組織内にティール的ではない人がいるときはどうする?

島田由香氏(以下、島田):まだ時間があるので、どうぞ。

質問者3:ありがとうございます。組織論としてのティールのお話を聞くたびに、いつも自分の中でソワっとすることがあります。

私の理解だと、ティールって本来はアンバーとかレッドとかいろんなものも内包しているはずだってすごく思うんですよね。それが個人単位でもそうだし、組織単位でもそうですが、「ティールの組織」っていったら、その中にはレッドの人も、アンバーの人も、グリーンの人もいるような感覚で捉えているんです。

一方で「組織をティールにしたい」「コミュニティをティールにしたい」という話をしたときに、なんとなく「ティールじゃない人」を異分子というか、すごく邪魔な存在としていたり、「ティールじゃない人とは一緒にやれないよね」みたいな話になっているような気がしています。

「それって結局、ティールという価値観を是とするグリーンじゃないの?」ってすごく思うんですよ。

質問は、たぶん個人の中でもそうなんだけど、例えば自分のチームとか目の前に、いわゆる「ティール的じゃない振る舞いをするような人」がいたとき、今で言ったら「評価をする人」とか、「ゴリゴリに合理性で戦う人」がいたときに、なんとなくみなさんの中で沸き立つものはあるのでしょうかということです。

そういうときにどういうふうに咀嚼し、対応するのでしょうか? ティールじゃないものと接しているときのみなさんの……何だろうな、習慣って言えばいいのかな? 思考とか、そういうのってどうなんでしょうか?

ティールとは、一人ひとりが素で生きていくということ

長谷川寛氏(以下、長谷川):すごく難しい問いだなと思います。率直に申し上げると、まず私はまだティール的になり切れてないという自覚がすごくあります。これは佐渡島からですけど、「お前、その微分的な生き方はやめろ」ってよく言われるんですね。

これは何かと言うと、傾きだけ、瞬間風速的なインパクトだけを出し続けることを是とするという生き方は、ティール組織的ではないということです。どちらかと言うと積分的に積み上げていった面積において、結果として物事の行動変容の量が大きいという在り方のほうがいいんじゃないかということ。

そう言われちゃうくらいなので、私はどっちかと言うと異分子側の人間です(笑)。なかなか解がないというのが率直なところです。すみません。

私はティール組織とファンコミュニティって、すごく親和性があると思っているんですね。というのは、ティールって一人ひとりが素で生きていくということだからです。

クリエイターの人たちの話で、例えばまた漫画の話になっちゃいますけど、ものすごく壮大な「ファンタジーもの」を描きたいけど連載の打ち切りをくらって、この場で申し上げる表現として適切かわからないですけど、次が「パンチラもの」だったみたいな話があるとするじゃないですか。それってすごく意に染まないことのような気がしています。

(望ましいのは)どちらかと言うとティール的な在り方で、その人が本当に好きなファンだけが集まっていくかたちになっていき、クリエイターが自分の素の状態で出したものをいいと思ってくれる人たちが、そのパーパス(目的)に応じて支えてくれているという在り方です。それがたくさんある世界って、世の中的にとても素敵だなって思いますね。

合わせにいこうとしているって感じですかね(笑)。すみません、回答になってないのは百も承知です。

どんなに破壊的な人が入っても、自然の流れに任せる

柳澤大輔氏(以下、柳澤):軍隊的なチームもありますよ。軍隊大好きなリーダーがいて、「あのチームは超軍隊的だな」みたいなチームです。うちはティール組織という言葉を社内で使うことはなくて、「どうおもしろがるか」という話になります。嫌だったら異動して違うところに行けばいいって感じなので、ある程度、内包しているんです。

