「ポケトーク」誕生を支えた要因

膳場貴子氏(以下、膳場):松田さん、そんな林さんとの出会いを聞かせて頂けますか。

松田憲幸氏(以下、松田):さっきのシリコンバレーの話ですが、あのときは、林(要)さんがいらっしゃることもあまり把握していない状態でお会いさせていただきました。ソラコムさんとの出会いは、シリコンバレーでCTOの安川さんに直接お会いしたところから始まりました。

シリコンバレーにいると、ちょうど日本では東京が中心であるのと同じように、世界の中心はやっぱりシリコンバレーにあると感じます。本当にさまざまな人が頻繁に来ています。スタートアップのVCがあるし、Apple、Facebook、Googleをはじめ超巨大企業も集まっています。

最初に行ったときはわからなかったのですが、これほどまでに、さまざまな方がシリコンバレーにいらっしゃるのだと驚きました。テキサスやニューヨークからはもちろん、ヨーロッパ、インドからもいらっしゃいます。そうやって人がどんどん集まると、おもしろい製品ができるのだと感じました。

私がもし現地に住んでいなければ、ソラコムさんのSIMを採用するところまでいっていなかったと思います。もしそうだった場合、どうやってポケトークを出していただろうかと考えると怖いです。翻訳精度はオフラインだと極端に落ちます。そのため、絶対にインターネットにつなぐ必要があったのです。

しかし、日本だけでつながるようだと、海外旅行に行ったときに使えないわけです。ポケトークは、海外旅行がもっとも使われているシーンです。

膳場:一番必要なシーンですよね。

松田:はい。そのため、グローバルで使えることがマストでした。シリコンバレーに住んでいたことで安川さんと出会え、ポケトークが生まれました。日本に住んでいたらできない出会いから、今後もさまざまな製品が生まれてくると思います。

シリコンバレーで作られた製品は、グローバルでも成功している

松田:あと、ポケトークは今年中に20ヶ国で展開していきます。

膳場:20ヶ国? 日本以外にそんなに広がるんですか?

松田:はい。アメリカでもどんどん売っています。アメリカだと英語が通じるので、あんまり買わないかなと思っていましたが、アメリカで売れるようになってきました。やはり、いい製品だとちゃんと売れるのだと感じています。

今、アメリカでも中国やアジア方面に行かれる人が多くなってきています。彼らにとっては日本や中国では英語が通じないので、「翻訳機があったほうがいいな」と思う人が増えてきています。

あと、アメリカは移民もすごく多いのですが、移民のご両親がアメリカに住んでいるケースでは、言語で苦労している人が多いです。

膳場:第一世代はそうですね。

松田:思った以上に活用範囲が広いなと感じています。私は7年前にシリコンバレーに行ったときに、世界中で売れる製品を作りたいと思いました。それがやっとかたちになりつつあって、今非常にエキサイティングな時期を迎えています。

膳場:2012年にシリコンバレーに渡ったときは、まだ、このポケトークを作ろうと思っていたわけではなかったんですよね?

松田:もちろん違います。

膳場:なぜシリコンバレーに行ったのですか?

松田:はい。1つはライセンスを取得するのが簡単だったということと、シリコンバレーには多くの素晴らしい経営者がいらっしゃいますので、その方々から何か学べないかなということが2つ目です。3つ目がグローバルな製品を作りたいと考えました。

シリコンバレーで作られた製品は、グローバルに成功している製品が多いです。グローバルな製品を作りたいという思いで人に会い続けていたら、最終的にこのポケトークに行き着きました。

膳場:シリコンバレーという場所だったからこそ、生まれたものなんですね。

松田:私がもしシリコンバレーに住んでいなければ、少なくともそういった発想はできなかったと思います。そして、出会いからビジネスが生まれることを、身を持って体験しました。

必要なものが集まり、行動を起こしたくなる環境がある

膳場:「シリコンバレーでソラコムの安川さんと出会って」と聞いていると、細い蜘蛛の糸で偶然つながったのかと思ってヒヤヒヤします。でも、お話をよく聞いてみると、シリコンバレーは会うべき人と出会える場所なんですね。

松田:そうですね。そもそも広くないですし、広くないけれど、世界中から人が集まるところだと思います。CEOクラスの方が定期的にいらしてますが、こういう場所は世界にはないです。「日本にたまたま来ました」は、ほとんどないわけです。あとはスタートアップのコミュニティがすごく(盛り上がっていて)、若い人々がどんどん起業しています。

