お金をかけずにユーザーを集める「一本釣りの戦い」

河上純二氏(以下、河上):Bebotが立ち上がって、お金を集めて、いろんな国の人たちが集まって始まっていって、何回か苦しいところもあって、4年乗り越えてきて、5期目に入りますと。前に何度かお話を聞いたときに、俺がすごく印象に残っているのは、非常にプロダクトの細部にこだわりを持って作ってるお話を聞かされた思い出があるんだよ。

それがすごく女性的な視点だし、でも俺も大事なことだなと思って聞いた思い出があるんだけど、そういう良い話をちょっと聞いてみようかな。

綱川明美氏(以下、綱川):いい話!? えー。

河上:でも、そこはすごい自信を持ってこだわってきたじゃない。俺が聞いてる時はそんな感じだったんだけど。最初どういうふうに作ってリリースして、その立ち上がりからサービスが自分なりに自信を持って良くなっていくところって、どんな感じでやってきたの。

綱川:遡ると、一番最初にリリースしたサービスって、チャットのサービスじゃないんですよ。ぜんぜん違うサービスで。

河上:そうだったね。

綱川:地元の人とどうやったら仲良くなれるかな、というところから始まっているので。

河上:ガイド的なサービスだったのね。

綱川:そうです、そうです。トリップアドバイザーのアナログ版に、ちょっとガイドサービスがついたようなものを立ち上げて。ただ、立ち上げてすぐに一番最初の壁に当たって。あれ、サイト作ったけど、どうやってユーザを集めるんだろうっていう(笑)。ありがちな。

その時にできることを全部やろうと思っていてやったのが、渋谷の交差点とか六本木の駅の改札でカード配ったり。あとTinderも妹のプロフィール写真を使って、全員右にスワイプ。その時は(Tinderは)外国人ばっかり使ってたから、外国人以外ほとんど使ってないじゃないかというようなタイミングだったので、これは全員右にスワイプして、返事が来たら自分のサイトに誘導するようなことをやったんですよ。

河上:なるほどね。

磯村尚美氏(以下、磯村):右(にスワイプ)がイエスなんですね。なるほど。

河上:イエスだよ。

綱川:Airbnbの無料版みたいな、地元の人のソファーに無料で泊まろうという、カウチサーフィンというサービスがあって、そこにはいつ誰がどのタイミングで日本に来るか全部書いてあったので、毎日、日本に来るって書いてある人、1,500人ぐらいにぶわーって上から順番にメッセージ……。

河上:ある意味、一本釣りの戦いだよね(笑)。

綱川:もう本当に(笑)。

河上:そうだよね。チェックして、一本釣りだよね。すごいね。

ユーザーインタビューでつかんだ、サービスの方向性

綱川:それをやってたんですよ。まずはやっぱり、お金を使わずに人を集めないとダメだったから。それをやったら、今度は集まってきた人をどうにかしないといけないじゃないですか。ちゃんとサービス使ってもらうためのヒントが必要だったから、ユーザーインタビューをたくさんやったんですよ。毎日知らない人というか、ユーザーさん5、6人ぐらいと遊んで。

どうやったらもっと使ってくれるかとか、今何で困っているか。そういう話を聞かせてもらったんですね。何ヶ月だったかな、けっこう長い間ずっとそれをやっていて。そしたら、途中でだんだんパターンが見えてきて。傾向があったんですよ。みんな悩んでいるポイントがすごく一緒で、お願いごとを頼まれることが多かったから、コンシェルジュの機能をつけたらいいかなと思って。

河上:なるほどね。

綱川:そのサイトにコンシェルジュの機能をつけて、もっとユーザーインタビューしたら、今度は、「コンシェルジュはいいんだけど、明後日手伝ってくれてもぜんぜん意味がなくて、今すぐやってほしい」と。そういうわがままなリクエストが多かったので。

「あ、じゃあチャットにしようかな」と思って。「チャット、いいかも」と思ったんだけれども、今度はチャットって作るのがシンプルに見えて、実は難しいんです。LINEみたいなサービスもそうなんですけど。日々何も考えずに使ってると、すいすい動くからシンプルな感じがするんですけれども……。

あのとき、4年前の今ごろ、LINEみたいなチャットサービスは作れないだろうなと思ったので。あるものを使おうと思って、自分の電話番号をばらまいたんですよ(笑)。

河上:嘘!? 