僕は地域の活動の話をまったくしてなかったんですけど、「カマコン」というコミュニティは、(ティールという点では)カヤックなんかよりもぜんぜん進んでいます。いつでも解散していいって感じなんですよ。だからどんな破壊的な人が入っても、基本的にすべて自然の流れに任せるという話なので、誰も「こうしなきゃいけない」みたいな発言を1つもしないところでやっています。それでも続いていて、リーダーも変わっていっていますね。

今度、午後のセッションには武井さん(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 武井浩三氏)が来ますね。彼は「自然経営(じねんけいえい)」と言っていますけど、もっと手放していくという感じでしょうか。たぶんさっき言ったように、株式会社は株主がいて、その人の意向があるので究極のティールにはなりづらいと思います。だからやっぱり、究極のティールはコミュニティのほうだと思います。

両方やってみてですが、組織というか1つのグループとして永続させるというのは、本当に手放しでも必要とされていれば生き残るものなんだなという手応えは、カマコンをやってわかりました。

普通の地域の活動とかNPOって、リーダーが情熱を持っているけれど、その人がいなくなると急に推進力が下がるみたいなのがよくあるじゃないですか。そういう感じではないほうがいいなと思ったんです。だから、最初からいつでも解散していいようにやろうってスタートした結果、逆にそのスタイルのまま生き残っています。もう8~9年目ですけど、そういうのもあるんだなという感覚で、逆にこっちに手応えを感じましたね。

森は急成長しないし、ダンゴムシに「責任を取れ」とも言わない

成澤俊輔氏(以下、成澤):僕は去年から、ホワイト企業大賞の審査員をさせてもらっています。みなさんご存知だと思うんですけど、「森へ」という会社がやっぱりすごいなと思っています。森のようにきれいにしよう、森のように組織を作ろう、森のように事業を作ろうという会社です。

森って、急成長しないじゃないですか。だから急成長ってないよね。森って、ダンゴムシに責任を取れってならないじゃないですか。だから幽霊部員もいていいよね。森ってKPIが105パーセント成長みたいなのがないじゃないですか。だから森のように経営組織・事業を作ろう。

森という言葉でこのコンテクストが生まれたというところで、僕は「森へ」という会社をかなりリスペクトしていて、おもしろいなと思っています。

ティール型みたいなのを少し拡大解釈して、多様性みたいなことを考えますと、多様性っていろいろな国籍の人がいるという話じゃなくて、いろんな価値判断があるという話だと思っています。でも世の中は、コミュニティを多様化するというより、自分の中にどう多様性を担保するかという時代だと僕は思っています。

自分の中に多様性を担保するには、ルーティンを作らないこと

成澤:僕の仕事は、7割くらいが企業のコンサルティングとかイノベーションを起こすものですが、その中で意識していることとして、同じことを2回以上やらないというのを決めています。同じことを2回やると、1回目の成功体験に縛られるからです。

同時にたぶん50業界くらいのサポートをさせてもらっています。(クライアントは)それこそふんどし屋さんからローソク屋さん、グローバルな会社からITの会社まで様々です。

ルーティンが生まれないことで、「そもそも何だったっけ?」とか、「そもそもどういうことだっけ?」とかいう問いが生まれます。僕は基本的に、ビジネスって想いが強ければ強いほど失敗すると思っていて、想いが強い人は1人いればいいと思っています。そうなった(ルーティンを作らずに仕事に向き合った)瞬間、「自分のビジョンって何だったっけ?」とか、「原体験って何だっけ?」ってなるかなぁと思います。

ティールは手段目的論でぐちゃぐちゃすることが多いので、僕はその防止のために同じ成功体験を繰り返して仕事をしないというところから、自分の中の多様性とかそんなことをコントロールするように意識しています。

内包された“多様な価値観”が融合している状態

島田:すばらしいお話です。「内包」っておっしゃられたことは、もちろん本(『ティール組織』)にも書かれていることです。でも「内包」って何かと言ったら、融合していることだと私は思うんですね。アンバーだったり、レッドだったり、オレンジだったり、グリーンだったりしますが、あえてティールから見るんだったら、それら全部を内包していて、だから他の色があると知っているし、そのことがあっても理解できるというか、許せる。

