日本からイノベーションに挑戦する企業がもっと出てきてほしい

小池祐介氏:今、清水さんからは、清水さん個人が今何をしているのかとか、どういう着眼点でクリエイティブを見ているのか、というお話をしていただきました。

僕からは新規事業開発にフィーチャーしたお話をさせていただきます。WHITEがどういうアプローチで新規事業開発をしているのか。清水さん流に言うと、新規事業開発そのものが今、ピボットしている状況にあると思うので、それがどう変化していってるのか。このあたりを説明させていただきながら、クリエイティブとしてどういう力、どういう視点を持っていればよいのかというところをお話ししたいなと思います。

まず簡単に自己紹介です。WHITEという会社を知っている方はいらっしゃいます?

(会場挙手)

おお、いた。WHITEは、新規事業開発を企業に向けてサポートしている会社です。その中で僕は、企業にどういったプロセスで新規事業開発を提供していけばいいのか、WHITEのサービスそのものを考えるような役割をやっています。

サービスの責任者として立っていると同時に、日本でもっともっと新規事業開発とかイノベーションといったものに対するチャレンジがたくさん出るといいな、と思っています。WHITEとビジネスをやるかやらないかは別に、こういった場でいろいろお話をさせていただいたりとか、企業の中で勉強会を開いたりとか。そういったアプローチでも新規事業・イノベーションに取り組んでいます。

じゃあまず簡単に、ご存知ない方もいらっしゃったので、WHITEについて説明させていただきます。やっているフィールドは、大きく2つあります。新規事業開発のゼロイチのところですね。今お話しさせていただいた、企業向けに新規事業を支援していくというところです。あとはビジネスフローですね。事業開発したものをどうやって育てていけるのかというところ。この両面をサポートしています。

そしてサービス自体を生みだして終わりではなく、どうやって初期にグロースさせていくのかも責任を持ってやらせていただく、というような会社になってます。

2015年に、先ほどお話があったスパイスボックスという会社からスピンオフしまして、事業を立ち上げました。それ以降、16年はSXSWで賞をいただきました。今事業としては大きくやっていないんですが、2017年はADFEST、Spikes Asiaという広告賞を取っています。

僕らの会社としては、ゼロイチの部分、このあたりの力をSXSWでご評価いただきました。広告賞は本当でかいです。10から100とか1,000とかに広げていくところをやっていて、人を動かしていく力をご評価いただいたんじゃないかなと思っています。こういったSXSW、イノベーションのアワードと、広告賞のアワード。両方持ってる会社って、日本ではけっこう珍しいんじゃないかなと思ってます。

新規事業開発は「提供価値・提供手段・収益モデル」のトライアングルがカギ

実際に我々がやっているサービスと、提供している価値とは何なのかというお話をさせていただきます。WHITEの「SERVICE DESIGN」というブランドで、企業に対して支援を行ってます。やっていることは、日本企業の新規事業開発をテクノロジー・デジタルを使いながら、新しい価値を生み出すようなサービスを作ること。日本企業が使いやすいようカスタマイズしたプロセスとして提供させていただいています。

新規事業開発をやっていくときに、重要なポイントと思っている“トライアングル”があるんです。それが「提供価値」と「提供手段」、「収益モデル」です。

よくデザインコンサルとか新規事業開発では、「提供価値」の部分を中心にして語られることが多い。顧客とか企業が気づいていないような新しい価値とか、新しい課題って何なんだろうということですね。

ただ提供価値って、発見したときは非常に快感なんですが、世の中に出ていくと基本的にはマネされてしまうものです。新規事業として持続的に発展させていくためには何が必要かというと、「提供手段と収益モデルによる競争優位性をどれだけ作っていけるのか」が非常にポイントになるんじゃないかなと思っています。この2点もきちんと社内で作っていけるような体制を整えています。

あと、大企業の中で事業開発をしようとすると、なかなか実現しない。その理由は大きく2つあって、ひとつめは、企業の中で不確実性が高い新規事業開発のプロジェクトをあんまりやったことがないんですね。基本的にゴールや課題があって、「それを目指して走っていくぞ」というプロセスは得意なんですが。最終ゴールが見えない中でのプロジェクトをどう回していいのかわからないところを、ひと言で言うと我々が“デザイン”させていただきます。

