鳥には「火による追い込み猟」をする習性がある

鳥がとても賢いことは、よく知られています。道具を使う鳥や、パズルを解く鳥などについて聞いたことはあるでしょう。

ところで、オーストラリアには、桁違いのレベルの鳥がいます。なんと、“意図的に放火する鳥”がいるというのです。火を放つ生き物は、人間以外ではこれらの鳥だけです。ほとんどの生き物は、火に近づきません。炎に対する通常の本能の反応は、何をおいてもまず逃げることです。

ところが、いくつかの種の猛禽は、まったく逆の反応を起こします。山火事があると、まっしぐらに火をめがけて飛んでいくのです。パニックを起こして火から逃れる小動物を、容易に捕えることができるためで、火傷にさえ注意すれば、火事場は手軽なエサ場です。

この信じがたい習性は“fire foraging(火による採餌)”と呼ばれ、世界各地の猛禽類に見られています。しかし、オーストラリアの熱帯サバンナには、一歩進んだ戦略を持つ鳥がいるようです。

この鳥は、燃え盛る火に飛び込むと伝えられる「ファイアホーク」として知られており、くちばしや鉤爪で燃える小枝を運び、乾燥した茂みに落として、何もないところに火を起こすというのです。

「空飛ぶ放火犯」の正体とは?

この「空飛ぶ放火犯」については、ほとんど何もわかっておらず、写真でも動画でも撮影されたことがありません。しかし、その話は何世代も前から伝えられてきました。

さて、何千年、何百年もの間、世界中いたるところで、人類の文化は土着の野生動物と共生してきました。このような文化は、「先住民族の生態学的知識」の貴重な情報源となり得ます。

そこで2017年、このローカルな知を採集するための研究が発足しました。他の鳥の可能性も残してはいますが、多くの伝承は、「トビ」「フエナキトビ」「チャイロハヤブサ」の3種を「放火犯」として示しています。

研究チームは、これらの鳥が火を放つということを、12の異なるアボリジニーの部族が、経験から直接得た知識として伝えていることを突き止めました。これらの鳥は、一部の宗教的な儀式に登場することもありました。

またある伝承は、時を遥かに遡り、古代のアボリジニーの人々が、なんとこれらの鳥を見て、火による追い込み猟を学んだことを示唆していました。

地元の消防士も見た、放火の瞬間

この研究では、アボリジニー以外の人々からも目撃談が集められました。その中には、現代の消防士の談話も含まれていました。容易に想像がつくと思いますが、炎を消す職業に就く人にとって、放火する鳥の存在は大いなる脅威です。そのため、地元の消防士たちは、たびたびこれらの鳥を見張っていました。

一人の消防士は、7羽のタカが、それぞれ別の火事を起こし、その鎮火に午後をまるまる費やした事例を報告してくれました。他の消防士は、鳥の一群が火を放つのを目撃しました。この火は激しく延焼し、地元の広大な牧場に被害を与えたのです。

この研究では、西オーストラリア州、クイーンズランド州、ノーザンテリトリーなど、総じて何千平方キロメートルにも及ぶ地域で、火を放つ鳥の伝承の存在が確認されました。動画映像こそありませんが、これはまさに、包括的な民族鳥類学の証拠であるといえます。

つまり、鳥についての文化的な知識なのです。

知を導くのは、人々が自然を観察する力

とはいえこの習性は、科学的な手法で観察ないし記録されたことはないため、研究途上であると言えます。研究者たちは、さらに採話と現場実験を続け、地元のレンジャーに道具を使ってもらって、まさに放火行為に及んでいる鳥の捕獲を計画しています。

これにより、鳥による放火の頻度が判明することや、この習性への最善の対処法が消防士たちによって講じられることを、願ってやみません。また、鳥たちが放火を学習した、そもそもの経緯が判明するかもしれません。

私たちが現在「ファイアーホーク」について知っていることはすべて、自然を注意深く観察している人々から得られています。驚異に満ちた鳥たちについての驚くべき観察は、このような人々の飽くなき探求心によって、なされてきたのです。