綱川:SMSだったらタダでしょ。iMessage。

河上:(笑)。

綱川:インターンとかアルバイトの子とかに持たせてばらまいたら、大量にチャットが来て。「これはもう自動化しないと、夜寝られないぞ」と思って。

磯村:そりゃそうだ(笑)。

綱川:中国語とかできないし。それで、自動のチャットサービスになったんです。

河上:なるほどね。

チャットボットは、どうすれば人間らしくスムーズな会話ができるか?

磯村:でも、それまでの期間、けっこう大変だったんじゃないですか? 

綱川:2ヶ月ぐらいかな。はい。

河上:そうだよね。俺、本当にそのチャットのインターフェースへのこだわり方が、すごく細かいことをいろいろ聞かされたのよ。女の子たちの意見というか。

それ、あの当時はそんなに腹落ちしてなかったんだけど、今考えると本当にプロダクトの細部にこだわっていくって、めちゃめちゃ大事なこと。わかってくると、その行間とか、文字、フォントのサイズとか、アイコンの在り方みたいなの、すごく細かいのよ。

それを空港でチェックしたり確認したり聞いたりしながら、すごく細かい微調整をかけていってたから、「他にやることあるんじゃないかな?」って思ったことがあるの。

綱川:あれが、実は一番大事。

河上:それがめちゃめちゃ大変な、大切なんだよね。そうだよね。

綱川:一番大事でした。最初に何をやろうとか、どういうふうに改造していこうという。自動のチャットになってからの後のフェーズだと一番大事だったのって、フォントの調整とか、本当に細かい……。ボタンの数とか。

チャットボットの差別化の要因って、正直出すのが難しいんですね。私たちが一番こだわっているポイントは、人間らしく会話をスムーズに行うために何ができるかなと。

実際に使われたチャットの履歴や傾向を見ながら、中身をどんどん最適化していったし、今もやっているプロセスなんですけれども、具体的には、例えば、ロボットのアイコンから人間の顔のアイコン。これもまたうちの妹の写真を使っちゃったんですけれども(笑)。

返信スピードが速すぎると、ロボットっぽくて気持ち悪くなる

河上:妹、よく出てくる! 

綱川:そう。そう。身近にいるから(笑)。アニメっぽい顔しているから、ちょうど……。人気なんですよ。

磯村:かわいいんだ。

河上:嫌われない、感じのいい、妹のフェイスなの? (笑)。

綱川:そうなんです。アニメっぽい感じなので。使ったら、7パーセントぐらい反応……。

河上:7パーも上がったの!? (笑)。

綱川:会話継続率7パーセントアップ。

河上:妹、最高だね。

綱川:そう。ボタンの数も3つから2つに減らして。ちょっと何パーセントか忘れちゃったんですけれども、2倍~3倍ぐらい、その後の会話継続率が上がっていたりですとか。

河上:なるほど。おもしろい。

綱川:あと返信のスピードも、速過ぎちゃだめなんですね。ロボットっぽくて気持ち悪いから。

河上:すぐレスポンス返ってくると、機械みたいだと。

綱川:だからわざと『……』って。今、入力中ですっていうのを出して、その後に回答を出すことによって、継続率が変わってきますし。

文字の数、それから何行を回答に入れていくか。それによってもぜんぜん違ってくるので。すごく奥が深いんですけれども、いろんな会社さん見ていると、やっぱり普通の人は、「他にやることあるだろ」って思うから(笑)。

河上:思うんだよ。おじさん的には思うわけさ(笑)。

綱川:そう。思うから、やっぱり離脱してしまって、なかなか導入した効果が見られないというのは、他社だとよく聞く現象ではありますね。

河上:なるほどね。

ユーザーの質問をどう解釈するかという難しさ

綱川:最近だと、おもしろいなと個人的に思っているのは、回答の書き方は置いておいて、受け取った質問の理解の仕方というところに、私は個人的にすごく興味を持っていて。

河上:受け取った理解。こっち側が? 利用者側が? 

