2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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若宮和男氏(以下、若宮):今回のYour(の基調講演)でも、さっき奥田さんが(今は男性目線でビジネスが生まれているから)片目をつむっている(ような状態だ)とおっしゃっていたんですけれど、本当にそうだなと思って。この間、「ami」という起業家のライブ配信に行ったんです。そこでも女性の起業家さんはすごく少なかったらしいんです。
病児保育の事業を立ち上げた人がいるらしいんですけれど、やっぱりニーズそのものが、ぜんぜん理解されないんですって。めっちゃよくないことだと思うんですけど……男性が育児に携わっていないから「病児保育にニーズあるの?」みたいな。ニーズは絶対にあるんだけれど、片目をつむっているから見えないというような取りこぼしがたくさんあると思っていて。
今までで言うと、わりとこれ不思議だなと思うんですけど。ソーシャルアントレプレナーみたいなところは、わりと女性もいる……なんでかわかんないけど、そういうイメージがあるんですけど。それって、認識として正しいと思います?
奥田浩美氏(以下、奥田):正しいと思います。でも、私は、それは女性が適性があるからではないと思っていて。どういう意味かと言うと、女性が今までの生活の中でケアの側に閉じ込められてきたという社会。
ケアの側に近いということは、そういうソーシャルの人々が抱えている課題に近いんですよね。おじいちゃん・おばあちゃんが大変とか、子どもが大変だという。女性の母性云々は私はぜんぜん信じていなくて。ただ、今までは女性がそちら側のケアに近かったから。単純に近い方が……。
若宮:見えるということ。
奥田:そうです。男性はここより上を見て歩いてきた。女性はここより下を見て歩かされた時代の、ある意味の副産物なんじゃないかなっていうふうに。
藤本あゆみ氏(以下、藤本):あとはVC側も女性が圧倒的に少ないんですよ。
若宮:それはなんでなんですかね?
藤本:ボーイズクラブだったので、女性が入る余地がないので。それこそお金の監査などはできないというふうに言われていたので。
若宮:日本で言ったら、何人も(いない)……。
藤本:あ、片手(で数えられるくらい)。
若宮:片手ですよね。
藤本:思い浮かべる人たちしかいないので。一応そのコミュニティもあるんですけど、やっぱり同じ話しか……。
奥田:全員知っているという。
藤本:そうそう(笑)。みんな知り合いっていう。それは日本でもそうですし、アメリカでもやっぱり(女性の起業家が)少ないので。さっき言ったFoundHERは、起業家だけではなくてVCも育てる。VCも増やすというところを目的にしてたりするんですね。
じゃないと、さっきの(若宮さんの話にあったように事業の)価値がわからない。こっち側は価値がわかっていても、投資する側が価値をわかっていないので、事業が認められなくて結局スケールしないという、機会損失。
奥田:権利型の事業の投資モデルって、この人が蹴ったボールを2番目が蹴り、3番目が蹴り、どんどん雪だるまになっていくというのがいわゆるいいかたちの資本政策なんです。だから、最初に「これがいい」と思ってボールを蹴った人がいても、ほかの人がいいと思わなければ、ぜんぜん雪だるまになっていかないので。
最初に蹴る人の価値観はすごく大事なんだけれども、女性が最初にボールを蹴ったところで、「え、病児保育ってなんで必要なの?」ということになったらお金が入らないんですよ。
若宮:……そうですね。
奥田:ニワトリと卵で、先に女性の投資家を増やすと言ったって、まずニワトリは増えないというところ。
藤本:両方を増やさなきゃいけないという感じはします。
奥田:じゃあ夢がないのかと言うと、いや、やっぱり社会は明らかに……私はこの社会で30年間生きてきて、恐ろしい速度で変化していて。今はものすごく加速度的な最後のビュンッという(スピードで物事が進んでいる)ところに、社会が幸せかどうかということが、地球とかから突きつけられてきてるので。私は、地球が女性の状態を手伝ってくれていると思ってるんです(笑)。
若宮:ものすごい話に(笑)。さすがの規模感の話。
奥田:本当にそうです。いろんな課題があまりに大きくなりすぎて、“目の前のお金転がし”では済まない時代が来て。そりゃそうですよ。少子高齢化で子どもが減っていく。気候が変わっていくというときに、そもそもの今までの雪だるまゲームでいいのか。
そういうときに、それじゃあ子どもたちに未来を……ってケア側にいた女性たちが声をあげたら、「やっぱり女性って社会的な感性があるのね」って。そうじゃない。「感性じゃないよ」という話かなと思います(笑)。
若宮:僕もね、「女性の感性を生かした起業サポート」というのが、一応「Your」のキャッチコピーになっている。
奥田:そうそう。それで、感性(という言葉)に噛み付いたんですけれど(笑)。
若宮:奥田さんにしたら、「女性の感性っていうのは……」という。本当にそうなんですよね。
奥田:「男性の感性を生かした起業」って言わないじゃないですか。なぜか女性にだけ、「女性の感性」って!
