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“らしさ”って何だ?(全1記事)

「らしさ」とは暗黙知である 最高のユーザー体験を届ける、マネーフォワードの4つの原則

2019年8月23日、株式会社マネーフォワードにて「Money Forward Developers' Stories」が開催されました。Money Forward Developers' Storiesは、マネーフォワードがどのようにサービス開発に取り組んでいるのかを知っていただく機会として、エンジニアやデザイナー、ディレクターの方向けに催されるイベントです。今回は、株式会社マネーフォワード デザイン戦略グループの伊藤セルジオ大輔氏が、マネーフォワードの「らしさ」の導き出し方について語りました。

「らしさ」は、実は暗黙知である

伊藤セルジオ大輔氏(以下、セルジオ):それでは時間になりましたので、第2部を再開させていただきます。私、デザイン戦略グループに所属している、デザイナーのセルジオと申します。この後登壇する猪爪と一緒に、グループのリーダーを務めております。

ブラジル生まれ日本育ちで、セルジオはミドルネームです。週の半分はマネーフォワードで、残りの半分は自分のデザイン会社で仕事をするという、ちょっと特殊な働き方をしております。今日のテーマ、「らしさ」についてお話したいと思っています。よろしくお願いいたします。

よく、みなさんの会社でも「それってうちの会社らしいね」とか「このデザイン、うちらしくないね」という会話があるのではないかと思います。

この「らしさ」というのは一体なんなんだろうと、みなさんがよくご存知のアップルの「らしさ」について考えてみました。例えば、アルミの筐体で洗練されていて、みたいなのがアップルらしいのかもしれません。また、このMac Proは穴がボコボコ入っていて、「アップルらしい」「らしくない」という賛否両論で、当時話題になったプロダクトです。

それからiPhoneのこのカメラの出っ張りとかも、出た当初は「アップルらしくない」とも言われていましたが、今はだいぶ見慣れた感じがありますよね。そういった「何がアップルらしくて、何がアップルらしくないのか」というような話があると思います。

そして、これはダイソンです。「ダイソンらしさ」って、なんだと思いますか? メカメカしいとか、メタリックな質感、画期的な機能とか、そういうのがダイソンらしいのかもしれないですね。このような「アップルらしいデザイン」や「ダイソンらしいデザイン」など、そう言っておけばなんとなく伝わってしまう、「らしさ」という言葉は便利な言葉なんですけど、実は暗黙知で、一体それがなんなのかということはみんなよくわかってないのではないかと思います。

「マネーフォワードらしさ」を言語化する

また、実際にそれぞれ答えが違うような状況が起きてるんではないかなと思っています。では「マネーフォワードらしさ」とは一体なんだろうかというのを考えてみました。今日会場にいらっしゃるみなさんは「マネーフォワード ME」というアプリをご存知の方が多いと思いますが、実はその他にも非常に多くのプロダクトを出しています。

自動貯金アプリの「しらたま」や、クーポンアプリの「tock pop」。それから、各銀行さん向けにマネーフォワード MEや通帳アプリを開発しています。また、「マネーフォワード クラウド」という、会計や経費清算などのバックオフィスを効率化させるクラウドサービスも手がけていたりします。MF KESSAIやMoney Forward BizAccelなど、スマートな融資を実現するサービスも提供しています。

このように、実はマネーフォワード MEだけではなく、さまざまなお金のプラットフォームを提供している会社です。非常に多岐に渡り、とくにBtoCとBtoBではエクスペリエンスが違うので、BtoCであればホームのデザインチームが担当しますし、クラウド会計であれば、そのUIを熟知しているビジネスのチームがデザインしていく。そういった体制をとっています。

これ自体は専門的に取り組める状況なので、非常に良いことなんですけれども。マネーフォワード MEから始まってクラウド会計、それからさまざまなプロダクトが増加し、デザイナーもどんどん増加しています。そういった中で、先ほどのマネーフォワードらしさというかイメージのブレみたいなものが少しずつ大きくなってきてるのかな、と自分たちでも感じています。

そういったイメージのコントロールは暗黙知では難しいですよね。ということで、マネーフォワードらしさを定義して、目指す方向性をクリアにしていかなければいけない。そういった課題を感じていました。やったことは何かというと、先ほどホームやビジネス、ユニットごとにデザインチームが分かれているという話をしたんですけど。

そのデザインチームの代表者が集まるような横断組織の結成をしました。こんな感じで話し合っているんですけど。このチームを中心に、マネーフォワードらしさを言語化することをスタートいたしました。もともと私たちには誇るべきミッション、ビジョン、バリューがありまして、「お金を前へ、人生をもっと前へ」というミッションのもと、ワクワクするプロダクトをデザインしています。

ミッション、ビジョン、バリューと、各プロダクトのデザインには当然ギャップがあると思っていまして、ここを埋めるような言葉が必要であると。僕らは、これが最終的にマネーフォワードらしさにつながっていくんではないかと捉えました。

当然、これだけ多くのプロダクトを何か1つの言葉にまとめるのは難しいので、まずはビジネスチームからデザインの言語化をスタートいたしました。

目指すべき方向性から生まれた「4つの原則」

具体的にどういうことをやっていったか、というところなんですけど、まずそのビジネスのドメインにおいて、現在のプロダクトイメージと目指すべきイメージを洗い出していきました。例えば……小さくて見えないんですけれど、現状ですといわゆるBtoBのイメージで、「ちょっと冷たいイメージがあるよね」というのをみんなでディスカッションして出したり。目指すべき方向では「温かみが欲しい」「優しさが欲しい」とか。なんだかそういうものが上がってきたりしています。

