サイボウズ山田氏が語る「新マネジメント論」
山田理氏(以下、山田):こんにちは。サイボウズ山田です。こんなにたくさんの人に集まっていただいて、ありがとうございます。僕、実はCybozuDaysで話すのは今日が初めてで。めっちゃ緊張しているんですけど、とりあえず自撮りしていいですか?(笑)。
(会場笑)
記念になりました(笑)。今日は、『多様な働き方時代の「新マネジャー論」』ということでお話しさせていただくんですけど。実は、11月7日に『最軽量のマネジメント』という初の書籍を出版するんです。今日のお話は、その書籍のダイジェスト版と思っていただければと。
今日のために、このパワーポイントのテンプレを、うちのマーケの新人の子に作ってもらって。キャンプファイヤーというのは、後で出てくるのでまたわかると思います。じゃあ始めていきましょう。
自己紹介からなんですけど、山田理といいます。大阪の高槻出身で、この中で一番大事なことは、大阪外国語大学のペルシャ語学科出身ってことです。「ペルシャ語、どこで使うねん」ってみんな思うでしょう? 僕も卒業してから合コンでしか使ったことがないです。どこでも使われへん。
大学卒業後、日本興業銀行という銀行に入りまして、そこで8年働いて、2000年にまだメンバーが10人ちょっとぐらいのサイボウズに入りました。僕は最初の管理部門メンバーで、そこの最高財務責任者みたいな肩書きでした。でも僕一人しかいないから、最高でもあるんだけど、最低でもあって。
そこから上場準備をしていく中で、財務・経理だけじゃなくって、人事や法務とか内部統制とかの管理部門を立ち上げていきました。今はサンフランシスコに住んでいるんですけど、2014年にサイボウズのアメリカを立ち上げるぞということで、現地に行って、一からアメリカのチームを立ち上げてきました。それが僕の経歴です。
働き方改革のしわ寄せがくるのは現場
今日のコンセプトなんですけど、20代から30代前半ぐらいの方で、マネジメントに興味があったり、マネジメントを実際にされ始めていて、ちょっと不安があるなという方。もしくは40代から50代の昭和生まれの世代で、若い人のマネジメントをやられている方。「最近の若い者は何を考えているか、ようわかれへん」とマネジメントに悩んでいるような方に対してお話をします。
20代、30代の方には、この話を聞いて、「自分でもマネジメントできるかも」と思っていただく。40代、50代の方には、「これからの新しい時代というのは、そういうマネジメントの考え方も必要になるのかな」とわかっていただけたら、今日のお話は成功かなと思ってます。
自信満々でマネジメントに成功している方は、聞かないでけっこうです(笑)。不安に思われている方を対象にお話をさせていただきたいと思います。
まず最初に、楽しく働けないのはなんでやろうというところからなんですけど。安部総理が、「働き方改革を最優先事項に!」と打ち出しましたよね。でも、働き方改革というのは日本でなかなか進まない。なぜそれが進まないのか。それは、現場に負担がくるからです。労働時間削減といいながら、結局現場に無茶ぶりをする「早く結果出せおじさん」や「早く帰れおじさん」がいます。
これはサイボウズが出したキントーンの広告です。一番右端は「さようなら深夜残業。こんにちは早朝出勤」というメッセージが書いてあって、これがものすごく反響があったんです。結局は「働き方改革」といいながら、現場に負担が全部かかってくる。この広告を霞ヶ関に貼って、けっこう話題になったりとかしたんです。すると「このポスターいいね」「ください」と会社の人事部とか担当者が言ってきたりして。「うちの会社にこのポスターを貼りたいんです。上司の部屋の前に!」みたいな。
(会場笑)
日本企業の過去の栄光
広告で作ったポスターが、企業から欲しいという要望があった。そんなポスターの話をしましたが、なぜそうやって現場は無茶ぶりされるのか。次はそのことについて話したいと思います。
僕は1992年、平成4年に新卒で会社に入ったんですけど、ここにいる昭和世代の、50代の方だったら記憶に新しいかもしれないですけど、平成元年の時の世界時価総額ランキングって、実は、日本の企業が10社中8社入っているんです。50位中35社が、日本の企業だったんです。
これが平成30年、一気にアメリカの企業に抜かれて、もはや10社のうち8社がアメリカの企業、2社が中国の企業。日本はトップ50社中1社だけになった。トヨタが35位。これがいわゆる失われた30年と言われるやつです。しかも今のほうが、桁が違うぐらいアメリカの企業が時価総額で圧倒的に勝っているというか、成功している。
