会場全体で“場”に潜ろう

司会者:いよいよゲストの3名に登壇いただこうと思います。ライフイズテック株式会社代表取締役CEO 水野雄介さま。dely株式会社代表取締役CEO 堀江裕介さま。そして、弊社代表取締役CEO 塩田元規でございます。みなさま、大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

では、みなさんから一言自己紹介をいただいてから進めたいと思います。

塩田元規氏(以下、塩田):はい。自己紹介らしいんですけど、じゃあちょっと場をあたためるために「チェックイン」しましょう。

チェックインというのは、今この瞬間にちゃんとこの場にみんなが集まる(ためにやるもの)。みんなが未来のこととか、「今朝、こういうことが起こったからなんか心がざわざわするな」「俺今、これに悩んでるな」とか、他のことを考えすぎちゃうと(この場に)集中できない。コーチングの技術で「この場に潜る」というのがあるんですけど、それをちょっとやりたいです。

水野:今の気持ち?

塩田:今どういう感情かな。緊張してるのかな。楽しいかな。ワクワクしているのかな。なにか怖いのかなとか。もしくは気がかりや気になっていることを言うと、場が和むので、それを(やりましょう)。じゃあ僕からいきましょうか。

アカツキの塩田元規です。ゲンちゃんと呼んでください。会社でもゲンちゃんと呼ばれますので。今の気持ちはね、ちょっと緊張しているかもしれない。

水野:(笑)。

塩田:意外と。みんなの笑顔が少ないから、ちょっとドキドキ感があるんですけど、それだけあんまりおもしろいことが言えないのかな と。

水野:いやいや、大丈夫だと思いますよ ?(笑)。

塩田:それぐらいかな。あとは、この時間をすごく楽しみにしていたので、ドキドキと、ちょっと緊張というところもありますね。よろしくお願いします。拍手。

水野:はい、お願いします。

(会場拍手)

delyでは野球推薦枠採用を検討中?

堀江裕介氏(以下、堀江):dely株式会社の堀江と申します。よろしくお願いします。僕の気持ち? 昨日、一昨日と草野球をやったんです。そこで声を出しすぎて枯れてしまって、最後まで声が……。

塩田:出るかなと。

堀江:出るかが心配です。

塩田:それが心配ね(笑)。

堀江:それ以外はとくに、今はなにもないかな(笑)。

塩田:心配があるのね。みなさん、声が出なくなったら原因は野球だということです。

堀江:野球部(出身)の人ー?

(会場挙手)

おお〜。

塩田:それはどういう「おお〜」なの?

堀江:チャンスがあったら野球部にスカウトしようと思ってるんです。昨日も、タクシーの運転手さんに声をかけたら、実は大学時代に野球で日本2位になって、147キロ(のボールを)投げるピッチャーだったんですよ。

水野:えー!

塩田:けっこうガッツリだね。

堀江:たまたまタクシーの運転手さんが野球部の仲間になってくれたんですけど、誰かこの中にもいい選手がいるかなと思って。

塩田:ということを話しに来たんですね。

堀江:そうですね。うち(の会社)は野球推薦枠も作ろうと思っているので(笑)。冗談ですけど(笑)。

塩田:じゃあ野球が得意な人はdelyに行くという。

堀江:はい。そういう選択肢もありますよ、と(笑)。

塩田:じゃあ拍手で締めようと思います。

(会場拍手)

塩田:じゃあミッチー。

予定調和な雰囲気では生まれない会話を期待

水野:ライフイズテックという会社をやっています、水野と申します。ミッチーと呼んでください。今の気持ちは確かにちょっと緊張している。みんなも緊張感があるんじゃないかな。どうなんだろう。この1時間から、予定調和じゃない会話が生まれるならば最高に楽しいなって思います。生まれるかどうかって、けっこう化学反応で毎回変わるから。あと話したいことでいくと、巨人が優勝したんですね。野球つながりで。

塩田:そうだよね。

水野:私、巨人ファンで、原辰徳監督が大好きでですね。原監督の采配を勉強しているんですよ。経営にもすごく役立つ。

まず勝つことを一番にするんだよね。そのときに、坂本(勇人)選手とか丸(佳浩)選手とか超有名な選手にバントさせたり、あとは調子が悪かったら(選手を)替えたりする。つまり、調子がいい選手を使うから、ほとんど毎日いろんな選手が出るの。野球は9人しか出ないから……言いたいのは、「巨人優勝おめでとうございます!」ということです。

