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スポーツは誰のもの? ジェンダーの視点を通してスポーツを見てみよう(全4記事)

2019.11.18

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なぜ選手の性別で報道のされ方が変わるのか? 女性アスリートに求められる「男並み」と「女子力」の違和感

提供:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>

2019年9月14日・22日の両日、「渋谷からガラスの壁を壊そう! スポーツとジェンダーの平等」が渋谷区文化総合センター大和田で開催されました。オリンピック憲章にある「性別、性的指向による差別の禁止」に着目した本イベント。同性愛者の現役アスリートやジェンダー論の研究者などを講師に招き、スポーツ界におけるジェンダー課題の現状と未来像などを語りました。本記事では、城西大学准教授の山口理恵子氏が、女性スポーツに関するメディアの偏向報道やジェンダーバイアスの事例について紹介しました。

女性スポーツ選手に要求される「男並み」と「女子力」

山口理恵子氏(以下、山口):今は女性もスポーツをする機会を得ましたが、次にどんな課題があるのか見ていきたいと思います。キーワードは「男並み」と「女子力」です。

先ほど触れたように、身体的ダメージと美醜の観点から女性の身体活動は制限されてきました。その美醜の部分が、「女子力」に関わります。「男並み」というのは、男性たちがやっていたところに女性も入っていくことで、求められ期待される競技力のことです。

みなさん、これを知っていますか? かつてランジェリー・フットボールと呼ばれていて、今はLFL(Legends Football League)と呼ばれる、女子のアメリカンフットボールです。なんでこんな(下着姿のような)格好をしているの、と思うかもしれません。

(動画再生)

「芸能人水泳大会」をほうふつとさせる、アメリカの女子アメフト

もともとは男性のNFL(National Football League)、プロのアメリカンフットボールのハーフタイムショーとして行っていたものが、今はアメリカの他、カナダやオーストラリアにもチームがありリーグとして試合が行われているんです。

プロテクターが小さく、すごく胸の谷間が強調され、下半身のほうはプロテクターがほとんどないんです。だから、(ユニフォームを)引っ張られるとお尻とか見えちゃうんです。昔テレビで「芸能人水泳大会」ってやっていましたでしょ?(笑)。これ見たときに、「芸能人水泳大会」を思わず思い出してしまいました。そして観客は圧倒的に男性が多い。

つまり何が言いたいのかというと、アメリカンフットボールや、サッカーなど、男性中心で展開されてきた領域に女性も入るようになった。と同時に、だからこそ女らしさ、女子力がよりいっそう強まっている傾向があるということです。

アメリカンフットボールの試合は、アメリカでは国民的行事と言っても過言ではありません。大学のアメリカンフットボールの決勝戦は、一大イベントになるわけですけれども、大学スポーツでは男子のアメリカンフットボールしかありません。装着するプロテクターは、上半身も下半身もフル装備で、ランジェリー(レジェンド)とは比較になりません。

女性アスリートを売るために性的魅力を商品化することが主流化

国民的行事として注目される男子のアメリカンフットボールは、開会式などのセレモニーでアメリカ軍に従事した人びとを讃える一幕があったりします。全く関係のない脈絡なのですが、「強さ」、「ナショナリズム」、「男らしさ」をつなげるものとしてアメリカンフットボールが機能しているように思います。

その一方で、女性がアメリカンフットボールに参画するようになると、男性よりも小さなフィールドをあてがわれ、みんなが覗き見したいショーのような要素を多分に持ちながら、スポーツビジネスとして成り立つと思われている。

アメリカ代表のアレックス・モーガンというサッカー選手やアルペンスキーヤーのリンゼイ・ボンという選手は、『Sports illustrated』というアメリカのスポーツ雑誌の中で、水着特集のモデルにもなりました。

女性アスリートがアスリートとは思えないような姿で表象されることが多く見られるようになってきています。女性のアスリートが「売れる」ためにはセクシュアルな魅力を商品化していくことが主流化しつつあります。日本では「美女アスリート」や「美しすぎる◯◯」といった表象をよく目にしますが、それとも関連しているでしょう。

