PUSH型とPULL型のコーチングとは
中竹竜二氏(以下、中竹):コーチングはCoachingとTeachingを分けたりして、領域があったりしますが、その言葉の定義づけはなかなか結論がない。分けたほうがいいなと思ったのは、曖昧な話をするんじゃなくて手法ですよ。学習者を学習させるための手法です。
大きく分けると、方向性が2つあります。僕が育成する側ですね。みなさんが学習する側。大きく2つに分けて、僕はみなさんとやりとりをしてるわけですけど、何型と何型ってわかります?
参加者12:受動型と……。
中竹:受動型、はいはい。
参加者12:受動型と、ちょっとその対語がちょっとパッと出てこなかったんですけど……能動ですか。
中竹:いいですね。受動・能動。そんなイメージですね。
コーチングではPUSH型とPULL型といいます。こっちからPUSHするかたちと、学習者のみなさんから引き出すかたち。
今日のオープニングで何をやったかというと、僕は「みなさんの期待は何ですか?」とPULLしたわけですね。「期待していないことはなんですか?」とPULLしてます。これをしないと、さっき言ったみたいに、なかなか良い場って作れないんですね。
僕が今日こだわったのは「コーチングって正解ないですから」という話と、「クライアントの中に答えがあるというのには反論します」という話。これは僕の強いメッセージですね。ここは問いかけにしないわけです。
「みなさんどう思いますか?」じゃなくて、「今日はいろんなことがありますが、すべての答えはコーチが持っていて、それを探すことが大事で、責任は全部こっちにあります」と。ときどき向こうにあるかもしれないので、そこを探っていく役割でいましょう、というのが僕の考え方。
今日はみなさんにかなりPULLで聞いたんですけど、PULLのやり方があり、PUSHのやり方があります。(スライドを指して)この4つがあります。本当は6個あるんですけど、これは今日やると混乱するので、4つに留めておきます。
ASKでは力不足、傾聴を機能させるのはSHOW
(スライドを指して)PUSHの一番左はなんでしょう? これはTELLですね。TEACHとかTELL。TEACHは直接答えを教えたり、伝えたりすることですね。「これってこうだよ」って。
では、そのほかの3つをお二人で考えてみてください。ほかにどんな答えがあるのか。これを知っていると、人と連帯をするときにめちゃくちゃ便利です。
(参加者で話し合い)
いいですね。けっこう出ていますね。じゃあ、後ろで座っている方。どういうのが挙がりましたか?
参加者13:じゃあ、正反対のところの「考える」。
中竹:「考える」。いいですね。ほかはなにかあります?
参加者13:「聞く」とか。
中竹:「聞く」。質問とかですね。いいですね。
じゃあ、その隣のお二人。
参加者14:こちらでも「聞く」というワードが出ていて……。
中竹:ほかはあります?
参加者14:訊くのほうの「ASK」。
中竹:ASK。
参加者14:質問とかを聞くという「傾聴的」な意味での。
中竹:傾聴的な。いいですね。これ実はいろいろあって。細かくいうとTELLとTEACHも違うんですけど。あと、もっと左にある「命令する」「COMMAND」とかね。有無を言わさず「やれ」とやらせるのね。だけど、これはコーチングではあまりやりませんので、分けていてですね。
ASKはここにあります。問う。QUESTIONですね。「期待は何ですか?」「何を学びましたか?」。「今日、期待しているのは何ですか?」。これがASKですね。
コーチングでは、このASKがフォーカスされるんですけど、これじゃ力不足なんですよね。聞いてるだけじゃ人は変わりませんから。聞くのを機能的にさせるのは何だと思いますか? SHOWです。これを忘れがちですね。
要するに、デモをする、見せるんです。「いや、こうやったほうがいいよ」って。「そうじゃなくて、見てみて。これだよ」と見本を見せるわけですね。そうすると「ああ、そういうこと」となる。百聞は一見に如かずです。
人は言葉で聞いたことは忘れるけど、目で見ると覚えている。そういうふうにちょっと差があるんですね。
レギュラーではない選手に見本を披露させる意味
僕、一応ラグビーのコーチをやっていたんですけど、一切見本を見せない監督でした。これは僕のポリシーだったんですね。みんなに僕が現役時代にプレイしたということを忘れさせようと思って。僕自身が忘れるためにも一切見本を見せない。
じゃあ、これどうやってするのかといったときに、よく勘違いするのは、リーダーって自分が見本を見せたいと思いがちですけど、「お前、このキックがうまいから、ちょっとやってみて」って言えばいいんです。そうすれば「こういうふうにやればいいんだ」というのがわかるんですね。
自分はできなくていいんです。大事なのは、Learnerが見て学べるかということ。チームの選手にいなかったら、ビデオで「良い選手のビデオを持ってる。こうやればいいんだよ」とミーティングで見せればいいだけ。
ついつい人間って「俺が見せなきゃいけない」となる。これはエゴですよ。なぜかというと、俺がすごいと言われたいからですね。これを捨てると、リソースが使えますよね。「お前、見本を見せて」と言われた人はどうですか? その日、すごくやる気が出ますよね。そこだけ切り取ると、めちゃくちゃうまいやつがいるわけです。
僕が工夫するのは、それをレギュラーじゃないやつに振ります。あるキックだけうまかったりすると、レギュラーにはなれていないのに、「俺、これ……うまいんだ」と。本人は気づいてないのね。僕がそいつに「お前キックうまいじゃん」と言っても、「いやー、だってレギュラーになれてないし」とね。
本人からすると、成果を出してレギュラーにならないと、自分を認められない。そういう人がたくさんいるんですけど、「いやいや、そこだけ切り取ったらうまいんだよ」と。だから「じゃあ、見本を見せて」とやると、みんなから「おまえすごいじゃん!」と思われますね。これは全部コーチングなんですね。
SHOWするときの1つのポイントで、最後の領域になるのはDELEGATEです。要するに任せるってことですよ。「どうかな?」「まずやってみよう」と任せることですね。 でも、これをやらないんですね。SHOWするのも、その人を学習者として やらせてみると。みなさんがふだん仕事をしていて、「チームを率いて育成したいな」ってときに、どれを使ってやるか。
僕はコーチに教えるとき、コーチング中にビデオを録るんですよ。簡単ですよね。全部ログが残っているんです。ログミーさんじゃないですけど、全部ログが残っているわけです。何をしゃべったかわかるわけですね。
「今日のコーチングではいっぱい引き出します」「Player Centeredでやります」と言っておきながら、始まると、ずっとTELLしているわけですよ。振り返ったときに「今日どうでした?」「いや、いっぱいしゃべっちゃいました」となる。それをEducatorとして、「がんばったけど、コーチってしゃべりすぎちゃうんだよね。次はもっと質問を簡単にしようか」みたいな感じでやっていくのが僕の役割です。
良いコーチと悪いコーチの見極め方
中竹:あと10分ぐらいですね。みなさんが偉くなると、(自分に)コーチをつけて、みなさんがコーチやリーダーをやりますよね。もっと偉くなると、その下のリーダーを使って、現場を回すというね。例えば、執行役員とか部長になってくると、その下に課長がいて、チームリーダーがいて、メンバーがいる。