広告代理店のバックグラウンドを持ちながらコンサルティングの世界へ

清水武穂氏:みなさん、こんばんは。お足元が悪い中、お越しいただきありがとうございます。アクセンチュア インタラクティブの清水と申します。今ご紹介いただいたように、今年のカンヌライオンズで「クリエイティブストラテジー」という部門の審査員をやらせていただきました。

実は私、今日このイベントを開催していただいている株式会社WHITEの前身である、スパイスボックスに在籍していたことがありまして。この後、一緒にセッションさせていただく神谷さん、小池さんと一緒に働かせていただいておりました。

私がそういった「広告代理店のバックグラウンドがありながら、なぜアクセンチュアにジョインしたのか」という話をいろんな方に聞かれるんですけれども、私はもともと総合広告代理店、会社起業、フリーランスを経験して、スパイスボックス、その後AKQAというエージェンシーに行ったんです。

それからアクセンチュアに参加したんですけれども、アクセンチュアに参加した際に当時Facebookで「ここに転職しました」っていうポストをしたら、みんな「一体なぜ!?」と、大きなクエスチョンマークがあって。

当時のアクセンチュアは、どうしても「ITコンサル」というイメージがすごく強くて、「おまえ、クリエイティブの魂を売ったのか」ぐらいのことを個人的にメッセージしてくるような人もいたり(笑)。個人的にはそのとき軽く心が折れたんですけど、私がAKQAにいる当時、ロンドンのメンバーが何名かコンサルサイドに移籍したんですね。

今から約5年前ですけど、そのときに「このイケてるやつらが動くってことは、次の潮流が来ているな」と思って、迷わずこっち(コンサル側)にジョインしたという背景です。でも、最初はすぐに思い通りにはいかなかったんですけれども(笑)。

アクセンチュアって基本的にコンサル会社なので、いろいろブラックボックスになってますよね。そこも後ほど軽くお話をさせていただければと思っています。

企業活動の中で0.012パーセントしかワークしていない「クリエイティブ」への疑問

私はもともと広告代理店で、クリエイティブのバックグラウンドがありました。今はコンサルティングというフィールドで、「1つのアプローチとして“クリエイティブ”を活用」しています。

今日は広告代理店時代には見えなかった「クリエイターの存在」とか、「クリエイティブはどうアプローチしていくべきか」という話をさせていただきたいと思っています。これは私が広告業界を外から見て気づいたことで、数字から見えたクリエイターの領域について説明させていただきたいと思います。

(スライドを指して)これは、某一部上場企業の売り上げと広告宣伝費の割合のグラフです。某企業の実際の売り上げと広告宣伝費なのですが、見てわかるとおり、売り上げに対して広告宣伝費は3.1パーセントです。では営業費用はというと、売り上げに対して38パーセントです。

営業費用の中で考えると、クリエイターの領域である制作費の割合は、どれぐらいになるでしょうか? 仮に広告費のうちの15パーセントを制作費と設定すると、そこに携わるクリエイターの人たちは、実は企業の活動の中で0.012パーセントしかワークしていないんじゃないか、と読めると思うんです。この数字に衝撃ですよね。「こんだけしか関与してないの!?」って。軽くショックでした。

私はコンサルという場にいて、「クリエイターの能力って、本当に広告宣伝だけでいいのだろうか?」という視点を得ることができましたが、実際問題これだけしか関与できていない。じゃあクリエイティブってどういうことなんだろう?