女子テニスプレーヤーはコート上で着替えただけで反則

一方で、これはHuffPostの記事に掲載されていた写真ですが、USオープンのときに、ユニフォームを後ろ前反対に着てしまっていた女子のテニスプレーヤーが、コート上で脱いで着替え直したんです。そしたら主審から規律違反を通告されたんだそうです。

男性の場合は、コート上で着替えて上半身があらわになっても、主審から通告されることはありません。しかし女性アスリートには「脱げば売れる」というメッセージと、コート上で脱いだら規律違反というダブルスタンダードがある、ということなんですね。

2018年のUSオープンで、セリーナ・ウィリアムズが自分のラケットをコートに叩きつけたことでバイオレーションを取られました。ラケットを壊す選手は男性でも見られるんですが、もしかしたら女性の場合は「女性らしさ」と相まって、特にそのような行為が厳しく評価されるのかもしれません。

国際大会で活躍した選手でも、副賞はメーキャップグッズ

時代はまた90年代に戻ります。スルヤ・ボナリーというフィギュアスケートの選手がおりました。1994年あたりは伊藤みどりも選手として活躍していましたが、このスルヤ・ボナリーは、非常にジャンプ力があってアクロバティックなスケーターでした。

彼女が氷上で1回転(後ろ宙返り)をしたら、すぐにこの技が禁止になりました。この当時のフィギュアスケートの採点では、女性のフィギュアスケーターには優美さが高く求められていました。

だから、今だったら伊藤みどりのジャンプはものすごい得点につながっていたと思いますけど、当時は伊藤みどりやスルヤ・ボナリーのような技術力や競技能力は、女性フィギュアスケートの評価基準の中には含まれていなかったわけです。

そして、2011年のなでしこジャパンがアメリカに勝ってFIFAワールドカップ杯を制しました。東日本大震災から数ヶ月後のことでしたので、「勇気」「絆」「感動」といったフレーズとともに、しばらくの間、なでしこジャパンの選手たちがメディアを賑わせていたことを記憶しています。

日本だけではないかもしれませんが、国際大会で活躍する女子スポーツ、女性アスリートは比較的メディアでよく取り扱ってくれます。なでしこジャパンは、国民栄誉賞を授与されたのですが、このときの副賞が、化粧筆だったんです。確かに、日本の化粧筆は質が高くて有名ですが、これの意味することは何でしょうか? 

そこから読み取れるのは「日本代表として素晴らしいプレーをし優勝してくれた。よくやった。でも、ピッチを離れたら女らしさも忘れずに」という隠れたメッセージではないでしょうか。そうであるならば、「大きなお世話」のような気がします(笑)。

スポーツとメディアに関する親和性と問題提起

女性が強くなれば強くなるほど、女性が社会進出すればするほど、「女性も男性と同じように(男並みに)活躍しろ、しろ」と言われるんだけれども、その一方で女子力も同時に求められる、ということはスポーツだけでなくスポーツ以外の文脈にも見られることだと思います。

次にスポーツとメディアについて触れます。なぜメディアを見ていくかと言うと、やはり「男並み」を求められる社会で「女子力」をメディアが煽っているように思えるからです。

メディア業界もそのような表象でしか売れない、記事にならないと思っている節があるんじゃないかと思います。「美女アスリート」や「ママさんアスリート」とか、女性であることを強調したような表現はよく目にしたり耳にしますが、そういう表現しかできない限界も感じています。

メディアとスポーツはこれまで非常に高い親和性を維持してきました。日本のスポーツはメディアとともに発展してきたと言っても過言ではありません。とくに高校野球は、早くから朝日新聞(夏)や毎日新聞(春)などが伝えてきました。箱根駅伝は読売テレビが独占的に報道していますし、毎回すごい視聴率をとっています。まさにメディアがスポーツイベントを盛りあげているわけです。

