大枠のカテゴリーに埋もれて“消えてしまう”人たち

陳暁夏代氏(以下、陳暁):私は今日のこれまでのセッションを聞いていて、共通して「カテゴライズの話」があるなと思っています。とくに日本は人口が少ないからなのかわからないんですけど、カテゴライズの種類が少なすぎると、めちゃくちゃ思うんですよ。

若林恵氏(以下、若林):なるほどね。

陳暁:例えば、F1、F2で区切れない話とかそうじゃないですか。私は広告の仕事もやっているので、どうしてもターゲットをカテゴライズ、ブロック分けしちゃうんですけど。それで分けちゃうとどうしても消えてしまう人たちだったりとか、本当は違うのにこっちのボックスに「ウン!」と入れなきゃいけない人とかが出てきちゃうんです。

それで何かを殺しているという節もあると思っています。もう1つは、さっきは情報量が多いからタグが必要になったという話をしていて、やっぱりそれもめっちゃ強いなと思うんですよね。情報量がインターネットでめちゃくちゃ増えちゃって、みんな自分の信じるべきポイントを探している。

まず表層的に、わかりやすくタグが付いているもの。奥まで入ってくと、やっぱり生い立ちとかを聞きたいのも、(自分と)「共通点があるかどうか」とか、「こいつは俺の信用に足るものなのか」とか。拠り所を探しているんじゃないかなと思うんですよね。どうですか?

若林:なんでなんだろうね。1個言えるのは、F1、F2みたいな話とかは、要するにマーケティングっぽい話を、みんなが客の側として勝手に内面化していったという話は、もしかしたらあるかもしれない。俺の論点から言わせると、ひとえに広告代理店というのがもたらした罪だというのはある気はする。

日本において、ラベルは記号でしかない

若林:だけど、SNSみたいなものとかが、意外とそういう一貫性みたいなものを求めさせるのは、体験上とかもありそうじゃないですか。

陳暁:ありますね、私のTwitterとかを見ていただくとわかりやすくて、何も書いてないんですよね。今、肩書きのところに「ふわふわの犬」と書いていると思います。若林さんはわからないんですけど、たぶんTAITANさんも私もカテゴライズされたくない側の人たちだと思っています。

若林:なんで俺をそこに入れてくれないんだよ。なんで俺を外すんだよ。俺もそっちだよ!(笑)。頼むよ(笑)。

陳暁:ちょっとわかんなかったんですよ(笑)。そうでした? すみません、ごめんなさい!(笑)。

そうなんですよ。私は若手起業家とか、女性という括りに一切入りたくないんです。だから最初は、括られちゃうからずっとメディアにも出たくなかった。タイトルがそういうものだったり、そういう特集とかも全部断っていました。一独立体でいたいんです。

(TAITANさんは)どうですか。「ラッパー」って括られること自体は平気ですか?

TAITAN MAN氏(以下、TAITAN):それは事実としても別にいいんです。みなさんみたいな賢い方々はそんなことはしないと思うんですけど、ラッパーと言った時に、「ヨーチェケラッチョ」みたいなことをマジで言ってくる奴がいるんですよ。

(一同笑)

ほんとに。それが日本の教育の後進性を端緒に表してるなと思うんです。記号でしか話してないというか、コミュニケーションを水平にバケツリレーすることばっかり考えてるみたいな。ラッパーを名乗ることでそういうことがあったりするので、そういったことに関してはすごく嫌だなと。

アイデンティティを表す言葉を自分で作り出すことの“寒さ”

若林:だからラベリングという話を言っていたと思うんだ。ほら、ラベリングって自分で作っても意味ないじゃんというところもあるじゃない。わかる?

TAITAN:自分で例えると?

若林:つまり、「俺の仕事はメディアなんとかなんとかです」みたいなのを、要するにある種の造語を作って「なんすかそれ」みたいな感じになるような、微妙な名刺とかってみなさん見たことありません?

陳暁:ありますよ。ありますよ。

若林:あるよな?

陳暁:よくいただきます。でも……。

TAITAN:カタカナ三行くらいの、スーパー……。

若林:そうそう、そうそうそう(笑)。それなんかぱっと思いつくのない?

陳暁:ハイパーウルトラメディアクリエイターとか。

若林:ああ、なるほどね。

TAITAN:そこまで進化したんですか(笑)。

陳暁:いるんです。でも、私もつけようと思ったらそういうのができちゃいますよね。

若林:できちゃうんだけど……いや、結局何が言いたいかというと、あんまり自分で発明しても、寒くなりがち。つまりアイデンティティの問題でけっこう重要なのは、例えば言語というものが1個あったとして、言語というのは基本的に自分で作れないものなんだよ。そうじゃない?

だから「『リンゴ』と呼ばれている“赤いなんとか”を、俺は違う言い方をする」と言って、張り切るのは勝手だけど、「“赤いなんとか”ちょうだい!」と言っても通じないじゃないですか。言われた方は、「何を持ってきたらいいかわかんない」ということになる。だからそもそも(言語は)選択するしかできないものなわけですよ。

なので、自分のことを「なんとかなんとかラッパーです」と呼んでもいいけど、それも恥ずかしいじゃん。

TAITAN:そうですね。

若林:だからその中で、ミュージシャンとか、微妙にある種の抵抗を示していた“アーティスト”という言葉を使っても、(今すでにある言葉の)どれかからなんとなく「これだったら許せる」みたいなところを選ぶみたいな話にしかならないじゃない。

TAITAN:それで言うと僕はTITAN MANになりたいんですよね(笑)。TITAN MANというのは……。

陳暁:強そう。

TAITAN:スーパーヒーローなんですよ(笑)。

若林:なるほど、なるほど。

TAITAN:はい。今のはちょっと冗談ですけど、本名として受け止めきれない部分をTITAN MANという名前に仮託しているみたいなところは、ちょっとあるかもしれないですね。架空の自分を作り上げることで、いろんな邪念みたいなものから逃れていくと。

手段としてのセルフブランディングは本質的ではない

若林:陳暁さんは肩書きとかどうしてるの?

