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音楽シーンの現在、そして未来 –いま、J-POPに求められるイノベーションとは–(全2記事)

日本の音楽産業が危ないーー音楽プロデューサー・亀田誠治氏が説く“サブスクリプション配信の価値”

2019年9月14日、渋谷ヒカリエで「BIT VALLEY 2019」が開催されました。“モノづくりは、新たな領域へ”をテーマに、クリエイティブ・ビジネスに関わるすべての人々に向けて、テクノロジー・発想方法・働き方など多様な切り口でトークセッションが行われた本イベント。この記事でお届けするのは、音楽プロデューサー・亀田誠治氏が登壇し、音楽業界の未来について語られたトークセッションです。欧米と日本それぞれの音楽産業の現状から、日本が抱えている課題に迫ります。

今、日本の音楽産業が危ない

亀田誠治氏:はい、どうもみなさん、こんにちは。亀田誠治です。よろしくお願いします。今日はこれを見てください。買いたてのTaylor Swift(テイラー・スウィフト)のトートバッグ。中にTaylorのCDが入っています。「どうして亀田さんがこんなものを背負ってやってきたのか」ということは、後のほうになればわかるお楽しみですから、これは手元に置いておきますね。

今回は大げさなことをお話しするようなタイトルですが、今日僕がみんなに話したいのは、今の日本の音楽シーンはどういった状況にあるのか。グローバルな視点から見たときに、日本の音楽シーンは、果たしてイケているのか、イケていないのか。さまざまな角度から検証していきたいと思います。

いきなりのアイスブレイクですが、この中でサブスクをやっている人はいますか。

(会場挙手)

さすがですね。この渋谷のヒカリエに集まるみなさんは、さすが。これ、みんなあれですか? この中できちんと有料でやっている人はいますか?

(会場挙手)

偉い! 優秀です。フリーでチラ見やチラ聞きしている人たちだけが相手だと、今日の話は難しくなってしまうので。今日は、みなさんが今まである程度、定額配信制度を体験している、ということを前提にお話をしていきます。

それでは、今日の問題は、「日本ではCDが売れない」「音楽業界がしんどいことになっているぞ」という話なんですが、(スライドを指して)これ(日本における音楽売上金額のグラフ)を見てください。今、日本のCD。フィジカルはCDと考えて、アナログレコードも入るんだけれども、ほぼほぼCDだと思ってください。このCDの売上が、2013年から2018年までの5〜6年を見るだけでもグイグイ下がって来ている。

一方で、少し前まではダウンロードと言って、「CDじゃなくて1曲単位で買っている俺ってなんかイカしてる」というような感じもあったかもしれませんが、このダウンロードも今は減少方向です。どんどんどんどん減って来ている。

そして、グラフのグレーの部分(サブスクリプションの売上金額)を見ると、2013年には31億円となっています。僕が先ほど言ったサブスクが2018年に10倍、要するにこの6年間で10倍も増している。330億円まで来ていて、日本の場合、今はCDがそれでも75パーセントぐらいは占めているところに、ようやくサブスクが10パーセント~15パーセントぐらいの割合で入って来た。

欧米ではすでに街からCD屋が消えている

ところが、(スライドを指して)ここを見てくれる? これは、アメリカの音楽メディアの浸透具合なんだけれども、CDとアナログレコードは、どんどんどんどん縮小しています。サブスクリプション、ストリーミングというものが、今8.9 US$billionまで来ていて、ダウンロードが2.3 US$billionまで来ています。

それで、この(グラフの)カーブを見てもらってもいいですか? 日本は、右肩下がりになっています。一方、欧米では、V字回復をしているんですよ。

要するに、サブスクリプションの浸透のおかげで、欧米ではもはや音楽産業は底に行っちゃった感から、今は上り調子になって来ているわけです。もう1回、これを数字できちんと言うと、ヨーロッパでは音楽業界の85パーセントの収入がサブスクなんです。でも、日本では15パーセント。ありゃりゃって感じですよね。

この会場では半分以上、3分の2くらいの人たちが手を挙げているけれども、日本全国津々浦々という広い目で見ると、日本ではまだサブスクは浸透していない。それで今日、せっかくBIT VALLEYに来ているのでお話しすると、結局イノベーションというものが起きたときにどう対応するか、どう反応していくかによって、文化や音楽、エンターテインメントなど、技術もそうですが、いろんなことでプラスに転換するかマイナスに転換するかの分かれ道ができてしまう。そういうことを、今日はみんなに伝えたいと思っています。