メディアがスポーツに与えている影響力

それから、メディアがスポーツのルール変更にまで影響を及ぼすということもありました。バレーボールですね。バレーボールはサイドアウト制と言って、サーブ権を持っているチームが得点するというルールでしたが、「それだと長いよ、テレビの放送時間に収まらないよ」ということで、サーブ権がなくても得点につながるラリーポイント制に変わりました。これによりバレーボールの試合進行のテンポが速くなりました。

柔道もそうです。白い柔道着が主流でしたが、白と白の柔道着だと審判や観客、テレビを見ている人にとってわかりにくい。それでどちらか一方の柔道着は青くするようになりました。

メディアがスポーツを変えていく。オリンピック競技もなんでこんな夜中にやるの?と思ったことがあるかもしれません。それは放映権料をたくさん払っている国のゴールデンタイムに合わせて競技が行われるからなんですね。このようにメディアとスポーツはもはや切っても切り離せない関係なんですね。

大坂なおみ選手に関するメディアの偏った報じ方

ジェンダーとメディアに関する研究でスポーツを扱った内容はこれまで多く存在してきました。しかし研究が行われていても、女性スポーツのメディアでの表象の在り方はあんまり変わってないんですね。

トニー・ブルースという研究者は、メディア表象の13の法則というものをまとめました。これを大きく3つくらいのカテゴリーに分けると、男女の差をあえて強調するような法則があったり、女性スポーツの見方として根強い偏見があったり、あるいは女性と男性と差が見られないような表象があったりします。例えば子ども扱いというのは、女性スポーツ、女性アスリートを子どものように扱い男性のスポーツやアスリートよりも価値が低いものとして映し出しているということです。

また、山口香さんがよく「女三四郎」と表現されていましたけれども、男性アスリートにたとえるという表象もよくあります。1930年代から40年代にかけて活躍したミルドレッド・ディドリクソンという女子選手もスーパーアスリートだったために、ベーブ・ルースにちなんでベーブ・ディドリクソンと呼ばれていました。

昔からそういう表象のし方があって、あまり変わっていません。今でも女子柔道選手を「女三四郎」とメディアでは表現されていますよね。国際大会など、ナショナリズムを喚起するメディ表象ではあまり男女の差異は見られず、類似性が強調されたりすることもあると、トニ・ブルースは言っています。

事例を上げてみましょう。私は大坂なおみ選手がメディアで映し出される内容にがっかりすることが多いです。大坂なおみ選手は昨年USオープンで優勝しましたが、閉会式で観客からのブーイングがすごくて、大坂選手は自分に対するブーイングだと思い泣いてしまいました。

ちょうどこのときアメリカにいたため、この閉会式の様子について日本ではどのように報道していたのか明確にはわからないのですが、とかく大坂なおみ選手がメディアで報じられるときは、「大坂が勝った、負けた」という話だったり、記者が「何が食べたいですか?」と訊ねて、大坂選手が「お寿司が食べたい」と答えるといった、彼女のたどたどしい日本語ばかりを取り上げて映し出すことが多いように感じます。

つまり、アスリートとしての大坂選手というよりは、未熟でかわいらしい女性という取り上げられ方ばかりする。

日本ではあまり報じられなかった大坂選手のエピソード

今年のUSオープンで大坂選手は15歳の有望なアメリカ人選手と対戦し、ストレート勝ちをしました。asahi.comでは、その試合後のエピソードについてちゃんと報じておりました。

どんなエピソードだったかと言うと、15歳の相手選手が試合後にコートで号泣してしまったんです。それで大坂選手が、ロッカールームで1人で泣くんじゃなくて「一緒にインタビューを受けようよ」と誘い出したんです。現地ではclass act(一流の人)と、評価されていたんですが、SNS上では頻繁にこのことについて情報が飛び交ってたんですけれども、朝日さん以外のメジャーなテレビや新聞ではほとんど報じてなかったような気がします。