綱川:質問を利用者から受け取ったときに、どう解釈するかって、いろんな解釈の方法があるんですね。一番簡単な例を挙げると、「東京へのベストルート、教えてください」っていうのを、「空港・東京間のルートを教えてください」って(意味で)、何も考えないで回答をすると……。はい。(磯村氏をさす)

河上:どうぞ。

磯村:「電車か、タクシーですか?」みたいな聞き方をすると思います。

綱川:そうなんですよ。普通の人だと、「東京までの行き方を教えてください」って言ったら、「電車?」とか「タクシー?」って回答するじゃないですか。

磯村:東京駅と思って答えているってことですね。

綱川:じゃないですか。間違ってないんですけど、そうすると「じゃあ、何線ですか?」とか「駅はどこですか?」「いくら?」「次は何時に来ますか?」「他に使える交通手段はありませんか?」って会話がどんどん続いていくんですね。

でも、こういうふうにどんどん続いていく会話を機械でやっていくと、途中で間違えてしまう可能性がすごく高いんですよ。あと、やりとりの回数が長ければ長いほど、スムーズじゃないから離脱がすごく増えてしまうんですね。

私たちは、「東京への行き方を教えてください」って来たら、今度はその会話の履歴をどんどん見ていって、その後に何を聞いているかを前後5つぐらい見ていくんですね。

そうすると、やっぱり値段が出ていたりだとか、タイムテーブルとか、他の手段とか、駅の場所とか、決済手段とかいろいろ出てきているので。今度「東京への行き方は?」と言われたときの回答として、3行ぐらいで今の情報を全部ぎゅっと凝縮して。

不要と思われるもの、必要だけどそこまで重要ではないと思われるものは、ボタン化して隅のほうにおいておくと。そうすると、今度はまた会話がスムーズに流れていくので、継続率がどんどん上がっていくと。

河上:なるほどね。

綱川:マニアックな世界なんです。

河上:すごいでしょ。チューニングが。

磯村:すごい。でも企業秘密をここで言って大丈夫なの? 

綱川:バッチリです。絶対。世界中でばらまいてるんで。

「Bebot」の強みは会話のデザイン

河上:4年間で、それをどんどんブラッシュアップさせてるわけでしょ。ここはたぶん、相当自信あるよね。

綱川:そうですね。はい。

河上:他に対しても相当自信あるところだよね。

綱川:はい。国際会議でも一番呼んでもらうのが多い理由が、会話のデザインのところなんですね。

河上:うーん。すばらしいね。それ、すべて、基本的にはAIで噛ませてやってるわけだよね。

綱川:AIの部分とそうじゃない部分があって、一番最初のロジックを組むのはやはり人間なんですね。そのあとをどんどん自動化をしていくんですけれども。AIといっても受信と送信と両方あって。私たちのところだと、受け取った言語、ユーザーさんから、旅行者から受け取った言語を正しく理解してマッチングさせるところがAIになっています。

河上:なるほどね。そのフェーズを抜けて、次に俺がすごくすばらしい、すごいなって思ったところはやっぱりアライアンス、連携、サービスの連携のところがすごく……。ニュースとか外側から見てるから、かなり大きいところとガンガンと決まっていくフェーズに入っていって。

例えば空港だったりとか、ホテル大手だったりとか。別に言ってもいいんだよね。鉄道とかバシバシ決まっていくフェーズに入っていくのを見て、「おお、すごい。もうステージが変わったな」とすごく感じる時期があって。

そこってやっぱりなんだろうな。大変だったところもあるんだろうけど、あれだけスムーズに、ああいう大手を決めていくことができたところ。その辺をちょっと聞いてみたいと思っているんだけど。それは「私の力です」みたいな、そんな感じ? 

