2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:京都リサーチパーク株式会社
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久能祐子氏(以下、久能):「考える」ことについて、私からも一言。私たち起業家の生活って、相当暇なときがあるんですよね。要はお金がないとできない仕事なので、お金が集まっていないときはほとんど何もすることがない(笑)。寝て待つ状況のときは、考えているわけです。
それで、あんまり外からの知識や本は入れないようにしておいて、ひたすら考えるんですけど、これがけっこう苦しくって、かなりモヤモヤしてしまうんですよ。「わからない状態に耐える」という感覚が、例えばあるときは3ヶ月、あるときは6ヶ月。もしかしたら1年とか続くわけなんです。
「もう結論が出ないな」と思って、少し寝かせておくようなときがあります。そうすると成熟してくるというんでしょうか、ある日突然、夜中の3時に「降りてきた!」という感じのことがすごくあるんですよね。
ですから今、若い方たちにおすすめしているのは、いかにそういう「暇な時間」を作るか。考える自由があることが、もしかしたら創発というか、innovationなりinventionというものに非常に重要で、私たちの若いときには、たまたまそういうことが非常に許されていたのかなと。
山極先生に言うと、いつも怒られるんですけど……「京都大学は何も教えてくれない所だった」と言うとですね、怒られちゃうんですけども(笑)。
山極壽一氏(以下、山極):(笑)。
久能:考える時間は本当に自由にあったし、私が仕事を始めてからも、基本的にお金がないときは“貧乏暇ばかり”なわけですよね。そのときはもう、「safeな場所で」とよく言うんですけど、安全な場所で、安全だと思って考える。
safetyとstableは違う、と最近ちょっと気が付きました。安定しているところでは、たぶん新しい考えが出てこない。だから「安全だけれども揺らいでいる」というところが一番、そういうのが出てくるのかなと思いますね。
松山大耕氏(以下、松山):今先生がおっしゃった「ほっとく」というか、「寝かせておく」のはすごく重要だと思っています。まさに禅問答がそうなんですよね。禅問答って、答えは絶対に教えてもらえないんです。
答えを教えるとどうなるかというと、「ふーん」ってなるからです。なんにも残らないんですよね。わからなくてもいいから、ずーっとそこを引っ張っていくと、ある日突然ポンと出てくるわけですよ。
そういう訓練というか、わからないものを安易に答えを求めずに、ちゃんと寝かしておくことは、まさに修行中や学生時代の訓練が、あとになって効いてくると思いますね。
もう1つ言うと、「考えなくてもいい時間」というか。私たちが言うところの“掃除の時間”なんですけれど、手を動かしていたら、掃除はできるじゃないですか。それって掃除をしているんですけれど、同時に頭の整理をしているんでしょうね。そうするとそのうちにポカンと出てきたり、よくお風呂に入っていて考えが浮かぶ方もいらっしゃいますけど。
そういう「考えられるんだけれども考えなくてもいい時間」も、大事にしたほうがいいんじゃないかな、という感覚がありますね。
山極:私が若いころよく言われたのは、「いかに馬鹿な問いをたくさん考えつくことができるか」。馬鹿な問いばかりではなくて、創造はやはり問いを考えることから始まるんですね。
問いの立て方がうまくなかったら、おもしろい答えは出てこないんです。それを常に、人間だけじゃなくて自然と対話をしながら考えるんですね。それが「考える」という時間であり、「考える」という力だと思います。
京都には「哲学の道」があって、西田幾多郎があそこを歩いて考えていたと言うし、(京都学派)四天王もあそこを歩いていたらしいですが。今は観光客の歩く道になっていますから無理なんですけど(笑)。
でも、「歩く」という行為は、実は考えるのにものすごく適しているんですね。さっき松山さんが「掃除をしながら」とおっしゃっていたけど、人間はまさに何かをしながら考えを巡らすことができるわけです。そういう時間を持つのは、たぶんすごく重要なことじゃないかと思います。
