ファッションはルールの多い業界

佐久間裕美子氏(以下、佐久間):今回のテーマの1つに「ルール」「オルタナティブルール」というものがあります。ファッション業界って、ルールの多い業界じゃないですか。

Shun Watanabe氏(以下、Shun):超多いよね(笑)。

佐久間:そう、「あれしちゃダメ」「これしちゃダメ」とかさ。もっと言うと、よく欧米では「9月過ぎたら白いパンツ履いちゃいけない」とか。

Shun:えっ、なんで? ああ、夏っぽいから?

佐久間:そうそう。昔のけっこう古典的なルール。あと「黒と紺を合わせちゃいけない」みたいな。

Shun:えっ⁉ なんで?

佐久間:なんか……(笑)。

ラブリ氏(以下、ラブリ):黒っぽいから?(笑)。

佐久間:いや、ルールってだいたい、たぶん理由なんかないんですよね。

Shun:でも、それを無視してやっていたから「変な人」と思われたんだと思う。

「ルール無視」というルール

佐久間:それがむしろね。ぜんぜんルール無視、というところがね。

Shun:メンズをやってたけど、ネクタイの結び方がわからなかったもん。

佐久間:ああ(笑)。

Shun:なにか見て、でもこうやって自分でやるとわかんない(笑)。でもまあできてるからいっか、みたいな。

佐久間:(笑)。ルール無視というのは、ある種、Shun Watanabeのルール。

Shun:そっちのほうが新しく見えるね。

ラブリ:でも最近はSNSとかで、すごく情報が溢れてるじゃない。

Shun:FBIみたいなやつが「間違ってるよ」みたいな(笑)。

ラブリ:(笑)。だからルールがすごくたくさんあるように見えるというか、「こういなきゃいけない」とか。例えばかわいい子とか、きれいな人が、ベストな写真を上げるじゃない。となると、やっぱり「かわいい」という概念が、イメージの中の話になっちゃったりする。例えば「結婚のよさ」的なさ。結婚してお金も持ってて、ママの生活、モデルもやってます、みたいな。

佐久間:はい、はい。

ラブリ:結婚する女性がすべて、その像みたいなものがある。

佐久間:像があるよね。

ラブリ:イメージ像がやっぱりある。「自分も早く結婚しなきゃいけないんじゃないか」「いい旦那さんを見つけなきゃいけないんじゃないか」「いい職に就かなきゃいけないんじゃないか」とか。すごくちっちゃい情報で埋め尽くされて、自分は一体何なのかというところが、わかんなくなっちゃってるような気がする。

身の回りにあふれる情報との付き合い方

佐久間:そういうことに、ラブちゃんでも惑わされたりするときあるの?

ラブリ:私は……「これがこの世界なのかな」と。モデル業界とかも、例えばパーティーがたくさんあったり、美容も、誰かが美容の商品とかを(SNSに)上げるじゃない? そういうのも……。

Shun:ステマみたいなね。

ラブリ:そうそう。仕事なのか本当に好きなのか、ごちゃごちゃして「何なの?」と。でも結局、どうせそのストーリーとか、誰が何を上げたかなんて、明日になったら忘れちゃうわけだし。

Shun:かかって1秒という感じ(笑)。

ラブリ:そうそう(笑)。忘れちゃうから。結局その瞬間は気になるんだけど、あんまり自分の生活には関係ない。もっと切り離していいし、人ってもうちょっと他人なんじゃないかな。もうちょっとドライなのかもなあ、とは思う。

佐久間:よく女の子とかが、「みんながリア充風に上げてるのを見ると、自分の人生がつまんないんじゃないかと思っちゃう」「このパーティーに私は呼ばれてない」とかさ。

Shun:それってさ、女の子だけじゃなくて全員そうだよね。

周囲の影響を受けずに生きるにはそれなりの自信が必要

佐久間:ある? そういう悩み相談をされたりする。そういうことに関わらずに、影響されずに生きていくには、それなりの自信みたいなものが(要る)。

Shun:自信は超重要。

ラブリ:自信は大事だよね。

佐久間:自分に関係ないよと思える。

Shun:エンターテインメントみたいなね。

ラブリ:自分がやらなきゃいけないことをちゃんとやるしかないよね。一瞬携帯とか見ると惑わされるけど、「いや、でも本読まなきゃいけないし」って(笑)。

佐久間:やることいっぱいあるしね(笑)。

ラブリ:「探し物をしなきゃいけないし」とかさ、やることは意外といっぱいある。

Shun:掃除しなきゃ、とか。

ラブリ:そうそう。家のこと、「あれしなきゃ」とかさ。本当に目の前のやらなきゃいけないことにちゃんと集中するというか。やっぱSNSってすごく非現実的。でも結局みんな見てるし、そこにもアナログっぽい温度が流れてるし。