若宮:ごめんなさい(笑)。
藤本:女性起業家、女性マネージャーって、必ず女性が付く。
奥田:女性の感性、女性らしさみたいな。まずそこから破壊したい。
若宮:(笑)。本当にそうだなぁと思うんですね。あと1個、今回うちの会社がなんで副業かと言うと、とにかく倒れるまで働くんだぜというのが、いっぱい働いて……スピード競争だったらそうなると思うんですけど、それが価値の大きさには必ずしも比例しないことを証明したいと思ってやっています。
いっぱい働いた人のほうが強いゲームだと、男性のほうが絶対に時間を食われないじゃないですか。それ自体よくないんですけど。
奥田:でも私、「未来から来ました」といつも言ってるように、実を言うと、この5年間、私は1つの事業だけに集中してこなかったんですね。3分の1がすぐにお金になることをやり、3分の1はいつかお金になりそうなこと、3分の1は絶対お金にならないけれども、人間誰かがやらなきゃいけないことというのを区分けして生きてきたら、そのほうが事業がグーッと伸びていて。
なぜかと言うと、お金だけのために働いている人よりも社会を良くしてくれそうな人と働きたいじゃないですか。そういう時代がやってきて。今うちは就職とかの採用にも困っていないし、お客さんも困っていないしという。
社会からの評価軸が変わった未来にいるという意味で言うと、24時間働くよりは私のように、この前までインドにいて、その前はシリコンバレーで、ふわふわ飛んでるほうが社会の情報がわかって、そして楽しそうだからみんながジョインしてくるという時代が来たと思っています。
若宮:あゆみさんもそれこそ、at Will Workでいろんな働き方をされているということなのでちょっとお伺いしたんですけれど。うちの会社でもママ業と副業じゃんと言ってやっているんですけれど。そうすると現役で……うちの今のYourNailというサービスは、ママがめっちゃ多いんです。そうすると現役なので、ユーザーの気持ちが超わかるんですよね。それと副業をしていることのシナジーってすごく出ていて。
いくらフルコミットできても、その気持ちがわからない人にはわからないというようなこともあると思うので。さっき奥田さんがおっしゃったみたいに、いろんなところに足を突っ込んでるというと言い方が悪いですけれども、世界を見てると、そこにバリューが出てくることがあると思うんです。
だけど、今の日本の社会は、まだそこまでいっていない感じですか? スタートアップに女性が少ないのも、働き方の問題もあるんじゃないかなと思っていて。
藤本:でも、スタートアップが死ぬまで働くというのは幻想で、そんな時代はだいぶ和らいでいます。もちろんメリハリはあるので、例えばサービスを出す前はすっごく集中しますし、そうじゃないというのもあるので。
「24時間倒れるまで働いていますか」と言うとそうではなくなってきている、ということはスタートアップの中では言ってあげたいなと思います。もちろんそういう会社もあるし、そうじゃない会社もあるし。そうじゃないときもあるし、というふうに思っていただきたいなというのが、まず第一にあります。
私も掛け算でいろんな視野を広げるということはすごく応援したくて。実は私は、できるだけ違うことをやるのをおすすめしてるんですね。例えばユーザーの気持ちを知ることは大事なんですけれども、知りすぎると逆にほかが見えなくなってしまって、本当は大事なものとか、ちょっとこれをプラスアルファでサービスとして付け加えるともっといいものになる、というのが見えなくなっちゃうので。
極力関係ないことや違うことを2つ以上やるということを、実はおすすめしています。なので、Plug and Playもat Will Workもぜんぜん関係ないんですよね。だって働き方とスタートアップで……。
若宮:確かに。
藤本:多少……みたいな感じなんですけど、でも、やっぱりやっていくとその両方の情報が自分の中に重なってきて、自分にしか話せないことが話せるようになる。それから、自分にしか見えない世界が見えるようになってくるんですね。
最近よく「キャリアはハッシュタグ」って、みんな言うんですけれども。自分のやれることを棚卸ししてハッシュタグ化していくと、それが掛け算になって、もっと自分だけにできることが増えていく。なので、副業なのか兼業なのかという言葉はいろいろありますけれども、複数のものを試してみることは、いろんな視野を広げるという意味ですごくおすすめしています。
若宮:それはあれですよね。視野を広げつつ、いろんなものに触れることで、レンズの真ん中、自分の一番核となるゾーンが見えてくるような感覚?