結局、サブスクリプションがなぜこんなに欧米では浸透したか。ロンドンやパリに行ってごらん。CDショップなんか皆無だから。アメリカにもほとんどない。日本は今でも渋谷にもあるし、新宿にもあるし、こうやってCDを売るという局面があるんだけれども、もう海外、欧米ではまずCD屋さんが無くなっちゃった。

なぜサブスクが数年かけてこんなにも浸透しているのか。要するに、数字が増えているということは、人々が喜んで選んでいるというわけですよ。なぜこんなにも人々の心を掴んできたかといえば、やっぱり一番は、便利でしょ。みんな、サブスクを聴くときはスマホの人、挙手! 

(会場挙手)

PCの人。

(会場挙手)

両方という人もいるよね。とにかく、いつでもどこにいても、好きな音楽を聴けるわけ。しかも、この聴き方が、毎回検索をかけたりする。ただ聴くだけじゃなくて、聴くまでに、自分の中に、サブスクの場合はストーリーがあるわけですよ。「あっ、昨日あの曲を聴いて、そういえばMステにもあの人が出ていたから、じゃああの曲の大元になっている曲を聴いてみよう」などと、また検索をかけて入っていったりする。

そうやってサブスクの中に入っていくと、みんなも知っていると思うけれども、基本的にサブスクの中の世界というものが、音楽博物館と言いますか、アーカイブやライブラリーがもう無尽蔵にある。50年前に遡ることもできれば、まさに今ヒットしている曲も聴けるという。

これからの時代は瞬発力ではなく持続性がカギ

みんなも学校で多分習ったりしたと思うけれども、一番のサブスクの利点は、ロングテールなのね。要するに、ピンポイントで音楽を聴く、その時代時代の、今週の第1位のようなものが、サブスクの世界ではあまり意味が無い。

今週でも来週でも1回上がったものはずーっと残っている。1977年のヒット曲をもう1回、今頃聴きたいと思えば聴けるし、自分たちが生まれた頃に流行っていた曲を聴きたいと思えば聴けるし、最新のヒット曲に関しても揃っているわけ。

このロングテールだと、CDの発売や「フラゲ」なんて言葉は、そもそももう今は聞かなくない? フラゲという言葉自体が怪しくなって来ちゃって、AKB48も「フライングゲット」を歌っていましたよ。そうしたフラゲをする必要も無くなっている。

このロングテール性というのが、音楽が長きにわたって、瞬発力ではなくて、持続性を持ってサスティナブルに愛されるきっかけを作るという意味で、このサブスクリプションというものは有効であり、起こるべくして起こったものなんだろうと思っています。

あと、すごく便利ないいことは、これはSpotifyなども始めたんですが、契約していないアーティストなどでもキュレーションでちゃんと認められれば、全世界ナンバーワンの人と同じ棚に入れておける。これはやっぱり、これだけYouTubeがあったり、TikTokがあったり、いろんな形で自分の作品をセルフメイドで世の中に出していける時代になったということ。

今まではミュージシャンになるには、例えばレコード会社や事務所のオーディションに合格するというように、いろんな手順を踏まなればいけなかったものが、シンプルにものづくりができるというフェーズに入って来た。その証として、このサブスクがすごく背中を押しているんだと思うんですね。

日本の音楽ビジネスが「サブスク」の波に乗り遅れたワケ

あと、これはすごく大事なことです。CDはよく、みんな言うのよ、うちの妻なども言うわけ。「やっぱり形に無いと不安だわ」「誰かに渡すときはどうするの?」「形があるものは長く愛せて素敵です、やっぱり僕はCD派です」「僕はアナログレコード派です」という方もいらっしゃると思います。

それはそれで、素晴らしいことですよ。パソコンの画面の中、スマホの画面の中だけで発信される音楽と違って「もの」であることはすごく意味があるけれども、ここに来て、ずっと環境問題としては取り上げられてきていたことなんだけれど、結局、CDというか形のあるフィジカルディスク面は、プラスティックや紙などの資源を膨大に使うんですよ。そういった意味で、昨今「脱プラ」などについて声高にみんなが議論しているけれども、そういった社会的な流れにもこのサブスクは、もう見事なぐらい合致しているんですよね。