Shun:あと全世界に発信できるからね。インスタだったら、みんな見れるじゃん。

ラブリ:そうそう、みんな見れるしね。

Shun:それはもう、雑誌やってたときからぜんぜん変わったよね。

別キャラになりきれば、苦手だったこともできるようになる

佐久間:そうだね。Shun君はそれで言うと、最近ANA DIAMONDCLASSというドラァグクイーンを。

Shun:(笑)。

佐久間:要は別キャラがいてね。

Shun:そう(笑)。

佐久間:別キャラが存在して、その別キャラで今度、『VOGUE GIRL』でビデオのシリーズをやってる。あれはどう始まったの? そもそも趣味というか、やってたじゃない。

Shun:趣味で(笑)。

佐久間:趣味で(笑)。

Shun:ル・ポールでドラァグクイーンが超好きになってね。もともとファッションの人たちって、たぶん2004年ぐらいからセックスチェンジパーティーみたいな感じで、みんな男の子が女の子になってた。最初はロンドンでやって、それがニューヨークとか、東京でもやった。ハマってるけど、メイクは自分でできないし。スタイリングはできるけどね。

ってやってたら、ル・ポールのあれがあって、「もう1回やろう」みたいになり、ウチらの周りの友達がみんな一緒にパーティーとかしてやり出した。それと同じぐらいから、スタイリストの仕事も長くやってるから、新しいことをやりたいみたいな。マガジンもずっとやってるし、マガジンも誰も読んでないし、ってなってくるじゃん。

佐久間:うん。

Shun:そのときに「何だろう」と思った。こうやって、スッピンで人の前で話すのがすっごく嫌いだったけど、「ドラァグクイーンだったらできるかも」と。

佐久間:はいはい。

Shun:それを『VOGUE』の友達に言ってたら、「やんない?」みたいに言われて……「やる」って(笑)。

佐久間:これね、すっごくおもしろいのでみなさん見てください。

Shun:そう、見てください(笑)。

佐久間:だから、こうやってスッピンでみんなの前で話すの、今日が初めてなんだよね。

Shun:初めて。うん。……初めてじゃない、ウソ(笑)。何回かやった(笑)。

佐久間:初めてじゃないか(笑)。

ラブリ:(笑)。

別のアイデンティティができたことによる変化

佐久間:「Shun Watanabe」という人間がいますと。それでもう1個、別のアイデンティティができたことによって、何か気持ちが変わったりは?

Shun:ぜんぜん知らない人がやってるみたい(笑)。エディットしてるときに自分を見てるんだけど、「知らないおばさんが喋ってる」みたいな感じで見てる(笑)。自分の言ったことに「あ、言ったわ」って笑っちゃったりする。撮ってるときとか、台本もないから覚えてないのね。「台本もできませんから、アドリブでやろう」と始めてるから、「ぜんぜん知らない人が喋ってるみたい」と思ってる。

それはけっこう最初「恥ずかしい!」みたいな感じだったんだけど、今とかもうぜんぜん「あっ、こういう感じで喋ってんだ」って。

佐久間:なるほど。

ラブリ:でも、スイッチ分けられるのはいいね。

Shun:分けられるようになったね。

佐久間:うんうん。……で、まあ本題のね。

Shun:本題はまだだったんだ(笑)。

自分のスタイルを作れずに困っている人へのアドバイス

佐久間:本題というかね(笑)。「自分の本当に欲しい見た目は何か」って、たぶんやっぱりみんな毎日、どんな人であっても……だってさ、裸で生まれてきたのに裸で歩いちゃいけないという世の中ですから。

ラブリ:そうだね(笑)。

佐久間:はい。毎日みんな下着を着て、靴を履いて、洋服を選んで、世の中に出ていくわけですよね。それで初めての人に会ったときに、見た目で「この人はこういう人だな」みたいに思われたりとかする中で、やっぱり自分のファッションとか自分のスタイルみたいなものを作れないとか、悩んじゃったりとか。私もけっこう、自分がどういうものを着たらいいのかという時期もあった。どういうものというのは、「どこのブランドが」とかっていう話じゃなくてね。

ラブリ:うんうん。

佐久間:自分のスタイルみたいなものを作れないで困ってる人に、何かちょっと2人からアドバイス的なことはあります?

