給料や働き方について話し合える環境が大切

大槻幸夫氏(以下、大槻):先ほどの講演でもありましたけれども、給与交渉をやると、やっぱり話すきっかけが生まれる感じですよね。給料を自己申告するというお話にもありましたけど、日本企業は給与について話さないことが多いじゃないですか。「もう決まったよ」という話だけで。どちらかというと、そういうふうに(お互いに給料について)話していくことがすごく大事なんですかね。

青野慶久氏(以下、青野):そうですね。給与もそうですけれども、「こういうルールだからあなたはいくらね」と言われたら、もう「はい」と言うしかない。転勤も同じですよね。「あなたは来月からここに転勤ですね」と言われたら、「はい」と言うしかない。これが今の日本の働く人たちの置かれた環境ですよ。

それはまったく対等じゃないですよね。まさにこの会社というモンスター。まぁ、実際には会社はなくて、上司がそうやって一方的に会社というモンスターの毛皮を着てやっているわけですよね。でも、これはお互い人間同士なんだからね。「もうちょっと話し合おうよ」という。ぜひそこに行けたらと思いますね。

大槻:なるほど。ありがとうございます。

山田理氏(以下、山田):まだこの話題をしゃべってていいの?

大槻:ぜんぜん大丈夫です。

山田:あかんようになったら、「質問いっぱいあるんですから」と言ってちょっと止めてな。

大槻・青野:(笑)。

顔の見えないやり取りが会社をモンスターにしてしまう

山田:お給料の話もそうなんですけれども、会社をモンスター化させないために一番大事なことは、やっぱり本当に「誰」なんだと思うんですよ。お給料を上げてほしいと言ったのは誰なのか。その「誰が・いくら・なぜ上げてほしいと言ったのか?」ということがすごく大事で、そうじゃないと基本的には「みんな」という話になるんですよ。今の若い子たちの、エンジニアたちのお給料を上げてほしいという会話になるんですよ。

この(給料を)上げてほしいという会話になると、本当に会社がモンスター化して、誰としゃべっているのかわからなくなって。そうすると人事・経営側は何を考えるかといったら、「みんなのお給料を一気に上げたりすると、何パーセントお給料が上がるから、そんなに簡単には上げられない」という会話になったりするんですよね。

「そうじゃなくて、上げてほしいのは1人やん?」みたいな。極端に言うとね。でも、その子がいくら上げてほしいかって、別に全員が300万円上げてほしいと言っているわけでもなんでもなくて、1人は別に10万円かもしれない。1人は別に今のままでいいと言っているかもしれない。

誰がなんて言っているかという事実を、本当に一人ひとり見ていくことが、まさに会社をモンスター化させないために大切です。「手間がかかるなぁ」とみんな思うかもしれないですけれども、意外とそんなにかからないですから。

青野:少なくとも、手間がかかった以上のリターンはありますね。なんかよくわからないけど辞めちゃったということを防げるだけでも、相当リターンが大きいと思います。

大槻:なるほど。わかりました。

山田:そう。まだしゃべっていいの?

大槻:大丈夫です。

山田:気を遣うわ。

大槻・青野:(笑)。

一方通行のコミュニケーションでは部下のことがわからない

山田:それで、100人、まぁ50人でもいいですわ。「50人も部下がいて、一人ひとりの話なんてなかなか聞けないですよ。自分も忙しいし」とか言うじゃないですか。でも今は、実際には10年来会ったことのない高校の同級生の昨日の昼ご飯を知ってるんですよ、みなさん。インスタに上がっていたりとか。ぜんぜん関係ないのに、「あいつ結婚したんや」「子どもできたんや」というような。

でも、自分の部下が何をしているかは知らないんですよ。ツールの使い方が間違ってますから。そういう会社では、1対1ではなかなか一斉にコミュニケーションなんかできないものだと決めつけていて、今までの一方通行の昭和のコミュニケーションのやり方をしているから、その部下が何を考えているのか、何が欲しいか、何をやっているかを知らない。

もしくは(知ることが)できるにもかかわらず、知ろうとしてないんですよね。外に向けて一生懸命自分を発信していたり、なにかほかの情報を得たりしている。もっともっと内側に向けてそのテクノロジーを使えばもっといいのに、と思ったりはしますよね。このへんは、ツールはあるのに、まだまだ制度というか風土や人がついていっていない感じがするんですよね。

大槻:まさにアフターインターネットという。

山田:アフターインターネットについていってない。

大槻:ありがとうございます。では、次の質問にいきたいと思います。ちょっと飛ばしちゃうんですけれども、「働き方の過程で、方針についていけず、あるいは合わず、去っていった方もいるのでしょうか。そのあたりの割り切り、配慮にはどのようなものがありましたか?」というご質問ですね。

