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トークセッション(全1記事)

2020.01.23

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観光資源頼みから脱却せよ 「観光の終焉」宣言に学ぶ、居場所づくりの地方創生論

提供:株式会社アドレス

日本各地の空き家や古民家、別荘が定額で住み放題になる多拠点コリビング(Co-Living)サービス「ADDress」(運営元:株式会社アドレス)。2019年10月29日、本格リリースに伴う事業戦略発表会がnagatacho gridで開催されました。本記事では、コペンハーゲンと日本で多拠点居住を実践するバウム代表 宇田川裕喜氏、アドレス代表 佐別当隆志氏によるトークセッション「観光の終焉とこれからの地方創生」の模様をお届けします。NEW STORIES代表の太田直樹氏をモデレーターに迎え、多拠点居住プラットフォームの可能性や今後のコミュニティのあり方について語りました。

多拠点居住プラットフォームの可能性

司会者:サービスを刷新し本格スタートを切る「ADDress」が目指す、多拠点居住プラットフォームの可能性と、今後のコミュニティのあり方についてゲストをお招きして、アドレス代表の佐別当とディスカッションしていただければと思います。

トークセッションのゲストには、形にとらわれずあらゆる場のブランディングやデザインを行う、株式会社バウム代表取締役社長、宇田川裕喜さまにご登場いただきます。宇田川さんは2012年よりアメリカ・ポートランド、2016年からデンマーク・コペンハーゲンでも活動を開始し、経済価値・個人益・社会益の鼎立(ていりつ)を模索し続けています。それではさっそく、宇田川さんにご登場いただきましょう。宇田川さん、どうぞこちらまでお越しください。

(会場拍手)

宇田川さん、今日はようこそお越しいただきました。宇田川さんは佐別当さんとご面識はあるんでしょうか?

宇田川裕喜氏(以下、宇田川):先々週?

佐別当隆志氏(以下、佐別当):そうですね、宇田川さんが書いた記事に非常に共感して、今回お願いさせていただいたということですね。

司会者:じゃあもう、仲良しということで。

(会場笑)

佐別当:仲良しまではまだなっていないですね(笑)。共感はしていると思います。

宇田川:はい(笑)。

司会者:では今日は、熱いトークを繰り広げていただければと思います。それではここで、トークセッションのファシリテーターとして、株式会社ニューストーリーズ代表でありながら、総務省政策アドバイザーも務める、太田直樹さまにご登場いただきましょう。太田さん、よろしくお願いします。

(会場拍手)

太田直樹氏(以下、太田):「なんかいい感じにまとめろ」ということなんで(笑)。しっかりまとめていきたいと思います。

「関係人口」と呼ばれる地域と新しい関係を持つ存在

太田:宇田川さんが最初からいらっしゃったので、冒頭の映像とかを見てモビリティの話など、これから起こることのインプットがワーッとあったと思います。あんまり難しい話をするつもりはないんですけど、パッと出てくる感想というか、一連のADDressの正式スタートについてどう思われたでしょうか?

宇田川:僕も多拠点で働いたり、住んだりしているんですが、アメリカとデンマークに(拠点が)ありまして、ちょうど明日から行く予定です。行くときってだいたい、車や飛行機の手配、そしてアメリカは泊まるところが必要なんですけれど、Airbnbを見ながら、レンタカー比較サイトを見て、すごく時間がかかるんですね。

あとは子どもが一緒に長期間移動すると、今保育園なんですが役所の手続きでいろいろを移さないといけない。国際的なんでアレなんですけど、多拠点を想定したような社会の仕組みがないので、そこにストレスと負担がある。それが低くなっていくと、やりやすくなる人は増えていくと思います。

太田:じゃあわりとストレスがなく、なめらかな感じの印象というか感想なんですね。

宇田川:そうなりそうだなと。

太田:なるほど。あと私自身は一旦総務省で仕事をして。また今月からやってるんですけれども、地方を舞台に考えたときに、やはり"当たる”材料は観光がやっぱり(多い)。インバウンドもけっこう増えて、外国人の方が日本の津々浦々に現れるようになったというのは、ここ5~6年だと思います。

太田:さっきも佐別当さんが言っていた宇田川さんの記事「観光の終焉を宣言したコペンハーゲンの歩き方」を僕も読んだんですけれど、あの話を日本で考えたときにどう見られていらっしゃるのか。

あるいは、関係人口というのはよく「観光以上、定住未満、移住未満」と言われますけれども、それも関係してくるのか。探っていきたいなと思います。

自分なりの楽しみ方をする「一時的な市民」たち

太田:最初に「観光の終焉」について、宇田川さんからご説明いただきたいと思います。ある意味「観光の未来」だと思うんですけれども、コペンハーゲンで感じたことをご紹介いただいてもいいですか?

