前セッションの質疑応答「AIの脅威」について

若林恵氏(以下、若林):(1つ前のセッション「ほんとうに欲しい会社はなにか?」で)今のAIの質問をしたのって、あれだよね。いい質問するなあ。

質問する時に1つだけ。「貴重なお話をありがとうございます」というのを、やめてもらっていいですかね。言われる側はけっこう微妙な気持ちになるんですよ。わかる? 「嫌味言われてるのかな……」みたいな気になるんですよ。いや、別に嫌味じゃないですよね。嫌味だった? そうじゃないですよね。

いいんですけど、なんとなく「そんなに貴重だったかな」みたいな感じがあったりするんです。いいんですよ。AIの話、AIの話(笑)。せっかくなんで、僕の見解を述べさせていただいていいですか。今、興味ないという顔をしたね。じゃあいいや。嘘(笑)。

AIの脅威が人の仕事を奪っていくみたいな話があるじゃん。その話と同時に、みんなが理解しておかなきゃいけないこととして、今の日本においてはマジで労働者不足だという話がセットであるわけ。

なので、機械ができる事務作業とかは機械にやらせないと、もう至るところで本当に人手が足りなくなるというのは、実はそっちの方が喫緊の課題だったりするわけなんだよ。

例えば、お役所の業務でその実験をやったところがどこかにあるらしい。実験というか調査なのかな。役所の仕事って、全部機械化すると業務は何パーセント減らせると思います? 60から70、90パーセントも減らせるというわけ。そうすると、じゃあ役人の数も10分の1でいいじゃないかみたいな話になるんだけど、たぶんそうじゃないわけですよ。

要するに世の中って、いろんな人がいろんなことで困っているわけじゃない? しかも困った内容というのが多様化してるわけだから、公務員の仕事というか、行政の仕事というのは、それに対してどれだけきめ細かく応対できるかということになってきてるわけですよ。

今、例えばお役所とかで起きてることって、みんなが「行政改革だ」と言って、「公務員を減らせ」みたいな話をずっとしてきたわけね。その中でもたぶん、人員的に1番多い時より半分になっているわけですよ。けれども、たぶん仕事の内容というのはすごい増えてるわけですよ。

喫緊の問題は、AIによる仕事不足よりも「人手不足」

若林:わかります? そうなった時に、9割減って業務を小さくできるとなったらいいんだけど、そうではなくて、たぶん足りていないところに、書類作業をしている人たちに違う仕事に振り当てていっても、たぶんまだ人手が足りないみたいな話があり得るんですよ。

本当にそうなって、さらにAIとかでもっと業務効率化ができるみたいな話になって初めて、「みんな暇になったな」みたいなことが出てくるのかもしれないわけです。

だから僕の感じだと、今はぜんぜん議論してる段階じゃないという話ね。世界的に見ると、人口はどんどん増えてるわけですよ。でしょ? その中で行政の仕事……要するに、パブリックセクターがやらなきゃいけない、いわゆる公的な社会を回していくための公的な機能みたいなものを、どうやるのかはけっこう重大な問題になってきています。

そういう中でたぶん、せっかく公務員がいるのにほとんどが事務仕事をやっている。知ってる? 最近、行政の中で大人気のロボットがあるんだって。紙の書類をPDFにする機械がめちゃくちゃ売れてると聞いたんだけど、アホかって話だよね。

それとか、銀行とかはいわゆる料金を払うための帳票ってあるじゃない。ああいうものが例えば、自治体だったりガスだったり水道だったりでまちまちで、レイアウトも違う。だけど、銀行はそれでデジタル化しなきゃいけないわけじゃない。なので、何を作ったかというと、画像認識でそれを全部読み込める機械というものを作った。

全支店に入れてるんだよ。無駄じゃん。それだったら「全部オンライン化しちゃえよ」という話。キャッシュレスとかっていう話しは、そういう話としてあるということです。

僕らは結局、世の中が複雑になって仕事はいっぱい増えてるのに、無駄な書類の処理をやっているという状況にあるので、そっちをちゃんと動かそうぜという話だな。貴重な話だったろ?(笑)。まあどうでもいいや。最後のセッションね、がんばっていきますよ。

今の篠田さんのモデレーションはすごくなかった? きちっとしてるだろ。これと対極の、俺のグダグダのモデレーションというのが、いかにすごいかを、みなさんに最後にバチンと披露してやろうかなと。

3人組ヒップホップグループ「Dos Monos」のTAITAN MAN氏が登壇

若林:次は「アイデンティティ」というテーマです。じゃあ、お迎えしましょう。陳暁夏代さんと、Dos MonosのTAITAN MANさんでございます。拍手。

(会場拍手)

どうも、お疲れさまです(笑)。ういっす。

陳暁夏代氏(以下、陳暁):こんにちは。

TAITAN MAN氏(以下、TAITAN):こんにちは。初めまして、Dos MonosのTAITANといいます。

若林:はい、拍手、拍手。

(会場拍手)

陳暁さんね。

陳暁:陳暁夏代です。よろしくお願いします。

若林:はい、よろしくお願いします。ここのセッションとしては、アイデンティティという話なんですよね。

TAITAN:いやいや(笑)。もう丸投げっすか(笑)。

若林:いやいやいや。

陳暁:さっきすごいですね。若林さん、一人で延々としゃべって……。

TAITAN:スタンドアップコメディでした(笑)。番組持てますよ。

陳暁:はい。もう我々は出てこなくていいんじゃないかと、そこで話してましたよ(笑)。

若林:いやいや、何を言ってるんですか(笑)。ほら、俺のモデレーションの腕を見せるとこなんで。何の話をしようと言ってたんだっけ。忘れちゃうんだ。

あ、そうそう。アイデンティティの話だろ。さっきから、僕は主観と客観みたいな話を、何度か持ち出してたりします。ちなみに「Dos Monos」って聞いたことあるという方はいらっしゃいます?

