二足の草鞋で活躍する、Plug and Play Japan藤本あゆみ氏

若宮和男氏(以下、若宮):最初にあゆみさんから、自己紹介がてらお話していただいて。

藤本あゆみ氏(以下、藤本):みなさん改めまして、Plug and Play Japanの藤本と申します。実はここを管理しているわけではなくて、ここは(Plug and Play Japanが)東急不動産さんと一緒に作っている場なんです。一緒に新しいスタートアップをもっと応援する場所を作ろうということで、2年前にオープンしました。11月オープンなので、正確にはもうすぐ2年というところになります。

Plug and Playという会社自体は2006年にシリコンバレーで創業していまして、日本には2年前……こっちは7月に来たので、もう2年経ったんですけれども。2年前に設立しました。イノベーションプラットフォームを作るところをミッションにしてやっています。

私は約1年半くらい前に入社したんですけれど、実は奥田さんのさっきのシリコンバレーの合宿がきっかけでした。あそこでの出会いがなかったら、私はここにいなかったので。

奥田浩美氏(以下、奥田):いないですね。私もそう思います。

藤本:奥田さんありがとうございます、という感じです。もともとは新卒ではキャリアデザインセンターという求人情報誌のところで、新卒で営業としてキャリアをスタートして、そのあとGoogleに転職しました。まだGoogleが向かいのセルリアンタワーにいた2007年です。

そのあと辞めて、アットウィルワークという社団法人を立ち上げつつ、お金のデザインというフィンテックの会社で働いていたときに合宿に行って、今に至るという感じです。なので、今は2つの仕事をしていまして。

アットウィルワークという社団法人では、働き方の選択肢を増やすことをミッションに、5年限定の社団法人ということで、今3年目なんですけれども。理事は私を含めて5人いて、5人ともそれぞれ別々の新しい働き方の選択肢を作るということで、私は会社員をやりながら代表をするということで2つの仕事をしています。

女性の起業家・VCを増やす取り組みを模索

藤本:Plug and Playの話に戻ると、今は3つのビジネスの柱でやっています。主にアクセラレーションプログラムというところと、ちょうどこの間、ベンチャーキャピタルとしてビジネスも始めて、これからいろいろと投資をしていこうかなと思っています。世界30拠点以上でプログラムを展開していて、日本はその中の1つとしてやっています。

藤本:ミッションは4つあります。1つは、大きくは日本のイノベーションプラットフォームを作るというところ。あとは、日本のスタートアップを海外に連れていくところ。あとは、海外のスタートアップを日本に連れていく、という両方のミッションをやっています。

なぜこういったことをお手伝いしているかと言うと、本社でFoundHERという取り組みを先導してやっています。女性起業家、もしくはVCをもっと増やそうというイニシアチブをやっています。日本でもこういうことができないかなということで、今模索している状態なので、こういった活動をお手伝いしながら、私たちが何をできるかを考えていきたいなと思っています。

はい、通知がうるさいので、切っておきますね。ありがとうございます。

若宮:ははは(笑)。忙しさのわかる……このセッションの間に、めちゃくちゃ通知が来ましたね(笑)。

藤本:そうですね(笑)。切ればよかったなと思いました。失礼しました。

女性起業家が少ないのは日本だけ?

若宮:ということで、もちろん奥田さんはいろんな種類の起業をやっているし。あゆみさんもアットウィルワーク社団法人などを立ち上げも含めてやりつつ、お2人ともが次の起業家を応援する活動を今もずっと、いろいろとやっていらっしゃいます。

そういうところから見て、さっき奥田さんは男女というものは別に均等になっているし、それはもう終わっているんだというか、済んでいる話だという……。

奥田:自分はね。

若宮:なんですけれども、僕がこの事業を始めようと思ったのも、実際に起業家のところに行くと、本当に(女性は)5パーセントくらいしかいない……。あと、この間もICCサミットという、京都でベンチャー界隈の人と企業の新規事業担当者と投資家が集まるイベントに行ったんですけれど、女性が1割いないんですよね。

奥田:いてもアシスタントが多いでしょ?

若宮:そうそう、そうそう。あと広報とか秘書みたいな感じなんですよね。

奥田:CXOではない。

若宮:ではない。最近CFOとかそのへんは増えてきたんですけど。「これ、なんでなんだろう?」というのと。日本だけ特殊なことですか?

