学習にフォーカスしないスタートアップは失敗する

田所雅之氏:ユニコーンファームの田所と申します。今日は「スタートアップ/新規事業の失敗を90パーセント潰す一番のポイント」についてお話したいと思います。

まず最初に、僕の自己紹介をさせていただきます。これまで日本とアメリカで5社起業してきて、Exit経験もあります。さらにシリコンバレーのベンチャーキャピタルのパートナーとして、これまで3,000社以上のスタートアップの評価をしてまいりました。

今日は僕の経験を踏まえた上での、「いかにしてスタートアップの失敗を減らすか」について話したいと思います。お話しするのは、これまで見てきた3,000社以上のスタートアップから得た知見だけではありません。

シリコンバレーにあるStartup Genomeというスタートアップの研究機関があります。ここは失敗するスタートアップと成功するスタートアップを研究しています。そこが調べた3,000社以上データに基づいたお話をしたいと思います。

今日お話しする内容は、僕がメンタリングセッションやアドバイザーセッションで一番最初に話す内容です。ところが、90パーセント以上のスタートアップができていません。それは何でしょうか?

これは言い切れてしまうんですが、「学習にフォーカス」しないスタートアップや新規事業は失敗してしまう、ということです。Startup Genomeがまとめた統計数字によると、学習にフォーカスしたスタートアップというのは、7倍の確率で資金調達ができています。さらに驚くべきことに、学習にフォーカスしたスタートアップというのは、3.5倍早く成長できているのです。

人は「自分が見たい指標」を計測してしまう

では最初に、学習にフォーカスしないスタートアップや新規事業の行動パターンを見てみましょう。それはこんな感じです。一つひとつのプロセスについて説明したいと思います。

まず最初に「思い込みを信じてしまう」。人間には誰しも認知バイアスというのがかかっています。つまり自分の考えというのを肯定したくなってしまうのです。そういう人たちが集まると、人間には誰しも認知バイアスというのがありますので、自分の考えや仮説というのを思わず肯定してしまいたくなるのです。

そういう人たちが集まって何をするかというと、「こんなプロダクトあったらいいよね?」というプロダクトの話をしてしまいます。そしたら2番目の人が来て「僕もそう思う! 作ってみたい」という感じになります。

「じゃあ作ってみよう」という話になり、そしたら3人目が来て「じゃあ自分はプログラミングができるので、実際プロダクトを作ってみよう」という話になります。「じゃあついでに会社も作るか」ということになり、「じゃあ今はやりのスタートアップを立ち上げよう」ということになります。

この時点で何も学んでいないのです。次に何をするかというと、実際にプロダクトを作ります。『THE LEAN STARTUP』という本がありますが、ここで提唱しているリーンサイクルを手本にして、アイデアからとりあえずプロダクトを作ってしまうのです。MVPという概念があります。つまり、必要最小限の機能を持ったプロダクトをローンチしてしまいます。2~3ヶ月かけてプロダクトをローンチします。

次に何をするかというと、「見たい指標」を計測してしまうのです。実際に「人が欲しがるものを作った」というプロダクトマーケットフィットは達成していませんが、何らかの指標を測ったら伸びています。例えばFacebookのファン数は伸びているかもしれません。Wantedlyのランキングは記事を投稿することで伸びているかもしれません。ブログを書いたら、ブログのPVが伸びているかもしれません。

ところがこれはまったく意味のない指標です。実際にプロダクトマーケットフィットを測るような「顧客の定着率」というのは当然低いままですし、売上も上がっていないでしょう。

強化された思い込みがもたらす「自分たちはスタートアップやってるぜ症候群」

エリック・リースという『THE LEAN STARTUP』の著者の言葉を借りると、これは「虚栄の指標」にフォーカスしているということになります。何かをして、前に進んでいないのが不安なので、虚栄になるような指標を選んでしまうのです。

こちらに虚栄の指標……「Vanity Metrics」の一覧を挙げてみました。ご覧ください。

こうしていると、自分の認知バイアスのかかった思いというのが強化されてしまいます。つまり悪循環に陥ってしまうのです。このように悪循環が生じてしまい、思い込みが強化されてしまいます。

それを僕はこう呼んでいます。「何かやってるつもり症候群」。もしくは「自分たちはスタートアップやってるぜ症候群」と呼んでいます。残念ながら何も学んでおらず、前に進んでいません。これは少しきつい表現になりますが、「嘘の仕事」をしていることになります。

スタートアップにおいて大事なことは、「一生懸命仕事をする」よりも「正しいことを一生懸命する」ことが大事になります。後ほど「何を正しくするか」についてはお伝えしたいと思います。

スタートアップにとっては、時間が一番貴重です。時間をなくしてしまう前に、きちんと学習して前に進む必要があります。今年、とあるプログラムで、とあるスタートアップのメンタリングをしました。このスタートアップが着目している領域は、非常におもしろい領域でした。遺産相続サービスをインターネット上で提供する、遺産相続SaaS型のサービスでした。

ご存知のとおり超高齢化社会である日本において、遺産相続の流通総額は非常に大きくなっています。僕もメンターなので、実際に競合について調べてみました。競合もほぼいない、良い状況でした。

創業者の山田さん、これは仮名ですけれども、彼の経歴もばっちりでした。都市銀行を出て、ファイナンシャルプランナー1級を持っていました。

僕はメンタリングの初日に、彼にこんな質問をしました。「事業について教えてください」と言ったんですね。僕は事業について聞くときに、山田さんが何を学んで、どういうカスタマーインサイトを得たかというのを聞きたかった。そういう意図がありました。ところが山田さんは「とりあえず自分が作ったプロトタイプを見てください」という感じで、デモが始まりました。

アクションを急ぐあまり、いきなりソリューションから始めてしまう

そこで僕は質問してみました。「そもそもこれは『誰の』『どのプロセス』における『どんな課題』を解決するんですか?」と聞いたんですね。

事業というのは、「誰の」「何を」「どのように」、つまり「誰のどんな困りごとをどう解決するか」ということで言い表せます。ここで大事になるのが「誰の」「何を」になるんですが、彼はまったく「誰の」「何を」を意識せずに、「どのように」、つまりソリューションから始まってしまったのです。

山田さんは、僕の質問に対して答えることはできませんでした。つまりカスタマーインサイト、「顧客の深い欲求」を学習することなく、プロダクトを作ってしまったのです。先ほどの図で言うとこうなります。思い込みを信じてプロダクトを作ってしまった、ということでした。

僕はそこで質問しました。「なんでそもそもプロダクトを作ったんですか?」。山田さんはこう答えました。「投資家に早くアクションしろと言われた」。つまり投資家にとっても山田さんにとっても、前に進む、アクションをするということは、「プロダクトを作る」ことだったのです。

そこで山田さんにアドバイスを求められました。「どうすればいいですか?」。僕はこう答えました。「学習にフォーカスしてください」。次にお見せするスライドが、今回で一番大事なスライドになっています。

こちらをご覧ください。学習にフォーカスするということは、こういう流れになっています。

誰の困りごとをどう解決するのか、仮説を構築する

では一つひとつのプロセスについて説明したいと思います。

まず最初に、仮説構築をするということです。先ほども言いましたが、事業というのは「誰の」「どんな困りごとを」「どう解決するんですか」ということになります。まず最初に着目すべきは、「誰の」になります。そこで重要になるのが、そこで関わってくる主要な登場人物を洗い出すことになります。遺産相続の事業ですので、当然「相続人」「被相続人」が大事になります。

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