なぜ日本人はセルフブランディングをしていないのか?

松永 エリック・匡史氏:みなさん、こんにちは。エリック・松永でございます。僕はこう見えても、大学の教授なんです。今、青山学院大学の地球社会共生学部の教授をやっております。

今回はいろいろなキャリアの話ですね。そのためにここへ来ているのですが、僕は変わったキャリアを持っております。実は、すんなりと学校の先生になれたわけではありません。

直近まで、実は20年間もの間、外資系コンサルティング会社の経営コンサルサントとして、いわゆるお客様である企業のトップ向けにコンサルティングをする仕事をバリバリしていました。

もう少し変わった話をしますと、そのさらに前である中学3年生のときにデビューをしております。芸能界でギターをずっと弾いておりました。どんなジャンルをやっていたのかというと、もともと勉強をしていたのはジャズでしたが、ポップスや演歌といったものまで、ありとあらゆるジャンルの音楽をやってきた中で、今に至ります。元ミュージシャンが経営コンサルタントになり、大学教授になったというのが、私の自己紹介になります。

また、セルフブランディングについて。実はこのセルフブランディングについては、よく聞かれるんです。僕はもともとのキャリアが複雑というか、いろいろなキャリアをもっていますから。「どうやって自分をブランドしてきたんですか?」ということをよく聞かれます。

僕は直近、外資系コンサルティングの、外国人がたくさんいるグローバルな環境の中でキャリアを積んできました。一言で言えば、「セルフブランディングとは」という前に、「どうして日本人はセルフブランディングをしていないのか」ということが僕の第一印象です。

セルフブランディングの一番のキーポイントは「人と同じではダメ」

基本的に、日本人ほどセルフブランディングをやっていない人はいません。海外の人はみんな、当たり前にやっているんですね。なぜかというと、自分が商品だからです。そこで転職するときもお金がつくし、キャリアアップのときもいろいろなものがついてくる。僕からすると「あれ? どうしてセルフブランディングしないんだろう」と非常に不思議です。

その中で日本人が一番良くないと思っているのは、ブランディングとは何かといえば、要はみんなと同じではダメなんですね。やっぱり誰かが聞いたときに「おっ、すごいな」となるもの。「なんかおもしろいな」と思ったときに、人は興味をもつんですよ。

セルフブランディングの一番のポイントは何かといえば、「興味を持たせるようなストーリーがあるかないか」なんですね。だからセルフブランディングは、みんなと同じではダメなんですよ。

よく日本人は「この大学に入って、この会社に入るとかっこいい」といったことを考えるかもしれませんが、実はまったくの逆です。そうではないところに行ったほうが、セルフブランディングはしやすいんですね。そうした意味では、実はキャリアパスというものも、セルフブランディングを考えるのであれば、普通の人ではない生き方をしたほうが人は注目をするし、興味をもってくれるのです。

そういった意味で、一つ今申し上げたいことは、セルフブランディングはまず「やって当たり前」だということ。さらにもう一つは、セルフブランディングは「人と同じではダメ」ということがおそらく、一番のキーポイントになってくると思います。

失敗もセルブランディングの重要な要素

セルフブランディングを考えるときに、みなさんが一番に何を考えるのかといえば、そんなに難しいことを考える必要はぜんぜんありません。ストーリーなんですよ。みなさんも小説などを読むと思いますが、読み終わった感想は「感動した」「泣けた」「笑えた」というように、いろいろな感情があると思うんですね。

ですから、みなさんのキャリアにストーリーがあるのかどうかが、実はセルフブランディングの一番のキーポイントになってくるのです。一番大事なのは、今あるキャリアをムダにしないこと。例えば「大学受験に失敗しちゃった」「高校受験に失敗しちゃった」というときに、そのことを隠そうとする方がいるんですが。それは違うんですね。

そうではなくて、例えば「全部落ちちゃった」のなら、「全部落ちちゃった」ということをストーリーにすればいいんですよ。全部落ちちゃった自分から始まって、次があれば、「全部落ちちゃったのに、こんなにすごくなったんだ」というストーリーが出てくるわけですよ。そうすると、その一つのストーリーが、セルフブランディングの「骨」になってくるんですね。

