自己嫌悪に陥ったときは“ギブ”のスイッチを入れる

伊藤:ちょっと尾原さんにおうかがいしたいのは、僕は「どうしたらいいんだろう」ともやもやするところがあって。自分の軸を鍛えるのは、内省的にそれをやるのはできるんです。でも人と比べることをどういうふうに考えたらいいんだろうかと思うわけですよ。

結局、Facebookとかを見ていると「俺はこれをやったぜ」「私はこれだ」みたいなことにまみれているわけです。例えば、先週京都でICCというイベントがあって、そのICCにはいろんなビジネスリーダーが来るわけですよ。で、そのビジネスリーダーたちの話を聞いていると、「すごいなー」「この人やばすぎるわ」みたいなことばっかり感じて。

伊藤:そうやってあんまり人と比べていると、ちょっとこう……コンプレックスというか、自己嫌悪に陥るようなことがあって。

尾原:はい。

伊藤:尾原さんにはそういうことがあるのかないのか。あるとしたならば、どうやってそこを良いエネルギーに変えるのかを聞きたいです。

尾原:僕が自己嫌悪に陥るかどうかですか。僕の場合は、自己嫌悪に陥りだしたらスイッチ(すり替え)すると決めているんです。

伊藤:へぇ。

尾原:自己嫌悪に陥りだしたら、他人にギブするしかしないんですよ。

伊藤:そこはある意味、言い方は悪いんですけど思考停止をして。

尾原:そう。だって結局は他人と比べるから自分が小さく感じるんだけど、それを人にギブするという観点になったら「自分よりすごい人見つけた」というのは誰かにその人を紹介できるかも!っていう最高のプレゼントじゃないですか。

伊藤:なるほど!

尾原:ここで見つけたものを伊藤ちゃんに持っていったら、「これ最高じゃない?」に変わるわけです。ただそれを自分と比べちゃうと、自分はそれになれないから自己嫌悪に陥っちゃうんです。だからもう自分の中でスイッチすると決めているんですよ。

伊藤:なるほどですね。

心の余裕がないときは、成長物語を追体験している

尾原:大事なのは、他人にギブするには心にそれなりの余裕がないとギブできないんです。心の余裕がないときは、どうしても妬みや嫉みが起こっちゃうから。そういうときには別のスイッチを決めていて。

伊藤:それはどういうスイッチ?

尾原:漫喫にこもって『シャカリキ!』を全巻読む。

(会場笑)

伊藤:なるほど(笑)。

尾原:でも『シャカリキ!』は最近、漫喫になくなってきちゃっているので、そういうときはしょうがないから『はじめの一歩』のヴォルグ戦ぐらいまで読む。

(会場笑)

ということをMake it ruleですね。安定した物語というのは、物語の中で自分を見つけて、自分が成長するじゃないですか。そこを追体験していく。自分の中の自分を信じることで生きる、みたいなことが戻ってくるから、そういうルーティーンを決めているんだよね。

伊藤:ルーティーンとして、もう儀式として決めてあるという。

尾原:そうそう。

伊藤:ちょっと「なにを聞いてもいい」ということなので……。

尾原:はい。なんでもいいですよ(笑)。

権力をすべて放棄する儀式

伊藤:聞きたいんですけど、ICCとかもそうだし、ほかのケースのときはどうかわからないんですけど、漫画喫茶とかに泊まられているじゃないですか。

尾原:そうですね。

伊藤:あれもなにかの儀式なんですか?

尾原:あれは儀式です。僕が一つ決めて大事にしているのは「僕」という立場であれ「伊藤羊一さん」という立場であれ、みんな結果を出している人は誰かの力を借りることによって今いるんだと思っているんです。

伊藤:うん。

尾原:一方で、僕がこの場にいれることと、伊藤羊一さんがこの場にいれることは、ほかの方々が……別に伊藤羊一さんじゃなくても「1分で話せ」みたいなことを言う人が現れたら、編集者はその人に力を渡していたかもしれない。だから、誰かの機会を奪って存在しているということを常に思っているんですよ。

伊藤:はい。

尾原:権力というものは、人から力を与えていただいたから、たまたまその人はその権力の場にいれると思っているんですね。だから絶対に僕は権力を全部放棄すると決めているんですよ。

伊藤:そうなんだ! 権力を放棄するんだね。

尾原:はい。だから自分が権力化しそうになったら、僕は全部放棄するんです。

伊藤:なんだかそういうときに逃げる印象があるんですが、あれは放棄していんだ。

尾原:はい。だからわざと良いホテルには絶対泊まらないし、一番安い所に泊まって、誰よりも最初に行くんです。それで後片付けをしたり、そのときにいるスタッフで一番下の方より地道なゴミ拾いをするとか。

