データサイエンスを活用する考古学者たち

Michael Aranda氏:考古学者と聞くと、泥にまみれて何年も過ごし、古代の文化や文明を研究している人々を思い浮かべるのではないでしょうか。

フィールドワークはもちろん重要ですが、今日の考古学は、大いなる進化を遂げています。特にここ数年で、考古学者は、他の分野からメソッドを取り入れて適用し、研究に改良を加えています。今日の考古学者は、ほこりの中に膝をついて発掘に勤しむ以外にも、コンピュータサイエンスや気象学、天文学のテクニックを用いて、かつて地球上を闊歩した人類を研究しているのです。

まず、人工衛星の活用法を見てみましょう。人工衛星の活用法と聞くと、軍事利用やテクノロジー企業による利用が思い浮かびますが、近年では考古学においても活用されています。

人工衛星は、骨や土器の探知はできませんが、広大な地域を一瞬で観測し、地表では把握できえない広大なパターンや大局の事象に気づくことができます。

また、さまざまな種類の光線を照射することにより、隠れた構造物を発見することができます。

たとえば2011年、BBCは、エジプト研究者たちが、人工衛星の赤外線画像により、砂の中に埋もれた泥岩の壁を発見したと発表しました。研究者たちによりますと、壁は水分を含むため、堆積した乾燥した砂とは異質な画像として映ったそうです。さらに解析を進めたところ、この画像に写っているのは実は、何千もの家屋や建造物、そして恐らくは何十もの新発見のピラミッドから成る、未知の埋もれた都市らしいのです。

もしこの都市が実在するのであれば、この遺跡は三千から四千年前のものであり、当時の平均的なエジプト人の暮らしがわかるかもしれません。それに、新発見のピラミッドとなると、わくわくしますね!

エジプト以外でも、カナダのバイキング開拓地の発見や、ペルー全域の遺跡地図の作成など、人工衛星は我々を大いに手助けしてくれています。また、古代遺跡盗掘の痕跡も発見できます。これはあまりわくわくするようなものではありませんが、この分野においては重篤な問題であり、その痕跡を追う必要性は大いにあります。

航空機からレーザーポインターを照射し、3Dマップを作成

しかし、地表を直接見ることができない点で、人工衛星の性能にも限界はあります。例えば、ペルーやグアテマラ、ベリーズ、そして実はアメリカのニューイングランド地方などは、深い森に覆われているため、人工衛星ではその下まで透過することができません。こういった地域は、生身の考古学者でも行くことが困難な地域でもあります。

そこで近年、科学者たちは、こういった林冠の下を観測するため、気象観測や自動運転車のテクノロジーを利用しています。これは、Light Detection and Rangingの略であるLiDAR(注;「光検出と測距」)という技術です。

上空の航空機から、地表に向けレーザーポインターを照射すると、レーザーの一部は樹葉の間を抜け、その下にある物体に当たって反射します。

反射光が航空機へ戻る時間を測定することにより、林冠や地表、そして森に隠された地表にある構造物との距離を算出します。

このようにして、その地域の完璧な3-Dマップを形成することができるのです。

過去10年では、LiDARにより、スペインの古い金鉱や、水中に没したローマの大邸宅が発見されました。2018年には、グアテマラで、人口が密集した、マヤ文明の広大な居住地のネットワークが見つかりました。この居住地は、何百平方キロメートルにも渡り、都市や集落、街道から成るもので、1000年以上昔、1千万人以上もの人々が暮らしていたというのです!この発見は、考古学者たちがジャガーと遭遇する危険も無く成し遂げられました。

これらのことから考えると、人工衛星やLiDARの活用は、考古学に応用する場合、極めて使いやすいテクノロジーであるといえます。

なぜ、ギザの大ピラミッドを無破壊で調査できのか

さて、最後にご紹介するのはとても不思議なメソッドです。なんとそれは、天文学の十八番なのです。

宇宙でもっともすさまじいパワーを持つ、スーパーノヴァとは、恒星が寿命を迎える際に起こす大爆発です。スーパーノヴァは、宇宙線という高エネルギー分子を放出します。

宇宙線は、地表にいる我々には無害ですが、さまざまな理由でこの宇宙線に注目している学者たちがいます。例えば、物理学者は、原子核内部の領域の研究に、宇宙線を活用しています。

さて2017年、物理学者たちによって、ギザの大ピラミッド内部で巨大な部屋が発見され、宇宙線は考古学の新発見に貢献しました。物理学者たちは、ピラミッド内部に入って検出器を使い、あちこちで宇宙線量を測定していました。彼らは、ミューオンという粒子を探知しようとしていたのです。

少量のミューオンであれば、巨大な岩のブロックのような密度の高い物質でも透過することができると、彼らは考えました。つまり、通常よりもミューオン量の多い場所があれば、その上部に空洞がある可能性があります。そして、まさに狙い通りでした。予測量よりも多いミューオンが、ピラミッド内部でもっとも広大な空間である大回廊の上部から降ってくることが観測されました。いくつかの追確認テストを受けた後、大回廊の上部には、まったく未知の巨大な部屋があるという結論が出されたのです。

そのような部屋が作られた理由はまだわかっていませんが、ギザの大ピラミッドのような世界で最も有名な古代遺跡で、このような発見がなされたのは画期的です。未知の部屋の発見は、実に一世紀以上無かった久しぶりのできことで、研究者たちは、それを古代の壁を一切破壊することなく達成できたのですから。

科学者たちは、次はどこに宇宙線の検出器を向けようかと、対象を探している真っ最中です。でも、世界七不思議での空洞の新発見だなんて、すでに十分に素晴らしいですよね。

これは、考古学が導入している、変革や新たなテクノロジーのほんの一例に過ぎません。でも、安心してください。考古学は、その根本においては不変です。だって、考えてみてください。仮に古代都市を発見したのが人工衛星だったとしても、それを実際に探検するのは、人間なのです。