2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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磯野真穂氏(以下、磯野):この前、私がずっとやっている「からだのシューレ」というイベントで、SNSにすごく詳しい二宮明仁さんという方をお呼びしたんです。
彼が最近の10代の子を見ていて思うと言っていたのは、「いわゆる、生まれたときからスマホがあるようなミレニアル世代では、常にSNSをやっていることがデフォルトの状態になっている。中には、『いいね』がいくつとか、リツイートやフォロワーの数にものすごくとらわれてしまっている若者がたまにいて心配になる」ということでした。
例えば暴力的なものであるとか、性的なものとか、ある種の週刊誌ネタに走ってしまう場合があると。
水野梓氏(以下、水野):「冷蔵庫の中に入っちゃうアルバイトの子」みたいなことですよね?
磯野:「それをやると、あとで面倒なことになるかもしれない」というのは、遠目で見ているとわかるんですけど、SNSの中の反応が承認欲求を満たしてくれる場所になっているのではまりやすい。承認には「量的な承認」と「質的な承認」との2つがあって、やはり先ほど言ったように数字には力があります。
承認が数字になって現れるので、「量的な承認」ってすごく求めやすいんです。うれしいんですけど、「量的な承認」にはまってしまうと、とても危ないんじゃないかと思います。
水野:二宮さんも「そもそもSNSには、システムとして承認欲求を肥大化させて煽る仕組みがあるから、それをわかった上で使ったほうがいい」というお話をしています。SNSが承認欲求を煽り、どんどん肥大化させて、「もっと欲しい」と思わせるというシステムを聞くと、ちょっとゾワッとしますよね。
自分が本当に認めてほしくてやっているのか、煽られていつの間にかその承認欲求が自分のものだと思っちゃっているのか、どっちなんだろうみたいなところがあります。
磯野:私も本を2つ出したので、Twitterを最近よくやっているんですけども、けっこう怖いなと思っています。あれって、けっこう反応が欲しくなっちゃうんですよね。来るとうれしい。そうすると「もっと欲しい!」みたいに、簡単にはまっていくんですよ。見る頻度も増える。
現代社会は、私たちがどうにもこうにも捨てがたい「承認」をターゲットにしたビジネスというのがすごく増えていて、SNSがこれだけ広がったのは、どうしたって欲しい「承認」をものすごく掻き立ててくるようなアルゴリズムを作ったことだと思うんですよね。その意味で巧みなビジネスモデル。
これはやはり、さっきの英語とかダイエットの「みるみる」本とすごく似ています。SNSにはインフルエンサーがいて、「こうやったら、もっと素敵になれるよ」とカッコイイ言葉を発信し、「ああなれるよ」みたいなストーリーをSNSの空間の中でおしゃれに見せます。
水野:そうですね。(承認欲求には)「量」と「質」の2種類があると言っていましたけど、私たちが本当に欲しいのって、実はたぶん「質」なんですよね。だけど、ほとんどの人があまり自分の中で「質」なのか「量」なのかって意識したことがないと思うんです。なので、数字で目に見える「量」に偏っちゃうんじゃないかと思いますね。
磯野:先ほどの「数字のない民族」ですが、(すでに話題に挙がったピダハン、ドドスのほかに)もう1つ、モシという民族がいるんですけど、彼らもやはり数字を持っていなかったんですね。
例えば、川田順造さんというすごく有名な人類学者がモシの小さな村を回って、10人とか12~13人の家族、いわゆる「拡大家族」(注:結婚後も子が両親と同居し、複数の核家族から成る家族)の長に「家族は何人いますか?」と言うと誰も答えられないんですよ。でも、誰がそこにいるかはみんな知っているんです。
さっきの牛の話と完全に同じなんです。「質」では捉えている。だけど、単純に「量」では捉えていないから、「質の承認」というものの中でコミュニティができている状態なんですね。ここでフランス人が入ってくるときに、初めて数え出すんですよ。(フランス人にとっては)何人いるかが重要で、彼らにとって「質」はどうでもいいんですよね。
みなさんも、おうちに帰って家族が全員いるかを確認するときに、(人数を)数える人はいないと思うんです(笑)。
(会場笑)
1、2、3、4、5みたいな。絶対にいないですよね? パッと見たときに「あの人と、あの人と、あの人と、あの人がいる」という捉え方をしていると思うんですけど、それをあえて数にしていないはずです。
たぶん、承認というのもおそらく質的なものというのが大事だと思うんですけど、そこに数が入り込んでくると、数にはものすごく吸引力があるし、すごく簡単に量が多いほうが価値があるように見せるので、簡単に「質の承認」が「量の承認」に取って代わられてしまう。これが先ほどの、二宮さんが言っていた10代の若者がたまにはまってしまうというループだと思うんですよね。
磯野:数字ってすごくおもしろくて、「ここまで行ったから、もういいかな」と思ったら、もっと行きたくなるんですよね。すごくおもしろいシステムですよね。例えば、水野さんも「PV数を稼げ」とか言われていますよね? そんなに言われていないですか?