(会場笑)

塩田:なるほどね。それでよかったなと。

水野:はい。ありがとうございます。

(会場拍手)

前後左右同士で早速チェックイン

水野:じゃあ場を温めるということで、たぶん今みんなの隣に座っている人はだいたい知らない人ですよね。

塩田:チェックインしよう。2人か3人くらいで、今の気持ちとイベントが終わったときに「こうだったらいいな」ということを分かち合っていただいて、聞いた人は拍手する。2人より3〜4人ぐらいのほうが楽しいかもしれないですね。

3〜4分ぐらい時間を取るので。ちなみに僕が言っていること(を聞いて)「こいつ、何言ってるかぜんぜんわからない」って人、手を挙げてもらっていいですか? いないですよね。

じゃあスタート。どうぞ。

(参加者で話し合い)

じゃあそろそろ終わっていいかな。話してくれたお隣の人に拍手を! ありがとうございます。

(会場拍手)

将来は何十兆円規模の会社になりたい?

塩田:今日のテーマに入っていくので、カズ(石倉氏)にバトンを渡す前に1個だけ。このあと最後に質問の時間もあるんですけど、もしこの会話の中でこういう話を聞けたらいいなという質問をカズが用意してくれて……あっ、カズって呼んでいるんですけど。

石倉:カズです。よろしくお願いします。

塩田:一応カズが質問を用意しているけど、それ以外で「こういうの聞けたらうれしいな」というものがもし最初にあったら、それを分かち合わせてもらえたら、取り入れつつ話をしたいので、なにか(質問が)ある人は手を挙げてください。

(会場挙手)

おっ、ありがとう。いいね! ちょっと待って。俺、(マイクを)渡しに行くわ。

石倉:マイクは最後の予定だったから(笑)。

(塩田氏がステージをおりて質問者へマイクを渡しに行く)

石倉:(戻ってきた塩田氏に)いいですか? 

塩田:今ちょっとライブ会場でアーティストがステージをおりたみたい。

(一同笑)

司会者:ちょっと楽しかった。

塩田:楽しかったですね。

司会者:はい、どうぞ。

質問者1:お願いします。みなさんすごく大きい規模の会社を経営されていると思うんですけれども、今後具体的な数字で、「10年後20年後、何十兆円、何百兆円の会社になりたいです」みたいな大きい目標があるかどうかを聞こうと思って、質問しました。

塩田:いいね。ありがとうございます。拍手。

石倉:はい、拍手! ありがとう。

(会場拍手)

塩田:ほかにもあったら。

(会場挙手)

塩田:あっ、いいね。

石倉:いいね。

塩田:すごくあるよ。

司会者:いっぱいある。

塩田:じゃあ隣の子からいこうかな。(手を挙げたのが)早かったから。

質問者2:お三方にも困難がいろいろあったと思うんですけど、僕はそのときになぜ乗り越えられたかが聞きたいです。

塩田:困難の乗り越え方ね。ありがとうございます。

(会場拍手)

じゃあ前の赤い服の方。

石倉:いいですね。積極的で。

質問者3:みなさん、会社を大きくされてきたと思うんですけど、それこそ立ち上げのときにどういうことを考えていて、どういう生活をしていたかという部分をお聞きしたいです。

塩田:立ち上げ。はい、ありがとうございます。

(会場拍手)

すごく多いから、あと2人に。後半に時間があったら、質疑応答で。

質問者4:お三方が自分の個性をどこで認識してどういうふうに伸ばしていったのかなというのを聞きたいなと思います。

塩田:個性の見つけ方みたいな。ありがとうございます。拍手。

石倉:はい。ありがとうございます。

(会場拍手)

「大手」「ベンチャー」「起業」の違いを知りたい

質問者5:お三方が学生時代にどんなことをされていたのか、あとはどういう経緯で今の会社を創業されたのかというあたりを聞きたいです。

塩田:なるほど。ありがとうございます。はい、拍手。

司会者:ありがとうございます。

(会場拍手)

水野:みんなは起業したいの?

塩田:そうだね。そこを聞こうか。起業したい人?

(会場挙手)

水野:おお〜! 半分ぐらい。

司会者:多い。

塩田:あとは起業したくない人だね。就職ね。

水野:就職で。

塩田:ベンチャーに興味があって来たのかな。就職先でベンチャーに興味があって来た人?

(会場挙手)

水野:おおー。

塩田:それ以外はどういう感じ? あとなにかあります? カテゴリという表現はあれだけど、その2つ?

