きになりたいことがありましたら、おっしゃっていただいたらいいし。一緒に学んでいけるような出会いがあればいいなと思ってます。どうもありがとうございます。
中根:はい、ありがとうございました。
なかむら:ありがとうございます。
中根:またこれからもK2プロジェクト、まだまだ盛り上げていきたいと思いますので。
大西:まだまだ始まったばっかりですからね。
中根:そうですよね。じゃあ引き続きみなさん、パナソニックさんの変わっていく姿にご期待ください。今日は本当にありがとうございました。
三島:今日はどうも、ありがとうございました。
(会場拍手)
なかむら:今日は真ん中の奥のほうに、チームワーク総研のブースがございますので。私と大西さんはそちらにこれから向かいますので、質問や名刺交換をされたい方は、ぜひブースのほうにお越しいただければと思います。
いろいろな質問や聞いてみたいことがあると思いますので。この流した動画もブースで流しておりますので、ぜひお越しください。今日はみなさま、どうもお越しいただきまして、ありがとうございました。
(会場拍手)
サイボウズ株式会社
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