藤本:(そういうものが)見えるし、「あ、そういうやり方もあるんだ」という、違う選択肢も見えてきやすくなるんですね。没頭していると、「とにかくこれをやらなきゃ」という気持ちになってしまうので、やり切らないとダメなんだっていう。
たぶんすっごくみなさん真面目なので。1回ここにコミットしたんだから、やり切るまではよそ見したら絶対ダメって思うんですけど。複数やっているときって、そもそもよそ見しているので、それが普通というふうになるんですよね。なので気持ち的な余裕も含めて、集中しすぎないことはすごくいいなと思います。
若宮:確かに確かに。その空気穴みたいなものって大事ですよね。けっこうベンチャーって、メガベンチャーまで行っていても、窒息しそうな環境で走っているようなものもあって(笑)。
藤本:そうなんです。あとね、やめられなくなるんですよ。やめたらもったいないってやめられなくなるので。掛け算してるときって、こうピボットしたらいいよねとか、これは1回畳んでもこう次に行ったらいいよねって。
ポートフォリオがいくつかあるといろんな選択肢ができるんですけど、1個しかないと、「自分がここまでお金も時間も体力も費やしてきたんだから、これをなんとかしないとダメなんだ」って思って、どんどん辛くなると思います。
奥田:また地球規模の話をしていいですか?(笑)。地球規模で考えると、生産性って人間が一番のリソースなので、人間が一番いいところで一番いいパフォーマンスができていることが、会社にとっても地球にとってもいいと思っているんですね。
例えば数千人の会社でも、私はちっちゃな器だと思っていて。そこに当てはめるために、一人ひとりがこんな感じ(縮こまるようなジェスチャー)でいる会社って、会社にとっても良くないし、地球にとっても良くないと思っています。
いかに一人ひとりが心地良くいるかって、ただふわっと言っている話じゃなく、会社のパフォーマンスとして10倍になると思うんですよね。一人ひとりが「自分がこういう社会にしたいから、自分がこの会社にいて、この部分をやります」というのと、会社からこのビジョンを与えられて、そこに合う部分の自分の10分の1だけを差し出す。これが今の大企業に近い部分が多くある。
必ずしもそうじゃないと思いますけれども、会社に合う、「はい、これを差し出します」というよりは、「私がリソースなので私のリソース、プライベートもオフィシャルも関係なく、このリソースどうぞ」というような人がどれだけ地球上に増えていくか。そういう観点で、もう会社という枠が作られていっている……というか、うちの会社はそうしています(笑)。
若宮:そこまでいっている会社は、まだそんなに多くない。うちも結局副業というのはプライベートとか女性が……とあんまり言い過ぎるとアレかもしれないですけど(笑)……働きやすいことを考えていったときに、副業で(やっていくことが)当たり前で。
別にその時間が、子どもが生まれたらママ業と副業でいいしというふうに、細切れでも当たり前にやれているほうが、パフォーマンスが出るなと思って、そういうかたちにしているんですけど。
今おっしゃったみたいに、会社の枠組みの組織のかたちに人を合わせていっていたのが今までだったと思うんですけれど。それがすごくもったいない時代に……。
奥田:もったいないと思います。あと女性も一人ひとりが違うので、「子どもができたらみんなママとして生きたいか」と言われると、そうとも限らなくて。
若宮:あ、そうですよね。本当にそうだと思う。
奥田:私は1週間に1回くらい家にいるくらいがちょうどいい、って家族に言われていて(笑)。
若宮:家族に言われている(笑)。
奥田:なぜなら、あまりずっといると、家族が支配されちゃうらしい。(私が)家族のCEOになっちゃって(笑)。そういう意味で、どれくらいの距離感で生きていくかという。これからの時代って、会社も家族もこういう個人の関係も距離がすごく大切な時代で。
その距離を会社が決めるんじゃなくて、個人が決める距離としての副業だったり、個人が決める距離としてのサテライトオフィスだったり。そういう関係って会社だけじゃなく、すべての人間関係をちゃんと距離を持って自分がアサインして、ここの部分は重なってるから会社だよね、という社会にして……もうなっていると思っているんですけど(笑)。
若宮:そういう意味でも、実は1回事業アイデアを聞いた人でも、自分は働いているんだけど、子育てもがんばらなきゃいけないのがやっぱり辛いと。それをサポートする事業を考えている人がいて。
それはその人が当事者とか、自分の環境とルーツの中で……プレッシャーがあるじゃないですか。子育てをがんばらない母親は失格みたいな。誰に言われなくても自分が一番感じていることを、なんとかこういう人を解放したいというのがその事業にきっかけになったり。さっき奥田さんがおっしゃったみたいに、今応募いただいているものでも、ルーツや自分のところから出てくる事業がわりと多い印象なんですよ。
奥田:そうですね。一番最初にビジネスを作るときに、その作り方が簡単という言い方は変ですけれども、一歩を踏み出しやすい。そこを重ねていくと自分なりの方程式ができてきて、縦横の線を引いて、あ、ここのパーツが世の中に足りてませんねという。分析からくる起業の仕方みたいなものもできていくと思うんですけど。
やっぱり自分が思ったことに人が共感してくれて、お金を払ってくれる。これが最初のビジネスだとすると、喉が渇いた人にレモネードを売りたいね、というのがアメリカのビジネスの第一歩だということがすごくわかるので。まずはそこをやってみて、もっとビジネスのおもしろさがわかったら、いろんなパターンのビジネスをやってみればいいのかなと思います。
若宮:確かに、確かに。
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