ですから、毎回毎回、やってきたことを否定しないこと。「今回は失敗したから、次でリベンジをしよう」という言い方をしがちですが、それはまったく違います。失敗したらめっけものですよ。最高のストーリーが得られたのであって、「次のステージに行けたとき、復活したときの差がこんなにある」というふうに考えてやることが、非常に重要なことになってくると思います。

ですから、簡単にもう一度言いますが、ストーリーを作ってください。ストーリーを作って、みんなを「おっ」と驚かせましょう。そして今の自分を否定しないこと。すべてを利用して、ストーリーを作っていくことが一番大事だと言えます。

「セルフブランディングの強い人と弱い人」の違い

セルフブランディングというキーワードが、今はまだ、とかく小さな箱で語られがちなんですね。セルフブランディングは、もっと言えば、実は自分の人生の中でのブランディングそのもの。自分が生きていく中で、どうやって死んでいくかというときに、どういったラベルを僕は付けていくんだろう? それがセルフブランディングそのものになってくるわけですよ。

ですから、常にやっぱり「自分はどういうものなのか」を考えることが大事なんですが、もうひとつ、「将来どんなストーリーを自分に作りたいのか」ということがすごく大事。これがあることによって、今あるものがどうやって活かされるのかが、すごくわかりやすくなってきます。

だから、セルフブランディングをやっていく上で一番のコツは何かといえば、最後のゴール、大きなビッグピクチャーをきちんと見据えていくこと。そうすれば、先ほどの話ではありませんが、失敗しようが何しようが、それを修正していけばいいだけなんですね。

よくあるのが、「今」しか見ていなくて、「今」成功した・成功していないということから、ゼロイチ、ゼロイチでやってしまうということ。そうなると、どうしてもそこで終わってしまいます。やっぱりまずは、そのビッグピクチャーをきちんと作っていくこと。その大きなピクチャーに対してのストーリーを常に意識していくことが、非常に重要になってくると思います。

「セルフブランディングの強い人と弱い人」。これはシンプルにいうと、強い弱いという観点がそもそも違うと思っています。セルフブランディングが一番大事なのは、やはり「自分がどのように生きたいか」というストーリーをどう伝えていくかということ。人生そのものがセルフブランディングなんですね。

ですから一言で言えば、たぶん一つだけだと思っているのですが。それは何かというと、「自分の世界をもっているか、人の世界を真似しているか」だけだと思います。要は「人の世界を真似している」というのは、人の価値観。人が「こういうことをやるとかっこいいよ」「こういうことをやるとかっこ悪いよ」と思っているものを頭の中にもっていて、それに合っている自分はかっこよくて、合っていない自分はダメなんだという価値観自体が、そもそもつまらないですよね。

なぜなら、みんなが思っている価値観による「かっこいい人」は、誰が見てもかっこいいわけですよ。そんなものを見てもおもしろくない。すごくかっこいい俳優さんがすごくかっこいい人生を送っているのを見ても、かっこ悪くありませんか。おもしろくありません。たまにそれがコケたりもします。

だから、それをうまく考えるということは、やっぱり自分なりの考え方をきちんと持つことなんですね。自分の考え方、「俺はこれが正しいんだ」というものを持つこと。オリジナリティを持つことがたぶん、一番重要なことになってくると思います。

ですから、すごくシンプルなんですね。自分の価値観をもって、自分がいいもの、自分が感じるもの、自分が素晴らしいと思うものをきちんと頭の中でまとめて、表現できるかどうか。これさえあれば、みんな強い人になれると思います。

ミュージシャンから経営コンサルタントへ

理想的なセルフブランディングというものが、この世に存在するのかどうかはわかりませんが、今思っている「自分自身がこういったブランディングをしてきたよ」ということを、参考のためにお伝えしましょう。

私はもともと、音楽家だったところからはじまります。ミュージシャンだったわけですよ。ずっと音楽漬けで、ギターしか弾けなかったんです。こんな僕がビジネスに興味をもって、「コンサルタントになりたい」と思ったんですね。

そのときに普通の路線でいけば、ミュージシャンがコンサルタントになることはあり得ないわけですよ。だって、ギターを弾ける人が経営コンサルをやるというんだから。そのときに僕はどういったストーリーを作ったかといえば、音楽家しかわからないような考え方。これはたぶん、お勉強を一生懸命にされてきたMBAの方とは、まったく発想が違うだろうと思います。