陳暁:私はメディアに出るときも「自由にどうぞ」と。難しい。私はすごくもがいて、括られたくないので、自分ではつけてないんです。やっぱ仕事上は……。みなさんは私のことをご存知ない方の方が多いと思います。私は中国人で、一応本業は中国向けのコンサルとかブランディングとかをやっています。

クライアントの方々もすごくお堅い企業が多いです。なので、通常はけっこうマーケターだったりという肩書きでやっているんですね。メディアに出るときも、テレビとかもだいたい「中国マーケター」みたいな感じで出るんです(笑)。個人的には、私は仕事が第一レイヤーの人間ではないので、あんまりそれで浸透してもなぁとは思っています。

なので、私もやっぱり“陳焼夏代”がメインで生きている感じはあります。難しいです。完全にわかってるんですよ。ここの枠にハマったらもっとメディアに出られるとか、ここの枠にハマったらもっと人気が出るとか。

私はブランディングをやっているので、自分のブランディングをどうしたらいいかぐらいわかってるんです。ただそこはもうメディアポリシーにも近い話で、自分とのさじ加減でどこまで引くかなというところで、いつもすごく戦っていますね。

若林:前までだと、やっぱりこれから個人が個人として生きていくためには、ある種「セルフブランディングみたいなことがちゃんとできないとダメだ」みたいなことで、ソーシャルをうまく使ってフォロワーを増やして……みたいな話がけっこうされたじゃない。ただ要するにそれって、なんて言うのかな……。

陳暁:「側」ですよね。

若林:ん?

陳暁:手法ですよね。

若林:そう。手法だし、それを真に受けてやりだすと、マジで牢獄だなという感じがある。

陳暁:そうそう、虚構になってしまうというか。それはすごく本質的じゃないと思っています。なので、いいんですよ(笑)。人生いろんな側面があるし、視聴者だったりとかファンとかもカテゴリがあるので、みんなが見たい私を勝手に見ればいいとも思っています。

私は半ば、牧場でいろんな動物を飼ってるぐらいの気持ちでやっているんです(笑)。

“ファンが好きな部分”と違う側面を見せるだけで嫌われてしまうというリスク

若林:なるほどね。なるほどなるほど。言いづらいかもしれないけど、ファンってけっこう微妙じゃない。つまり中には、俺に「ファンです」と来られる奇特な方がいるんですよ。俺なんかのどこがそんなにおもしろいんだと思うんだけどさ。

陳暁:いや、おもしろいです。

若林:いやいや、「ファンなんです」って来られても、「あっそ」みたい話しかないじゃん。

陳暁:えー。

TAITAN:いや、そんなことない(笑)。普通に超うれしい。

(会場笑)

若林:マジで!?

TAITAN:やっぱここで断絶がありますね。

若林:マジで? いや、違う違う。ここまでいい感じで来たのに、なんで仲間外れにするんだよ。

TAITAN:あはは。ひねくれてる。

若林:ファンは好き? 

TAITAN:そりゃうれしいですよ。

若林:いや、一応額面通りには受け止める。でも、「1曲だけ好き」みたいな奴でも、別に会っちゃえば「ファンなんです」とか言うじゃん。俺だって言うし。

TAITAN:僕はぜんぜん「サイン書きましょうか」とか言いますよ。うれしいっす。

陳暁:うれしいっすね。優しい。

若林:マジで? ちょっと待って、勝手に俺が仲間外れにされて悔しい。陳暁さんはどっち側?

陳暁:私は難しいです。ファンというのは“現時点でのファン”でしかないと思っているんですよ。Now On Timeで私のことに興味、もしくは好きなだけな人。私は100パーセントをみなさんに出しているわけじゃないので、“彼女”が好きな私の部分と違う側面を見た時に、嫌いになる確率があるというリスク物として扱ってます。だからあんまり……。

若林:だよな。そうだよね? 

陳暁:はい。

若林:そうだよ。お前が仲間外れだよ。

TAITAN:いやあ、マイノリティーだ。大分劣勢に持ってかれたな(笑)。

陳暁:でも、その時受けたラブコールは、素直に愛で返しますよ。

TAITAN:ですよね(笑)。ほら。

陳暁:長期的にはそこまでアレですよ。

TAITAN:僕はまだキャリアもペーペーだし、知名度もそんなになくて、そういう長期の目線とかもそんなにないので、来てくださった方には懇切丁寧に、「どうもどうも末永く……」と。

陳暁:素晴らしいです。

若林:いや、違う違う。何の話をしたいかというと、今、陳暁さんが言ったみたいに、例えばラップをやってるTITAN MANの活動というのは、別に飯塚……。

TAITAN:飯塚政博という、僕の生まれ名。

若林:“飯塚政博”全体の本当に一部でしかない。