2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
リンクウィズ株式会社 代表取締役CEO 吹野豪氏・取締役CTO 鈴木紀克氏・取締役COO 村松弘隆氏(全1記事)
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藤岡清高氏(以下、藤岡):本日は吹野様、鈴木様、村松様のお三方からお話を伺います。まず、みなさんはどのような経緯で出会い、リンクウィズを創業されたのでしょうか?
吹野豪氏(以下、吹野):僕は以前に在籍していたパルステック工業で、インテリジェントロボットシステムの開発プロジェクトに取り組んだのですが、3人ともそのプロジェクトメンバーでした。
残念ながら、当時は失敗に終わりました。しかし、その後のCPUやハード性能の飛躍的な進化を目にし、「当時のメンバーが再び集まれば今度こそ実現できるのではないか」と思ったことがきっかけで、この3人で創業しました。
鈴木は前職のメーカーで実際にロボットを使っており、村松は前職が自動車測定器メーカーだったので、自動車業界や測定器の知見があります。3人それぞれまったく違った経歴だったことが今の商品開発にうまく活きています。
鈴木紀克氏(以下、鈴木):自分が創業メンバーになるとは想像もしていませんでしたが、ダメになったプロジェクトがすごくおもしろいものだったので、「あれをもう一度できるならぜひやってみたい、やれる機会は今しかない」と考えて踏み切りました。
村松弘隆氏(以下、村松):前職の会社にずっといることと再チャレンジすること、どちらがおもしろく、どちらが後悔しないかと考え、最終的にチャレンジすることを選びました。
藤岡:前回のインタビュー(2017年9月)から2年ほど経ちました。あの前後にINCJ(産業革新投資機構)からの資金調達をされて、さらに2019年6月にはシリーズ Bの総額9億円の資金調達を行いました。大きく成長されましたが、この2年の変化についてお聞かせください。
吹野:内部の変化で言えば、当時4〜5名だった社員が現在25名になりました。そして、もっとも大きいのは、当時はプロトタイプだった製品を、正式なバージョン付きのプロダクトとしてリリースしたことだと思います。
社員数が増え、R&Dにリソースをしっかり振り向けることができるようになったことで、これが可能になりました。お客様からのオーダーに対して精一杯仕事をすることも大切です。しかし、それに満足せず、弊社のミッションでもある「お客様の働き方ごと革新できるような、まったく新しいプロダクトを開発しよう」という思いが実現できるようになったことが、一番大きな変化です。
鈴木:「自社として製品を開発していこう」というマインドは、たしかに強くなりました。お客様にフィットするような製品を、試行錯誤しながら作り上げていく。社員全員で、そのための前向きな会話が交わせるようになったと感じます。
村松:営業面についてもずいぶん変わっています。2年前は営業マンが1人もおらず、僕と吹野が外に出ていたのですが、現在は8人ほどいるので以前の4〜5倍のスピードでPDCAが回せるようになりました。
藤岡:現在は「L-Robot」と「L-Qualify」というプロダクトがあり、売上や収益はかなり増えたのではないでしょうか。
吹野:そうですね。現在は売上の7割がプロダクトで、主にL-Qualifyからの売上になります。開発に時間がかかりましたが、現在は販売に集中できており、収益状況はかなり改善しました。
藤岡:現状に至るまで、開発や販売にあたってさまざまな壁があったと思います。とくに伝統的な技術を扱う業界において、新規企業のプロダクトを導入するのはお客様にとってもハードルの高い話だと思います。経営陣のみなさんがどのようにそれを乗り越えてこられたか、お聞かせください。
鈴木:プロダクト開発については、当初考えていたL-Qualifyのバージョン1は使用方法が複雑でした。「将来、中小企業に使ってもらいたい」という開発コンセプトにそぐわなかったこともあり、使用されているお客様からいただいた意見などを盛り込んで、バージョン2の開発に着手しました。メジャーバージョンごと作り直す作業は非常に大変ではありますが、お客様からの評判も良くなり、使いやすさ・シンプルさを保つことは大切だと改めて感じています。
藤岡:最初のお客様を捕まえるのはとても大変だと思うのですが、初期段階ではどのような方が導入してくれたのでしょうか。