もうひとつは事業開発で、「ほぼほぼこれで決まるんじゃないか」「新しい提供価値を作りました、これイケます」という話をしたとしても、“社内での伝え方”をきちんとデザインできてないと、結果として上申が通らずに世の中に出ていくこともないんですね。

企業の中で事業開発の悩みは、「提供価値で新しいものが発見できません」とともに「上申が通りません」というのが半分以上です。どうやってこの価値を伝えて意思決定していくのか。このあたりのプロセスを、僕らはもともと広告をバックボーンとしていますので、その力を使いながら人を動かしていくことをやらせていただいています。

WHITEとしては、「提供価値」「収益モデル」「提供手段」をきちんと作っていくプロセスと、社内への伝達と意思決定をきちんとサポートさせていただく、というところに大きな価値があるのかなと思っています。

現状はいろいろやらせていただいている企業がたくさんありまして。産業は偏らず、いろいろご支援をさせていただいている現状です。あと直近で出したものの事例ですと、損保ジャパンさんとマイシュアランスという少額短期保険の会社コンセプトと商品コンセプトを作っていったりしています。

あとはちょうど先週リリースした「ガリバーオート」という、AIによるオート査定サービスも一緒に作っています。実績もちらほら出だしているかなと思います。

新規事業開発における3つの型

ここからは、“未来視点と新規事業開発”という問題をお話しさせていただければなと。

新規事業開発とひと言で言っても、実はいろいろ種類があるんですね。それぞれに合ったプロセスがあるんですが、それがうまく企業の中で使いこなせていないというのが、大きな課題としてあるんじゃないかなと思っています。

「新規事業開発がこのように変化していますよ」というところを類型で整理しながら、「じゃあ我々は何を力として持っていればいいのか」というお話をさせていただきます。

WHITEは、新規事業開発を3つの型で捉えています。左側が「課題解決型」。これは文字どおりで、長年の明確な課題というものを異なる解決方法で解決していく。同じ方法で解決していっても意味がないと思っているので、異なる方法で解決していくパターン。

真ん中が「課題最適型」と僕らは呼んでいるものです。長年の課題というものを「それ、今も本当に課題なの?」と、捉え直しながら解決していく。

3つ目は「価値創造型」。文字どおりですね、新しい価値・課題を創造していくパターンです。

長年企業としてやられていたところが、主に課題解決型であるということは言えるかなと思っています。「その散布類型によって、考えるポイントがまったく異なってくるよ」というお話を今からさせていただきます。

課題解決型は資本力がないとレッドオーシャンに飛び込み疲弊する

まず課題解決型で考えていくところはどこかというと、提供価値は変えずに、どういう解決策があるのかを考えていくパターンですね。主なもので言うと、「Uber」はまさにその例かなと思っています。

タクシーの提供価値を彼らが大きくアップデートしているかというと、初期の「Uber」はそうでもありません。基本的にはラストワンマイルモビリティという価値をそのまま踏襲しながら、解決策をより鮮やかにしていったんですね。契機としては、スマートフォンが普及したタイミングで、移動空間をネットワークしながら、タクシーの代替として使ってもらえるようなビジネスを作っていったというところです。

メルカリも同じで、二次流通市場は昔からありました。メルカリが何をしたかというと、スマートフォンに最適化したUXと、フルガードなエコシステムをきちんと作っていったパターンですね。

課題解決型は、やると非常にスケールしていくビジネスで、重要なポイントが2つあります。1つはタイミングですね。この2つに共通しているのは、両方ともスマートフォンがきちんと普及していったという、大きな環境の変化があって初めて成り立っているビジネスということです。

なので、今まで解決できなかった物事が、大きな環境変化によって解決できるようになったタイミングで一気にアクセルを踏むと、大きくスケールするビジネスが生み出せる。

もう1つは、資本力ですね。課題が明確なので、どれだけリスクを取ってお金を投下しながらやっていけるかというところが、けっこう重要なポイントになってきています。メルカリの初期はまさにそれですね。手数料無料。彼らはずーっと手数料を取らずに、ユーザーを集めていきました。そういった、いかに資本を投下していけるかが、課題解決型の場合は非常に重要です。