そんなわけで、自分のキャリアのコアとしてのクリエイティブを、コンサルティングというフィールドで、どう活かしてきたかという話をしたいと思います。

「顧客体験」にフォーカスした新規事業立ち上げ支援

ほとんどの方は(コンサルは)具体的になにをやっているのか、そこはすごく気になるところだと思うんですが、軽くお話ししたいと思います。

アクセンチュアは基本的に“企業変革”が軸にあります。企業のビジネスを良くするために、ビジネスのポイントや課題を見つけ、その企業を効率化、改善、変革へと導いていく。「企業をAからBに変える」というものです。

まずその軸があって、そのために新規事業開発なんかをします。私は今、その変革のための旗振りみたいなものを、アクセンチュアでやっています。中でも私は、とくにこの新規事業開発といった新しいドメインを変革のコアにするために、ブランド戦略をやっています。要は、これまでクリエイティブというフィールドで培った、もともと持っている自分の力を活かしているんです。

やっていることを具体的にいうと、コーポレートブランドというか、あるべきブランドの構想ですね。もちろんブランドクリエイティブの開発もやります。それからデジタルサービス、プロダクト開発、ニューリテールのプロトタイピングなんかもやったりしています。

でも、立ち上げだけをやって「はい、どうぞ」ではなく、我々はこれをXMOと呼んでいるんですけど、「eXperience Management Office(エクスペリエンスマネジメントオフィス)」ですね。コンサルだとPMOと呼ばれる「Project Management Office(プロジェクトマネジメントオフィス)」というものがあって、それのエクスペリエンス版です。

我々はその中でも、エクスペリエンスをどうやってマネージしていくかという視点で、いかに管理してより良く運用していくか、ということもやっています。

業界独特の横文字をわかりやすく変換して、クライアントとの目線を合わせる

アクセンチュアの中でこういったアプローチをしていく中で「どう振る舞ってきたのか」と、みなさんによく聞かれるんです。私は、誰にでもわかってもらうための努力をしていました。

それはどういうことかというと、コンサル会社って最先端のビジネスの潮流から生まれたキーワードが、日々いろいろ流通しているんですけれども、みんなそれを日常的なキーワードとして使う傾向があると感じます。とくに私がアクセンチュアに入った当時は、今言ったエクスペリエンスデザインの「エクスペリエンス」や「デザイン」といったキーワードが存在していました。

これは世の中全体的にもそうでしたし、会社の中もそうでしたし、クライアントの中でも正しく理解されていないかたちでキーワードが流布しているのも散見しました。会社の中でも人それぞれで捉え方が違っていましたし、クライアントの中で認識に差異があったのも事実です。

そのコンサルティングという、ぜんぜん違うフィールドの中で自分をどうやって理解してもらうか。そしてどうすれば自分をこの中で活かせるのか。いろいろ考えた結果、この横文字のキーワードを必ず具体的な日本語、わかりやすい日本語に変換して、みんなのハブになってそれぞれドライブさせていこうと努めました。

アートシンキングとは「新しい切り口をもう一回考えること」である

たぶん広告系の日常業務の中で「〇〇のデザイン」となると、いわゆるルック&フィールですよね。フォントをどうするか、バナーのデザイン、ウェブページのデザイン、グラフィックデザイン……いわゆる“意匠”の話ばかりしてくるんです。でも最近のデザインシンキングとかデザインブームみたいなもので、捉え方の幅がすごく広がってきていて。「デザインを一体どう捉えるのか」と。

デザインには設計という言葉があるよね、と言われますが、「設計」という言葉もけっこうわかりづらいし、いまいち自分ごと化しづらいし、ぱっとしない。「でも“デザイン”シンキングを“人間中心”で考えること」に当てはめると、実はすんなりいくよねって。最近takramの田川(欣哉)さんのTweetを見てハッとしたんです(笑)。

なので、私は会社で見かける横文字の中でもとくにこの「デザイン」という言葉を、「人間中心である」と定義して、みんなのハブとして活動をしていました。あともう1つ、最近はデザインシンキングを超えて、今はアートシンキングとか言われていますけど、「じゃあアートって一体なんだ」ということ。

これについてもいろいろな言葉を考えたんです。例えば絵が飾ってありますよね、そこでアートピースと言われると、部屋がかっこよくなるとか。美術だったらゴッホとかピカソとか、なんだか特別な人しか接触できないものみたいな、そんなイメージがあると思います。