水野:今は部署が変わったのであまり言われませんが……。前は、自分が稼ぎたいと思っていました。
磯野:稼ぎたいと思っていましたか(笑)。
水野:「多くの人に見られたい」ということについては、本当は自分の記事が多くの人の心に刺さったり届いたりする「質」のほうが、「量」が多いことよりもうれしいんですけど、数字で見えるのはPV数です。だから「PV数が多いのはいいことだ」みたいな感じで、「より多くの人に見られたい。次は1万PVだ。次は2万PVだ」というふうに思っていました。
磯野:そうですよね。「1万PVいったらいいか」と思うと、よくないんですよね。2万PVがあって、3万PVがあって……というふうに、どんどん上がっていくので、「量の承認」は永遠に終わらないし、かつ、誰かと比べやすいので簡単に「自分のほうが承認されていない」と思いやすいというのがすごくあると思うんですよね。
水野:あと、『ダイエット幻想』の中で数字の力としてもう1つあったのが、さっきフランスの話も出ましたけど、管理する視線が入ってくるところが私はすごくおもしろいなと思っています。ダイエットも「この栄養素を摂るのは許せない」とか、身体を監視しているみたいなところがあるじゃないですか。
よく摂食障害の方が、「○○を食べる私は許せない」って言うんですよね。そういうふうに自分の食べるものを監視しているのって、食べるのとは違うじゃないですか。栄養素とかの数字で見ているから、食べ物が自分の身体に入ってきて、出ていって、体重がどう変わって……というふうに、自分の身体を監視しているんだろうなというのをすごく感じますね。
磯野:先ほどのモシがいい例ですけど、なぜフランス人がモシの数を数えたかったかというと、結局モシの人々を管理するためですよね。税金を取って、あわよくば植民地を拡大したいという管理の欲望と拡大の欲望が入ってくる。そういうときに、実は数字というのはすごく入ってくるし、非常に便利なツールです。
別に数字は悪いものではないと思うんです。例えば、何かを成し遂げたいときに「今日はここまでできた」というかたちで達成していくのはいいと思うんですね。
ただ、その裏側に何があるかと言うと、対象を客体化し、数字だけで見て「数字がずっと上がっていくのがいい」というかたちで、存在を非常に平坦なものにしてしまう傾向があります。数字は力を持っているので、ダイエットもそこは危ないと思うんですよね。
日々、具体的なことをして生きているはずなのに、「昨日の数字」と「今日の数字」しか見えなくなってくるし、「今日の私はどのくらいで、明日には(それよりも)やせていよう」というように、ずっと管理して見続けるという状況が起こる。これもダイエットにはまっている典型例だと思いますね。
水野:数字もうまく付き合えばいいものですよね。よく磯野さんと話しているんですが、量的な承認欲求や数字も「自分をちょっとレベルアップしたい」とか「英会話で○級受けるぞ」とか、そういうときだったら頼りになるし、いいことだと思うんです。
だけど、それだけをものさしにして、それだけがすべてになってしまうと、すごくつらいかも。自分が誰か他者の目線や数字でずっと見られているということなので、その生き方はちょっとしんどいですよね。
「質の承認」の話が出てきましたけど、私もそういう存在がいたらホッとするよなというのは感じています。「ラインをお互いに踏んでくれる関係」「踏み跡を刻む関係」というのが『ダイエット幻想』の中にも出てくるんですけど、それがたぶん、「質的な承認欲求」を満たしてくれる存在なのかなというのはちょっと感じました。
磯野:(『ダイエット幻想』を)読んだ方はなんとなく、どんな話かはご存知かと思うんですけど、読んだ方はいらっしゃいますか?
