大企業・ベンチャーそれぞれの立場から「会社」を考える

篠田真貴子氏(以下、篠田):みなさん、よろしくお願いします。けっこう短い時間の中で「一番欲しい会社は何か」という大テーマに挑むので、1分ずつぐらいで自己紹介をお願いしていいですか。じゃあ、酒向さんから。

酒向萌実氏(以下、酒向):初めまして、「GoodMorning」の酒向と申します。クラウドファンディングの会社で国内ナンバーワンの「CAMPFIRE」というプラットフォームがあって、その中で社会問題に特化したチームのリーダーをしていました。今年の4月に分社化して、その会社の代表をしています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

篠田:よろしくお願いします。じゃあ、對馬さんお願いします。

對馬哲平氏(以下、對馬):ソニーの中で「wena wrist」というスマートウォッチを作っています。見た目は腕時計そのもので、腕時計の時計部分とバンド部分が完全に独立していまして、このバンド部分にスマートウォッチとして必要な機能を入れているんですね。

ですので、時計部分はなんでもよくて、形見でもらった腕時計だとか、オメガやロレックスとか、そういったものをスマートウォッチにできるような商品を作っています。学生時代のアイデアを形にして、そこの事業責任者として、今事業をやっています。

篠田:今、腕にはめているのが……。

對馬:あ、そうです、そうです。

篠田:せっかくだから自慢してください。

對馬:はい、これです(笑)。

(会場笑)

篠田:見えた?

對馬:ちっちゃいので見えないですよね。

篠田:こっちの留め具にあたる部分がスマートウォッチの液晶? ……液晶じゃないのか。

對馬:有機ELです。

篠田:有機EL部分になって、ここにいろいろ表示が出る機能が付いている。

對馬:そうですね。はい。

篠田:さっき酒向さんに言っていただいたように、もともとCAMPFIREの中で、社会課題に特化したクラウドファンディング自体は、いくつかプロジェクトがあったんですよね。

酒向:そうですね。もともとCAMPFIREのサブブランドという立ち位置で、GoodMorningというブランド名で社会問題に関するプロジェクトだけ扱っていたんです。

篠田:そこの部分だけを別事業にしようと。

酒向:そうです。

篠田:なるほど。分社したのは、いつとおっしゃっていました?

酒向:今年の4月の頭です。

篠田:じゃあ、半年……。

酒向:半年前ですね。(分社化について)言われたのは2月で。

篠田:2月で、半年ちょっと。對馬さんは、この事業の責任者になられてどのくらい……?

對馬:今……わかんないです。4年目ですかね。

篠田:4年目。わかりました。ちなみに私は、だいぶもうお二人よりは歳を重ねているんですけれども、直近は「ほぼ日」という会社でCFOを10年やっていました。ここ数ヶ月は、仕事を辞めてぶらぶらしています。その前は大きい銀行や、外資系の大企業などの経験もあって、いろんな会社を見てきました。そういう立ち位置で、今日はモデレーターをさせていただきます。よろしくお願いします。

(会場拍手)

会社の中でやったほうがやりやすいことは多い

篠田:さっそくですが、一般論じゃなく、お二人のこれまでの経験を振り返っていただいて。お二人にとって会社は「グッド」か「バッド」で言ったら、どっち? 

酒向:グッド。

篠田:はい!

對馬:グッドです。

篠田:二人ともグッド。ちょっと会場にも聞いてみようかな。一般論は抜きにして、ご自身の経験だけでいいです。運が悪かったかも、良かったかもしれないですけど、グッドだと思う人?

(会場挙手)

篠田:なるほど。バッドだと思う人?

(会場挙手)

篠田:やっぱり、いますよね。わかりました。じゃあ、こちらグッドのお二人なので、それぞれ何でグッドだと思ったか、というお話をいただいていいですか。對馬さんからお願いします。

對馬:そうですね。もともと学生時代にこのアイデアを思いついて、それを形にしたいと思った。じゃあ、自分で会社を立ち上げてハードウェア・スタートアップとしてやっていけるかと考えた時に、やっぱり難しいんじゃないかなと。日本のハードウェア・スタートアップって、ほとんどないんですよね。ちゃんとできているのは、バルミューダさんぐらいだと思いますね。そんなこと言うと怒られるかもしれないんですけど(笑)。

篠田:そういう認識だったということですね。

對馬:そうですね。量産で失敗することがかなり多いと思うので。実際に海外のクラウドファンディングでも、物が届かないとかってよくあると思うんです。

100万台規模でいろんな商品を製品化してきたソニーの中で、そういうのをやるのがいいんじゃないかなと思って入りました。その時に提案して、お金を投資してくれたのが会社だったので。会社というよりも個人ですね。十時さんというソニー銀行を立ち上げた人がいて、その方にすごく感謝しています。なので、会社はグッドです。

篠田:グッド。そういう意味でいくと、その会社がいわば自分の事業アイデアの支援者になってくれたという。そういうイメージの関係性。

對馬:そうですね。会社の中でやった方がやりやすそうだな、と思ったという感じです。

篠田:実際そういう提案をしたら、実現したわけですもんね。

對馬:そうですね。はい。

篠田:わかりました。酒向さんはいかがですか?