自分なりにいろいろ調べて検証したんですが、佐藤可士和 大先生が「アートは新しい視点をくれるもの」と言っていて。僕はそれ以降、「アートとは新しい切り口や視点を提供してくれるもの」だと捉えるようになりました。

人間の歴史の中で、アートはいろいろな時代性にフィットさせて、その時代に新しい切り口や視点を提示してきた存在でしたよね。なので、よくアートシンキングと言われるのは「新しい切り口をもう一回考えること」なんだと捉えて、それをチーム間で共有すると、みんな次のジャンプができるきっかけになると思っています。

クリエイティブの本来の目的は“人を動かす”こと

じゃあ、「コンサル会社ではクリエイティブってどういう存在なのか」といろいろ言われるんですが、その前にクリエイティブをどう定義するのかというのが大事だと思っていて。

広告代理店だと「手段」としての話が多いと感じています。「あのクリエイティブ」と言ったら、「あのビジュアルデザイン」「あの映像」とか、手段の話にフォーカスしがちだなと。そうなると、クリエイティブの捉え方がすごく縮小してしまう気がするんです。

一方、コンサルティングという(広告代理店とは)違うフィールドだと、そういう手段をそもそも作らないということもあり、信じるものがまったく違う人たちに、どうやって「クリエイティブ」を理解してもらうかというのが大切になってきます。

そこで私は「クリエイティブとは人を動かすこと」という定義をしました。よく「人を動かすクリエイティブ」と言うじゃないですか。そうするとクリエイティブは手段になってしまいますよね。でも、本来の目的は「人を動かすこと」なんだと。

ある著名なクリエイティブディレクターのインタビューですが、インタビュー内におけるクリエイティブという言葉を「人を動かすこと」と捉えて検証していった結果、意外とフィットするなと思って。従来のクリエイティブを手段だけに限定するところから、人を動かすという本来の目的に昇華させることで、捉え方の幅を持たせることができると思います。

広告代理店とコンサルでは根本的な宗教が違う

いろいろ話しましたが、自分のコアはクリエイティブなのですが、クリエイティブを「人を動かすこと」だと定義をすると、根本的な捉え方とアプローチが変わります。「人を動かすにはどうしたらいいんだ」という視点で物事を考えるようになる。

とくにコンサル会社というまったく違うフィールドで活動する上で、手段に縛られていた自分をすごく解放してくれるというか。正直、コンサル会社は広告は作らないんです。「コンサル会社でクリエイティブ」っていう字面だけで想像すると、「コンサル会社が作る広告ってなんだよ」と捉えがちなんですけど、コンサル会社では「どうやって人を動かすか」に視点が置き変わるんです。

コンサル会社でフェイシングする人々は、基本的に広告宣伝部ではなく、いわゆる企業の役員なんですよね。CxOなんです。そういった人たちには、手段として話すのではなく、目的としてアプローチすることが求められると思うんです。

たとえば、本当に響く言葉、ビジュアル、人を動かすものを実際の中期経営計画とかの中に盛り込んでいくと、彼らは「次のビジネスはこうやって変えていこう」みたいな感じで実際に人から動く。そういったところから、私たちはクリエイティブとは人を動かすものだ、というかたちで捉えております。

今はこういうカジュアルなお喋り形式なので、実際のコンサルの現場感がぜんぜん伝わってきませんし、今日の見た目もカジュアルなので、その辺のおっさんと思われてしまうんですけど、コンサルはまったく宗教が違う場所だと思ってもらったほうがいいかなと思います。

広告代理店が生魚を食べる国だったら、コンサルは生魚を一切食べないくらい、ぜんぜん違うんです。そうした前提があり、かつ立場も違います。ピュアなコンサルのひとたちがもともと見ている目的も違う。