竹内薫氏(以下、竹内):ノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生が、年末の大掃除をしていたと。それでたまたま、ほったらかしにしていた論文を積み上げていた。ちょっと休憩して、そこの一番上の論文をたまたま手に取ったと。
すると、そこにコバルト酸リチウムの論文があって、「これが正極(プラス極)に使える材料じゃん!」と気付かれたというお話をされているんですけど。それも掃除、時間、そしておそらくserendipity(思わぬものを偶然に発見する才能)というものと関係している感じがしますね。
山極:私の先生の伊谷純一郎が『自然がほほ笑むとき』という本を書いているんですけど、これは今おっしゃったことと一緒なんです。ずーっと考え続けて、頭の中で問いや答えをいろいろ巡らしながら、でも、その現象に出会ったことがない。でも、いつかある瞬間、降ってくるんですね。目の前に現れる瞬間がある。
科学者というのは、そういうものを、一生のうちに何回か味わうことができる。それが至福の瞬間だと言っています。それが例えばノーベル賞につながった吉野先生の場合もあるだろうし、自分の考え方ががらっと変わるような宗教的霊感が降ってくる場合もあるだろうし。たぶん人間は、そういうものを出会いとして持っているんだと思いますね。
おそらく久能さんの場合も、そういうふうに創発が降ってきたような瞬間があって、それが大きな成功に結びついたと思うんですけど。それはどうやって得られるのかと言うと、すごく難しいんですけど……なんて言うのかな。
さっき言ったように、私みたいなフィールドワーカーの場合は、ずっと自然と対話をし続けて、疑問を頭の中でくるくる回転させながら、満足せずに待っていることだと思います。
竹内:僕、たまたま小さいフリースクールをやっているんですけれども。そこで小学生に算数を教えています。そのときに、僕は基本的に答えは教えないんですね。例えばですけど、中学生に教えているときもあります。そうすると、二次方程式の解の公式は必ず教わるわけですが、どうも最近受験のせいで、みんなそれを覚えて使うんですよ。
いやそうじゃないよ、と。それはおもしろくないよと。そうじゃなくて、人類で初めてその公式を発見した人がいるんだから、その人は非常に楽しかったはずだよ、と。「だからみんな考えてみようよ」と言って、なるべく公式を再発見するところに行ってもらおうとするんですね。
だから、たぶん学校の教育などでも、そういったことはけっこう大切かなと思っていて。それが社会に出たときに、創発するクセと言うとおかしいですが、やはりそういう考え方につながるのかなと考えているんですね。島本様、ここまでいかがでしょう。何か、もしありましたら。
島本久美子氏(以下、島本):私の場合はどちらかというと、人のマネジメントという面でいつも考えているときに、先ほど久能さんがおっしゃっていた「いかにsafe placeにするか」。safe placeじゃないと、例えば安心して自分の意見が言えない。その意見を言ってくれないと、いくらディスカッションしてももう一つ発展性がない。そういった意味でのsafetyとstabilityの違いは、非常に共感したんですけれども。
あともう1つ、おもしろくないといけない。先ほど山極先生のおっしゃっていた「共感」という部分にもつながっていくと思うんですけれども、やはりおもしろいものをおもしろく感じるという段階でも、おそらく共感しているんだと思うんです。
この共感というものに関して、私の場合は広告などに使うコンテンツを提供している会社として、やはり共感が得られるコンテンツはどういうコンテンツなのか。感情移入をしてしまうコンテンツ、そういったパワフルなビジュアルのコンテンツをどうすれば集められるか。そういった部分にもちょっと共通しているところがあるのかしら、というふうに思って聞かせていただきました。
竹内:松山さんにちょっと質問をさせていただきたいんですが。「無意識の意識」ということをおっしゃっていますが、あれはどういう意味なんですか?