僕はその「音楽家の発想」をあえて打ち消さずに、音楽の発想家だからできる経営コンサルティングというものを始めたんですね。そうすると誰も見たことがないわけですよ。競争相手がいないわけです。そして、みんながびっくりする。「あっ、こんなやつがいるんだ」。それが自分にとってはまず、ブランディングの第一歩でした。

あともう一つは、自分が「こうである」ということを、こそこそするのではなく思い切っていろいろなところにアピールするために、記事を書いたり、いろいろなインタビューを受けたりしました。メディアを最大限に活用したんです。

ですから、僕はコンサルタントになってまず何をやったかというと、アウトプットを出しまくったんですね。もうとにかく、いろいろな記事を書いたり、いろいろなメディアに出たり、あとは本を書いたり。どんどん出まくりました。

そうすると、自分自身だけではなく、ほかの人も、だんだん自分のブランドを作ってくれるんですね。見た感じとキャリアというもので、僕が思っているものとはまた違ったものを。「エリックはこういう人だよね」というものを作ってくれる。

「ああ、おもしろいな」と。またこれが僕のヒントになって、「これは新しい発想だ」と思いました。最終的には経営コンサルティングをやりながら……結局、人をコンサルティングしているということは何かといえば、人を教えているということ。例えば経営者に対してものを教えるというのがコンサルティングなんですね。

音楽家・経営コンサル・大学教授という仕事を選んだ理由

その仕事をやっていく中で、だんだん何を思ったかといえば、「若い人たちを変えないと変わらない」ということが僕の結論だったんです。そうやって僕の中で目覚めたのが、「教育にいきたい」ということだった。

「教育にいきたい」と思いましたが、普通は大学の先生というものは、大学院を出て、こうやってやっていくもの。僕なんてミュージシャンで、経営コンサルでした。でもまた、このストーリーがあるわけですよ。

そのときにパッと思いついたのが、「なるほど。それなら、ミュージシャンであり経営コンサルでなければできない授業ができればいい」と思いました。実は大学の教授になる前に、そうしたアウトプットをし始めたんですね。

これからの教育は、アートの思考が必要である。はたまた経営の思考も必要である。ビジネスの思考も必要である。そういったものが今の学生に求められているんだ、というブランディングをしながら、そこで今度は実際に先生を始めた。

ですから、実は全部が結びついているんですね。あたかも、例えば「大学の教授」と「音楽家」はまったく結びつかないように見えるし、「大学教授」と「経営コンサル」も、実は結びついているようでいて、あまり結びついてはいない。この三つをよく見ると、見えないのですが、なんとなく僕がこうしてくっつけると、一個のストーリーがあるんです。「そんなものもありか」と、たぶんみなさんもお思いになるでしょう。

そうするとたぶん、気になってくれると思うんですよ。「こいつは誰なんだ」と。「こんなところで偉そうにしゃべっているが、お前は一体誰なんだ」と。そうすると今はWebであれば、パパパッと検索するじゃないですか。そうすると記事を書いているから、きちんと僕のメッセージが残っているんですよ。

これで僕の名前を検索しても何も出なかったら「ふーん」で終わるのだけれども、そこが、ブランディングなんですよ。だから、ブランディングは一朝一夕でできるものではなく、きちんとしたアウトプットを常にしていくことが大事です。履歴でいいんですよ、別に。そのときそのときで言っていることが違っていても、気にする必要はありません。それをきちんと外にアウトプットし続けることが大事だと思っています。

80歳までの人生のプランを逆算して生きる

ですから、僕は自分が理想かどうかはわかりませんが、セルフブランディングという発想から言えば、これからもどんどんアウトプットしていこうと思っています。さらにセルフブランディングをどんどんしていくことで、死ぬまでにもう一人のエリック・松永を作りたいんですね。亡くなったあとにどう言われたいかというものを、これから作りたいと思っています。

そうした意味では、僕自身もセルフブランディングを、これからもどんどん計画をして実行するという感じです。

これは実は、あるすごい方と出会ってからはじめたんです。僕がまだ23~24歳ぐらいのときに、あるすごく著名な方に出会いました。その人とご飯を食べているときに、「お前、次はどうするんだ」と言われたんですよ。

僕はそのとき、もうすでにビジネスパーソンにはなっていたんですが、自分の中にあったものは漫然としたものばかりでした。例えば「グローバルで活躍したい」といったようなものしかなかった。

