ラクスルの資金調達時の役割分担の裏側

金坂直哉氏(以下、金坂):若干テクニカルな話になっちゃうかもしれないんですけど、みんな聞きたいかもしれないのでまいりましょう。「資金調達時の役割分担」です。まずじゃあラクスルのお二人、資金調達時の役割分担はございますでしょうか?

永見世央氏(以下、永見):ラウンドによって違うんですけど、僕は2015年ぐらいまで、シリーズCぐらいまでは、松本のファイナンス能力は相当スキルが高いので、なんかCo Head(共同代表)みたいに一緒にやる感じでした。かなりアレンジもやってくれて、相当助かりました。(それで)40億円を調達したという感じです。

その次のラウンドぐらいから、かなりテイクオフ、テイクオーバーして上場のときまで持っていったみたいな感じですかね。

(会場笑)

そういう感じでけっこう、分担するときはするし、一緒にやるときはやる。なんでかって言うと、とくにアーリーなフェーズにおいてはキャッシュが尽きたら会社が死んじゃうじゃないですか。

なので、会社のアクティビティにおける位置付けが相当高いんです。そのときはCEOも一緒にやるし、一応CEOだとかCFOだというのはラベリングとしては重要だけど、あくまでラベリングにすぎないという要素もあると思っています。

なんかきっぱり役割分担するよりは、一緒に分担を分かち合いながらやったほうが、よりいいものができると思っているんです。けっこうスパッと分けるようで、実は分けていない。いろんな議論をしながら進めていますね。

金坂:松本さん。もし、追加があればお願いします。

松本恭攝氏(以下、松本):その中でCEOというか、ファウンダーがやったほうがいいことが、1つだけあります。「ストーリー」を作るというところです。会社における成長ストーリー、そして社会にどういう意義を与えていくかという「なぜ我々は存在すべきなのか」というところです。この言葉とストーリーはファウンダー、立ち上げた人が作ったほうがいい。他の人の言葉ではなくて、立ち上げた人の言葉で作ったほうがいいと思いますね。

その他の部分については、資金調達って営業の側面とエグゼキューションの側面との2つがあって、エグゼキューションの側面については、僕はできないので全部お願いしています。営業の側面は、例えば先々週、二人でアメリカを回っていたんですけど、我々にはお金がないので二人で(一緒に)回らず、永見さんが東海岸を回って、私が西海岸を回って、同じタイミングで別々に一人ずつ動いていくようなかたちでやりました。

とにかく投資家とのコミュニケーションの量を増やす。(永見氏を採用した)当時は比較的二人で動いていたんですけど、とにかく営業をする。話す人の数をたくさん増やします。ファンを作っていって、ファンになったときに何社かお金を出してもらえます。

そういう点においてはIRもそうですが、「CEOとCFOが」じゃなく、我々は他の役員クラスも回ってやります。

量が質を担保する

金坂:単純な興味ですけど、ラクスルは先日決算発表をされて、まさにIR中だと思うんです。話す内容やストーリーや今回のテーマみたいなものは、経営チームの中ですり合わせてからやるんですか?

永見:基本的にすり合わせてやります。上記の補足で言うと、松本から学んだこととして「量が質をちゃんと作る」というか、「(量が質を)担保する」ってけっこうあると思っています。

これは未上場のときも、毎回ラウンドで投資家候補がやっぱり40社とか50社とかあるんですね。僕もよく他のベンチャーの方に資金調達の相談などを受けるんですけど、「何社を回ったの?」って言ってみます。(返答で)「5~10社」って言ったら、「いや、とりあえず、あと3倍回ろう!」みたいに答えます。やっぱりちゃんと数を回る。まさに営業ってそういう話だと思うんです。

やっぱりいかにちゃんと自分たちのことを量として担保して、アピールしていくかってすごく大事なんじゃないかと思いますね。

金坂:この質問に辻さんからお話をいただけますか?

辻庸介氏(以下、辻):今日来てくださっている方のお役に立てる情報だとすると、とにかくやるべきことが多いので、早く役割分担をできたらいいと思います。うちの場合は金坂が入って来てくれた後は、全部お任せです。僕はもうそこには一切時間をかけなくてよくなったので、その分CEOは、プロダクトと営業をひたすらやるということにコミットできたんです。そこはすごくよかったです。

あとは、そのすり合わせがとても大事だと思います。脳内の同期をよくするようにしていました。そのため40億円調達のときは、こんな男二人がもう毎日、電話していました(笑)。

(会場笑)