「名モデレーター」は邪魔 ICCにボランティアスタッフとして参加

伊藤:なるほど。今回ボランティアスタッフをされたのも、権力を放棄しているということなんですね。

尾原:そうですね。やっぱりちょっとICCは常連化しすぎていて、人から「名モデレーター」みたいに思われがちになっちゃったんですけど、そんなの邪魔じゃないですか。

伊藤:なるほど。

尾原:だって別に「名モデレーターとしての尾原」を見てほしいんじゃないんです。「モデレートに関わらせていただいたことで輝いた他のスピーカーの中身だけを感じてくれ」なわけですよ。

伊藤:あぁ、そういうことね。実はイベントで、要は(尾原氏は)登壇者として出ていたわけですよ。モデレーターやスピーカーとしてずっと出ておられて、そのセッションはだいたい人気セッションなんです。でも前々回かな、「引退する」と言って。そうしたら今回、「スタッフとしてやります」と。

尾原:普通にB会議室のマイク回しとか、タイム出しやっていましたからね。

伊藤:それで「私はスタッフなので、あんまり声をかけないでください」と。僕らも「あっ、尾原さんだ!」と思ったんだけど、「尾原さん、スタッフのTシャツを着てる!?」となって、声をかけていいのかわからない感じだったんですよ。あれには明確に意図があるわけですね。

尾原:そうです。それが趣味ですね。権力から自由だからいつでも権力に噛みつけるという。

(会場笑)

インターネットは権力に噛みつく世界

尾原:一人ぐらいいたほうがいいじゃないですか。世の中的には、それが山本一郎さんと僕という。

(会場笑)

でも山本一郎さんは若干、愉快犯としてやるところが癖としてあって。

(会場笑)

ときどきいいことも言うんですけど、ときどき迷惑なんですよ。

伊藤:あれは芸風な感じですよね、噛みついているというのは(笑)。

尾原:そうですね、噛みつきにも芸風があるので。やっぱりそういう芸風を選択しているという話ですよね。

伊藤:そうなんですね。それはやっぱり、過去の経験が紐づいているんですか?

尾原:そうですね。だから僕らは、さっき言ったように自己定義が「インターネットの味方」なんです。

伊藤:インターネットはフラットだから、権力に噛みつく世界ですよね。

尾原:そうなんです。だからインターネットは結局、みんなの協力によって為しえているわけですよ。今はなんとなく当たり前のインフラになりすぎちゃったけど、いろんな大学とか、それぞれの人たちがネットの回線を引いて、それぞれがサーバー設定をしたからで、まさにみんなの力を寄せ集めて大きな力にしているんです。

Wikipediaとかは今でもそうですよね。みなさんのちょっとずつの知恵によって成り立っているわけじゃないですか。

伊藤:今思ったのは、そういう経験をされて。やっぱり権力に噛みつくために権力を放棄するから、ちゃんとそこまで行動に落とし込むという。

『LIFE SHIFT』で語られている“連続専門家の時代”の重要性

尾原:そうですね。ただあともう1つは……ここまでだとみなさん、なんのヒントにもならないじゃないですか(笑)。なので多少ヒントに近づけていくことにします。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』を書かれたリンダ・グラットンさん。

伊藤:はい。

尾原:あれは「人生100年時代」の「100年」のところばかりが着目されがちなんですけど、もっと大事なこととして、彼女は「連続専門家の時代」だと言っているんですよ。

要は1つの専門分野を作ったとしても、その専門分野が一般普及品にコピーされてしまう時間が早くなっているから、1つのジャンルの専門家では逃げ切ることができないんだと言っているんです。

そのときに彼女が言っているのは3つの「人に大事な能力」があると。それが「生産性資産」「変身資産」「安心資産」です。「生産性資産」というのは、物事をやってく上ではやっぱり効率的にやっていくという。さっきの「Howを振り返りましょう」みたいな、生産性をいかによくするかのアセットが大事なんですね。

「変身資産」は、今戦っているフィールドで戦い続けている間に、ちゃんと次に変身できるようにすること。変身できるための技法や、変身しやすくなるための仲間が大事なんですよね。

伊藤:なるほど。

尾原:でも変身ばっかりしていると自分が何者かわからなくなって、それでおかしくなってしまう人が出てくる。わかりやすい例だと、アメリカの俳優で「いろんな役ができる」と言う人ほど、ちょっとおかしくなっちゃう人がいるじゃないですか。

やっぱり変化しすぎると、自分がわからなくなってしまうんです。「じゃあ自分がどこにいるのか」という原点に立ち戻るための安心できる場所が、最後の「安心資産」。この3つを持つことが大事だと言われていて。

