2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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膳場貴子氏(以下、膳場):松田さん、そんな林さんとの出会いを聞かせて頂けますか。
松田憲幸氏(以下、松田):さっきのシリコンバレーの話ですが、あのときは、林(要)さんがいらっしゃることもあまり把握していない状態でお会いさせていただきました。ソラコムさんとの出会いは、シリコンバレーでCTOの安川さんに直接お会いしたところから始まりました。
シリコンバレーにいると、ちょうど日本では東京が中心であるのと同じように、世界の中心はやっぱりシリコンバレーにあると感じます。本当にさまざまな人が頻繁に来ています。スタートアップのVCがあるし、Apple、Facebook、Googleをはじめ超巨大企業も集まっています。
最初に行ったときはわからなかったのですが、これほどまでに、さまざまな方がシリコンバレーにいらっしゃるのだと驚きました。テキサスやニューヨークからはもちろん、ヨーロッパ、インドからもいらっしゃいます。そうやって人がどんどん集まると、おもしろい製品ができるのだと感じました。
私がもし現地に住んでいなければ、ソラコムさんのSIMを採用するところまでいっていなかったと思います。もしそうだった場合、どうやってポケトークを出していただろうかと考えると怖いです。翻訳精度はオフラインだと極端に落ちます。そのため、絶対にインターネットにつなぐ必要があったのです。
しかし、日本だけでつながるようだと、海外旅行に行ったときに使えないわけです。ポケトークは、海外旅行がもっとも使われているシーンです。
膳場:一番必要なシーンですよね。
松田:はい。そのため、グローバルで使えることがマストでした。シリコンバレーに住んでいたことで安川さんと出会え、ポケトークが生まれました。日本に住んでいたらできない出会いから、今後もさまざまな製品が生まれてくると思います。
松田:あと、ポケトークは今年中に20ヶ国で展開していきます。
膳場:20ヶ国? 日本以外にそんなに広がるんですか?
松田:はい。アメリカでもどんどん売っています。アメリカだと英語が通じるので、あんまり買わないかなと思っていましたが、アメリカで売れるようになってきました。やはり、いい製品だとちゃんと売れるのだと感じています。
今、アメリカでも中国やアジア方面に行かれる人が多くなってきています。彼らにとっては日本や中国では英語が通じないので、「翻訳機があったほうがいいな」と思う人が増えてきています。
あと、アメリカは移民もすごく多いのですが、移民のご両親がアメリカに住んでいるケースでは、言語で苦労している人が多いです。
膳場:第一世代はそうですね。
松田:思った以上に活用範囲が広いなと感じています。私は7年前にシリコンバレーに行ったときに、世界中で売れる製品を作りたいと思いました。それがやっとかたちになりつつあって、今非常にエキサイティングな時期を迎えています。
膳場:2012年にシリコンバレーに渡ったときは、まだ、このポケトークを作ろうと思っていたわけではなかったんですよね?
松田:もちろん違います。
膳場:なぜシリコンバレーに行ったのですか?
松田:はい。1つはライセンスを取得するのが簡単だったということと、シリコンバレーには多くの素晴らしい経営者がいらっしゃいますので、その方々から何か学べないかなということが2つ目です。3つ目がグローバルな製品を作りたいと考えました。
シリコンバレーで作られた製品は、グローバルに成功している製品が多いです。グローバルな製品を作りたいという思いで人に会い続けていたら、最終的にこのポケトークに行き着きました。
膳場:シリコンバレーという場所だったからこそ、生まれたものなんですね。
松田:私がもしシリコンバレーに住んでいなければ、少なくともそういった発想はできなかったと思います。そして、出会いからビジネスが生まれることを、身を持って体験しました。
膳場:「シリコンバレーでソラコムの安川さんと出会って」と聞いていると、細い蜘蛛の糸で偶然つながったのかと思ってヒヤヒヤします。でも、お話をよく聞いてみると、シリコンバレーは会うべき人と出会える場所なんですね。
松田:そうですね。そもそも広くないですし、広くないけれど、世界中から人が集まるところだと思います。CEOクラスの方が定期的にいらしてますが、こういう場所は世界にはないです。「日本にたまたま来ました」は、ほとんどないわけです。あとはスタートアップのコミュニティがすごく(盛り上がっていて)、若い人々がどんどん起業しています。