もしそこに融合がなければ違和感を抱いて排除することになるだろうし、そこでコンフリクトが生まれるのかなと思う。だから本当に「内包」するということは、まさに最初におっしゃっていた融合ということなんだろうなと思っています。

人間なので、絶対にみんないろんな感情がありますよね。仕事をしていたらムカつくときだってある。でも、その怒りだったり悲しみだったりを抑えることとも違って、やっぱりそれを認めて自分なりの表現をしても私はぜんぜん構わないと思う。怒るときだってあるし、叫ぶときだってある。でも、そのやり方はちゃんと大人の(やり方)にしとかないと、「変な人だ」ってなる(笑)。

でも私は、みんなやっぱりそれを抑えてしまうというところに、素になれない1つの原因があるのかなと思っているんですよね。だから感じたら、私は出す。言っちゃったりとか、怒っちゃったりとかしたら、「あ、ごめん。怒っちゃった」って言う。

でも、「こういうことが頭に来たの」とも言う。「なんかモヤモヤするからちょっと表情とか今ムカついているかもしれないけど、別にあなたに怒っているわけじゃないから」とか、けっこうはっきり言いますね。そうじゃないとわからないと思うからね(笑)。

私は基本ハッピーなんですけど、だからこそ、怒るとすごくわかると思うんです。でも、それをちゃんと言う。それが私にとっての「自分らしい」とか「素である」ことかなぁと思っています。

歯を食いしばってがんばり続けることはサステイナブルではない

島田:もうお時間が来てしまったので、最後に一言ずついただいて終わりたいと思います。私は今のカマコンのお話を聞いていて、もしかしたらコミュニティとかティールの1つのキーワードになり得るかなと思ったのが、たぶん「がんばっていない」ということじゃないのかなって思ったんですね。

私は「がんばる」という言葉をあんまり使わないようにしています。私は旧姓が塩谷というんですけど、昔「がんばる」というのが塩谷の合言葉だったんですよ。

(一同笑)

「今日も一日がんばろう!」みたいにやっていました。歯を食いしばってグーッていうよりも、(「がんばる」は)なんかいい言葉で、「がんばっている」ことがすごくよくて、「がんばっていることに、がんばれる」みたいな感じでした。

だけれども、どこかのタイミングのある瞬間に「歯を食いしばって、何かを一生懸命がんばることをずっとやっていくことは、果たしてサステイナブルなんだろうか?」「それをしていくという在り方自体って、どうなんだろう?」って思ったことがありました。以来、私は「楽しむ」という言葉を使っています。楽しんでやっていたら必ずうまくいきます。

がんばるとき、踏んばるときも必要です。でも、きっとそれは最初からがんばらないで楽しんでいて、流れや起こったことにすごくフレキシブルに対応するときのことなんです。だから、(そういう瞬間に)融合しているんだろうなということを思ったんですね。

これはティールなコミュニティと言うんですかね……その1つのキーワードかなと思いました。「ティール」「コミュニティ」ということで、「このメッセージを伝えたい」とか、「これは大事だよ」ということを最後に一言ずついただいて終わりにしたいと思います。(登壇者を指しながら)どっちからいく?

ティールは包括的であり、排他的でもある

長谷川:私はシンプルに話します。もし今このお話を聞いていただいた方で、コルク、ないしコルクラボというものに興味がある方がいらっしゃれば、今、大変タイミングよくコルクラボ生を募集中なんですね。ぜひ応募してくださいというところですね。

柳澤:宣伝(笑)。

長谷川:宣伝と、あとはコルクでこれからはブレストをやっていこうと強く思いました。以上です。

(会場拍手)

成澤:ちょっと早口でしゃべりますけど、僕は最近、感動した話でこんなことがありました。北海道に有名な精神科医の先生がいまして、この人がある地域で講演をしたんです。講演会でその役場の人と出会って、役場の人が連絡してきたそうなんですね。