質問者6:僕は決まっていなくて、ベンチャーという方向性もありだし、大手もメリットがあって。そのなかでどういうふうにしていくのかというのもあるし、起業というルートも一応あるので、この3つの中で迷っています。

塩田:迷っているんだ。

水野:大手、ベンチャー、起業。

塩田:この3つで迷っているんだ。じゃあ比較も知りたいなという感じ?

質問者6:そうですね。

塩田:ああ、OK。比較もね、いいじゃないですか。

堀江:こんなに起業したい人が増えてるんですか?

塩田:そうだよね。

石倉:こっちで用意している質問につながるから、このままいきましょう。

塩田:いいよ。

水野氏「僕はソニーみたいな会社をつくりたい」

石倉:僕ら世代、とくに我々のように30後半の世代はみんな大企業(指向が強かった)じゃないですか。やっぱりこういうの(を見ると)、明らかに(時代が)変わってきていると。さっき言ったこの具体的な数値や目標もそうなんですけど、経営者の目標などもいろいろ変わってきていると思っているんですよね。

世の中に出すプロダクトやプラットフォームも変わっているし、会社のあり方もそうだし、経営者や働くみんなのマインドも変わってきていると思うんですけど、そういったところで最近変化してきているなというところはありますかね?

塩田:なるほど。じゃあミッチーからいこう。

水野:OK。

塩田:変化してきているところと、ついでにさっきの質問(にも答えよう)。自分たちの会社が何をどう目指しているかとか、ゴールがあるのか。何兆円とかそういうものなのか、セットでちょっと(話してみてください)。

水野:まず時代の変化でいくと、昔より社会的なインパクトを重要視するようになってきているとは思います。俺らの時代は、(社会に出たのが)2005年とかだから、リーマンショックの前なんだよね。やっぱりそこからの大きな変化はあるのかなと。

働き方改革ってグローバルで見てみると、UberとかAirbnbとか全部そうだけど、まず稼ぎ方が変わっているんだよね。それはなにかというと、空いている時間になにをするのかということが、すごく大事になってきていて。

その時間に自分がどういう生き方がしたいのかというところが体現できる時代になっている。つまり、時間に縛られなくなっているところが大きな変化かなというのが1つありますね。

僕はどんな会社をつくりたいかというと、ソニーみたいな会社をつくりたいなと。僕の会社は教育の会社なので、中高生のプログラミング教育やIT教育をやっているんだけど、世界的にみても「教育の会社といえばどこ」というものはあんまりないじゃない?

ジョブズがソニーを好きだったように、モノづくりに対してのこだわりがあって、(ソニーは)50年の間に世界に初めてのイノベーションを11個起こしたと言われているのね。トランジスタラジオから始まってウォークマンまで。それってすごくかっこいいじゃん。時代を進化させている。

教育においても、どんどんイノベーションを起こしていかなきゃいけない。5年に1回ぐらい起こさなきゃいけないんだけど、そういうことを続けて大きい規模になっていくのね。グローバルに「世界のソニー」というぐらい「世界のライフイズテック」と言われるような会社をつくっていきたいなというのが、僕の今の思いですかね。

当たり前に解決すべき課題があった時期は楽だった

石倉:いい話をありがとうございます。堀江くん、お願いします。

堀江:僕は今27歳で、起業して6年目です。今はドツボにはまっている気がしています。今までバカみたいに一生懸命働いてきたんですけど、けっこう楽だったんですよね。当たり前のように解決しなきゃいけない課題があった。

塩田:走ればいいからね。

堀江:そうそう。走る方向が見えているのはすごく楽だったんです。だけど、社員も増えてきて、選択肢も増えてきて、経済的にも前よりは(余裕が)あって、なんでもできるようになってきた。別に僕が会社を辞めたとしても楽しく生きられるし、何をしようと楽しく生きられる。そういうなかで、選択肢が多くなってきました。

今ここにいるみなさんも同じかなと思っていて。6年前くらいかな。僕は就活していないのでわからないんですけど、同級生でベンチャーに行ったやつはほとんどいなかったし、起業しているやつもいなかったんですよね。さらに10年前だと本当に皆無だったんじゃないかな。

だけど今は、Twitterなどでちょっとした成功者がオンライン上で言葉を発しているのが見える。友達が投稿しているみたいな感覚でね。新卒でベンチャーを選ぶ人が増えたのは、そういった選択肢が透明性を持ってオープンに見えているからかなと思っています。