会社の方針を明確に表明することの重要性

青野:そうですね。ありましたね。これはもう本当に私の不徳の致すところなんですけれど、今朝のセッションでお話ししましたように、グループウェア事業があまり成長しなくなっちゃったもんですから、規模拡大するためにM&Aをいっぱいやりました。

グループウェア事業以外にもハードウェアだったりコンサルティングだったり通信だったり、いろいろな会社を1年半で9社も買収して、もう本当に何の会社かわからなくなっちゃった。それで業績のほうも傾いてしまいまして、そこで私はいろいろ考えて、グループウェア事業にもう1回集中するという意思決定をしました。

そのときにけっこう人が辞めました。「せっかく青野さんがどんどん拡大するというから僕は入ってきたのに、グループウェアしかやらないんですか?」という話があったり。やはり会社の方針を変える中で、合わない人は去っていく。これはありました。

これが良いか悪いかという話になると、私は悪くはなかったんだろうと思います。なぜならば、その方針があるのであれば、それに合う人が集まってきたほうが幸せだから。「これから甲子園を目指して野球部やろう」と言っているのに「えっ、ラグビーやらないんですか?」って言われると、「それはラグビー部に入ったほうがええんちゃうか?」ということですよね。

だから、無理やりラグビーのほうが好きな人を囲っているほうが、お互い不幸になってしまう。ある意味、方針を決めて、それをしっかり表明していくことも大事かなと思いますね。

山田:本当に、青野さんが社長になったばっかりの時は、めっちゃ悩んでた。

青野:(笑)。

山田:やっぱり1つのすごく大きな覚悟でしたよね。だって、あの時、社員トータルで連結でいったら、どれくらいだろう。今ぐらい?

青野:今ぐらいの規模だったね。

山田:ねえ。今ぐらいの規模ですよ。もう10何年前ですよね。

青野:そうですね。10数年……はい。

全員が辞めないような施策は、多くの人を不幸にする

山田:10数年前にグループウェア事業と言い切って、そこからダーッて。よく考えたら離職率28パーセントって言うけど、グループで言ったら、売却したりいろんなことしたから、あの時の離職率ってすごいことになっていますね。

青野:そうですね。

山田:だって、1,000人が400人とか300人。

青野:そうですね。7割減ぐらいじゃないですか。

山田:離職率70パーセント以上ですからね。

青野:連結の売上が3分の1になりましたからね。それぐらい人が抜けたということですよね。

山田:だから、やっぱりそこまで覚悟を決めてやって、じっと耐えて、理想を明確にしたというところがあって、そこから今があるんですよね。

青野:逆に言うと、その「グループウェア事業しかもうやりません。チームワークを支援する会社に特化していきます」と宣言したあとに入社してくれた人は、ある意味、チームワーク好きばっかりなんですよ。

もうそのチームワークの理念に共感して入ってきている人なので、そのあともまた人が増えていきましたけれども、やっぱり一体感は以前よりもぜんぜん高いんですよね。規模が大きいのに一体感が高まったということを経験しましたね。

大槻:逆に言うと、採用のところでそのビジョンに共感しているかどうかにこだわっている感じですよね。

山田:難しいところですけど、まさにそれはそうなんだけど。「100パーセント共感しているか、何パーセント共感しているか」というところは、やっぱり人によってグラデーションがあって。その距離感はあるんですけれども、「0はあかんで」と。0やったらサイボウズにいる意味がないから。それは1パーセントでも10パーセントでも、そこに対して(共感して)いるんだったら、10パーセント分の役割があるんだったら、ぜひ協力してくださいというものがあったりするんですけど。

青野:だから、今進んでいるこの働き方の多様化ね。短時間勤務とか場所とか時間を選ばないとか、複業できるとか。日本の労働環境はそちらに向かっていますけれど、それはイコールこの理念を試されていると思うんですよ。理念のない会社はそのままバラバラになってしまいます。もう顔も合わせないで働く人がいて、お互いに信頼もできずにバラバラになってしまう。

そこでもう1回理念を作り直して、私たちは何のために集まっているんだと。「これに共感するのであれば、時間・場所・複業も自由にいけるよ」というふうにしないと、バラバラになる。この柱をもう1回作り直す。やっぱり、これがこれからの経営者の仕事だと思いますね。

山田:まさにね。全員に辞めてほしくないというか辞めないようにしようという、全方位外交的にやっていくと、全員が不幸になるというような。まぁ全員とは言わないけれども、たいていの人、多くの人が……。

青野:ほぼ不幸になるという。無理ですよね。