シリコンバレーはスタートアップの“レジャーランド”

奥田:いえ、ぜんぜん。やはり世界的に女性の起業家は少ないですし。それは女性ががんばればいいという話ではなく、私は社会のシステム自体が違っていると思っているので。

そもそも資金を多く集めて、極力早く走り切る。そういうかたちの起業というものに対して女性が今までフィットしていなかったというだけの話なので、社会がこれから変わっていくだろうなとは思っています。

若宮:ちょっとでも先進的な国や事例というものはあるんですか?

藤本:でも、シリコンバレーですら足りないので。

奥田:シリコンバレーはめちゃくちゃボーイズクラブで、まさに……。

若宮:そうですね。ボーイズクラブ(笑)。

藤本:じゃないと、あんなにイニシアチブ走らない。

奥田:走らないですし。あそこは一番体力と気力を重要とするので、家に帰らないくらいの……帰らなくて済むようなカフェテリア、家に帰らなくて済むようなレジャーランドに、スタートアップがすべてを振り切っていると私は思っています(笑)。

若宮:はいはい。いわゆるGoogleとかもめっちゃ住めるくらい、昼飯のところとかもすごいですもんね。

藤本:そうですね。住む以外の機能が全部ある。一応住んではいけない。

若宮:住んではいけないんですか?

藤本:住んではいけないということになってます。

若宮:そうか~。これがどうすると当たり前になっていくかなぁっていうのは……。

観客の3分の1が寝ていても、「能」は650年も続いている

奥田:この先にどんな社会が実現してほしくて、その社会は5年後こうで、10年後こうで、20年後こうで、という流れの伸ばし方の線を描いたあとに、起業家がどうフィットするのか。それを描く社会だったら、私は変わってくると思います。

それよりも短期の短距離走みたいに、投資された1億円のお金を2年で100億にしたほうが偉い、3年で(増や)したほうが偉いって、この社会の仕組みでこの事業が一番いいとされる……。私はそこも否定してないんですけれども。否定しているんじゃなくて、それがベストな起業家だという社会は、もう保たないだろうなと思っています。

若宮:そこは僕もすごく共感するというか。やっぱり日本でもVCがちょっとずつ増えてくると、入れたお金が何倍になりますかという話なので、グロースするっていう……スピードスケートみたいなスタートアップカルチャーだと思っているんですけれども。“早くでかく”みたいなものだけになっていて、それがどれくらいの早さでいくかになってるんですけれど。

イノベーションなどと考えると、世阿弥が始めた能って650年続いてるんですけど、最近、ああいうものってイノベーションだなぁ、と僕は思っていて。時間軸で考えたときに長~く続くイノベーションのほうが実は世の中を変えていることのほうが多いのに、今は短距離走でやるので。一発屋芸人が売れると消耗されていなくなっちゃうみたいな感じ(笑)。

藤本:みなさんの飽きも早いですかね。次、次、次! みたいな感じ。

若宮:能楽師の安田登さんという人とよく話しているんですけれども、能っておもしろくなりすぎない工夫をめっちゃがんばっているんですって。わかりやすくなっちゃうと……今でも、来ると3分の1くらいの人は寝ているらしいんですけど。「こんなにつまらないコンテンツが650年続いてるってすごくないですか?」って、安田さんはそこから始まるんですけど(笑)。

藤本:その解釈がけっこうイノベーティブ(笑)。

喜怒哀楽がなさすぎる世の中を「怒り」で動かしたグレタさん

奥田:続くということの価値を、今まであまり重んじてこなかったというか。ただ、理論はわかります。インパクトを出すためにはかなりの資金が必要で、たくさんの人のエネルギーが1ヶ所に集まって、make impactというものが大事だった時代。それによって今、社会は過去数千年の中で一番スピードが速い時代になっていると。

そのスピードはやっぱりお金と選択と集中で、どこかでお金を一気にかけて、エネルギーを一気にかけて、スピードが速くなった。「わ~、スピードが速いね!」と言っていたけれども。もうそのスピードは、人間が心地いいと思うんでしょうか? という時代が今やっと来ていて。

それよりはまさに、今時事ネタになっているグレタちゃんみたいな子が、怒るエネルギーで何百人を動かすような(時代の)幕開けですよね。

若宮:本当にすごいですよね。

奥田:あの表現方法は賛否両論あると思っていますけれども、私としてはああいうかたちで世の中を動かせるんだ、という。私がさっき言った、喜怒哀楽があまりになさすぎる世の中に怒りっていうものを出して、怒りでインパクトが出せることを久しぶりに見せてくれたと思っているので。