昔ながらの企業からしてみれば、「新卒の給与は数十万円です」というなかで、僕みたいに数年で数百億円の(売り上げ規模の)会社をつくっちゃいましたというような若い人間が出てくることって、おいしくはないと思う。隠したい事実ですよね。一生懸命働くことよりも、自分でリスクを取って人の言うことを聞かなかったやつが成功するというのは。

あらゆる選択肢から「何をチョイスすべきか」を問われている時代

堀江:僕も悩んではいるんですが、選択肢が多いなかでも、人間は一生懸命やっていると遅かれ早かれつらいことが出てきて、隣の芝生が青く見えてしまうんですよね。塩田さんが『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』 (幻冬舎/NewsPicks Book|10月3日発売)という本を書いていらっしゃいますが、これは捉え方を間違えると甘えにもつながりうると思っていて。

今は、あらゆる選択肢のなかから「何をチョイスすべきか」が、すごく問われている時代じゃないですか。「つらくなったらほかの道にいけばいいや」というのが自分の心に正しいかというと、それは真のハートドリブンだとは思わないんですね。

僕が母校で話したのは、「君たちは野球をやっていたり、東大を目指していたりすると思うけど、それは本当に目指してるものですか? 本当の夢中というものは、24時間誰に何を言われようが考えてしまうものだよ。人から押し付けられたものや、つらくなったときに逃げてしまうようなものが本当に楽しいんですか?」ということです。

「自分の会社はこうあるべき」の輪郭がボヤけている

塩田:選択肢が多いほうが迷うじゃん。人間、「これだけやって生きていきなさい」のほうが楽だから。そのなかで、今なにかつかもうとしているものがあるの? それとも今はもう自分の中でそれを待つ状態という感じなの?

堀江:今自分が起業して……。

塩田:違う違う。今の選択肢が多くなって何をやるかという。「自分の会社がこうあるべき」とか「こうしたい」というものがなんだかファジーになっているみたいな?

堀江:ファジーになっていますね。僕の場合は、「でかい会社をつくりたい」と最初に思って立ち上げたんです。3.11が起きたのは、僕が大学受験の年だったんです。何ができるだろう? とモヤモヤしていたときに孫(正義)さんを見て「この人、魔法使いみたいだな」と。経済的にここまで大きくなって、会社というチームを作って、世の中に対して貢献している人がいるんだと思った。

プロ野球選手でもなければ歌手でもない僕らが、そうやって世の中にインパクトを与える方法があると思ったんです。だけど、今それに100パーセントアグリーしてるかというとそうでもないから、そこでまた1個悩む。

塩田:でかくしようとしてがんばってきたけど、それだけじゃないよね。お金のパワーだけじゃないよねというので、今悩んでいるところなんですね。

堀江:はい。

「どう生きたいのか」を今考えよう

塩田:時代の変化については、僕の本『ハートドリブン』に全部書いてあるから、読んでいただけたらよくわかってもらえると思いますが、本では3つのキーワードを挙げています。1つは目に見えるものからハート、感情にいくという話。もう1つは、市場が成熟してくるときのキーワードは多様化なんだよね。多様化というのはバラバラでいろんなものがあっていいという時代になるから、生き方も正解がなくなるということ。

最後は、透明になるから何も隠せない時代になる。昔はほら、名刺の肩書きで自分のことを説明できたじゃん。でも、そういうもので自分のことを説明できなくなる時代が来る。「〇〇会社の社長です」という肩書は自分を表現している一部でしかなくなるから、そのときは自分がどうあるのかという。

就職のときにどういう会社に就職するのかは考えると思うんだけど、「自分とは何者か?」という。極論を言うと「どう生きていきたい人なんだっけ?」という話です。

さっき堀江くんが夢中という言葉を話してくれていたけれど、すごく共感していて。なぜかというと、日本人はゴールを与えられて努力するのが得意だから、なにかこういうのを「いいよ」って言われてやったりね。教育ってそういうのが多いじゃん。ミッチー?

