福岡はエンジニアにとって働きやすい環境が整っている

川野:次の質問は、「福岡、九州はエンジニアにとって働きやすい?」

落合:そうですね。実は、僕は(福岡が)ちょっと賑やかになってきちゃったなと思っているんですよね。僕は東京から福岡にあえて移ってきたので、静かなほうが好きなんです。だから僕はもっと田舎に行きたいなと思っています。

川野:賑やかなのは、どこが問題なんですか?

落合:人間は、集中しているときに邪魔されると、そこからまた集中力を上げるのにすごく時間がかかるんですよね。集中が続いている時間を本当に大事にしたいんです。

僕は子どもを育てているから、すぐ集中を切られてしまうのですが、子どもに加えてほかの人も……となると、本当に集中できないじゃないですか。それを考慮すると、静寂の時間がどのくらい続くかは、すごく重要視しています。

川野:なるほど。黒田さんはどうですか?

黒田:今はたぶん、国内でいうと東京に次ぐくらい環境がいいと思っています。エンジニアもそうですし、有名な企業もIT系のベンチャー企業もたくさん集まってきています。コミュニティもすごく増えてきていて、行政のバックアップもあります。若くて賑やかな感じで、すごく街の人気も高いので、本当にこんな最高の環境はないんじゃないかなと思っています。

川野:今日の登壇者はみんな、東京に行ったことがあるんだね。(参加者の中で)東京に行ったことがある人は、いる?

(会場挙手)

川野:あ、けっこういるな。いる!

落合:すごいな。

川野:ディズニーランドは、なしです。

(会場笑)

川野:あ、その区別はつくってこと?

黒田:東京に行ったことがある子が多いなら、具体的に話したほうがいいですかね。

働きやすい環境づくりのコツは「誰と一緒にやるか」

川野:いいですね。「そもそも働きやすいってなんなんだろう」という意見もあります。

黒田:やっぱり東京に行ったらわかると思います。具体的な話をすると、東京はめちゃくちゃ人が多いじゃないですか(笑)。福岡に住んでいる人に比べたら、勤務地に近いところ、都心には住めないから、けっこう遠いところに住んでいるんです。

そこから毎日、満員電車に揺られながら通勤しているわけですよ。その毎日の1時間、2時間の通勤時間は、すごくつらいですし、生産的でもありません。

でも福岡に来れば、そういうことに苛まれることもありません。さきほど落合さんが言ったように、集中して物事に取り組む時間がエンジニアにとって重要ということであれば、福岡のほうがいいですね。

川野:次に「エンジニアと起業」というテーマに行きたいと思います。今、スタートアップという単語はよく聞きます? ベンチャーと言ったほうがピンと来るかな。

「起業する」という言葉は、ラーメン屋を始めるときにも使いますよね。実際にコードを書かなくても、もちろんモノは作れるんだけど、エンジニアと起業、もしくはさっきの仲間の話とか、すごくおもしろいだろうなと思っています。これをどう掘り下げましょうか(笑)。

エンジニア……そうね。僕の話をすると、もともと大学1年生くらいのときにブルースバンドをやっていたのですが、そのバンドのドラムがエンジニアだったんです。すごくマニアックで優秀な人でした。僕はそのエンジニアに誘われて、一緒に会社をやるようになったんです。それが、この業界に入るきっかけになりました。

今、「高校はどこですか?」「大学はどこに行ってますか?」といった質問もちらっと見えました。僕は病院の経営を学ぶ大学に通っていました。まったくエンジニアに関係ないし、なんなら僕はその当時ガラケー持ちだった気がします。

何が言いたいかというと、“誰と一緒にいるか”が肝心かなと思っています。やっぱりどんなに好きなことをやっていても、1人で熱中できるのは限りがあって、部活動と同じで「誰かと一緒だからやれる」ということがすごく重要かなと思います。その観点では、そのドラマーのエンジニアと向き合うことによって、今の僕があると思っていて、すごく感謝しています。

これからのイノベーションは、プログラミングが「背骨」になる

川野:落合君はどう?