今はいいことずくめの話をしました。ロングテールである、いつでも楽しめる、発売日なども関係なく、流通コストもかからないなどというサブスクのいいところを言ってきましたが、欧米はこうやってV字回復をしているのに、日本はサブスクリプションというイノベーションを受け入れなかったんだね、初めは。

臭いものに蓋をする、出る杭を打つじゃないけれども、サブスクリプションという音楽業界、音楽ビジネスを一から塗り替えるような、そうした素晴らしいイノベーションが起こったのにもかかわらず、「果たしてCDが売れなくなったら自分たちの収益はどうなるのだろう?」などと、いろんな人たちが、音楽産業がこぞってサブスクに移行していくことに対して、待った、もしくは様子を見る状態が続いちゃったわけです。

その結果、もう本当に大変な遅れを取ってしまっていて、さきほど言ったけれども、欧米では85パーセント以上が音楽を聴くということ=サブスクリプションで聴くという(くらい)、日常の中に溶け込んでいるにもかかわらず、日本ではイノベーションの波を怖れたせいで、まったく乗り遅れちゃっているんですよ。

ライブをやってもさほど儲からない

一方で、日本人は優しいというかきめ細やかだから、今度はCDを売るために、CDにいっぱい特典を付けて、握手ができる権利や、そこまではいかなくても、ライブDVDが付いてきたり。これも大変で、ライブDVDなどのおまけを作るために、ものすごく多くのスタッフが、ボランティア同然の仕事をして、「とにかくCDで稼ごう」と、そこで踏ん張っちゃったわけです。その時間が長すぎたね。

それで「いやいや亀田さん、何を言っているんですか、私は知っていますよ。ホントはアーティストのみなさんは、ライブで儲けているんでしょ。ライブがあるから、コンサートやこんなにフェスなども活気があるじゃないですか」と言うけど、実はフェスやコンサートで大きな収入を上げられるアーティストは氷山の一角であって、トップクラスのアーティストだけなんです。

他の人たちは、ライブをやってもさほど収益にはならなくて、グッズなどを売ってなんとか帳尻を合わせて収入を上げていこう、という感じになって来てしまったわけ。

そういうわけで、この5~6年間に日本が行ってきた、怠慢とまでは言わないけれども、イノベーション潰しというか、イノベーションの様子をうかがっている中で、バランスを取って「とにかく今あるものを」ということでしがみついてしまったおかげで、今、すごく残念な結果になっています。

イノベーションが起こったとき、まずは肯定することが大切

(スライドを指して)これは去年のアメリカの(音楽業界における売上金額割合のグラフ)ですかね、ストリーミングが75パーセント、デジタルダウンロードが12パーセント、フィジカルがCDとレコード、ここか。フィジカル10パーセント。Synchというのがシンクロと言って、欧米は音楽家、クリエイターが作るCMやドラマの伴奏に対してもちゃんと著作権料が払われているんですが、その収入のこと。

それが、MUSIC INDUSTRY、USだからアメリカの状況。アメリカは75パーセントまでストリーミングに移行しているのに、日本は出遅れちゃったという感じがしています。これは音楽のことだけではなくて、新しいイノベーションや、新しいシステムが生まれたときに、それを肯定して乗っかるか乗っからないかによって、グローバルな路線から出遅れてしまうという。

もっと言えば、回復不可能に近いような状況、悲惨な状況になってしまうこともあるということを、ここに集まっている若いみんなには覚悟というか、理解してもらいたくて。イノベーションが起こったときに、そのイノベーションをまずは肯定するという人間力のようなものを持ってもらいたいと思います。

さっき、有料か無料かという話をしましたが、だいたい今のサブスクは月額約1,000円ですかね。例えば、1,000円を1年間払うと12,000円です。12,000円というのは、3,000円のCDアルバムでいうと4枚分なわけです。CDアルバムを4枚も買う人は、今は多分、ほとんどいない。CDアルバム4枚分を買うお金が、サブスクリプションで1年間音楽を聴くことによって、音楽業界に行き渡る。ミュージシャンたちに行き渡る。

実は、1回再生ごとにものすごく小さな金額なんだけれども、アーティストに、そして音楽業界に確実にお金が行くということは素晴らしいことで、とても大事なことだと思います。

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