日本の企業というのは、まだまだいけるんじゃないかと。「あん時なったやん」「ジャパンアズナンバーワンと言われたやん」と。これを取り戻そうとするので、利益や業績を上げないといけないと思ってしまう。だから働き方改革というのを掲げながらも、なかなかそこに着手できない、というところが背景にあるのかなと思ったりします。
失われた30年を取り戻そうとしている経営者を変えられるのか
この「失われた30年」を必死になって取り戻そうとする経営者を変えることができるんですか? とよく聞かれます。セミナーでお話をさせていただいたときに、とくに20代の人に「山田さん、わかりました。どうやったら上司を変えれるんですか? どうやったら経営者変えれるんですか?」ってね。そんなとき、僕は諦めてください、と伝えてます(笑)。
(会場笑)
無理ですから。昭和の世代でね、大企業で経営をされている方というのは、何十年間ずっとその大企業で成功されてきた方です。その大企業の中で「変えましょう」「こんなんをやりましょう」とか変なこと言っていたら、真ん中の出世ラインからどんどん横に外れていくわけ。もしくは辞めていっているんです。そこで残って勝ち残った人が今経営やっているんだから、その人に対して変わってくださいと、後から入ってきた人が言うっておかしいですよね。
大成功しているイチローに、「今、アメフトが流行っているんで、アメフトをやりましょうよ」って言うようなもんです。「いや、俺けっこうがんばってきて成績も残してんねんけど」みたいな(笑)。「なんで後から野球部に入ってきたお前に言われて、俺がやめなあかんねん」みたいな感じかもしれない。
なので、経営者の人を変えるのはなかなか難しいかなと思っています。では、今ここにいらっしゃる、興味を持っておられるマネジメントに悩まれている方が、何ができるのかを少しお話しさせていただきたいと思います。
過酷な労働の末に業績は頭打ち、離職者は28パーセントに上った
まずはサイボウズの取り組みというか、今までの歴史に触れます。さっき、大槻のセッションに出ている方も見たかもしれないですけれども、サイボウズは離職率が28パーセントまでいったことがあって。28パーセントというのはどういう数字かというと、100人いたら30人ぐらいは年間で辞めるんです。
30人辞めるということは、月で2~3人は辞めるわけですよ。月2~3人辞めるということは、2週間に1回送別会があるんです(笑)。「どんだけ暗いねん」と。そういう話です。この28パーセントから5パーセント、4パーセントのところまで、いろいろ働き方改革や会社の経営改革を通してやってきました。
これは青野と二人三脚でずっとやってきたわけですけれども、この28パーセントを叩きだしたのも、作ったのも僕なんです(笑)。そこから4パーセントに下がるまでまで反省して、改善していって。
当時は、「上場してどんどんどんどん大きくなるぞ」と思ってました。楽天とかサイバーエージェントとか、ホリエモンさんのライブドア、DeNAが、同じぐらいの時期にどんどん大きくなっていく。抜かれていくというか、離されていく。それを間近で見ていて、もっと僕らもがんばらなと思っていた。
寝ている暇もないと。寝袋持参は当たり前、「働け働け」「ついて来られへんやつは、もう辞めたらいい」と。「また新しいやつを採ればいいい」というふうに、成果主義でやっていきました。でもそれで幸か不幸か、業績が頭打ちになったんです。業績が頭打ちになって人が辞めていく。さっきみたいな暗い雰囲気です。
マネジャー経験なしから築き上げたこと
もうみんな恨み節ですよ。「せっかく一生懸命作業してがんばって研修して、制度を作ってやろうとしてんのに、なんやねんこの会社」「ぜんぜん社員のことを考えてくれへんやん。使い捨てかよ」と。そう言われながら、ずっとやっていくって、相当辛かったです。
そこで青野さんと、「こんな辛いのやめましょうよ」「もう一回ちゃんとやりましょう、いい会社にしましょうよ」と言って、改革に取り組みだしたわけなんですけども。そうして、離職率はずっと下がっていきました。業績は相変わらず横ばいでしたが、じっと我慢しながら、なんとなくじわじわと会社の雰囲気が良くなっているなと肌で感じるわけです。それでようやく新しいビジネスがプラスされて、今は2桁パーセントの成長を毎年続けていて、6年、7年前から比べたら3倍ぐらいの売上になっています。
僕は最初に銀行で8年間働いたとき、ずっと末端係員でした。マネジャーなんてしたこともなかった。そういう人が15人の会社で役員という役割をもらって、その役割を果たす中で、人を採用して、マネジメントをしていきました。マネジメントとはどうあるべきなんだろうかとずっと考えてきた。
今サイボウズは平均年齢34歳ぐらいなんですけれども、とくにIT企業なので、エンジニアの子も多いですし、若い世代の子たちがたくさん増えていっています。そんな会社の中で、マネジメントについて考えてきて。特に自分たちのビジネス自体がクラウドというインターネットをベースにしたビジネスをしているので、インターネットの世界観や環境と、若い子たちをマネジメントしてきて感じたことを、今日はお話しさせていただけたらと思っています。
