嫌なやつだと思われないために

司会者:ありがとうございました。それでは、せっかくの機会なので、中竹様に質問がある方に、質疑応答の時間を少しだけ取らせていただければと思います。なにか質問したいという方がいらっしゃれば、挙手いただければ。はい、どうぞ。

質問者1:本日はありがとうございました。先ほどお話にあった、成長の居心地の悪さから居心地のよさにするというところ。「確かにな」という気づきがあったのですが、自分が誰かをコーチする場合を考えたときに、このやり方をすると、相手もそのことを理解してくれていないと、単に嫌なやつだと思われてしまう。それを改善するためにはどうしたらよいのかなって。

中竹竜二氏:(以下、中竹)いい質問ですね。それってまさに現場で起こることなんですよ。逆にどう思います?

質問者1:今の話をみんなに伝える。例えば、映像をチームメンバーに見せたうえでコーチングを始める。

中竹:なるほど。それがいいと思います。やはり、わかってもらってやったほうが圧倒的に効率がいいので。なんか無駄な疑問とかを抱えていると、「こいつ、俺にいじわるしているのかな? 教えると言いながら邪魔して、下を潰しにかかっているのか?」と誤解されがちなのでね。

「実はコーチングというのは奥深くて。人というのは不思議な動物で、心地悪さを通過しないと心地よくならないし、それが成長にならないんだよ」という話はしておいたほうがいい。全員とは言いませんがね。それを言わなくても「こいつなら大丈夫かな」とか、個別対応してもいいと思います。

質問者1:ありがとうございます。

中竹:それがあるので、僕は講習会のときには、最初に「No Pain, No Coach」を言います。誤解されるので。それがわかっていてもムカつかれますけどね。基本、僕は最後はムカつかれますから。だけど、意図をわかってもらうと、のちのち「こういうことって大事ですね」と言われます。

司会者:ありがとうございます。ほかにもいらっしゃいますか?

中竹氏が「コーチのコーチ」を志した理由

質問者2:本日はありがとうございます。中竹さんがコーチングの領域に踏み込まれて、この道をきわめようと思った際に影響を受けられた人であるとか、エピソードであるとか、そのへんをお話しいただければなと思います。

中竹:1つではなく、いくつかつながっていて。僕は福岡の田舎で育ち、公立学校に通っていたんですけど、そのときになぜか、「先生にはなりたくないけど、この先生たちを変える人にならなきゃな」ということで、学校教育にある課題を勝手に感じたんですね。「一教員にはならないぞ」みたいな。

小学校のときには、教育委員会がなぜあるのかがわからなくて。「(この人たちは)誰なのか?」という意識はすごくありました。教育にはすごく疑問を感じていましたね。

学生時代を普通に過ごしていって、自分自身がリーダーまでいっちゃうと、教えてくれる人がいなかったりとかね。コーチや監督をやっていたときも、誰も教えてくれないんですよ。僕はいろいろと聞きましたけどね。僕がすごくラッキーだったのは、いい意味で「こいつやばい」「こいつら勝てない」と思っていたら、その方々がどんどん教えてくれたんですよ。

だけど、ほかのコーチたちは意外と学べないんですね。残念ながら選手には聞けないんですよ。かっこ悪いと思ったり、聞いちゃいけない雰囲気で。しかもコーチは指示しなきゃいけないので。

僕が4年間やって勝った時に、「 あっ、勝っちゃうんだ……」と思ったんですね。僕は4年で辞めようと思って辞めました。僕みたいなパッと出のコーチが優勝してしまうようなスポーツ界は、絶対によくないなと思ったので、これを変える仕組みは何かと考えたら、「コーチのコーチだな」と。そうしたら案の定その流れになってですね。

日本は今年ラグビーワールドカップを開きます。世界のラグビー機構が、そこでいろいろなチェックをするわけですね。会場をちゃんと押さえているかとか、チームをちゃんと強くするのかとか。

その1つに「コーチングディレクターはいるのか?」という質問が来て、当然なかったんですね。それでワールドカップ予算が出て、僕にお話が来ました

僕は36歳だったし、早稲田大学時代でラグビーは卒業しようと思ったんだけれども、これは大きなチャレンジだと。僕が感謝として返せるんだったら、プライドが高くて学べないコーチたちに、学ぶ場を提供してあげたりできるなって。僕はほかの人より嫌われることに慣れているので。痛みを伴いながら仕組みを作るのは僕しかできないなと思って、実はけっこう喜んでいたんです。

僕は初めてのことって好きなので、めぐり合わせで来たんだと思ったんですね。1年ズレていたら、ほかの人がやっていたかもしれないので、そういう意味では今のポジションにはすごく感謝しています。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:あと2問ぐらい……はい、どうぞ。

共通する戦略思考をもつ選手に意思決定を渡す

質問者3:非常に貴重なお話、ありがとうございました。冒頭で「コーチングに唯一正しい解はない」というお話がありました。早稲田大学時代の監督で、前任の清宮さんと中竹さんは、ぜんぜんスタイルが違うと思います。今日のお話というのは、例えば仕事でいえば、アーリーステージの会社であろうと大企業であろうと、職場であろうと業界であろうと、どこにでも通用するような普遍的なお話なのか? というところをお聞きしたいです。

中竹:それでいうと、僕の今日のやり方は、どこでも通用するとは思っていないです。なぜかというと、無駄に手間がかかるんですよ。こういうのを好きじゃない人はやらないわけですね。僕の対極にある清宮さんは、意見を聞いたりはほぼしないです。なぜか? あの人のほうが圧倒的に能力が高くて、考えているので。

清宮さんがよく言っていたのは「勝手にやるな」と。試合中に選手がひらめきでやったりするんですよ。そうすると「勝手にやるな」と。なぜかというと、「こっちは何度もシミュレーションして、何十回も考えて戦略を立てているから、それをやってもおまえがミスするのはわかっているから」というのが根底にあるんです。

それで選手たちに「これをやれば勝てるとやって、本当に勝っていました。だけど、それだけじゃ勝てない。彼がすごいのは、チームが進化していく中で、キーマンにはディシジョンメイク(意思決定)をほとんど渡します。要するに、そういう選手が育って、自分と似た戦略思考のやつが出てくれば、ほぼ任せるんですね。チーム全体としては「俺の言うことを聞け」となっているのですが、彼のそういった細かいフォローは抜群ですよ。

僕はそれはできないんですね。彼は僕よりも圧倒的に繊細なところまで見ているので。世の中で言われている清宮さんと僕の対比というのは、けっこう表面上だけであって、彼の戦略に対する細やかさや組み立ては、僕より圧倒的に緻密ですね。僕はなんとなくサラリーマンをやっていたから、緻密派と言われるんですけど、実ははかなりルーズです。

そういう意味では、今日僕がお話ししたのは、僕に合っているというだけであって。みなさんもぜひ自分に合うものを作っていただきたいなと思います。

質問者3:ありがとうございます。

スポーツから学べるのは、ゴールに向かって組み立てる力

質問者4:ありがとうございました。問いかけたあとに、必ずどこかでフォローが必要だと思うんですね。そのフォローという観点で、なにか意識されていることがありましたら教えてください。

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