それから、大坂なおみ選手と近い表象のされ方をしているなと思ったのが、渋野日向子選手です。メディアはなんであんなに彼女の笑顔のことばかり取り上げるのでしょうか。渋野日向子選手のプレイはどこがいいのか、どこがすばらしかったのか。笑顔以外でどういうショットが、アプローチがよかったのか。なにが彼女を全英優勝まで導いたのかを伝えきれていない。とくにテレビですよね。テレビの朝の報道番組では、笑顔とお菓子のことしか言ってない。

(会場笑)

うんざりします、女性アスリートのこういう取り上げられ方は。確かに現地の新聞ではSmiling Cinderellaなんていうふうに言われてましたけど、日本でもそれを伝えるだけなの? と思いますね。

岡本綾子さんはソフトボールとゴルフを両立させていたことで筋肉の使い方がうまくなったんじゃないかと分析をされていて、とても興味深かったです。そういう話を笑顔がどうのこうのという内容よりも知りたいなあと思うんですよね。

視聴者受けなのかわかりませんが、テレビとか新聞といったマスメディアは選手のイメージとか選手のニックネームを勝手に作っていくようなところがあって、辟易としております。メディア関係者の前で言うのもなんですが(笑)。

ラグビーのルール紹介動画で炎上した日テレ

これは私の授業を受けている学生が(電車のポスターの写真を)撮ってきて「先生、これ変じゃない?」と言ってきたんですけど(笑)。ラグビーワールドカップが埼玉熊谷ラグビー場にて開催されることを宣伝した広告です。

「みんな、このポスターを見て行きたくなる?」と聞いたところ、「正直、なんのポスターかわからない」と言っていました。これはマーケティング的に失敗している可能性がある。このポスターには、埼玉県出身の女性のアイドルやタレントがポーズを取って写っているわけですが、このポスターはいったい誰を呼び込みたいのか、誰目線なのかあまりよくわからない。

さらにラグビーで思い浮かぶのが、日テレがラグビーのルールを周知しようとグラビアアイドルを起用して制作した動画、「セクシーラグビールール」です。胸元や太ももを強調した内容だったため、ルールガイドというよりエロ動画のようでものすごいブーイングを受けるはめになりました。ラグビー協会からもブーイングが来ました。

オーストラリアでも同じようにショートパンツや胸の谷間が強調されるようなシャツを着た女性モデルがルール解説をする動画が制作され、これが成功したから日本でもマネしてみようということになったらしいです。

いずれにしましても、ラグビーつながりでよくわからないポスターと炎上動画が作られていたということを紹介してみました。

女性スポーツから見えてくる社会のバイアス

これは9月5日のデイリースポーツの記事ですが、タイトルが「日本女子アスリートに立ちはだかるインド、ウクライナ、スレンダー美女の壁」となっています。

身長格差があることをもっとシンプルに伝えればいいのに、ことさら「インド美女」とか容姿について書いてあり、日本選手は高身長のスレンダー美女選手にはかなわないと言っているような記事として読めてしまうんです。

まとめると、女性スポーツは、「男性スポーツ」とはあまり言われないことからわかるように、マイノリティや障害者と同様ダイバーシティの1つのカテゴリーとして語られやすい。

また「女性スポーツ」にカテゴライズされるアスリートは「男並み」だけで終わってはいけない。女なんだから、胸の谷間がなければいけない、化粧をしなければいけない、かわいらしさがなければいけないというように「女子力」も求められるようになっている。またそうやって、女というカテゴリーに自分が属していることを自分自身で証明していかなければいけない。そういう状況がこれまで以上に強まっているように感じます。

しかしながら、そうであるからこそ、スポーツ界にある「女性である」ことの承認の枠組みやルールについてまずは俎上(そじょう)に乗せることが、違う見方をしていくきっかけにもなるんじゃないかなと思っています。

ありがとうございました。

(会場拍手)

(野口氏に向かって)ごめん(笑)。しゃべりすぎちゃった。

野口:ぜんぜん大丈夫です(笑)。

スタッフ:5分くらい休憩に入ります。その間にもし質問をお書きいただいている方がいらっしゃいましたら回収して回りますので、ご提出ください。

(休憩)

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