宇田川:コペンハーゲンで有名な観光資源でいうと人魚像、チボリ公園……出てこないですけど(笑)。

(会場笑)

(ビールメーカーの)カールスバーグとか、あとはあんまりないんですよ。パリやマドリード、バルセロナ、ベルリンに比べると北欧ってわりと地味です。それで、2017年コペンハーゲン市のDMO(Destination Management Organization)※が宣言した「観光の終焉」には、「As you know it...」という始まりで、「あなたの知るとおり観光は終焉している」とある。

※観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと。

そういう最大公約数的な、みんなが見に行きたい観光資源を活用してその地区で戦うのはもうやめようと。

あの小っちゃい人魚像は、気持ちのつながりをあんまり生めていないけれども、市民1人ひとりとの交流は、気持ちのつながりを生んでいるはずだと。DMOなので観光協会的なことをやっているんですが、観光協会は1つひとつのストーリーが伝わっていって、そういう体験をしに来る人が増えるようにしていこうという宣言です。

太田:それはさっきの渋谷の観光協会の話とちょっと似ているんですかね。

佐別当:近いと思いますし、似たようなことを実は金山淳吾(渋谷区観光協会理事長)さんから聞いていたんですよ(笑)。「世界の観光は、観光ではなくなってきている」という話を聞いた。宇田川さんの記事を読んで「まさにこれか」と思いましたし、「観光客」とは呼んでないんですよね。もう一時的市民として捉えている。

太田:「一時的な市民」というのは? 例えばコペンハーゲンに来る、どういうことをしてる人が当てはまるんですか? 観光客と一時的な市民に分けるとすると、どんな楽しみ方の違いがあるんですかね。

宇田川:行くところが違うというのは1つ。

太田:さっきの人魚像を見に行くんじゃなくて、違うところに行っている。

宇田川:中心部には観光客が集まるエリアがあるんですけれども、新しい楽しみ方やおもしろい店って、だいたい街の中心部にはなくて。

地価が高騰して、家賃が安いエリアに人がどんどん移っていく。東京も一緒ですけれども、そういうところにAirbnbで滞在する人が多く見受けられる。

太田:佐別当さんは日本の地方を回っていると思うんだけど、そのへんはピンときますか?

佐別当:すごくくるんです。もともと僕は2拠点でやりはじめたきっかけが、熱海なんですね。近くて行きやすいのと、駅前に熱海銀座商店街があって人がすごく多いんですね。15分か20分ほど歩いたところに未だに古い店がある。スマートボールだったり、スナックがあったり、路地がたくさん残っていたりと、そっちのほうが楽しいんですよね。

観光客として駅前のホテルや旅館に泊まってゆったりして帰る、という滞在の仕方とはぜんぜん違います。

それってわかりやすく観光資源を押し売りするんじゃなくて、自分なりの楽しみを見つけて体験する価値が、国境を越えて広がってきていると考えていいですかね。

「観光客」のために用意されたものは、現代の人の心を捉えない

宇田川:そうですね。DMOの宣言の中で「観光客として扱われたい人は激減している」と。「なにか見た」「写真を撮った」「美術館に行った」という、誰かが決めた大量生産的な観光的行動に満足する人が減ってきている。それよりも「自分たちの国にはない新しいビジネスを見た」「新しいかたちのお店を見た」「そこで何かを買って誰かと話した」ということが思い出に残っている人が、増えてきている。

太田:日本の地方で考えると、わかりやすい観光資源を作ろうとして補助金を使って、箱を作ったり、いろいろ作ったりやっているけど、ぜんぜんそんなのは刺さらない。これからはそういうことなんですかね。

宇田川:コペンハーゲン市の場合は「市民が最大の観光資源である」と宣言をしているんですが、そのためには市民の関わり方をどんどんアップデートしていかなきゃいけない。ヨーロッパはそれがわりと進んできていると思うんですけれども、日本はまだまだ。なかなか難しいところがあるというところですね。

太田:なるほど。ADDressのほうに話を戻すと、(申し込み数が)初期の30人ぐらいの頃から10倍どころか100倍の3,000人を超えちゃったというのは、正直びっくりしたんですけど(笑)。

佐別当:想像以上です。

太田:そういう体験を求めている人のボリュームが、すごくあるということなんですかね。

佐別当:自分の居場所を見つけられていない人って、いっぱいいるんだと思うんですよ。「隣近所に誰が住んでいるかわからない」のもそうだと思いますし、毎日一生懸命、戦わされる仕事に自分の居場所を感じられないと思うんですよね。