(会場挙手)

TAITAN:マジでマイナーなグループなので、一応ご説明すると、3人組のヒップホップグループがあってその中の1人のラッパーです。

若林:Dos Monosというのは何だっけ。スペイン語で猿という意味だっけ……。

TAITAN:「2匹の猿」という意味です。日本人3人ですけど。日本のレーベルとかでいきなり契約するんじゃなくて、まずはアメリカのレーベルと最初に契約して、そこからなんとなく領域を広めていったりしたみたいなグループです。

若林:めっちゃかっこいいですよ。

TAITAN:ぜひ、聞いてください。

若林:僕はすごくファンでございますよ。Dos Monosはけっこうおもしろいグループで、すごくひねくれた人たちなんですよ。でしょ?

TAITAN:もうひねくれすぎてます(笑)。相手が言ったことに、どう違うことを言うかしか(考えていない)。3人の中ではもう会話が成立しないくらい。終わってますよ。

若林:あはは(笑)。俺的にも、ある種の懐かしさがある。俺もそういう若者だったので懐かしさがありつつ、やっぱりそれがいいなと思ってるわけ。ここから始めようと思います。

“自己表現イコール本人の思想”という構図に違和感がある

若林:さっきも、もしかしたら話の中であったかもしれないんだけど、要するにアイデンティティという話で言うと、自分がラップしてる言葉とか、ある種の自己表現をやっているみたいな話が、“イコール本人である”という前提ってあるじゃない。

TAITAN:はい。

若林:「それってなんやねん」という話をしたいなと思っています。Dos Monosはそこに微妙なおもしろい“ひだ”があるというか、おもしろい距離感があると僕は見てる。

TAITAN:そうですね。僕がアーティスト……アーティストというのも、背負いきれないものがあったりします。ラッパーとして、何かしらリリック、歌詞というものにしたためて世の中に流通させる言葉というものが、ある種、攻撃的なことを言ってたりもするわけですよ。中指を立てて、「オラ」みたいなことを言っているんです。

若林:あはは(笑)。

TAITAN:そのテキストとかワードを抜き取られて、それがイコール僕、「飯塚政博という人間の全体である」みたいな言われ方をすることに対しては、すごくノイジーだなという感じですね。

若林:ね。つまりさっきも、雑誌を作るとかテレビ番組を作るみたいな話があって、それがイコール表現者というか、本人であるみたいなことって、要するにどんどんどんどん近づいてきちゃってるというか。

前提として「それお前じゃん」みたいなことに、なっていく感じはしている。それが俺も微妙だなと思うところがある。

TAITAN:いや、完全にそうです。だから僕らは、いわゆるコミュニティとかシーンとか、属性みたいなものに対して、やっぱり「うっ」て思う感覚? けっこうみんな本当はあると思うんです。殊更、そこに対して、拒否の姿勢を示したいと思っているグループだったりするんですね。

だから、リリックの中でも一見意味が通っているけれど、なるべくナンセンスでやるということのほうが、僕らの歌詞の中では価値が高いというようなことを意識してたりしますね。

今の世の中は“飲み込みやすいタグ”を過剰に求めすぎている

若林:陳暁さんはそのコンテキストで何かあります?

陳暁:みなさん、大丈夫ですか。付いてこれてますか?(笑)。

若林:あれ? 大丈夫だよね? 大丈夫、大丈夫。

陳暁:アイデンティティって、我々が話すのも難しいテーマではあるんですよね。さっき楽屋で打ち合わせしてて、「アイデンティティがテーマだけど、なんなんだろうね」という話をしてたんです。ちょっと元をたどると、最近……。

若林:こういうのが、本当はちゃんとしたモデレーターの仕事です。俺は基本的に放棄してます。

陳暁:代わりましょうか?(笑)。

若林:大丈夫、大丈夫。大丈夫です。

陳暁:大丈夫ですか?(笑)。最近、私もそうで、例えば仕事の場合に相手方にお会いしても、生い立ちだったりというところから質問されるんですね。私も仕事の自己紹介で、「こういうサービスをしてます」とかだけ話せばいいものを、生まれとか、どこで育ったかとか……名前が陳暁だからみなさん気になるじゃないですか。

なので、みんなそんなにその人のアイデンティティ、イコール生い立ちだったりとかバックストーリーというものを求める世の中になったというのが、すごくトレンドであり不思議です。その話につながって、TAITANさん?(笑)。

TAITAN:はい。

陳暁:TAITANさんが書く歌詞も、現象としてリリックをしたためているのに、彼の思想だと思われるという話をしていました。すごく通じることがあるなという話を(楽屋で)していたんですよ。

TAITAN:はい。そうでしたね。

若林:ちなみにそうなってるのって、なんでだと思う?

TAITAN:飲み込みやすいものを、みんな求めすぎというか。僕はさっき、楽屋でも話したように、リスナーがそういうものを過剰に求めてしまう傾向にあるのかなと思ったりはしますね。要は「タグが欲しすぎ問題」ってあると思うんですよ。

僕らは、戦略的にやった部分も多少あったりするからなんとも言えないですけど、やっぱり最初に話題にしてもらったのは、「日本じゃなくてアメリカのレーベルと初めて契約しました」というところ。

コンテンツじゃなくて、“側”の話。インフォメーションのところに、いろんなカルチャーのメディアさんとかがやっぱり食いついてくれた。でもそればっかりになっちゃうと、窮屈になってくるなというのは思ったりしますね。