水野:そうですね。

塩田:基本的にゴールが与えられているもの。

水野:100点を取ると。

塩田:それに最適化し続けてきたと思うんですよ。でも、これからはそれがなくなる。この間、本の撮影で動画を撮っていて、俺が時代が変わるという話をしたときに、インタビュアーが20代の男性で「いや、大人がいい大学に入って、いい会社に就職したほうがいいって言うからがんばってきたのに、はしごを外すんですか?」と。

(一同笑)

「うん、はしごは外れちゃうんだよ」と言って。本当にそうで、俺たちの時代もそうじゃん。

水野:そうですよ。

塩田:だって、もう完全にマイノリティだったんですけど。ベンチャーに行くとかもそう。大企業に行く人たちばかりだった中で、僕はマイノリティで起業を選んだけど、それは自分がいいと思って選んだから。諦めない理由ができるんですよ。

周りの流れに乗っていくほうが、みんなが今同じ方向に行くときって、さっきのハートじゃないですけど、自分とつながっていなくても正解っぽく見えるから行っちゃう。結果、マイノリティは自分で決めちゃっているから、より夢中になるということが起こるのかなと思っていて。

だから、これからは正解がなくなってくる時代なんです。外側のなにかを探して何者かになるというよりは、心の声を聞いている時間があるのか。僕もそうですけど、起業家は忙しいから時間がなくなるんです。だから、僕も迷うことがある。心の声を聞く時間がないときは迷っています。

アカツキが掲げる「ハートドリブンな世界」とは

そういう時代のシンボルになれるような会社をつくっていて。感動とか心とか、目に見えないものが大事になる社会で、答えがないときにどう生きるかをテーマに会社をやってきた。

会社もでかくしたかったんですよ。それは、自分たちの言っていることが正しいと世の中に証明したかったからです。言っていることというのは、「見えないものも大事だね」「感情と心は大事だよね」「会社の経営・ビジネスって、人を幸せにするためにあるけど、そうじゃなくなってないか?」というテーマでやってきた。

俺もソニーが大好き。やっぱり哲学がある会社が好きすぎて。自分の利害を超えて、人類のためにと言っている会社が好きで、昔は自分がそうビジョンを掲げていたんですけど。

アカツキは「ハートドリブンな世界へ」をビジョンに掲げていて、一人ひとりが自分の心が感じたことを大事にしながらワクワクして、それが人の幸せにつながり循環する世界になっているという考え方をしています。それって会社としてのビジョンはもう超えていて。結果として、僕が「会社は5年後こうある」と言うことはなくなったね。

「その幸せな世界のなかにゲンちゃんは入っているの?」

石倉:僕は(塩田さんと)7年ぐらいの付き合いなんですけど、明らかに変わったときがあったんですよ。そこの変わったポイントって何なんですか?

塩田:本にもちょっとだけ書いているんですけど、俺、3〜4年目ぐらいに、堀江くんが言っていたみたいに「走っているときが楽」というのはめちゃくちゃ共感していて。創業から3年までのびのび走って、24時間365日働いて、睡眠時間も2〜3時間というね。そうすると成果が出るわけです。人より努力するから。

創業時から感情や心や人とのつながりが大事だよって、そういう会社をつくろうと言っているんですけど、下手すれば倒産するから。カズ(石倉)がお金を調達してくれたんですけど、「ああ、俺、倒産したら3億円の借金か……」みたいな。

そのときにうちのメンバーもちょっと離れていったフェーズがあったんですね。詳細は長くなるので割愛するんですけど。そのときに、もう「自分が人よりがんばる・努力する」という自分のやり方でやり続けていくことが限界を迎えて、毎晩ストレスで吐いていることがあって。そのときに、アカツキの社外取締役に勝屋久さんと祐子さんというメンターのおふたりがいるんですけど。

アカツキで働いている仲間が辞めていって頭がおかしくなりそうなとき、その夫妻が連絡をくれて、ひと言「ゲンちゃん、世界を幸せにとか社員をハッピーとか言ってるけど、その世界のなかにゲンちゃん自身は入ってるの?」と言ってくれたことがあって。自分自身が描いている世界のなかにまったく入っていなかったんですよ。

「俺、心臓が止まってもいいから、この会社だけは(残してくれ)!」と、泣きながら神様に毎晩祈っていた。でも、勝屋さんにそう言われて、「ああ、自分も愛されてるんだな」「自分も生きてていいんだな」と。「自分も幸せになっていいんだな」と思った。

それをきっかけに、アカツキのメンバー何人かに「俺、苦しくて限界だわ」と話をしたら、メンバーが「会社ってみんなでつくるもんでしょ」と言ってくれて、「ああ、それでいいんだな」と。そのへんから「ひたすら俺が走って、俺が責任取るから、全部ついてこい」から変わったという感じですかね。そんな時代がありましたね。