30歳前半もしくは20代の方が、会社を作って、お金を集めて、経営することが当たり前という環境にいると、「何かしないと損だ」という気持ちになる。これはやはり大きいですね。
膳場:ちゃんと必要なものが集まる場であると同時に、行動を起こしたくなる環境なんですね。
松田:私はとにかく、さまざまな方に積極的に会いに行きました。例えば、ランチは絶対に1人で食べないと決めて、もうランチの予定は確実に入れました。シリコンバレーでは夜の会食はしないので、ランチに入れるしかないという理由もありました。
膳場:いろいろな人とランチの予定を組んでいったわけですね。
松田:おもしろいぐらいにスケジュールが入ります。「月曜が埋まってないな」と思っているうちに予定が決まります。それを7年間やっていくと1,000人ぐらいに会えます。
膳場:すごい人数ですね。
松田:そのうちの1人が林さんでした。
膳場:なるほど(笑)。ほしいものや必要なものが明確にあれば、ちゃんと出会える場がシリコンバレーだと思ってよさそうですね。そんなところにある日、林さんが訪ねていらしたと。
林要氏(以下、林):はい。当時、僕はそんなにアメリカに思い入れはなかったんです(笑)。やらなきゃいけないなとは思っていましたけど。ちょっと反応がこわいなと思っていました。実際にアメリカに行ってわかったのは、圧倒的にスタートアップのコミュニティの成熟度が高いですね。
松田:そうですね。
林:学生さんがスタートアップで起業するのをスタンダードとして考えていて、そこで磨かれているエコシステムでいろいろなものが動いている。ただもう1個気づいたのは、ハードウェアの完成度は高くないなと。ハードウェアでは確かにAppleはすごいし、Microsoftもすごい。けれども、スタートアップが作るハードウェアはどこもまだ伸びしろがあるな、と。
松田:製品の完成度は高くないと思いました。
林:これを見ると日本はまだまだ勝算があるなと思いました。彼らはやっぱりサービス設計がすごいし、ソフトウェアを書く能力も強い。だけど、ハードウェアが絡んだ途端に完成度は低くなる。
その点、日本はサービス設計では確かに彼らほど強くはない。それからソフトウェアも、彼らほど一流ではない。でも、1.5流くらいは揃っていて、ハードウェアに限っては相当にいい線いくので、むしろそのレベル差が安定しているんですよね。
(対比させて)シリコンバレーだとサービス・ソフトウェア・ハードウェアみたいになるけれど、日本だとサービス・ソフトウェア・ハードウェアみたいな感じで揃うので。これって、ひょっとして日本が強いんじゃないかなと思っています。だからポケトークのような完成度の高い商品を向こうで作ろうとしたら、たぶん同じものにはならないと思います。
松田:MITの方がFitbitに対抗した製品がありました。そこの社長にオフィスに会いに行くと、倉庫みたいなところで管理などもあまりされていないようで、いたるところに部品が落ちていました。
膳場:野ざらしになっている(笑)。
松田:不良率が高くても、まったく気にしないでやっていました。しかし、その会社が約300億円で売却されて、本当にびっくりしました。あのレベルでどんどんいけることもすごいことです。私にとっては一番ショッキングでした。
膳場:林さんがおっしゃるようなハードウェアの技術に自信のある日本の会社は、シリコンバレーに行くとチャンスが一気に広がる可能性があるんですね。
林:そこでサービスとソフトウェアを取り込めればですけどね。例えば、昔からあるWiFiにつながって、体重をトラッキングできる体重計などをシリコンバレーで出していますけれども、そのコンセプトはすごいのに、体重がプラスマイナス3キロずれるとか(笑)。「これ、どうすればいいんだろう?」というようなことがあるわけですよ。そういうことって日本ではないですよね。
だからって「日本が安泰ですよ」ということではないんですが。そもそもハードウェアが強い会社は、ソフトウェアとサービス設計が極端に弱いケースが多いので、その点は日本の会社の課題ですね。少なくとも国内に人材はいるので、日本のリソースを使って何かやるということは、十分に勝機があるんじゃないかなと思います。
膳場:ちなみに林さんは、松田社長に会うためにアメリカに行ったのですか?
林:松田さんの自宅に伺えるというツアーがあってですね。
膳場:松田さんのお宅はそんなに開放しているんですか?