落合:僕はエンジニアなんですが、ほとんどの時間は、経済学と法学の勉強を現実世界で適応することに使っているんですよ。それは、僕の中ではエンジニアリングなんです。

8年くらい前、僕たちが大学生だったころは、「プログラミングをすること」が中心にありました。それで社会の課題をどう解決するかと考えたときに、プログラマーが起業するという(流れがあった)感じなんです。今の時代は、世の中のすべてのできごとに、コンピュータにおける情報処理が絡んできてしまっているため、プログラミングは「背骨」なんですよ。

川野:「背骨」ですか。

落合:こんな言い方をするとハードルが高くなってしまうのですが、これからは、プログラミングはわりと当たり前に持っている技術のようになっていってしまう。もしかしたら、「エンジニアと起業」という問いの立て方は、8年前くらいの問いの立て方なのかもしれないです(笑)。

例えばブロックチェーンを使って、自分が持っている土地を国が買い取るとします。でも買い取るといっても、今はお金は渡さずに、「あなたの土地の時価評価に10パーセント上乗せした金額で毎月いくら振り込みますよ」と国がトークンを発行してくれるようにするシステムは、法律も絡むし、すごく大変そうじゃないですか。

川野:トークンって?

落合:トークンは、この場合だとデジタルな会員証や証明書と思ってもらえれば。トークンって英語だと“文字列”という意味で、デジタルのものです。

川野:今の話は、起業には、プログラミングとかエンジニアとかだけでなく、現実のいろんなことが関わっているということですか?

落合:そうですね。本気でブロックチェーンで価値あることをしようと思うと、どうしても国や国際秩序みたいなところが必要になってきます(笑)。

川野:国際秩序!(笑)。

落合:これはギャグじゃなくて、本当にそこを勉強しなくてはならない。ブロックチェーンというものは「今そこで歪みが起きているところに、これを導入すればうまくいくんだ」といった、すごくアクロバティックなことをするんです。

どんな権力者にも突破できないシステムが構築できる

川野:「ブロックチェーンって何ですか?」という質問がありそうですね。この中でブロックチェーンって聞いたことのある人はいますか? やはり、いないですか。

落合:ブロックチェーンは本当に簡単です。例えば僕が銀行を運営しています。「僕の銀行にあなたの給料を入れてください」と言って、銀行にみんなのお金を入れてもらいます。その場合、僕がすごく悪い人間だとしたら、毎月のみんなの給料を僕の口座にこっそり移動させたりできちゃうんですよ。嫌ですよね。

でも、ブロックチェーンというシステムは、1つの銀行が管理するのではない。例えば、3つの別の銀行が同じデータを常に管理していて、1社が悪いことをしても、他の2社が「おい、お前データを変えただろ!」と監視できちゃうシステム。だから勝手にデータを変えることができないんです。

ごめんね、この話はちょっと長くなります。

川野:ぜんぜんいいですよ。

落合:今、銀行の例で話しました。ちなみにビットコインは、コンピュータを持っていたら誰でも“銀行になれる”システムです。誰でもなれるということは、銀行のサーバーの代わりになる人たちが、常に増えたり減ったりしているんですね。

ビットコインに参加している銀行が1万社いるとして、例えば僕がビットコイン銀行だと思ってください。僕が「ビットコイン銀行にお金を移動させる」というデータを書き込んだら、すべての銀行にそれが共有されるまでは、データが反映されないんですよ。だからビットコインというのは、とてもスピードが遅いシステムなんです。