YouTube・Instagramのようにピボットすればチャンスの幅が広がる

そういった中で私は揉みに揉まれて、アクセンチュアに入ってそろそろ4年になりますが、自分の中で変わったことがいくつかあります。

1つが視点と視座です。先ほどの営業費ですね。ある企業の営業費が1千何百億円ある中で、広告宣伝費がそのうちの数パーセントです、と。僕が広告代理店にいたときは、その数パーセントのことばかり気にしていました。

でもコンサルティング会社に入った瞬間、営業費全体、売り上げ全体という視点で、その企業をどうやって変えていこうか、その企業の中の人をどうやって動かしていこうかという視点に傾きました。とにかく、視座がまったく変わってしまった。

もう1つが、自分自身を事業と捉えようと思ったことです。これはうまく言葉にしづらいんですけど、自分が広告代理店にいてクリエイティブが大好きで、イケてる映像を作りたいと思っていたときは、半ば趣味に近いものでした。

当時の自分を思い返すと「今こういうものを作っている自分はイケてる」と、実は自分のライフスタイルそのものに照らし合わせたりして、クリエイティブがものすごく狭いものになってしまっていた。人を動かすことではなく、その手段にすごく執着してしまっていたな、と。

改めて自分を事業として見ると、実は可能性が広がるんじゃないかと思った。(スライドを指して)これは「ピボット」と書いてあるんですけど、みなさんバスケはやったことありますよね? 軸足を持っていろんな方向転換をして、シュートを決める。

そんなふうに、自分自身もピボットしていかなきゃいけないよな、と思った。そのクリエイティブを軸に、ピボットしていこうと。事例として挙げたいのが、Instagramです。みなさんも使っていると思うんですけど、InstagramはもともとBurbnという、現在地や写真を共有するソーシャルチェックアプリだったんですよね。

彼らはそこに執着していたんですけど、「サービスとしてうまくいかないな」となった。そこで「Burbnのコアは一体どこか」と考えたとき、「それは写真を共有することだ」となり、結果的にInstagramにピボットしていったんです。

今のスタートアップも、コアは残しつつ、より自分自身が変えていける場所にみんなピボットしている。YouTubeもそうです。「ピボット スタートアップ」で調べると、バーっと一覧が出てきます。それぐらい実はみんな、自身のコアを残しながらピボットしていっているんですね。

ということで、自分のコアが決まっていれば、いくらでもピボットできると思っています。なのにみんな手段に執着してしまう。でも実は、ピボットした先にはめちゃくちゃオポチュニティがあり、チャンスがあると思うんですよね。

手段にこだわりすぎて「自分という事業」を狭めるのはもったいない

僕は広告代理店にいたときから思っていたんですけど、クリエイティブを狭く定義して、決めつけていないか。僕はこれを今のクリエイター、とくに広告クリエイターに気づいてほしいなと思っていて。これを決めつけるのは、自分という事業そのもののポートフォリオをすごく狭めると思っているんです。

例えば「タピオカしか売っていません」みたいなお店があったとして、タピオカブームが終わったらそれはなくなってしまいますよね。でも、タピオカじゃなくて「人の喉の潤いをキープするところ」が軸であれば、いろいろオポチュニティが広がるじゃないですか。

タピオカという手段にこだわりすぎてしまっているが故に、自分という事業のポートフォリオをみんな狭めているなと、すごく感じています。

私は、クリエイターは人を動かす力を持っていると思うので、もっと自分の可能性を信じてほしいです。クリエイティブは人を動かすことで、さらにビジネス、そして世の中を変革するエンジンになると思っています。

今はビジネストランスフォーメーションとよく言われていますけれども、私はその変革のエンジンになるものは、クリエイティビティだと思っているんです。そういった意味でも自分を狭めず、いろんなことにチャレンジしていただきたいと思っています。

すみません、(まとめの言葉みたいで)なんだかもう終わっちゃいそうなんですけど(笑)。一応、ありがとうございました。ということで、弊社はいっぱい人を募集しているので、興味がありましたら連絡ください(笑)。待ってます(笑)。

(会場拍手)