松山:「無意識の意識」は、私が修行中に師匠に言われたことで。12月1日から12月8日の1週間、寝ずに坐禅するという、一番厳しい修行があるんですよ。「何のためにやるんですか」と聞いたんですね。そのときに「無意識の意識」であると。
ふだん生活していると、意識のレベルで自分は変えることができるけれども、1週間寝ないとなると、この意識のレベルがガッと下がってくると。やってみると……やる方はほとんどいないと思いますが(笑)、起きているか寝ているかもわからないと。生きているか死んでいるかもわからないと。そうすると、全身が無意識のレベルになってくるんですよ。
そうすると、ふだん感じなかったようなことが実は感じられるようになってきて。初日が一番眠たいんです。3~4日目になってくると意識が朦朧となってきて、むしろ5〜6日目は眠くなくなるんです。その代わりめちゃくちゃ感覚が鋭くなるんです。ふだん聞こえない音とか、風のそよぎを感じたりとか。
そういう意味では、本当にふだん感じているんだろうけれども、意識ができなかったところがすごくあらわになってきて。そういうものが本当の人間の感性に通じるんじゃないかな、という気はしますけどね。
竹内:創発の瞬間がどういうものかというのは、私などはあまりわからないわけですけれども。学生時代もそうですが、数学の問題を解いていて何かがわかった瞬間というのはありますよね。あるいはいろんな子どもたちと接していて、子どもが何か発見したときって、やっぱりこちらもすごくうれしいじゃないですか。
それで、久能様がおっしゃっている「怖くない」とか「見えている感覚」というのを、もうちょっと教えていただきたいんですけど(笑)。
久能:なかなかシェアしにくい感覚かな、という気はするんですけれども(笑)。ふもとから山の上を見ている感覚なんですが、いつもは見えていないわけですね。ふもとにはいるんですけれども、見えなくてモヤモヤしたまま寝たり起きたりしている状態で。
それがある日突然、夜中の3時ぐらいに「これじゃないかな……?」という感じで、ピントが合う感じで山が見えてくる。山というのは比喩で、自分の行くべき道とか、行ける場所が見えてくるんです。
そこが見えたときに、登り始めたり跳び始めたりするわけなんですけども、そのあとはもうほとんど考えていないんです。考える次のポイントは、登り始めると大抵ゴールって見えなくなっちゃうんですよ。サミット(山頂)は見えないんですよ。
見えない状態で行ったり、あるいは雨が降ったり霧になったりする感覚があるんですが、そのときにいかにして止まって、ふもとから見た風景を思い出すかがとても大事だなと思っています。
その繰り返しで最後まで行けることがよくありますし。行けないときはもともとhypothesis(仮説)が違って、山は見えたかのように見えたけれども、本来的には幻だったと思って、さっさとふもとに降りてまた違うことをやる、という感じです(笑)。
竹内:こうやってうかがっていると、学問、それから起業の世界、そして宗教の世界で、創発の瞬間って何か人間の心理の中で共通の部分がありますね。これは非常におもしろいですね。
さぁ、ここから少しテーマを変えまして。島本様のほうから資料といいますか、映像を提供していただいて、「多様性」というテーマでちょっと考えてみたいと思います。創発には一体どういうものが必要なのか、といった枠組みでお付き合いください。
島本久美子氏(以下、島本):そうですね。私はこのテーマを聞いたときに、私がやっている仕事……。ゲッティイメージズは、広告やメディアに報道写真や広告で使うイメージ写真などを、世界で最も多く提供している会社なんですけれども。
それとどういうふうにつなげられるだろうかと考えたときに、ちょうどゲッティイメージズがグローバルでdiversityとinclusionを推進していく委員会を作ることになりまして。私が最初に立ち上げの委員長をやっていました。
そのときにもう単純な疑問で、「なぜ会社が多様性を薦めなければいけないんだろうか?」と考えました。いろいろと(本を)読んでいく中で、1つはinnovationがうまくいっていて伸びている会社は、かなりdiversityとinclusionが進んでいる会社であるということを知り。
「なるほど、このようにinnovationにとって多様性は重要。では、なぜだろう?」と考えて(本を)読んでいたときに、多様な価値観や考え方を持つ人たちと集まって会議をする場合、前提から確かめなければいけない。
日本人同士が“あうんの呼吸”でやるのと、真逆だと思うんですけれども、その前提を確かめあう段階において、けっこうinnovationが起きる。それを読んで「なるほど」と思って。それで今回、多様性がどのようにinnovationに影響するかをみなさんにお伺いしたいなと思っていました。