ラブリ:私は、自分が思ってる自分って、自分しか知らないと思ってる。だから結局、私はすっごく人見知り。

佐久間:そうなの? あら。

ラブリ:そうなの。人見知りで赤面症で、本当は殻に閉じこもりたいタイプなの。

佐久間:ああ、そう。

Shun:そうなんだ。

ラブリ:そう。だけどそれを本当に知ってるのって私だけじゃん。だから、外側に見せてる自分が自分なんだなと思ってる。だから、外側の自分を恥ずかしがらずに作っちゃえばいいんだな、と切り替えるようになった。

佐久間:うん、うん。

誰と一緒にいるときの自分を好きになれるか?

ラブリ:でもその切り替え方というのも、「誰といる自分が好きか」と、まず自分で分けてる。「この人といると心地がいい」「この人といる自分が、すごく自分らしくいられる」と思う人を自分の中でピックして、その自分でいられるように意識したという感じ。

Shun:それ超重要だよね。周りは重要。

ラブリ:そう、すごくわかりやすい。どの周りといる自分が楽かという。

佐久間:ああー。

ラブリ:そう分けて、自分が知ってる自分は人にはもう関係ない。だって家に帰ったら誰とも会わないし。

Shun:そうだよね。

ラブリ:そう。ということは、外側で見せてる、例えば裕美ちゃんが思う私がさ、たぶん私なんだよねと思うわけ。だからあんまり考えすぎないで、もうちょっと堂々と、作っちゃえばいいんだよと私は思う。

Shun:そうだね。

トレンドだけではファッションストーリーは組めない

佐久間:うん。Shun君は?

Shun:何だっけ(笑)。

佐久間:(笑)。何を着ればいいのかわからない、とか。

Shun:ああ。やっぱ好きなものを着ればいいんじゃないという感じ。

佐久間:好きなもの。

ラブリ:なんかさ、「好きな服がわかりません」って(いう人も)、いるじゃん。

Shun:あるよね。

ラブリ:自分のスタイルを、どうしたらいいかわかんないとかさ。

Shun:そうだよね。一緒に買い物に行ったら教えてあげる(笑)。

(一同笑)

佐久間:そういうサービスも行っております、なんてね。

Shun:そう、そういうサービスも行います。昔は、例えば『VOGUE HOMMES』とかやってるときって、「トレンド」みたいなのとかやったし。でもトレンドだけでファッションストーリーは本当は組めないわけよ。

佐久間:うん。

Shun:日本の雑誌とかそうで、「ベストバイ」とか、買わないよ高いしみたいな。ファッションストーリーで見せるのは、そこの要素は入れるけど、ぜんぜん違うリファレンスから引っ張ってくるわけ。じゃあここに80'sを入れよう、ここにこのモデルを使うから、こういうリファレンスの女性像、誰かグレイス・ジョーンズみたいなのを入れよう、みたいなのとかさ。

佐久間:ああ、グレイス・ジョーンズとかみたいなキャラクターが出てくるわけね。

Shun:そうそう、やっぱカルチャーがないとファッションはまったく。あんな「ベストバイ」とか言ってたってさ、「誰が買うんじゃ」みたいな話じゃん。

佐久間:まあそうね。

Shun:そこじゃないから。でもそれは欲しかったらお金貯めて買うか、似たようなのはいっぱいあるからそれでよくない、という感じ。やっぱり自分たちはそのときは、「トレンド」とか言ってた。でもこれが10年経ったら、トレンドというのは「自分らしさ」になっちゃう。