(会場挙手)
あ、けっこういらっしゃいますね。
水野:けっこう読んでくださっていますね。
磯野:来場者の方に聞いてみましょう。
水野:はい。突然こういうことを始めます。
磯野:ラインの話は説明が難しいので、本を読まれた方がどんなふうに読んだのか聞いてみたいと思うんです(笑)。
水野:イベント前に磯野さんが、「ラインの話(説明)ができないから、ラインの章を全部読む」と言い出して、ちょっと止めました(笑)。本当です。
(会場笑)
参加者1:ラインの章をどう読んだか……。
水野:ラインを描く関係。
参加者1:唐突なのは、すごく苦手です。
磯野:ごめんなさい。
参加者1:さっきの「承認」ということで、ちょっと自分の娘の話をしてみたいです。5歳の娘を育てています。ある日、娘と出かけて電車に乗っていたら、さっき言っていた電車の広告ですが、女性は脱毛など、端っこからみんな「身体に関すること」だったんですよね。女性は脱毛。男性は植毛。
(会場笑)
男性は植毛。そのあとは「臭いを消す」みたいなもので、電車の中の広告が全部、身体に関わることだった。それから、『プリキュア』を見に行ったんですよ。『プリキュア』のキャラは、みんな女の子なんですけど、すごくやせています。
水野:そうですよね。
参加者1:すごく目が大きくて、すごく顔が小さい。そんな女の子が、ピンクのキラキラの服で戦っているんです。
参加者1:あとは、ちょっと自分の会社の話ですけど、マネジメント研修で「部下をどう効率的・生産的に育てるか」みたいな話が出てくるわけですね。「部下を分析して、こういうタイプの人にはこういうふうに問いかけなさい」とか、効率的に育てるという話です。
水野:生産的とか効率とか、ちょっと家畜のような…。
参加者1:そういうコントロールされているような世界にずっといる中でのことですが、娘には「あなたは、こうならなくてもいいんだぞ」と思います。娘がそんなにきれいにならなくたって、私はものすごく愛しています。「それを十分に伝えるには、どうしたらいいんだろう?」とすごく思っていたんです。
こんなに周りに合わせて自分をコントロールして、きちんとして、人に迷惑をかけないで、きれいだと認められることが求められている。これだけ周りに囲まれていて、「あなたはそうじゃなくてもいい」って、どういうふうに伝えたらいいかすごく悩んでいたんです。
「質的な承認」というところですね。(『ダイエット幻想』の)最後の「ライン」のところで、本当に「魂と魂がぶつかる」じゃないですけど、マナーとされるところを踏み越えてお二人(宮野氏と磯野氏)がぶつかり合うわけじゃないですか。
そういう「本当の触れあい」というか「ぶつかり合い」というか。そういうことを体験して、「見た目」とか「選ばれる」ということではなく、「自分でもっと自由に考えて生きていってほしい」とすごく思うんです。
自分のことではなくて、娘の目線に立って考えたんです。でも、私がそれをうまく教えられるかわからないので、娘が中学生になったら『ダイエット幻想』をプレゼントしようと思います(笑)。
水野:素晴らしい!
磯野:うちらが仕組んだみたいですね(笑)。
(会場笑)
参加者1:本当に「質的な交わり」というのが、すごく大事なんだろうなと思いました。そうすることで周りのものに動かされず、周りのものに苦しめられない、本当に自分が満足する人生を歩んでいけるんじゃないでしょうか。
『ダイエット幻想』も『急に具合が悪くなる』も、最後の「ライン」のところで、すごくそう思いました。すいません。こんな感じで大丈夫でしょうか?
磯野:素晴らしい。
水野:素晴らしいですね。急にだとは思えない感じです。
磯野:読んでいない方はさっぱり意味不明だと思うんですけど、「ラインを描く」という話を最後に出しています。『急に具合が悪くなる』の(宮野氏と磯野氏の)関係性は、モデルにしていただくにはかなり稀有な関係性だと思うんです。
水野:私も「ラインを描く」が宮野さんと磯野さんのような関係だとすると、「私は、一生会えないかも」と、ちょっと絶望的な気持ちになっちゃいます。でも、「ラインを描く」関係って、私と磯野さんもたぶんそうかもねという話をしたんです。
最初はこの『ダイエット幻想』に出てくる「タグをお互いに持っている関係」として、「取材する人」「インタビューされる人」でした。「摂食障害について聞く人」「摂食障害について研究していた人」みたいな感じだったんです。
だけど、なぜかちょっと馬が合い、私は「からだのシューレ」のイベントに何回も参加したり、飲んだり食べたりして、今日、一緒にイベントをやっています。あの日の偶然があって、そのあとにいろいろやり取りをしていって、今日こんなふうにイベントをやるなんてあのときはまったく想像もしていなかったんです。まったく想像もしない、すごく楽しいことが起こったりする。私はそういうのも「ラインを描く」関係性だと思っているんですね。
そういう「質的な関わり」というのはいろんな偶然で生まれるというのを、私は『ダイエット幻想』を読んだときにすごく感じたんです。
一方で、こういう素敵な関係というのは、傷ついたりもします。摂食障害に悩んでいる子で、そこから抜け出すのはすごく難しいですよね。でも、辛いこともあったりするけれども、がんばって飛び込んで、具体的に世界に関わっていくことで、抜け出すヒントが手に入れられるんじゃないでしょうか。私は『ダイエット幻想』でそういうことを感じました。
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