引きこもりで障害を持っている人がいて、毎日のようにお昼ご飯のときに「誰か俺とお昼ご飯を食え!」って言って役場に電話をかけてくるそうなんです。「食わなかったら、相模原事件(注: 相模原障害者施設殺傷事件。2016年7月26日、神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に元施設職員の男が侵入して起こした殺人事件)を起こすぞ」というクレームの電話を、毎日してきたそうです。

役場の職員さんが萎えちゃって、その精神科医の先生に相談したそうです。精神科医の先生は「わかりました。私が相談に乗りますよ」と言って、長く引きこもって障害を持っている人と直接電話で話をしたそうです。

たまたまあるとき、その精神科医の先生が、引きこもっている人の家のそばで講演する機会があったそうです。その引きこもっている人が「近くに来るなら、一緒に飯を食ってください」って言ってきたそうなんですね。「食べますよ」って、精神科医の先生は食べることにしましたが、なんとウナギを奢ってもらったそうなんです。

どういうことかと言うと、この男の子は長い間引きこもって仕事ができていなかったんだけど、精神科医の先生が近くに来るって聞いて「ウナギをご馳走しなきゃいけないから」って働き始めたんですよ。(それで)「嬉しかったから、先生また講演に来てくださいね。僕はまた奢らなきゃいけないから、そのために働きますね」って話をしていたそうです。

俺は、けっこういい話だなと思っています。「働きづらさ」の問題ってなると税金を納めるとか、一人暮らしが……みたいな話になりますが、僕らはきっと、飯を奢るために働いていると思っています(笑)。ティールの話も、目的と手段がひっくり返ることがとても多いと思います。

ティールの排他性みたいなところは、たぶん僕らの言葉で言うと「インクルーシブ」という言葉が近いかなと思います。インクルーシブという言葉は「包括的」とも言うけど、何か排他的という感覚もあって、その感覚と近いなと思います。今日は、いろんな議論がみなさんとできたことをとても嬉しく思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

4人それぞれのティール実践談インタビューを公開中

小竹貴子氏:ありがとうございます。時間になったのでそろそろ締めさせていただきたいと思うんですけれども、今日はいろいろお話をうかがって、よりもっと4人のみなさんのお話を聞きたいという方がいらっしゃると思うんです。

実は英治出版オンラインで、4人のインタビューを掲載しています。ただし、コルクに関しては(長谷川氏ではなく)佐渡島さんになります。

やなさん(柳澤氏)に関しては、私が知っている限りでは実はティールという名前が出るもっともっと前から、そういう組織に向かっています。時間をかけてどういうふうに作っていったかという、ティールを実践されているお話です。佐渡島さんに関しては、ティールというものに対し、けっこう「ティール神話というのはどうなの?」と言っていただいているようなお話です。

島田さんに関しては、大きな会社でティールを目指しながらも、そこで試行錯誤されているご様子、ご本人の苦労のお話がかなり生々しく入っているようなものです。成澤さんに関しては、やっと自分たちが働きやすい時代が来たというような希望を投げかけてくださっているインタビューです。そういうものがあるので、ぜひ合間や帰りの電車で読んでいただけたらと思います。

ちなみに私も実はティールについてのコラムを1本、英治出版で書いています。そこでは先ほどの質問にもあったんですけど、実は私のいるクックパッドはティールというよりかは、レッドもあったり、オレンジもあったり、グリーンもあったり、ティールもあったりという、いろんなチームがいながら成り立っている会社です。

でも、それがすごくうまくまとまりながら前に進んでいるということを書いたコラムがあるので、いろいろ楽しみながら読んでいただけたら、より学びを深めていただけたらと思います。

今日は4人のみなさま、ありがとうございました。ぜひ拍手をお願いいたします。

(会場拍手)