佐久間:うん。

トレンドを追いかける時代から、「好きなものを自分らしく」へ

Shun:別に「これがトレンドだからみんな履いてください」とかじゃない。男の子がハイヒールを履きたかったら履く。超イケてるね、みたいな。それがトレンド。それが今、2017ぐらいからニューヨークでやっぱりそうなってきて、そこでLGBTの流れになっていて、今はもう本当にそういう感じ。「好きなものを自分らしく着てください、どうぞ」というフェーズに入った。

トレンド意識で「なんとかマイクロなんとか」みたいな、よくわかんないけど(笑)。それやってたら一番ダサいよ、気を付けてね(笑)。

佐久間:そうね。本当に今言ったみたいな「誰が買えるんじゃ」というところで、ちょっとファッション雑誌から人々の心が離れてしまった……。

Shun:ファッション業界の人は、サンプル指定で80パーセントオフとかでみんな買えるからね(笑)。

佐久間:まあそうね。今、業界の事情を暴露しました(笑)。

(一同笑)

Shun:僕も買ってたんだよね(笑)。

佐久間:それで、ファストファッションみたいなことが、わーっとなっちゃった。でも、ファストファッションのつらかったところは、電車に乗ってると自分が着てるのと同じのを着てる人がいるというね。

ラブリ:ああー。

佐久間:すごく民主的になったように思わせておいて、実はみんなの見かけがロボットっぽい、フラットになってしまったみたいなところとか、すごくあると思う。そんな中でやっぱり、若くてそんなに資金力がなかったりすると、さらに自分らしさを作るのが難しい、みたいに思っちゃう。

自分が好きなものを知ると「スタイル」がわかってくる

Shun:今やぜんぜん簡単。

佐久間:今やね。Shun君は最近すごく、ヴィンテージに。

Shun:そうそう、これとかL.A.で買って……4ドル(笑)。でもタイダイしたら全部違うものになる。みんな、そんなの5ドルでできるよ。あ、タイダイのキットを買わなきゃいけないけどね。

佐久間:はい、はい。自分で加工するというのもね。

Shun:そうそう。

佐久間:切っちゃうとかね。私もよくやる。

Shun:うんうん、丈ね。

佐久間:うん。丈を切っちゃうし、襟ぐりとかも切っちゃったりとかしてね。

ラブリ:うんうん。

Shun:それはやっぱりスタイルだよね。

佐久間:そうね、そういうことがスタイルということなのかもね。

Shun:オリジナルがある、スタイルがある人は、一番強いね。それがない、コピーしてる人が一番「ダッサ」みたいになっちゃう。最初はコピーからでもいいから、自分の好きなものを見極めてくというか、「あっ、やっぱ自分はこれが好きなんだ」みたいな。

ラブリ:知るってやっぱり大事かも。

Shun:その分、いっぱい見なきゃダメだよね。

ラブリ:最初はやっぱり自分のスタイルなんかさ、わかんないじゃん。

Shun:わかんない、わかんない。スタイリストと言ってるのに、30歳ぐらいまでわかんなかったからね(笑)。

ラブリ:(笑)。絶対わかんないから。だからとにかく、いろんな形の服を着るというか。首詰まりなのか、丸なのか、Vとかさ。

Shun:好き嫌いだよね。「ここちょっとかゆいからヤダ」とかさ(笑)。

ラブリ:そうそう、でも大事。

佐久間:そんなプラクティカルなこともあるよね。

ラブリ:着てて好きか、嫌いかとか。

Shun:素材とかそうだよね。気持ちいいか、気持ちよくないかとかね。

ラブリ:そう、着ないとわかんないから。

佐久間:「最初はコピーでもいい」と言ったじゃない。でも最初はコピーでよくても、例えば雑誌で組んでるスタイリングを頭から下まで全部とかだと、もう本当にすごく嘘くさくなる。

Shun:だから、ブランドの人とかが「ルックで」と言っても、「いやそれ友達のスタイリストがやってるルックだからイヤなんですけど」って。それ「コピーっていうか何」みたいな(笑)。何でもない(笑)。

佐久間:だったら自分を雇わなくてもよくない? となっちゃうよね。

Shun:そうそう、そういうのだと「じゃあやりません」と言う。

佐久間:そうやって工夫をして、やってもらえばいいのかなと思うんです。