こういったものをみんなで出し合った上で、次に目指すべき方向性を抽出していきます。例えば信頼感みたいなキーワードが出てきたり、温かみを持たせたり。そういうキーワードが見えてきています。

このようなプロセスを経て、4つの原則というかたちで集約し、ステートメントを作成しました。簡単に4つご紹介したいんですけど、まず1つめは”お金を扱う信頼感”ですね。会計ソフトやお金の情報を扱うサービスなので、信頼感の有無は一番大事なプライオリティーとして考えています。

嘘のない誠実な表現にするとか、安っぽさや怪しさを避けるとか。そういったことで信頼感をつくっていくとかですね。そういったことが最重要プライオリティーとして書かれています。次に”オーガナイズド”ですね。これはとくにtoB系のプロダクトで業務課題を扱っているので、非常に複雑な事象に溢れてるんですね。それをシンプルに解決することがデザイナーの使命なので、それが書かれていると。

3つめは、”寄り添う優しさ”。これがこういったプロセスを経て、今まで見えてなかった部分だったりするんですけど、実はそのユーザの心理的な不安はプロダクトの品質や機能だけでは取り除くことができないので、どうやって優しいコミュニケーションを図ってその不安を和らげていくか、そういったことを重要視しましょうと、これが3つめです。

そして4つめ、”ワクワクするものを作る”とあります。これは行動指針にも近いんですが、業務課題の解決にとどまらず、その一歩先へといいますか、それによって生まれる新たな時間とかそのユーザーの心を動く瞬間をとらえるとか。そういったことを丁寧にデザインしていきましょう、という。こういう4つの原則を導き出しました。

今のように言語化していきながら、だいたいその方向性が固まったところで、この部屋の3分の1くらいの部屋で、こういう数百枚のビジュアルをばーっと並べて、その中で先ほど4つの原則に当てはまりそうなものと当てはまらないものを、自分たちでも仕分けしていく。

そういった作業を行いました。その中から目指すべきイメージに近い物を寄せ集めていって、ムードボードというものを作りました。このムードボードを見ると、なんとなく全体の方向性が見えてくるんですけど、これは社内のデザイナーは当然なんですが、とくにクラウドのチームに関しては社外にいる多くのデザイナーさんも関わっているので、そういった方々にも見てもらって方向性をつかんでいただけると思うんです。

同時にNGイメージも定義しています。無機質なビジュアルを避けるとか。素材感の強いイメージや、肉厚のアイコン、信頼感を損ねるキャラは避けるとか。こんなキャラクターは使わないと思うんですけどね(笑)。こういうものを定義していって、方向性を絞っています。

らしさが整うと「デザインの迷いがなくなる」

こういうプロセスを経てようやく、今このムードモードをもとにさまざまなビジュアルを展開し始めております。そうですね、ここに並んでいるのはイベントのキービジュアルや、交通広告のビジュアルなどで、この下の2つは動画広告なんですけれど。

実はこれは全部違うデザイナーが作っているんですけれど、やりながら、なんとなく方向性としては1つにまとまってきてるのかなと感じております。マネーフォワードクラウドとして、信頼感と優しさという「らしさ」が少しずつ整って見えるようになってきたんではないかなと感じております。

この言語化のプロセスは、ビジネスのデザインチームでやっていたんですけど、他のデザインユニットでも同じように展開をし始めております。同じように、付箋などを使いながらワークショップをしていくわけなんですが、そうやって各ユニットごとに出していった原則とか言語化したものを、今度はデザイン戦略グループという横串の組織で共通点を探る作業をしていきます。

例えばですけど、ビジネスのチームでは信頼感や優しさ、あとワクワクみたいなキーワードが上がってきています。コーポレートのデザインチームでも、同じように信頼感や優しさやワクワクに似た楽しさみたいな言葉が出てきてまして。実はこれって共通する言葉なんだね、ということが見えてきます。

ということで、今日の結論なんですけど、「マネーフォワードらしさとは一体なんなのか」ということで申し上げますと、ごめんなさい、今絶賛取り込み中です(笑)。さきほどのようなプロセスで、今後の方向性は非常に見えてきています。

なので、結果がまとまりましたら、また別の機会にご報告をさせていただければと思っております。最後に、「らしさ」が整うと何がいいのかという話なんですけど、まず「デザインの迷いがなくなる」ということだと思います。

当然、みんなが1つのベクトルを持てるかたちになりますので迷いが少なく、効率的になるだけではなく、当然質も上がっていくと思います。それが最終的に最高のユーザー体験を届けるということにつながっていくのかな、と思っています。

デザイン戦略グループしては、今私から申し上げた、ブランディングの全体最適、マネーフォワードらしさの実現と、デザイン原則の策定・普及を行っています。他にもいろいろ取り組んでいまして、例えばサービスデザインプロセスの策定・普及とかですね。

またデザイナーの評価基準の策定や、ユニットごとで解決しないデザイン課題への対応を行っています。あとは新技術を活用した新しいユーザー体験の検討ですね。こういったことを、デザイン戦略グループとして行っています。では、続きまして、もう1人のリーダーの猪爪から、サービスデザインプロセスの策定・普及について説明させていただきたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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