女性スポーツ選手に要求される「男並み」と「女子力」

山口理恵子氏(以下、山口):今は女性もスポーツをする機会を得ましたが、次にどんな課題があるのか見ていきたいと思います。キーワードは「男並み」と「女子力」です。

先ほど触れたように、身体的ダメージと美醜の観点から女性の身体活動は制限されてきました。その美醜の部分が、「女子力」に関わります。「男並み」というのは、男性たちがやっていたところに女性も入っていくことで、求められ期待される競技力のことです。

みなさん、これを知っていますか? かつてランジェリー・フットボールと呼ばれていて、今はLFL(Legends Football League)と呼ばれる、女子のアメリカンフットボールです。なんでこんな(下着姿のような)格好をしているの、と思うかもしれません。

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「芸能人水泳大会」をほうふつとさせる、アメリカの女子アメフト

もともとは男性のNFL(National Football League)、プロのアメリカンフットボールのハーフタイムショーとして行っていたものが、今はアメリカの他、カナダやオーストラリアにもチームがありリーグとして試合が行われているんです。

プロテクターが小さく、すごく胸の谷間が強調され、下半身のほうはプロテクターがほとんどないんです。だから、(ユニフォームを)引っ張られるとお尻とか見えちゃうんです。昔テレビで「芸能人水泳大会」ってやっていましたでしょ?(笑)。これ見たときに、「芸能人水泳大会」を思わず思い出してしまいました。そして観客は圧倒的に男性が多い。

つまり何が言いたいのかというと、アメリカンフットボールや、サッカーなど、男性中心で展開されてきた領域に女性も入るようになった。と同時に、だからこそ女らしさ、女子力がよりいっそう強まっている傾向があるということです。

アメリカンフットボールの試合は、アメリカでは国民的行事と言っても過言ではありません。大学のアメリカンフットボールの決勝戦は、一大イベントになるわけですけれども、大学スポーツでは男子のアメリカンフットボールしかありません。装着するプロテクターは、上半身も下半身もフル装備で、ランジェリー(レジェンド)とは比較になりません。

女性アスリートを売るために性的魅力を商品化することが主流化

国民的行事として注目される男子のアメリカンフットボールは、開会式などのセレモニーでアメリカ軍に従事した人びとを讃える一幕があったりします。全く関係のない脈絡なのですが、「強さ」、「ナショナリズム」、「男らしさ」をつなげるものとしてアメリカンフットボールが機能しているように思います。

その一方で、女性がアメリカンフットボールに参画するようになると、男性よりも小さなフィールドをあてがわれ、みんなが覗き見したいショーのような要素を多分に持ちながら、スポーツビジネスとして成り立つと思われている。

アメリカ代表のアレックス・モーガンというサッカー選手やアルペンスキーヤーのリンゼイ・ボンという選手は、『Sports illustrated』というアメリカのスポーツ雑誌の中で、水着特集のモデルにもなりました。

女性アスリートがアスリートとは思えないような姿で表象されることが多く見られるようになってきています。女性のアスリートが「売れる」ためにはセクシュアルな魅力を商品化していくことが主流化しつつあります。日本では「美女アスリート」や「美しすぎる◯◯」といった表象をよく目にしますが、それとも関連しているでしょう。

女子テニスプレーヤーはコート上で着替えただけで反則

一方で、これはHuffPostの記事に掲載されていた写真ですが、USオープンのときに、ユニフォームを後ろ前反対に着てしまっていた女子のテニスプレーヤーが、コート上で脱いで着替え直したんです。そしたら主審から規律違反を通告されたんだそうです。

男性の場合は、コート上で着替えて上半身があらわになっても、主審から通告されることはありません。しかし女性アスリートには「脱げば売れる」というメッセージと、コート上で脱いだら規律違反というダブルスタンダードがある、ということなんですね。

2018年のUSオープンで、セリーナ・ウィリアムズが自分のラケットをコートに叩きつけたことでバイオレーションを取られました。ラケットを壊す選手は男性でも見られるんですが、もしかしたら女性の場合は「女性らしさ」と相まって、特にそのような行為が厳しく評価されるのかもしれません。

国際大会で活躍した選手でも、副賞はメーキャップグッズ

時代はまた90年代に戻ります。スルヤ・ボナリーというフィギュアスケートの選手がおりました。1994年あたりは伊藤みどりも選手として活躍していましたが、このスルヤ・ボナリーは、非常にジャンプ力があってアクロバティックなスケーターでした。

彼女が氷上で1回転(後ろ宙返り)をしたら、すぐにこの技が禁止になりました。この当時のフィギュアスケートの採点では、女性のフィギュアスケーターには優美さが高く求められていました。

だから、今だったら伊藤みどりのジャンプはものすごい得点につながっていたと思いますけど、当時は伊藤みどりやスルヤ・ボナリーのような技術力や競技能力は、女性フィギュアスケートの評価基準の中には含まれていなかったわけです。

そして、2011年のなでしこジャパンがアメリカに勝ってFIFAワールドカップ杯を制しました。東日本大震災から数ヶ月後のことでしたので、「勇気」「絆」「感動」といったフレーズとともに、しばらくの間、なでしこジャパンの選手たちがメディアを賑わせていたことを記憶しています。

日本だけではないかもしれませんが、国際大会で活躍する女子スポーツ、女性アスリートは比較的メディアでよく取り扱ってくれます。なでしこジャパンは、国民栄誉賞を授与されたのですが、このときの副賞が、化粧筆だったんです。確かに、日本の化粧筆は質が高くて有名ですが、これの意味することは何でしょうか? 

そこから読み取れるのは「日本代表として素晴らしいプレーをし優勝してくれた。よくやった。でも、ピッチを離れたら女らしさも忘れずに」という隠れたメッセージではないでしょうか。そうであるならば、「大きなお世話」のような気がします(笑)。