30歳前半もしくは20代の方が、会社を作って、お金を集めて、経営することが当たり前という環境にいると、「何かしないと損だ」という気持ちになる。これはやはり大きいですね。

膳場:ちゃんと必要なものが集まる場であると同時に、行動を起こしたくなる環境なんですね。

松田:私はとにかく、さまざまな方に積極的に会いに行きました。例えば、ランチは絶対に1人で食べないと決めて、もうランチの予定は確実に入れました。シリコンバレーでは夜の会食はしないので、ランチに入れるしかないという理由もありました。

膳場:いろいろな人とランチの予定を組んでいったわけですね。

松田:おもしろいぐらいにスケジュールが入ります。「月曜が埋まってないな」と思っているうちに予定が決まります。それを7年間やっていくと1,000人ぐらいに会えます。

膳場:すごい人数ですね。

松田:そのうちの1人が林さんでした。

膳場:なるほど(笑)。ほしいものや必要なものが明確にあれば、ちゃんと出会える場がシリコンバレーだと思ってよさそうですね。そんなところにある日、林さんが訪ねていらしたと。

日本の強みはサービス設計よりもハードウェアの完成度

林要氏(以下、林):はい。当時、僕はそんなにアメリカに思い入れはなかったんです(笑)。やらなきゃいけないなとは思っていましたけど。ちょっと反応がこわいなと思っていました。実際にアメリカに行ってわかったのは、圧倒的にスタートアップのコミュニティの成熟度が高いですね。

松田:そうですね。

:学生さんがスタートアップで起業するのをスタンダードとして考えていて、そこで磨かれているエコシステムでいろいろなものが動いている。ただもう1個気づいたのは、ハードウェアの完成度は高くないなと。ハードウェアでは確かにAppleはすごいし、Microsoftもすごい。けれども、スタートアップが作るハードウェアはどこもまだ伸びしろがあるな、と。

松田:製品の完成度は高くないと思いました。

:これを見ると日本はまだまだ勝算があるなと思いました。彼らはやっぱりサービス設計がすごいし、ソフトウェアを書く能力も強い。だけど、ハードウェアが絡んだ途端に完成度は低くなる。

その点、日本はサービス設計では確かに彼らほど強くはない。それからソフトウェアも、彼らほど一流ではない。でも、1.5流くらいは揃っていて、ハードウェアに限っては相当にいい線いくので、むしろそのレベル差が安定しているんですよね。

(対比させて)シリコンバレーだとサービス・ソフトウェア・ハードウェアみたいになるけれど、日本だとサービス・ソフトウェア・ハードウェアみたいな感じで揃うので。これって、ひょっとして日本が強いんじゃないかなと思っています。だからポケトークのような完成度の高い商品を向こうで作ろうとしたら、たぶん同じものにはならないと思います。

ソフトウェアとサービス設計の弱さが課題

松田:MITの方がFitbitに対抗した製品がありました。そこの社長にオフィスに会いに行くと、倉庫みたいなところで管理などもあまりされていないようで、いたるところに部品が落ちていました。

膳場:野ざらしになっている(笑)。

松田:不良率が高くても、まったく気にしないでやっていました。しかし、その会社が約300億円で売却されて、本当にびっくりしました。あのレベルでどんどんいけることもすごいことです。私にとっては一番ショッキングでした。

膳場:林さんがおっしゃるようなハードウェアの技術に自信のある日本の会社は、シリコンバレーに行くとチャンスが一気に広がる可能性があるんですね。

:そこでサービスとソフトウェアを取り込めればですけどね。例えば、昔からあるWiFiにつながって、体重をトラッキングできる体重計などをシリコンバレーで出していますけれども、そのコンセプトはすごいのに、体重がプラスマイナス3キロずれるとか(笑)。「これ、どうすればいいんだろう?」というようなことがあるわけですよ。そういうことって日本ではないですよね。

だからって「日本が安泰ですよ」ということではないんですが。そもそもハードウェアが強い会社は、ソフトウェアとサービス設計が極端に弱いケースが多いので、その点は日本の会社の課題ですね。少なくとも国内に人材はいるので、日本のリソースを使って何かやるということは、十分に勝機があるんじゃないかなと思います。