ただ課題解決型の課題は明確で、タイミングを逃したりとか資本力がない状態でやってしまうと、レッドオーシャンに飛び込んで疲弊する事業になっていく可能性が高いです。

僕らが基本的に力を入れてやっているのは残りの2つで、課題最適型と価値創造型です。そこを生み出したいなと思って、事業をサポートしています。

既存サービスと“顧客が本当に解決したい課題”のギャップをうめるのが、課題最適型

課題最適型は何をしているのか、ホテルの例で言うと「宿泊サービスの中でほかに提供価値がないのか、ユーザー課題がないのか」を考えていく。それを考えた上で、解決策を考えていくかたちのビジネスになっています。

特徴としては、既存のサービスが提供している価値と、今ユーザーが解決したい課題のギャップを見つけていきながら、そのビジネスを作っていくということですね。「Kit Oisix」は非常にわかりやすい例だなと思っています。

昔はお料理キットって、主婦の方々が毎日料理をする中で簡単に料理を済ませたいときに使う商品でした。今女性の就業率がどんどん高まっている中で何が起こっているかと言うと、「料理キットを日常的に使いたい」方々が非常に多くなっています。

料理キットを日常的に使いたい人たちが、もともと主婦の方々にウケた「手間を省くキット」を使うと、「ちゃんと時間をかけて作っていない料理を子どもやパートナーに出していいのか」という罪悪感が生まれてしまって、まったく売れなくなっちゃったんです。

その課題を捉え直して、「じゃあ日常的に使う、手間をかけて自分の料理だとしてきちんと出せるお料理キットを作ろう」というかたちで提供し始めたのが、「Kit Oisix」。これがヒットして、お料理キット市場のパイそのものを広げていった、非常に大きなサービスになりました。こういった事例が今、至る所に起こりつつあります。

“How”から“Why”へ、前提条件の再構築が新しい価値を生み出す

最後は価値創造型の例です。「Airbnb」を例に説明します。提供している価値って何なのかと考えていただくと……「旅先の文化や人々と接しあいながら旅行ができる」という価値の実現を「Airbnb」は目指していると言われています。ただ彼らが提供しているサービスの内容って、宿泊サービスなんですよね。もともとはまったく産業の異なる旅行の価値を転用して、宿泊サービスに使っているかたちです。

なので今までの新規事業開発の考え方で、ある特定の検討市場みたいなところでビジネスを起こそうとすると、そこを徹底的にリサーチしながら新しい価値がないかを探していくんですが、それだと「Airbnb」って生まれないんです。「Airbnb」の価値は旅行の価値、それを宿泊サービスで満たす構造で成り立っています。

今までの前提条件である“産業”というものに囚われて考えると、いい事業が生み出せないんじゃないかと僕らは思っています。

改めてここで整理をします。3つの類型の何が違うかと言うと、課題・価値の状態がぜんぜん違います。「課題解決型」は「課題が明確にあるので、解決策をたくさん考えていきましょう」というモデルです。それに適しているのは、拡散・共創と呼ばれるような解決策をたくさん生み出すプロセスです。

「課題再定義型」と「価値創造型」は、課題・価値が非常に未知な状態ではあるけれども、そこを考えていかなければならない。そうすると、やることは前提条件の再構築であったりとか、ぐっと深掘りする独創的なプロセス。そのあたりが非常に重要となります。

もともと企業としてやられていたことって、課題解決型の新規事業が非常に多かった。かつそのプロセスがきちんと構築されていまして、デザインシンキングといった手法を使いながら、課題解決型のビジネスを生み出している。

ただ「価値創造型」を1つ生み出そうと思うと、たぶんそのプロセスを転用しても生み出されないです。だからこそ、前提条件の再構築とかをどうやってやっていけるのかが、企業として新規事業を起こしていく上で非常に重要になってきていると言えるのかなと思います。

新規事業開発の中心は今、“How”から“Why”へ移り変わっています。もともとは課題解決力ですね。課題があって、与えられた中で「じゃあどうやって解決していこう」ということを考える力。ただ、今は価値を作っていかなくちゃいけない。僕らに求められる力も、当然変わってきています。

課題解決力って、価値を生み出したあとの行動では非常に重要になるんです。まず価値を生み出していく、前提条件を捉え直しながら価値を新しくしていく。そういったことが重要になるんじゃないかなと思ってます。