金坂はけっこうちゃんと連絡してくれるのですが、そこは齟齬なくビジネスを進めるのにすごく大事ですね。それにはやっぱり、コミュニケーションの量と質で、特にコミュニケーションの量を確保するっていうのが大事だと思っています。

上場後は海外の機関投資家様に会いに行きました。ラクスルさんもそうだと思いますが、僕らも去年の上場後、またファンディングさせていただいています。香港、シンガポール、ロンドンを回って、2チームに分かれて別行動する。夜はテレカンして、「今日どう?」と情報を共有していました。だから、「チーム数を増やすこと」がすごく大事かなと思いました。

金坂:ありがとうございます。実際に大事なのはそういう役割分担かなと思います。

マネーフォワードのM&Aの判断基準とシナジー効果

金坂:(スライドを切り替えながら)またちょっとテクニカルなことで、すいません。M&Aは誰がどう推進していますか? ラクスルはまだ、M&Aはされてないですよね?

永見:完全に買収したというのはないですね。検討したことはあります。

金坂:どんな感じで検討していらっしゃるんですか?

永見:基本的には各事業の価値を上げていくことが主眼なので、事業側と、あとはコーポレート側が連動しながらという感じですね。

金坂:うちは上場直後に、M&Aをしました。(グループジョインしたのは)クラビスという会社ですが、辻さんがファウンダーの菅藤(達也)さんに直接メッセージを送ったところから始まったものです。本当にディールによって違いますし、うちも実施しなかったものはたくさんあります。

辻さんと僕はかなり初期の段階から、密にコミュニケーションしています。(金坂氏が辻氏に)「これどう思う?」と聞いて、「じゃあ、ちょっと会ってみようか」とか、僕が最初に会っていて「辻さん、会ってください」とか、(あるいは)辻さんが(先に)会っていて、僕が「じゃあ会ってみます」のように、いろいろやっています。

数字ももちろんですけど、そこでは人間性、チーム、カルチャー、「マネーフォワードグループとして目指している世界観に近いかどうか」というのを、けっこう見ています。「数字というのはある意味、将来の予測でしかないよね」というところもあり、最後までかなり踏み込んでやっていたりします。

:M&Aの判断(基準)については、成長率で見てはいなくて、「ユーザーベースが伸びるか」「プロダクトのラインナップが広がるか」みたいなところです。ビジネスラインナップで見ているほうが大きいです。

例えばさっき話に出たクラビスという会社にはCEOの菅藤と、CFOの竹田(正信)がいるのですが、今、竹田が当社のビジネスのクラウド事業全体の責任者をやっているんですよね。これは想定していなかったことですが、彼はもともとマクロミルで数百人規模の組織のマネジメント経験があるので、できちゃうんです。また、菅藤は当社にM&Aされた側なんですけど、今は当社のM&A担当になっています。「自分(の会社)はマネーフォワードに買われたけど、悪くないよ?」みたいな(笑)。

(会場笑)

僕らは3社ぐらいM&Aして、グループにジョインしてもらっているので、社内の会議では創業者が4人ぐらいいるんですよ。昔だと、僕がアイデアを言ったら、役員が「無理でしょう」みたいな感じになるときがあったんですが、(今は)僕と同じような考え方の人が3~4人いるから、会議も「できる」という結論になることがあるんです。

起業家、ファウンダーの「できると思う能力」がグループにも入ることは、思ってもみなかった効果でした。それは楽しいなと思いましたね。

CEOが投資家との接点を持つことで得られる利点

金坂:(スライドを切り替えながら)続いてはIPOやIRにおける、役割分担の話です。先ほどIRの話が出たので、資金調達の話とちょっと重なっちゃうかもしれませんね。うちはIPOのときの実務は僕がけっこうやっていて。辻さんとだいぶ連携しながらやったんですけど、ラクスルではIPOをどんな感じで進められていましたでしょうか?

永見:実務は僕も含めてチームでやりつつ、投資家との接点はやっぱりCEOも持つべきかなと思っています。コストというよりは、けっこうラーニングがあるのかなと思います。

なので、やっぱりいろんな投資家とちゃんと会って、自分としてのキャピタルマーケットとの向き合いとか、目線をちゃんと持つというのは、CEOとしてやったほうがいいんじゃないかなと思っています。

あとは本当に重要な何パーセント(の株式)を持っている投資家とのエンゲージメントは、やっぱりCEOがやったほうがより良い側面もあるので、その2つが一番大きいかなと思いますね。

金坂:辻さんも最近かなりIRが増えていると思いますが、どうですか?