そのときにすごく怒られたんですね。「お前はバカか」と(笑)。「そんなことも考えないでやっているのか」と言われたときから……。その人が何をやっていたかというと、「80歳までのプランを立てろ」と言われたんですよ。

80歳までの大きなプランを立てて、要は「お前はどう死にたいんだ」ということを言われました。「死んでいくところから逆算して、何をやっていくのかをマッピングしていけ」と言われたんです。

ビッグピクチャーをメモに書いて常に持ち歩けば実現する

実は僕、20代の本当の初期の頃から、いまだに80歳のプランを立てるんですよ。これはもう、お正月の恒例行事にしていて、もう一回見直すんでね。そして、大きなところから小さなところに落としていくんです。

まずはビッグピクチャーがあって、大枠「こんなことがやりたい」ということが第一レイヤーにあり、次はもっと具体的に「こうした業種で、こんなことをやりたい」。もっと下ではさらに具体的に、例えば「大学教授になりたい」ではなくて「青山学院大学の教授になりたい」といったように。働きたいのであれば「アクセンチュアに入りたい」などというように、具体的なものを出していく。

「ポルシェが欲しい」「フェラーリが欲しい」。すべてのプランが書いてあるから、お金ともリンクするんですよ。そうすると、こう見ていって、「これはちょっとムリだな、もっと早めなきゃいけない」といったように、スピード感を上げるためにそこで調整するわけですよ。「これは50歳に設定をしていたけど、もっと前倒して40代にしよう。40歳までにこれをやらなければ、ポルシェは買えないぞ」というように。

それをやるために、まずはビッグピクチャーを描く。手書きでいいんですよ、ぜんぜんメモでもよい。それで、僕がその方に言われたのが、「常にそれを持ち歩け」ということ。「持ち歩くと実現する」と言われました。

そのときは正直言って「バカか」と。「そんなことあるわけないだろう」と思ったんですが、今、実際に大学教授までのキャリアになれたときに、本当にいうとおりになったのでびっくりしているんですよ。

計画はやっぱり、きちんとビジュアル化できれば、そんなに難しいことではなかったりするんですよね。例えば「大学教授になりたい」といったときに、やるべきことはすごく決まっています。あとはそれをやればいいわけなんですよ。それを日々のアクティビティに落としていくと、もうこなすだけなんです。やることを考えなくていいんですよ。このプランをやるためには、日々のことをこなすだけで夢に近づいていく。すごくシンプルで、悩む必要もないんですね。

“他人から見た成功”を手に入れても、幸せは感じられない

また、成功というものを、みんなが思っている成功にするとつらいんですよ。例えば人々が言っている、どこに行っても、新聞にも書いてある、雑誌にも書いてあるような「成功」を求めてしまうとつらい。

どうしてつらいかといえば、それは自分にとっての成功じゃないからつらいんですよ。本当の成功であればつらくないんですが、そうではないときは、達成できたのに「何が楽しいんだろう、こんな苦しい思いして」と思うわけです。

それは、自分の成功になっていないからなんですね。自分の成功は、実はほかの人とは共有できないはず。僕はそれを人に見せる必要もないと思っています。だからこそ、自分のA3の一枚の紙に書いて、こっそり持っていていいんです。メディアに出す必要もない。こんなものは人に見せるものではありませんから。

なぜ見せるものではないのかといえば、人とは共有できないからなんですよ。人は絶対にそれを見て「すごい」なんて言わないし、逆に「すごい」と言われた時点で疑心暗鬼になってしまう。「大丈夫か、俺のプラン」と思ってしまいますから(笑)。そうしたところをきちんと、自分のパーソナルなものに持っていくことがすごくポイントになってくる。

ここで一言だけ言いたいのは、僕はここで偉そうなことを言っていますが、自分自身がセルフブランディングの先生であるとは思っていないし、この世にセルフブランディングの先生がいるとも思っていないんですね。

みなさんもこれからセルフブランディングをやって、いろいろと豊かな人生を送っていくのだろうと思っています。それはみなさんにとっても最高に貴重なものであり、それは僕のものと比べてどうだという話ではないんですね。

ですから、これから本当に自信をもって、自分のストーリーを作り、そこからセルフブランディングを楽しんでやっていってください。私も負けないように、みなさんと一緒にがんばります。