酒向:私はチームで働けるからいいなと思っていて。風邪を引いたら休めるし、休んだらチームの人がサポートしてくれるし。あと私1ヶ月ぐらい調子が悪くて、会社を休んでいたことがあるんですけど、その時は有給休暇というありがたいものを使って、お給料をもらったまま1ヶ月間お休みもできたし。

制度が整っているから、「会社員っていいなー」と思っているのがけっこう本音で。そういう意味でグッドと言いました。

会社の仕組みが自分の思いとズレた時、それが重荷になる

篠田:お二人の今のお話って、要はその会社というところにいろんな意味での……。自分がその仕事をしていくためのバックアップ体制というか支援があって、それをある種メリットとして使えるというご経験談だったと思うんですよね。私自身もずっと会社に所属して働いてきたから、基本、会社はグッドだと思っていますけれども。

でも、そのマイナス面というのも当然経験してきていて。さっき(他のセッションで)若林さんもちらっと言っていたような。なんて言うんでしょう。“ある目的に向かってできちゃっている仕組み”があるから、それが自分の思いと違った時には、ものすごく重荷になるし、邪魔だし。

例えば、さっきの十時さんって今もう副社長ぐらい? けっこう偉い……。

對馬:CFOですね。

篠田:CFOでいらっしゃる。「それって直でやれたからいいけどさ」、という話じゃないですか。というマイナス面も一般的にはあると思うんですけど、そういうのって感じられたことはあります?

酒向:私がCAMPFIREに入ったのは、人数がまだ30人だった時なんですよ。なので、いわゆるその会社だからできないこととかって正直あんまりなくて。むしろ自分で全部やらなきゃいけなくて大変だな、と思うことのほうが多い規模のタイミングで入ったので。

篠田:その前も別の会社の勤めだった……。

酒向:別の会社にいました。そこも実はスタートアップで、まだできたばかりの若い会社だったので、社長と距離が近くて。どんなことをやってみたいのかとかも、けっこう話ができたんですよね。ただ、やりたいと言っていたプロジェクトが、上場前になったタイミングで頓挫したことが前の会社にいた時にあって。上場って難しいんだな、というのはその時に思いました(笑)。でも今の会社ではあまりないですね。

“事業の最善の選択”が会社にとって最善ではない時、どちらを取るのか

篠田:(對馬さんは)どうですか?

對馬:めちゃくちゃありますね。

篠田:ある!?

對馬:はい。ソニーって、今12万5千人の社員がいて。

篠田:ぜんぜん違う(笑)。こっちは30人なので、12万5千人というのは想像できないくらいの規模だね(笑)。

對馬:ほとんど会ったこともない人ばっかりですし、そもそも創業者とお会いしたこともないので。井深大さんや盛田さんもいないし。もう愛社精神とかも、どうやって育んだらいいのかわかんないですし。

篠田:あはは(笑)。

(会場笑)

對馬:だって、そうじゃないですか。

篠田:わかります、わかります。

對馬:だって、(会社を)創った人と会ったことがなくて、好きにはなれないじゃないですか。個人のことは好きですよ。採用してくれた人とか。でも「なんで会社を好きになるんだろう?」とかは思いますね。サイコパスではないですよ。

篠田:大丈夫、大丈夫(笑)。今おっしゃっているのは、そこのプロセスが面倒くさいということとはまた別に、そこに所属する意味というのが、自分の思っている仕事を成し遂げるための、いろんな経営資源が手に入りますということに加えて、一般的にそこに仲間がいる。その会社の看板とかに愛着があるということがありそうなんだけど、僕はないですと。

對馬:仲間とか、自分が接している人に対する愛着はあるんですけど、その会社という漠然としたものに対して、なんかその「ソニー大好き」とかはあんまりないですね。

さっきの話なんですけど、それだけ規模が大きいと、やっぱり事業にとっての最善の選択と、会社にとっての最善の選択って違うことがあるので。そうなると事業にとっての最善の選択が、会社にとって最善じゃない時に、それをさせてくれるかどうかというのは非常にポイントになっていて。

そこを最終的にすごく迷って、十時さんに相談に行った時に、十時さんはソニー銀行を立ち上げたことがあったので、もちろん同じような経験をされていて。なので、そういう人がメンターというか、偉い人の中にいたことがすごく良かったと思います。

自分を失う必要はないし、やってみて嫌なら辞めればいい

篠田:本当にそうですね。あと外から見ていて思うのは、CAMPFIREさんもそうだと思うんですけれども、たぶんお二人は結果的に会社の方針として、新規事業とか、より社会課題に力を入れていこうという時に、うまいことそこに出会えたというか。そういうのはありますよね。