吹野:前例のないものを導入するのは勇気のいることですし、通常のように製品の売り込みをしていても、買っていただけませんでした。
僕としては、ここ2年ほどロボットセミナーなどで、プロダクトの機能の説明をせずにリンクウィズの目指す将来像を話しています。「ロボットが助けることにより職人さんがより輝けるという新しいものづくりのかたちを5年、7年というスパンで目指しています」と話しているのですが、こうした目指す姿に共感いただき、講演後に名刺交換をした社長の方が導入してくださることが多いです。
当然プロダクトとして完璧だとは考えていませんから、「こういう夢を描いているので、一緒に研究開発してもらえませんか」とお話ししています。中小規模の企業で当社製品の導入実績が多いのは、彼らの人材不足などの悩みに寄り添って解決したいという弊社のビジョンに共感して導入していただいた結果だと考えています。
松村:営業活動のやり方は、かなり見直しました。プロダクトの良さをアピールするだけでなく、お客様の視点に立って、費用対効果や社内稟議を出してどうやって説得していくかまでをフォローアップできるようにしたら、手応えが変わってきた気がします。
藤岡:中小企業だけでなく、最近ではパナソニック社やミツトヨ社といった大企業と仕事をされる機会も増えているようですが、そこまで信頼を得るには大きな壁があったのではないでしょうか?
松村:ここは、営業部門がベンチャー企業の辛さを最前線で味わってきたところです。モノがよくても信用部分で他社に負けてしまうケースが多く、大変悔しい思いをしてきました。しかし、パナソニック社との共同事業開発発表をきっかけに、風向きが変わりました。ありがたく感じると同時に、大きなチャンスだと思っています。
藤岡:今年2019年6月の、パナソニック社との共同事業開発契約締結のプレスリリースでの、パナソニック代表取締役の樋口さんと吹野さんの写真、ある意味衝撃的でした。樋口さんの目に留まるのがすごいことですよね。
吹野:実は、初めてパナソニック社にプレゼンしたのはずいぶん前のことで、その後しばらく休眠状態となっていました。しかし、2018年8月にパナソニック社内で展示をさせていただいた際に樋口さんからお声がけいただき、そこからの急展開でした。トップのコミットメントで組織がここまで動くのかと、思い知りました。
藤岡:それだけの大企業が相手だと、実際の契約ではいろいろと大変なこともあったのではないですか?
吹野:そうですね、トップコミットメントがあっても、実際に対応するのは法務部ですから。条件のすり合わせには苦労した部分もあります。しかし、お互いに1つのプロダクトを作りたいという共感や熱意が、僕たちだけでなく現場のエンジニア同士にもあり、最終的にはかなり異例なかたちでの契約をしていただきました。
藤岡:大きな成長を遂げた2年だったと思いますが、それを支えた人材についてお伺いしたいと思います。以前は人集めにも苦しまれたことと思いますが、現在の社員規模にまで増えたのは何が要因でしょうか?
吹野:今日来ていただいているこのオフィス(2019年5月に現在の社屋へ移転)のオープンな雰囲気を気に入って、来てくれた社員もいます。オープンなオフィスは働き方もオープンにしますから。
また、この会社のミッションに共感して来てくれたメンバーも多いです。今後働き手が少なくなる中で、これまで人が行っていたことをロボットが手助けし、空いたリソースをよりよいものづくりに使おうという「人を助けるロボティクス」という考え方に共感してもらえたのかなと自負しています。
藤岡:社員は浜松出身者以外も多いのですか?
吹野:最近採用した社員では、浜松出身者はほぼいません。実は、採用面談後にドライブに連れて行くことも多いです。浜松は5分で海まで行けて、30分走れば山もあり、ワークライフバランスという意味ではとてもよい環境です。満員電車で通勤するより、自分がやりたいことにフォーカスできる場所だと知ってもらう、いいチャンスだと思っています。
藤岡:豊かな自然に囲まれているのに、東京にも大阪にも1時間半ほどでアクセスできる場所は、他にあまりないですよね。
吹野:浜松は本当に恵まれた場所だと思います。自分の人脈もありましたが、創業当初はオフィスを間借りさせていただいたり、ロボットを置く場所を無償で提供していただいたりと、周囲のいろいろな方に本当に助けていただきました。
藤岡:一気に会社が大きくなったことで、社内の変化などもあったのではないでしょうか?