松田:開放しています。
膳場:それはシリコンバレー、パロアルトの文化ですか? それとも松田さんがすごくフレンドリーなんでしょうか?
松田:シリコンバレーは基本的にオープンです。私は極端にオープンかもしれません。みなさんにお越しいただければと思ってます。
膳場:それを聞いて、林さんは行ってみようと思われたんですか?
林:そうですね。松田さんのところに伺える、ある日の午後だけスケジュールを決めて、それ以外のところはフリースケジュールで、まずはエアチケットだけ取りました。向こうに行った後は、いろいろな人の人脈で予定が入っていくというおもしろい経験をしました。
少なくともスタートアップをやるんだったら、アメリカの西海岸をちゃんと見ておかないと、自分のまわりだけを見ていると10年遅れになるとは思いました。
膳場:そういうご実感は松田さんも同じですか?
松田:そうですね。出張で行くのと住むことは、まったく違います。私も認識が甘かったのですが、アメリカの携帯の番号があるだけでも、まったく違います。「+81をつけてかけてください」と(言うことは)ありえませんでした。
また、次に会うときに「来週来てよ」と言われたときに、「来週、日本に戻ってしまいます」では、まったくディールが進まない。相手を家に呼ぶのは一番仲良くなれる方法です。もしレストランだけで交流していたら、ここまでは(話が)進まなかったと思います。
ソラコムさんとここまで親密にさせていただいているのも、ほぼ毎月に近いイメージで、食事会などをさせていただいているというのがあります。
膳場:ご自宅で?
松田:そうですね。今後もぜひ来てください。
膳場:お話をうかがっていると、シリコンバレーでの情報交換の密度がものすごく高くて、そこにいるからこそ、いろいろなものが生まれているんですね。お二人にとって、SORACOM IoT SIMとの出会いは、プロダクトの生産に決定的に大きなものでしたか? だとしたら、どういうところが決定的によかったんでしょうか?
松田:当時はそもそも、グローバルSIMを提供されている会社はほぼありませんでした。そのため、もしソラコムSIMがなかったらポケトークの発売が極端に遅れているか、ひょっとしたら出せたかどうかもわからないという状況になっていたと思います。やっぱりタイミングが重要だと思います。そうしないと、たぶんほかの会社が入ってきたと思いますし。
そのため売り方も、そこで思い切れたということがあります。もちろんソラコムさんに信頼関係ができるお人柄の方ばかりでした。仮に同じものを提供していても、ソラコムさんのような会社でなければ、ここまでは来ていないと断言できると思います。ありがとうございました。
膳場:林さんはいかがですか? ソラコムSIMとの出会いは決定的だったんでしょうか?
林:そもそも、これは家電をサブスクリプション型で販売するような話です。サービスをサブスクリプションで売るケースは今までもありましたが。
膳場:ウォーターサーバーのお水とかですか?
林:お水も携帯電話もそうですよね。それに対して、(LOVOTは)そもそも2体だったら100万円以上するような、まるで自動車を買うような製品です。それをリーズナブルな価格で買っていただくためには、サブスクリプション化するしかありません。結局、家の中でクラウドにつながなくても動いてしまうものを、サブスクリプション化する必要があります。
通信でネットワーク回線がつながっていないと、支払い状況に合わせてサービスのタイプを変更するようなことができないので、実は通信は、このサブスクリプション型のビジネスモデルがマストなんです。さらに、こういう商品は一旦愛着を持ってしまうと、やっぱり連れ出したくなるんですね。一緒にいたくなる。例えば海外旅行に持って行くとか。
膳場:旅行にも連れて行くんですか?
林:海外旅行に持っていく。けっこう大きいですけど、スーツケースに入りますからね。海外に一緒に連れて行くときに、グローバルで対応できるものにしておきたいなと。そこでSORACOMの通信があったので、グローバル対応ができるのかなと思っています。
膳場:海外に連れて行くという発想にびっくりしたんですけど、確かにそれぐらい愛着がわきそうですね。ちなみに海外に連れて行かず、家に置いておくこともできるんですよね?
林:留守の間に家に置いておくと、ちゃんと留守番してくれて、誰かが侵入したりすると、スマホで写真を送ってくれたりします。
膳場:そういう便利な機能もちゃんとあるんですね。
林:ちょっとほしくなってきました?(笑)
膳場:ちょっと。いや、だいぶほしくなってきていますけれども(笑)。
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