酒向:ラッキーだったと思います。

對馬:ラッキーで……。

篠田:だから、会社はバッドだと思っているみなさんって、それはもしかしたら出会いの綾だという可能性もありますよね。あと、こういう場で私も時々お話しさせていただく時に、とくに若い方からいただく質問で、学生さんや若い社会人が「その会社に入るということは、自分の個を消して、いわばその大きい仕組みに迎合していくゲームである」と。

「それにすごく違和感を覚えるし、それが嫌であると。嫌であれば、選択肢としては不安定なフリーランスしかないんだろうか?」というお悩みをよく耳にするんです。お友だちとか後輩から、そういった相談を受けられたりします?

酒向:すごくします(笑)。

篠田:そういう時って、どういうスタンスでお答えになりますか?

酒向:私は酒向萌実じゃなくなった瞬間は一瞬もないし、会社がどこに行ってもあまり変わらないと思っていて。むしろ同じようにやりたいことが集まってくる。場所とかそういう資源が手に入れられるところだし、会社を去るかそこに居続けるかを選ぶ選択肢は、絶対に労働者側が、私たちが持っているから。嫌なら辞めればいいし。「会社も会社でおもしろいから1回行ってみたら?」と、私は言ってます。

篠田:なるほど。たぶん相談する側は、自分というものを失う前提という思い込みがあるんだけれども、酒向さんご自身の経験では「まったくそういうことはないよ」という。

酒向:会社に何かを取られたことはない。

篠田:ない?

酒向:はい。

12万5千人が自分のしたいことをすると、会社は成り立たない

篠田:對馬さん、いかがですか?

對馬:でも、そういう相談はもちろんありますね。やっぱり全員が全員、自分がやりたいことをして生きているわけではないと思うので。12万5千人いて、「12万5千人がやりたいことをやっています」だと、もう会社は潰れちゃうと思うので。そこは選択したくない人とか、生きる目的が何かという時に「食べていく」とかだったら、それでもいいんじゃないかなと思います。

篠田:つまり、強く思う「自分はこれがやりたい」というのは、ある人もない人もいるし、そういうのがある時期もそうでもない時期もあって。そうでもない人、そうでもない時期だと、とくに大企業って、そこまで個の主張をしなくても安定的に仕事があって、やっていけるので。経済的にも、たぶん人間関係という意味でも、それなりに得るものがあるからいいんじゃないか、ということですか。

對馬:必ずしも全員がやるべきというのは、違うんじゃないかなと思います。自分のすべてをかけて仕事ができる期間って、何十年もないじゃないですか。ライフステージに合わせて働き方が変わっていくと思うんですけど、大企業とかだと、その時に選択肢が多いんじゃないですかね。

働き方改革っていろいろあると思うんですけど、「全員5時に帰りましょう」とかは、ちょっと気持ち悪いなと思うんです。思いっきり働きたい時に思いっきり働けないというのは、寂しいですね。

篠田:それでいうと働き方改革的な波って、それぞれ職場にどう来てます?

酒向:私はもともとそんなに長時間働きたくないので。

篠田:改革済みだったんですね(笑)。

酒向:そうそう(笑)。

“事業に関わる立場”によって働き方を変えるのも一手

酒向:うちの会社って、ルールはCAMPFIRE本体と一緒なんです。CAMPFIREはずっと朝10時から夜7時までが定時だったんですよ。でも30代の人が多くて、子どもを持つ人がすごく増えてきて。そうすると、時短勤務を使う人が増えてきたんです。もともと、けっこうみんなリモートとかしていたし、朝に来ない人とか実はちらほらいて。「なぜ時短と決めた人だけ給料が下がっているんだ?」という話になって。

最近、フレックスとリモートをちゃんと導入して、時短が廃止になったんです。だから、みんな同じ給料でお家でやるとか、調整ができるようになって。それはすごくいいルール変更だな、と思いました。

篠田:いかがですか?

對馬:会社のルールはあれですけど、自分たちのチームの中では週5勤務が体調的にできなくて、個人事業主になって週3で勤務している人とかはいます。すごく自由な働き方だなって思いますね。それってこっちからすると、なんのデメリットもないのでぜんぜんオッケーですね。

篠田:なるほど、なるほど。事業の責任者として見れば、その人は週3回の稼働だけど、それに見合った仕事をしてくださってるからOKっていう。

對馬:はい、ぜんぜんOKです。その中でどこで関わるかって大事じゃないですか。その事業の中心メンバーとしてやるんだったら、厳しいですけど。例えば、技術アドバイザーとしてやるとか。どこの位置で自分が今関わってるのかなというのを意識しながら働くと、そういうのができたりするんじゃないかなと思います。