:やっぱり気づきがたくさんありますよね。取引先、ユーザー、社員、株主、社会など、ステークホルダーの方々がいらっしゃって、おかげさまで会社は存在していると思うんです。それでいて、例えばプロダクトを作るエンジニアはふだんユーザーやプロダクトを見ているので、株主の声は入ってこないじゃないですか。

だから、経営者がすべてのステークホルダーの声を聞いて、最適解を出して成長させていくことが大切ですよね。逆にIRで投資家の方と会わなかったり、IPOの過程を知らなかったりしたら、最適な意思決定はできないなと思い、必要な時間配分だという認識でIRをしています。

とくに海外の投資家の方は本当に、海外のスタートアップ企業をよく見ているので、僕らはコスト構造などすごく勉強になることが多いです。ただ、IRに(時間を)割きすぎても良くないなと思うし、バランスが難しいですね。ラクスルさんはお二人がIRを積極的にやられているので、すごく時価総額が上がっていますよね。どういうふうにIR戦略を設計しているのかとても知りたいですね。

未上場のタイミングで、200社以上の海外機関投資家にプレゼン

松本:ちょっと具体例の話になっちゃうんですけど、手前味噌ながらラクスルのIPOはすごかったと思っております。このすごかった要素の9割は、永見さんがすごかったと思っています。何がすごかったかっていうと、いくつかの下準備と、実際の判断です。今、多くのスタートアップから「ラクスルみたいなIPOをしたい」という話ってけっこう出ているんです。

ただ、表面的に真似るのはけっこう難しいだろうなと思っています。(その理由が)何かというと、我々のIPOは2018年5月31日でしたが、実際に株を買ってくれる投資家とコミュニケーションを始めたのはたぶん2016年ぐらいからで、永見さんは年に1~2回、世界中を回って投資家にラクスルのプレゼンテーションをしていたんですね。

IRで、例えば日本企業5社とミーティングに行くというときに、隣にクックパット、サイバーエージェント、ラクスル、楽天みたいなかたちで、シリーズC、Dが終わったタイミングぐらいから海外の機関投資家とのコミュニケーションをスタートしていました。ワンショットではなくて、年に2回ぐらい行っていましたよね。

たぶん未上場のタイミングで、すでに200社以上という数で海外の機関投資家とコミュニケーションをとっていました。かつ、その1回だけではなくて、アップデートを何度もしていたんですね。つまり上場企業と同じIRを上場の2年以上前から行っていたので、機関投資家で「はじめまして」で会う人があまり多くなかったんです。

かなり多くの投資家が安心感を持ってくれて、「この会社は、これまで言っていたことを実現してきたよね」っていう信頼を作ることができました。これは永見さんがやったことを話しているわけなんですけども、その上で、多くの会社は上場のタイミングでは個人と機関投資家に8対2で分配する中、我々は5対5で分配して、かつ国内の機関投資家じゃなくて、海外の機関投資家により多くを割り当てました。これも日本のIPOとしてはほぼ初めてのことでした。

ただ、IPOのタイミングでこれをしようとしてもなかなか難しいですね。事前に信頼関係を作っていたから多くの需要が集まったというかたちです。これが永見さんの行ったことで、私がIPOで行ったことでいうと、2つやったことがあると思っています。

会社の存在意義の定義と、「営業利益を出しません」という宣言

松本:1つは「IRストーリー」と、さっきの「エクイティストーリー」ですね。我々が社会に何のために存在するかという存在意義を、「シェアリングプラットフォームを作る会社」だとしました。20世紀は産業が垂直に統合されていましたが、21世紀ではそれが水平分業されました。プラットフォームが小さなサプライを結びつけて、お客さんにダイレクトに提供するんです。

「シェアリングプラットフォーム」という概念を作って、それを「印刷業、物流業だけではなくて複数の産業で実現していけますよ」と言う。「ラクスルって、何の会社ですか?」って言われたときに「印刷会社です」ではなくて、「こういう世界を実現するための会社です」と言うキーワードを作ったということが、僕の役割の1つです。

もう1つの役割は、「営業利益を出しません」という宣言をしたことです。超過的に利益が出てくる分をすべて再投資に回して、「我々の企業価値の源泉は売上総利益です。売上でも利益でもなくて売上総利益です」ということを決めました。

これをIRストーリーの中に盛り込んで、今ラクスルのバリュエーションのベースは売上総利益になっています。僕は、企業価値について「我々の社会における意味は何なのか。それは、財務諸表においては何によって評価されるべきか」を規定していました。

そういうかたちで、永見さんがコミュニケーションとかディールの全体の設計を長期間かけて外に対して行い、私は「自分たちは何者であるか」「どう評価されるべきであるか」「どう経営をすべきであるか」というものを作りました。そういう役割分担でした。