PayPayでお金を払ったらすぐに決済されますけど、ビットコインで払ったら10分かかるんですよ。きちんとやるなら、60分くらいかかってしまうんです。

すごくスピードの遅いシステムで、それを少しでも速くしようと、みんながんばっています。このスピードの遅さと引き換えに、例えばアメリカのトランプ大統領くらいの権限を持っている権力者ですら、残高を書き換えることができない。そういうシステムができているのが、ブロックチェーンの概要ですね。

エンジニアが起業しやすい理由

黒田:僕も起業したから言えることなのですが、エンジニアが起業しやすい理由って、まずお金があまりかからないんですよ。みんなパソコンさえあれば起業できちゃう。しかも、少人数でも世の中にものすごくインパクトを与えられる。そこが大きいかなと思います。

僕の場合は空中分解しちゃったんだけれども、そこで得た経験は、ものすごく大きかったです。ぜひみなさんも起業する機会があれば、起業してみてください(笑)。起業をお勧めしたいです!

川野:どうですか? 起業したいと思ったことはありますか?

杉本:ありますね。エンジニアをやっていると、「みんなが困っていることを自分のエンジニアリング能力で解決できないか」、いわゆる問題解決をしようとなってきます。「こういうシステムを使ったら、こういうプラットフォームを作れば、こういうアプリケーションを作れば、解決できるんじゃないか」と考えると、それに対して起業したいなと思ったりしますね。

川野:起業しようという話になった時に、自分みたいなタイプが3人いたらいいのにと言う人と、自分の持ってないものを持っている人と一緒に起業したいと言う人に分かれるよね。

杉本:私の考えは、自分にないものを持っていて、自分の弱点を補ってくれる人と一緒にチームを作るのが、一番成り立つのではないかと思っています。例えばAppleは、物を売るのが上手なスティーブ・ジョブズと、パソコンを作るのが上手なスティーブ・ウォズニアックという2人がいたからこそ、あそこまで有名な会社になりましたよね。

自営業・ベンチャー・スタートアップの違い

川野:ありがとうございます。次は、「そもそも起業って何ですか?」と。けっこういい質問ですよね。

落合:起業は、すぐそこの法務局に行って、19万円くらい払えばできます。

(会場笑)

川野:そうですね。切手も2枚いります。

落合:それだけです!(笑)

まじめに話すと、起業は大きく分けると、ベンチャーやスタートアップと呼ばれているような会社を作るやり方と、いわゆる自営業やスモールビジネスなどと呼ばれているような事業をやるという、2つのやり方があります。

まず一番簡単な自営業者から。これは、自分の家の前でおにぎりを握って売っても、自営業者になれます。仕入れがいくらで、売上でいくらでという計算をすれば、簡単にできるんです。もちろんおにぎりを本当に売りたかったら、ちゃんと食品衛生法をクリアした店舗を構える必要がありますが。

なぜそのような決まりがあるかというと、みんなが好き勝手にやったら食中毒を起こすような食べ物を売る人が出てきて、ある程度の基準は守ってくれないと困るからです。それでも自営業は、けっこう簡単にできます。

そこからちょっとステップアップすると、ベンチャーですね。ベンチャーは「僕はこれぐらいの売上を立てていきます。仕入れ代はこのくらいです」みたいな事業計画書を出すと、国が「がんばれ」とお金を貸してくれたりするんですよね。そうして会社をちょっとずつ大きくしていく。僕の中でベンチャーは、おにぎりを売るよりは、少しスピードが速くなるイメージです。

スタートアップはもっと派手なイメージ。会社というものを登記して作りますよね。その際に、最初に会社を起業する人が、出資金というお金をポンっと入れるんです。それが意味するのは、その人が会社の株を100パーセント持っているということです。

そして、投資家に「僕の会社の株の値段は、今は100万円ポッキリだけど、将来的には1億円になるから」という話をして、投資家が株と引き換えにお金を出してくれたりする。こうした仕組みをうまく活用して、自分ではまだお金を持っていなくても、ビジネスのために必要なお金を世の中から調達することで、それまでより速いスピードで事業ができるようになります。