綱川:ラッキーだった(笑)。

河上:ラッキーだった。大変だったでしょ。ある意味では。

大企業・空港・駅・京都市などの顧客を次々に獲得

綱川:いや、大変は大変だったんですけれども、「すごくラッキーだった」というのが、やっぱり正直な回答だなと思っていて。例えば一番はじめのお客様は、もう友達の友達の友達ぐらい(笑)。実質他人ですね。

河上:知り合い? (笑)。まぁ、半分他人だね。

綱川:半分他人。そういうところからご紹介いただいて、その後いろんなイベントに行ったときにたまたま知り合った方、会社さんが応援してくださって、入れてくれて。そこがたまたま大手だったので、その後、今度空港からたまたまお問い合わせをいただいて。でも、空港って1年目のスタートアップと仕事しないじゃないですか。

磯村:まぁ、そうですよね。

河上:そりゃあな。

綱川:「絶対無理でしょ」と思いながら、お話をしてたんですけれども、意外にすいすい決まってしまって。その後、今度空港が立ち上がったあとは、駅ですね。それもたまたま。東京駅とかやらないじゃないですか。だって、敷居高いじゃないですか。

河上:そう思うね。

綱川:たまたま、本当に決まってしまって。そしたら、今度は京都市さんからお問い合わせいただいて。絶対やらないじゃないですか。だって、渋谷のインターネット屋さんとか、怪しさ満点なので。

河上:ははは(笑)。

綱川:そしたら、やることになって。そしたらその後は、そうですね。国のお仕事もやらせていただくことになったりで。もともと予定していなかった業種やセクターのお客様と、お仕事をさせていただくことに結論としてはなったんですけれども。

どうやってやったかとかって、あまりなくって。本当、たまたま見つけていただいたとか、お問い合わせいただいたですとか……。ご紹介。

磯村:すごい。

業務効率化よりも大事にしているのはホスピタリティ

綱川:ただ、どの企業さんもたぶん私たちが真面目に、すごく集中してこれだけ作っているというのは理解してくださっているかなと思っていて。

河上:そうだね。

綱川:なぜなら、コンセプトがぜんぜん他社さんと違うので。私たちは自動化とか多言語対応というのは別にそんなに興味がなくって。一番興味があるのは、やっぱり穴場ですとか。友達がいたら、地元の人と友達だったらできたかもしれない体験っていうのが。

河上:インフォメーション内容っていうことか。

綱川:そうなんです。だから、安心感だとか、特別感だとか、ホスピタリティ全体に興味がある。

河上:大事だな。

綱川:それ、あんまり、業務効率化って、もちろん営業していく上で一度は言うんですけれども。

河上:大事だよね。それはもちろん、言うけどね。

綱川:言うんですけれども、そこにはそんなに興味がなくて。上がってくるデータとか、何をしたらもっと喜んでくれて、何をするとネガティブに思われてしまってという、そっちのほうに興味がありますね。

河上:なるほどね。もともと綱川さんが最初にこのサービスを考え出してきたきっかけもそこにあったからね。

綱川:そうなんです。

河上:そこを守り抜いてるっちゃ、守り抜いてるんだよね。たぶんね。

綱川:普通に考えたら、ログをずっと解析して、「何をやったらもっと『Thank you』言ってもらえるかな」って考えで、売り上げ上がんないんで(笑)。

河上:だから最終的にはそこ勝負というか、そこが一番大事になってくるじゃない。やっぱりおもてなしだったりとか、本当にたどり着けないような情報にどうたどり着けるかが勝負になるじゃない。だから、それはすばらしいね。実直にそこを貫き通してたのはね。ガンガン飲んでよ。

綱川:いっぱい飲みます。

河上:見てる人も飲むのに期待しているからね。