なんでもこなせる“理想のマネジャー”になるのは無理
そもそもマネジメントがなぜ難しいのかということなんですが。(スライドを差して)マネジメントの役割って、大きくいうと4つにカテゴリ分けをしていま。
1つは、プロジェクトマネジメントと呼ばれる、結果を出していく、成果を出していく方向ですね。目標や方針決定したり、進捗管理したり、予算管理したり。プロジェクトがいかにうまくいくかというところをマネジメントしていく。これは別に営業部長でも開発部長でも、そういうひとつのプロジェクトをマネジメントしていくという役割があります。
もう1つ大きな仕事として、人材マネジメントがあります。それは人材を育成したり、モチベーションを管理したり、評価したりすること。こういう役割も同時に担うわけです。
かつ中間管理職として、下から上から(コミュニケーションが)くるみたいな。この間に立って、それを調整したり報告を上げたり、根回ししたりする業務があって。そしてさらに担当者、プレイングマネジャーとして、まだまだ自分も営業しないといけない。下手したら自分も開発しないといけないという現場の仕事もやると。
役割多すぎ。これで本当にマネジャー業務をすべてうまくこなすのってほんの一握りというか、スーパーマンやスーパーウーマンだと思うんですよ。すごい大変なことを、当たり前にやれと言われる。
世の中には、社長や役員よりも圧倒的にマネジャーの人のほうが多いんですよね。それだけ多くの人がマネジメントという仕事をやるにもかかわらず、これだけたくさんの業務をしないといけない。期待されることが多すぎる。それが悩んでいる人を増やしていってる原因なんだろうなと思うんです。
「どうすれば理想のマネジャーになれるのか?」というところなんですけど。諦めてください(笑)。これだけの業務を覚えて、全部こなしていく理想のマネジャーなんて、僕は少なくとも諦めました。こんなこと無理って。「じゃあどうやったらいいねん」というところで、新しい時代へのパラダイムシフトが起きている、環境の変化というところをお話しさせていただきたいです。
ビフォーインターネットの世界は、人が集まることがよしとされた
まずは、「BIからAI」へ。これは、ビジネスインテリジェンスからAIへという意味じゃなくて、ビフォーインターネットからアフターインターネットという意味ね(笑)。ベタでしょ? インターネット前と、インターネット後。ちなみに僕が会社に入ったときは、まだ会社にパソコンというものがないぐらいでした。ワープロしかなかったんです。携帯電話なんか全然なかった。(電話を耳当てるジェスチャーをしながら)「はい、もっしー」というようなめっちゃでかいイリジウムの、平野ノラがやってるような世界ですよ。普通の固定電話があったりとか。
僕が面談記録を紙とペンで書いて、上司に渡して赤ペンで添削されて、もう1回手で書き直すみたいな世界。僕はそういう世代で生まれ育ってきて、やっとそこからインターネットが会社に入っていくというところを経験してるんですけれども。そのインターネット前の世界はどういう世界かというと、めちゃくちゃ情報が貴重だったんですね。情報を取るのが、すごく大変だったんです。有益な情報な取るために、人に会わないといけない。
もちろんお手紙でもいいですよ。電話でもいいかもしれない。でも、圧倒的に多くの人に会わないといけないというのがすごく大事だったんです。だから会社にみんな集めるんです。ビルを建てたりして、みんなを一箇所に集めて。近くにいてほしいんです。そうしないと情報が集まりにくいから、物理的に距離を近づける。会社は次になにをやるかというと、担当者から課長に情報をあげるんですね。課長は部長にあげるわけです。部長は取締役にあげて取締役は社長にあげるんです。
なので、基本的には上に上に、重要な情報は集まっていくんです。(スライドを差して)向かって左側にあるヒエラルキー、トーナメント表みたいなのを勝ち残っていった人、あの上にいる人が一番重要な情報を持つわけです。この重要な情報と同時に権限を持つんですね。重要な情報を持ってる人が、きっと重要な意思決定をするのに値すると。だから情報と権限がセットになっていて、そういうかたちで会社はヒエラルキーを作る。だから一箇所に集める。
情報を所有することに意味がなくなった
でも、アフターインターネットという世界はみなさんも今まさに経験されていると思うんですけれども、世界中の情報がスマートフォンで、手のひらでアクセスできるようになる。この手のひらから自分の情報が世界にいる人たちに発信できるようになる。情報がめちゃくちゃ安くなるんですね。昔に比べて、安くなっていってるんです。圧倒的に情報という価値が変わっていっている。