吹野:組織が大きくなり活気が出てきたと同時に、創業当時と比較すると、目標に向かってみんなでステップを踏むという一体感がなくなってきた感覚がありました。
社員が20名になった頃、作ったモジュールがうまく挙動しないときがあり、よくよくヒアリングしてみたら「チームリーダーから来た仕様書をコーディングしています」と。合理性を優先し、「お客様の何を解決するためにやっているのか」を考えることなく仕事できる状況にしていたことに気づき、反省しました。
お客様やエンジニアも含めて、みんなで対話する必要性に気がつきました。そこで、月に1回ほど社員全員で集まり、会社のミッションや解決したい事柄を共有する機会を設けることにしたのですが、これをきっかけにチームとしてうまく動き始めた気がします。
鈴木:開発部門では早い段階から外国人の採用を進めてきましたが、当初はうまく伝えられない部分もあり、進捗管理などがうまくいかないことがありました。そこで「Redmine(レッドマイン)」というツールを導入し、1つ1つの業務をチケットで管理するなどして予定工数や進捗率などを「見える化」したのが、ここ最近での大きな変化です。
吹野:また、これは現在も悩んでいるところです。当初、僕たちはトッププレイヤーを採用していましたが、人数が増えるとマネージャーが必要になります。優秀なプレイヤー=いいマネージャーというわけではなく、リードエンジニアがマネージャーになると大変ストレスの溜まるメンバーもいるわけです。適材適所とは、こういうことだと感じています。
各個人のキャリアパスなども考えるようになり、OKRや1on1のミーティングなどを導入し、社員としっかり話す機会を増やすようにしています。
鈴木:プログラマーの定期的なスキルチェックもしています。ロボットエンジニアの方も同様の内容を検討しています。「どの人に何のスキルが足りないか」を見極めた上で適切な教育を行っていきたいですし、周囲のメンバーで補い合うためにも、見える化は必要かと思っています。
藤岡:OKRは最先端の指標だと思いますが、そういったノウハウはどのように学ばれているのでしょうか。
吹野:基本は僕が本を読み、あとは関係先の会社のHRの方に聞いたりしています。評価指標の設定の仕方や、導入した際の失敗例などをいろいろ聞き、あとは自分の会社にフィットさせていくというかたちで進めています。
藤岡:大きく飛躍した2年だったと思いますが、今後に向けて経営者としてご自身の課題についてどのようにお考えですか?
吹野:今後も僕たちの製品が世の中で愛されていくためには、当然IPOを目指して活動していく必要があり、現在はそこに向けてクリーンな経営を徹底したいと考えています。目先の数字を良く見せようと思えばできますが、そうではなく、信念を曲げないことこそが重要だと思っています。
そこにも繋がってくるのですが、“The Simplicity First” を当社の決定規範にしています。経営から開発まであらゆるレベルにおいて、2つのコンフリクトする内容があったとしたら、よりシンプルなほうを選択していこうという考えです。
当社は社員の35パーセントほどが外国籍ですが、これは国境・文化を超えて共有できる考え方でもあります。彼らも含めてチームとして機能させるためにも、「どちらがシンプルか」という判断基準は理に叶っており、うまくいっている感覚があります。
藤岡:これからの展望をお聞かせください。
吹野:今後は海外展開を考えています。シリーズBの資金調達時のプレスリリースでもお伝えした内容ですが、今年は中国・北米・欧州に拠点を立ち上げる予定です。
藤岡:多くの日本企業は、まず国内で足場固めをしてから海外展開をします。しかしこのタイミングで海外進出をされるのは、どういった背景があるのでしょうか。
吹野:もともと、僕たちの会社はグローバルに通用するものづくりを日本から出していきたいと考えていましたので、その第一歩です。国内でPoC(概念実証)を回すことができたので、今度はその市場を海外に拡大しようということです。
藤岡:海外の見込み客はすでにいらっしゃるのでしょうか?