そうじゃなくて、地方に行くとちょっとだけコーヒーを作ったり、料理を作ったりするだけで、みんなすごく喜んでくれるわけですよね。ファーマーズマーケットをちょっと作るだけで、人が集まってきてくれるんです。自分のやったことに対する手触り感や、人とのつながりが感じられる。そういう居場所を探しているんじゃないかなと思いますね。

地域や文化との"つながり"を求めて旅をする人たち

太田:地方というかコペンハーゲンなどの受け入れ側からすると、消費者として観光に来て、場合によってはオーバーツーリズムみたいに地元に迷惑がかかるというよりは、来ている間は市民や仲間として振る舞ってほしいし(と思っている)。行く側も帰属というか、つながりを求めて来ている人が増えている。そういうことですかね。

佐別当:日本に中国人が観光に来ているじゃないですか。中国人は都市には行き尽くしてるわけですよ。とくにお金を持っている人は、プライベートジェットで来たり、車を借り切って移動したりするわけです。日本の歴史や文化を体験されている方が増えているんですよね。

中国人のお金持ちが、東海道五十三次や宿場町を歩いているんです。自分の荷物はタクシーとかハイヤーに乗せて、彼らは歩いているんですよ(笑)。日本人だとそんなところにわざわざ行かない。わざわざお金を使って、荷物だけ移動するようなことはしません。日本の城下町、宿場町を歩くこと自体が、彼らにとって日本でしか体験できないことであり、それを地域の人たちに案内してもらえるのが、中国ではできない体験。そういう目的で来ているわけですよね。

ほかにも旅行に飽きた世界中の人たちが、アメリカの先住民やアフリカの先住民と一緒にテント暮らしをするのに何十万、何百万と払っている。

先住民と一緒に暮らすなんて、お金を払っても本来できません。でも、その地域に信頼された方が一緒に案内してくれるので、(同じ生活を)体験できることに人が集まっている。そういうのもありますよね。

カギは、地方に戻った日本の若者たちが築くオープンネス

太田:観光以上の世界があるとして、その世界を実現するための課題の1つは「移動」じゃないですか。宇田川さんはポートランドやデンマークなど日本以外も見ていらっしゃると思います。移動はパートナー企業で素敵なサービスが出てくるとして(笑)、ほかに考えていかなくちゃいけない課題や認識している課題はあるんでしょうか。そこにもしかしたら事業チャンスがあるのかなと思うんですけれども。

宇田川:一番大きいのは、国内で言ってもそうですけど、「納税をどこでするか」にあると思っています。これは人口の流動性がそのまま……長くなりそうなので短めに話しますね(笑)。

(会場笑)

1月1日に東京に戻ってきていて、そこに住んでいるとしたら、その人たちは東京に納税しちゃうじゃないですか。

太田:そうですね。

宇田川:「"しちゃう”じゃないですか」という表現は怒られそうですけど(笑)。でも本来的には、それも分配されたほうがいいのかなと思ったりもしています。

太田:佐別当さんはどうですか?

佐別当:とくに日本の場合、地域側の受け入れ体制というか、オープンネスが非常に重要だと思っています。僕もポートランドに行ったときに、初めて行くにも関わらず、スーパーマーケットで農業体験のプログラムを毎週やっているんですよ。

農業体験をしたあとにみんなで一緒にバーベキューをしたり、そういう初めての人でも地域側が受け入れられるようなプログラムがたくさんある。ふらっと「今日あそこでファーマーズマーケットやって、あそこでパーティーやってるいよ」とか、そういうのがポートランドにはいっぱいあるんです。

日本は……閉鎖的ですね(笑)。なかなか地域のコミュニティに入ってくれるのかどうか(わからない)、みたいなことを言われがちなんですね。3.11の東日本大震災が起きた2011年以降は、Iターン、Uターン、地域おこし協力隊も含めて若い人たちが地域に戻りはじめたんです。

彼らは都心と地方のことを両方わかっているので、付き合い方がすごくうまい。熱海もそうですが、地域に行ったときに都心の会話がちゃんと通じて、僕らが何を求めてるいのかをちゃんと調整していただいていて、地域とつなげてくれる。そういう人たちが増えはじめたので、受け入れ体制はこれからもっと求められるんじゃないかなと思います。

太田:そのへんがさっきの「家守の学校」の話なんかともつながってくる。

佐別当:そうですね。

(以降、質疑応答)

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