もともと情報は「持っていること」がよかったわけです。逆にいうと、自分の重要な情報を出しちゃったら、ライバルにやられるかもしれない、不利になるかもしれないというのが昔だった。情報がすごく重要だったので、情報を所有する。でも今はそういう意味では、情報はダダ漏れなわけです。吉本興業の話だってそうかもしれない。あれはちょっと極端ですけれども、社長とか役員が記者会見していて、そこで言ってないことがマスコミやインターネット上にダダ漏れになって、隠してるのは経営者だけみたいな。みんなが知ってることを知らないのは経営者だけという。
いつのまにか裸の王様になっているというのがインターネット前の世代を引きずっている情報共有、経営をしている人たちの状況ですね。だから所有しているということは、あまり意味をなさなくなってきている。重要ではなくなってくるので、共有したほうがいいわけです。
時代は「所有から共有へ」
自分が知らないことも含めて、情報を共有する。そうすると、知ってる人がその情報を教えてくれるかもしれない。基本的な情報が共有されていく。これからは、「所有から共有へ」という時代にいくと思います。
今までは情報を自分が持っていて、それによって戦ってきた。個人で持つことが大切で、いっぱい自分が集めて、これでなんとか戦おうとしたのが、みんな持っているわけですから。
基本的には持っている人と繋がっていくほうが、自分が持ってるよりもどんどん楽になっていく。なので、個人戦からチーム戦へと変わっていく。
そうすると次どうなっていくかというと、「忠誠心から距離感へ」。
インターネットの世界って、今までは知らなかったことがどんどんわかるようになるわけですね。どこの会社でどんな制度があるのか。どこの会社だったらどんな働き方で、みんながどうなっているのか。どこの国だったらどう、どんな働き方なのか、何が幸せなのか。
高度成長期なんか、バブルは崩壊したとはいえ、日本はそれなりに経済的には十分豊かな国でいろんなものがありました。そういう中で、選択肢は本当に広がっていて。
とくに生まれたときからインターネットが当たり前、生まれたときからスマートフォンが当たり前という、ミレニアル世代とかジェネレーションZと呼ばれるような世代の子たちは、我慢とか、続けるとか、これが正解とかいうんじゃなくて、いろんな可能性があるよねと、いろんな生き方あるよねという価値観を知っているわけです。
こういう中で生まれ育ってきているわけですね。だからその子たちというのは基本的には忠誠心で「これに誓ってください!」「この真ん中に来い!」「俺と一緒に、手と手を取り合って」「歌わなゆるさんぞ!」みたいにやるのは嫌がって。「社員旅行は必ず行かないといけないとか絶対嫌です」みたいな。
そういうところから、距離を取って付き合っていくのはいいなと思っているわけです。すごくやりたいときは近付くけれども、そうじゃないときはちょっと距離を置く。そんな距離感を保ちながらなんです。言ったら価値観が多様化してるってことですね。
記憶から検索へ、情報にいち早くアクセスできる人が優秀と呼ばれる時代
そういう時代からパラダイムシフトしていっていると思うんですね。それはどこまで共感してもらえるかわかりませんが、少なからず感じるところって、みなさんもおありなんじゃないかなと思います。じゃあパラダイムシフトしていく中で、新しい時代の優秀と呼ばれる人たちはどんな人になるのか。まず最初は「記憶から検索へ」と。
今もそうかもしれないですけれども、必死になって覚えないといけないですよね。勉強もそうです。受験勉強とか、社会出ても絶対に使えへんような数学の公式や物理の公式とか死ぬほど覚えないといけない。そういう記憶することから、今はググるようになってきている。
覚えている暇があるんだったら、検索の仕方を覚えたほうがいいわけです。同じ1個のワードだったら、2個のワード、3個のワードをうまく組み合わせていくことによって、いかに早く自分が欲しい情報に到達できるか。その到達した情報をいかに使うかということに時間を使うのがすごく大事になってくる。
これはみなさんが経験していることです。記憶している人よりも早く情報にアクセスできる人、もっと言えば早くアクセスできるツールを持っている人、早くアクセスできるコネクションを持っている人が、これからは優秀になるんです。
いっぱい覚えられてすごいのは、クイズ王だけです。クイズ王で優勝したかったら、覚えたほうがいいと思うんですけれども、社会でこれから新しいことをやっていこう、事業やっていこう、イノベーションを起こしていこうと思うんだったら、記憶させていく時間よりは、検索するとか、いかに早くリーチできるようなコネクションを作っていくかということが大事。