吹野:はい。ホームページからの問い合わせのうち、20パーセント程度が海外のお客様からです。欧米・アジアなど各地からお問い合わせいただくのですが、20名ほどのスタートアップ企業が日本からサポートするのは難しい。そこは、パナソニック社のグローバルなサポートネットワークの力を借りて、提供できればと考えています。そういう意味でも戦略的な提携ができたと思います。
藤岡:海外展開に苦しむ企業は多いですが、どのあたりに乗り越えなければいけない壁があるとお考えですか? また、解決策の用意はあるのでしょうか?
吹野:海外展開で大変だとよく耳にすることに、現地の人とのコミュニケーションの問題や、現地のニーズがわかりにくいといった話があります。弊社には多国籍のエンジニアメンバーがおりますので、今後は彼らがサポートに回ることによって真価が発揮されるのではと期待しています。
鈴木:ソフトウェアのエンジニアは6人中4人が外国籍です。非常に優秀ですし、多様な文化が混在する中で、いろいろな話を聞くことができて助けられています。おそらく海外サポートのスタッフは今後もっと必要になるはずなので、エンジニアの育成は急務です。
村松:営業面の課題としては、市場があることは分かっているものの、自社の販売チャネルがないという非常に大きな問題があります。我々がまずターゲットと考えているのは自動車業界の製造工場で、市場動向を鑑みると、中国と北米に注力していくことなると思います。
進出当初はやはり、パナソニック社の販売チャネルに頼るところが大きくなると思いますが、時間をかけてしっかり市場を掴んでいきたいと考えています。
鈴木:私自身は、例えば特許関係など組織としての地盤がまだまだ弱いと思っています。今後会社として成長を続けるためには、特許・原価・教育などについて、整備していくべき重要な課題だと考えています。過去に経験のない分野の業務も本当に多く、私自身いまだに日々勉強です。
藤岡:海外展開を目前として、さらなる人材を求めていらっしゃるかと思います。このフェーズでリンクウィズ社に参画する魅力についてお聞かせください。
吹野:言ってみれば、今が第二創業期で、世界に向けてまさにゼロからスタートするタイミングなので、新たなフェーズを一緒に作り上げていけるところは最大の魅力かと思います。また、世界を股にかけて仕事ができる、世界に向けて日本が一番自慢すべき“ものづくり”領域で勝負ができることも、大きな魅力ではないでしょうか。
鈴木:「第二創業期」というのは商品開発としても同じです。さらに、今後間違いなく伸びていくロボットの分野で、まったく新しい価値を創造していけるというおもしろさがあります。また、エンジニアの方であれば、自分のプログラムでロボットが思った通りの動作をしたときの、何物にも代えがたい喜びを直に感じることができるのも、大きな魅力だと思っています。
村松:吹野からもありましたが、やはり事業を新たに作り上げていけるおもしろさはありますよね。営業においても、通常のルート営業だけではなく、開発営業として事業開発に根底から関わることができるタイミングです。
自社のチャネルのない中、海外展開で結果を出すのは当然困難を伴うと思いますが、その分非常にやりがいはありますし、二度と経験できないようなステージになっていくはずです。
藤岡:世界のお客様が、御社を見つけて連絡してくる理由は何だと思われますか?
吹野:海外でも人手不足など、日本と同様の問題意識を感じていらっしゃるのではないでしょうか。困っているのに解決策が見つからず、インターネットで検索されるのだと思います。
藤岡:御社の技術やプロダクトは、日本独特な部分があるのでしょうか? 海外企業にできないことではない気がするのですが、やはり日本人ならではの気付きがあって、結果的に世界基準でも進んでいるということなのでしょうか?
吹野:日本のものづくりが進んでいる理由の1つに、蓄積された品質に対するモラルなど、言葉やパラメータにできないノウハウがあると思っています。そこをデジタルの部分にどうやって取り込むか、ここの開発ができるのは日本しかないかもしれません。
中国のお客様にも、アメリカのお客様にも喜んでいただけるプロダクトを、ものづくりの集積地であるこの浜松からお届けできるのは幸せですし、僕は日本のど真ん中でもある浜松から世界にメイドインジャパンを広げていきたい。ものづくりに携わったことがある方でしたら、そこを魅力と感じていただけると思います。
藤岡:本日は素晴らしいお話をありがとうございました。
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