島本:その中でもう1つ、ゲッティイメージズはそういう意味で、一番多くのビジュアルコンテンツをメディアに提供しているので、やはりメディアから受けるインパクトは大きいです。価値観の形成にものすごくインパクトを与えるので、「コンテンツを提供している会社が(率先して)多様なコンテンツを提供する必要性があるね」という責任感も持って、社内で進めてきたんですけれども。
例えばこちらの写真。(注:多様な国籍・年齢の社員がオフィスの片隅で楽しそうに話し合いをしている様子。手前には義足の女性がいる。)これは、非常に多様性に富んだ会議風景だと思うんですけれども、年齢もさまざま、人種もさまざま。
あと、障害を持っている方も入っている。これがナチュラルな感じで、このような多様な人たちが一緒に職場にいる。こういうビジュアルをもうちょっと増やしていかなければいけないというような思いで始めたんですけれども。
次のスライド、お願いします。ビジュアルのトレンドといっても、なかなかピンとこないと思いますので、ちょっと1つご紹介したいと思います。
これは世界で『女性』(というタグ)で最も売れた写真なんですね。一番最初の2007年を見ると、まだ非常に美しい、いわゆる典型的なモデル、それもカメラ目線の写真。まだ2007年頃までは、本当に典型的な美人なモデルが非常によく使われていたんですね。
それがだんだんカメラ目線じゃなくなってきて、「この人は何をしているんだろうか?」という、どちらかというとモデル自身よりも、「モデルが何をしているか」が注目されるようになって。
この2015年の写真は、どちらかというと働いて活躍していらっしゃる女性。2017年になるとモデルがどうでもよくなって(笑)。結局、何をしているかがメインになっているんですね。
それが昨年から多様性がものすごくトレンドになってきていまして、このモデルは年齢も高い、ラテン系の女性。それで筋肉がムキムキという、非常に珍しい多様なものを表現している女性だと思うんですけれども。これが昨年のベストセラーになったんですね。
島本:次にいきますと、ちなみにこれは2007年に『お父さん』で一番よく売れた写真(注:父親と息子が庭でラグビーボールを取り合う写真)。12年前はまだ、お父さんが息子と庭で球技をやっていると。
こういう写真が、最近になりますと、次の写真で(注:台所で父親と娘がお菓子作りをしている様子)。アジア人の親子が、お父さんと一緒に料理をしている。これがベストセラーになってきているんですね。このように、実際の写真を見ると、すごく変わってきているというのが、おわかりになると思うんですけれども。
次にいきますと、これは、弊社でも非常にびっくりしたのが、LGBTQを広告にいつの段階で紹介していくか。ゲッティイメージズでもけっこう揃えていたんですけれども、やっぱりなかなか売れなかったんですね。
IKEAが一番最初、1995年にゲイのカップルの広告を出したんですけれども、それからなかなか、あんまり進んでこなかったのが、去年、『家族』で最もよく売れた写真のトップ10にこの写真が入ったんです。
ゲイのカップルと赤ちゃん、子どもの家族の写真です。これが『家族』の写真のトップ10で上がってきたので、社内的に「これはもう来た!」と思いまして。ますます力を入れているんですけれども。
あとは、次に力を入れているのは、やはり障害者の方の写真。人口の2割の方はなにかの障害を持っていらっしゃるということなんですけれども、メディアや広告では、あまり見ることがない。
最近はパラリンピックということで、スポーツは注目されてきていますけれども、まだまだ普通に、例えば家族の風景の中でこのような障害を持っていらっしゃる方が出てくることはあまりない。
島本:これも変えていきたいということで、今はずいぶん障害者の写真の見直しをしています。やはりいかにも障害を持っている、車椅子の方というのではなく、やはり本当に人口の2割の方が(なにかの障害を持って)いらっしゃることに、ほとんど気が付いていない人が多いと思うので。
そういった意味でさりげない、リアルなものを用意しようとしています。あとは実際に働いていらっしゃるところとか。
このように楽しんでビールを飲んでいるところ(注:義足の男性たちがリビングで友人とビールを楽しむ様子)とか。このようなものに今、力を入れているんですけれども。今後、やはり日本においても多様なコンテンツが、広告においても徐々に使われていくようになっていくと思っています。
次に、私の頭の中で、diversityとinclusionがけっこううまくいった日本のケースと考えたときに、このラグビーの日本代表チームが思い浮かんだんですけれども。
これは多様なメンバーだけじゃなくて、ワンチームを目指している面で、inclusionも非常にうまくいって、仲がいいような感じもすごくします。おそらく先ほどのセーフな環境でいろいろな意見も言いやすい、そういったinclusionも進んでいるケースではないかなと思いました。
京都リサーチパーク株式会社
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