未来を見るための変身資産の価値

尾原:僕の場合、「権威化する」というのは「守りに入る」ということでもあると思っていて。だから僕みたいに新しい知識を前提に戦っている人間を参考のために調査したことがあるんですねそうすると、やっぱり途中で急に老害化する人と「歳をとってもコイツはきれいで、鈍らないなぁ」みたいな人がいるんです。

そう思って聞いてみると、「過去の成功体験からの話が多くなってくると、未来が見えなくなる」と言う人がけっこう多くて。大事なのはやっぱり変身資産として、捨てること。過去の権威にすがらない。その割にはiモードとか絵文字の話をいっぱいするんですけど。

(会場笑)

でも結果としては、やると。やっぱりそこにすがらないようにするというのは、自分の変身資産のために大事です。あと自分の安心資産というのは、「自分は私心でやっているんじゃなくて、インターネットのために生きている」「誰よりも裏方だ」とか。そういうのが自分にとっての安心資産なんですよね。

伊藤:なるほど、先ほどの話は安心資産にもつながってくるんですね。

尾原:そう、いつでも戻れるから。だって言わせてもらえば、裏方をやらしたら僕、天下一品ですよ。

伊藤:ああ、そうなんですね。

尾原:いや、えっ(笑)。

(会場笑)

そこ、了承してくれないの(笑)。

伊藤:いやいや、申し訳ない(笑)。いろんなアドバイスもいただいて、「そうなんだ!」というのと、「僕そういうの得意だから」というのを前に聞いたことがあって。

尾原:そうですね。なので、人によってブレンドはあると思うんですよ。この「生産性資産」「変身資産」「安心資産」でね。そういう意味で、安心資産としての軸というのもあるし、変身するために、今の軸を明確にするために、次の軸が見つかりやすくなることもある。

0秒で動け=コンフォートゾーンを抜け出せ

伊藤:これ、安心資産というのはコンフォートゾーンにもちょっと近づくようななにかなのかなと思って。

変身資産を意識してこの「変える」ということをやってみると。

尾原:そうなんです。安心資産がありすぎると、今度は逆にそこに居続けたくなっちゃうんですよね。

伊藤:なるほど!

尾原:外に出るのは、やっぱり怖いじゃないですか。

伊藤:今ね、僕の人生にとってものすごくインパクトがありました。それが明確になるのはちょっと、もうしばしあとだと思うんですけど。

(会場笑)

尾原:だって、「0秒で動け」というのは、一言で言うと「コンフォートゾーンを抜け出せ」ということで。

伊藤:そうですよね。まとめていただくとそういうことになるんですけど、本人はあんまりそこまで意識していないんですよ(笑)。

(会場笑)

仮面の外し方を学び、自分が立ち戻れる場所を明確にする

尾原:「コンフォートゾーン」というのは教育学の言葉なんですよ。人はどうしても「お母さんのそばがいい」とか思っちゃうんですね。そういったときに、子どもがその安心・安全な空間から変化を楽しむようになる、好奇心を殺さずに新しいものを学び続けるようになることが、やっぱり教育上大事なんです。

伊藤:そうですね。だから一方で「変化する」ことだけじゃなくて、「安心資産」もちゃんと意識しつつ。そうやって両立することが今はすごく大事なんだと思います。「それでいいんだ」となると、踏み出せる人はやっぱり増えるんじゃないかな。

尾原:例えば、これは石川善樹に教えてもらったことなんですけど、イギリスの俳優っておもしろくて。イギリスには国立の俳優の大学があるんですよ。そこの大学では、1年間かけて仮面を外していくことを教わるんですよ。

伊藤:あぁー。

尾原:いわゆる「俳優」は、炎の仮面とか喜びの仮面とか、仮面を付けることをやっていくじゃないですか。でもそうじゃなくて、イギリスではまず全部外して、仮面をすべて外した自分は何なんだ、ということを一回やるんです。

そしてそこでグラウンディングをして、自分の立ち戻れる場所をちゃんと自分の中で明確に持ってから、仮面を付けてく。そうすると付け外しが自由な、すごく良い俳優になるという考え方でやっていて。そういう意味でも軸は大事になってくるんですよね。

伊藤:要は、仮面を外すのは「ちんけなプライドを捨てろ」というようなことにもなるんでしょうね。

尾原:そうです、おっしゃるとおりです。

伊藤:なるほど、勉強になるなぁ(笑)。

(会場笑)

尾原:僕、いつもメッセンジャーでこんな感じになるんですよ。

伊藤:ありがとうございます。……とか言っているうちに、もう時間が相当過ぎていてですね。