大人に、「ああいう(人の)動かし方はちょっと気持ちよくないね」といくら言われても、私はすごくインパクトがあることだったなと思っていて。そういうふうに人の想い……怒りで示すことを、今日は議論したいんじゃなくて、人というのはお金じゃなくてもインパクトが出せる時代の象徴なんじゃないかなというふうに思いました。

「速さと規模感」はアメリカが作り出したスタンダード

藤本:「誰がスタンダードを作ってきたか」というところかなと思っていて。まさにスピードのところは、歴史がないシリコンバレーだったり、アメリカが早く自分たちの力を示すためには速さと規模感で勝つ、というのでスタンダードを作ってきたと思うんですね。だからこそいろんな会社が生まれたし、Googleだってそうだし。それはそれで、やっぱりその時代に必要だったことだったのかなぁと。

たぶん、これからもそれが続く世の中もあるし。ただ、たぶんいろんなスタンダードが……今は多様性、さっきのダイバーシティというところが、まさにあると思っていて。なので、ヨーロッパなども日本とすごく似ていますよね。歴史があって、それをどう続けるのか、アップデートするのか、それともやめるのかというところでいろんな起業家が増えていますし、日本もそれに近いのかなと思います。

奥田:私、去年ドイツの政府に呼ばれてスタートアップの視察に行ってきたんですけれども。そのときに一番勉強になったのが、スタートアップ支援ではなくて歴史あるファミリー企業、中小企業、ミッテルシュタントと言うんですけれども。中規模くらいのという意味かなぁと思うんですが。

それがものすごく誇りを持って、自分たちは家族を中心とした……中小と言っても何千人、何万人の企業だったりするんですけれど。それがちゃんと世の中をつないできた誇りのようなものを大事にしている。

日本ももっと事業承継的な部分が産業を生み出したり、女性たちがもともとやっていたようなケアの部分をつないでいくことが、小さなものでも何千人で固まれば、大きなビジネスになるような。そういうかたちの考え方があってもいいのかなということをドイツで学びました。

藤本:今までのアメリカ式、シリコンバレー式って、まったくないところから今までの業界をディスラプトして潰して新しい価値を創る! というところで。そこから、今まであるものをアップデートするという事業の作り方が、このあとはもうちょっと増えるんじゃないのかなと思います。「新しくないとダメって、誰が決めたんだっけ」という感じですね。

「修理する権利」や「アップデートしない権利」を認めよう

若宮:それこそ、この間、破壊の学校に行って(笑)。

奥田:そうですね。破壊ってディスラプトなんですけれども、ちゃんと破壊ということに向き合おうよ、という。新しくなればいいというものではなく、なぜ新しくしたいのか、しなきゃいけないのか。破壊しなくても守ればいいじゃないかということを議論する場が、今までは一切なくて。ただ新しいものを、新しいものを、という時代へのアンチテーゼというもの。

若宮:僕はわりとスタートアップ、ITのところにいるので。なにを破壊されたかと言うと、「速いほうがいい」という価値観とはまったく違う在り方の進化の仕方があるな、というのこと。

(例えば)テレビ電話の話があったんです。限界集落でテレビ電話が使えていたんですけど、アップデートが早くて、5年くらい経ったら使えなくなっちゃうんです。

Windows? あれ、何で動いてるって言ってましたっけ? MEじゃないか。なんだかけっこう古いWindowsで動いてて。メーカーももうサポートをやめてしまって、それが限界集落の中ではホットラインだったんですけど……

奥田:87歳くらいの人が使い始めて、今90代になって、4年、5年、使ってというときに。ソフトウェアもなくなったし、ハードウェア側も修理ができなくなったという。はたして、90代になってがんばってきたことが無しにされる技術の進化って何なんだろう、ということを、「新しいものを作りましょうよ」的な世界の若宮さんに突きつけたという(笑)。

若宮:そこの方に、「ITの人なんでしょう?」「頼むので、10年安心して使えるシステムを作ってください」と言われたんですよ。僕らは、アプリのアップデートなどはものすごい速さで、月に何回とかやっています。それは使い勝手を良くするつもりでいるんだけれども、実はユーザビリティを置いていってしまっていたりする。

やっぱり、“男の子カルチャー”と言ってしまうとあれなんですけれども(笑)。スピードスケート(のようなスピード感のあるビジネス)をやっているとぜんぜん見えてなかったな、というようなことを……。

奥田:今はアメリカの中でも、“修理する権利”という言葉が生まれてきています。なので、新しいものにするのではなく修理するとか、アップデートしない権利を認めましょう、という活動が今、広がってきています。