2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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河上純二氏(以下、河上):正直言えば、13年でここまで来てるって、けっこう長い月日をかけて来ているじゃない? 呉さんの人柄が出ちゃうことも多々あったし、もう少しほら、器用な人だったりとか、いろんな人のやり方だったら、もうちょっと短かったかもしれないけれども。
呉京樹氏(以下、呉):それはね、そうですよね。
河上:あるよね。たぶん周りにいるスタッフの人たち、「おいおいおい、いつなんだよ」とかって。
(一同笑)
おもしろい話があるけどさ。この1~2年くらい、まず近距離の未来の話に少し移していくけれど、この1~2年くらいのところで、まあ言える範囲でいいんだけど。「こんなことを考えてる」とか、「こういうことをやる話があるよ」というものがあれば、ちょっと聞きたいんだけど。
呉:そうですね。やりたいことは、さっき話した、クリエイターが正当に評価される仕組みを作りたいなと思っていて。そこにけっこうベクトルを一気に向けているというのが今のところですね。「じゃあどうやって作るんだ」という話になるんですけど、僕はそこにすごくデジタルの可能性があると思っていて。
デジタルっていわゆる人が作ったものが世の中に出た時に、そのクリエイティブやデザインがどれだけ世の中に影響を与えたかというデータが取れるようになってきたじゃないですか。昔はそういうものがなくて、例えば交通広告が出ても、どれだけの人が目にしたかというデータもないし。例えばテレビCMでは、そのテレビCMを見た人がどれだけ購入したかというデータも取れないとか。
ただ、やっぱり時代が変わってプラットフォームが変わって、デジタル業界になったら、そのデザインは何回クリックされたかとか、そのデザインからどれだけの人が商品を買ったかというデータが取れるようになれば。そして、クリエイターさんたちとそのデータをちゃんと結び付けることが現実的にできれば。
そうしたら僕の言っている、いわゆる一般的に「誰が見てもこの人はすごいんだ」という定量的なデータが手に入ると、世の中のクリエイターさんたちがみんな正当に評価を受ける世界ができるんじゃないかなということを、今すごく模索しながら。
逆にどちらかと言うと、そういったデータを持っている会社さんと一緒にコラボして、そういう世界観をつくるところに注力していっているところですね。
河上:なるほど。モチベーションにもなるしね、そうやってどれくらいの影響力、どれくらい見られたのかということをフィードバックしてあげるのはすごく大事だよね。
呉:そうですね。なので、小さいかもしれないですけれど、毎年「CREATORS MATCH AWARD」というものを5年連続で開催して。
河上:ちなみに、それはどこでやってるの? 俺たちも見に行けるの?
呉:一応招待制になってるんですよ。
河上:そういう業界の人たちに見てもらうのね。
呉:業界の人たちというよりはどっちかと言うと、別に一般的なオーディエンスに見てもらいたいというよりは、結局僕らは地方のデザイナーさんたちがほとんどなんですね。だから、普段はいわゆるお客さんとほぼほぼ会わない。なので、1年に1回お客さんと出会える場を設けるという、コミュニティに近い発想でアワードを開いてるんですよね。
河上:懇親会というか、みんなで話し合うような。
呉:なので、基本的に招待するのは我々のクライアントと我々のパートナー。お客さんも自分たちの(商品やサービスの)デザインをしている人たちが表彰されると、やっぱり喜んでもらえるし。今までずっと遠隔で話をしていた人が直接会って、あのデザインはすごく良かったですよね、というのがお客さんからクリエイターに届くという。どちらかというと、オーディエンスに対して届けるというよりは、お客さんとデザイナーさんが年に1回会う場所になっています。
河上:より距離を縮めて。
呉:より距離を縮めて、ディスカッションをして、来年ももっとよくするためにはどうするかという場にしたいなというのと、あとはスポットライトを当てたいという思いでスタートした。
河上:業種的にはベンチャーと近いんじゃない?
及川真一朗氏(以下、及川):まあまあ、まさかその角度で振られるとは。
河上:急に行くよ、ダブルロックがぐいぐい進んでるから。
呉:(笑)。
及川:ジャックダニエルがなくなりそうだから。
河上:急に行くよ。
及川:でも、確かに会う場ってなかなか大事なんですよね。やっぱりみんな遠隔でそれぞれやっていたりするので。そこで情報交換しながらというのはね。(急に振られると思っていなかったから)気を抜いてた。
河上:(笑)。でもね、俺もたまにミートアップにゲストとして呼んでもらって行くんだけれど、一生懸命しゃべるわけさ。「リアルで会うことが大事です」と。そのベンチャーサイドとお金を出す側だったり、オープンイノベーション的な大きな企業にいらっしゃる方とやっぱり会うべきです、という話を一緒にするんです。気持ち的にはそう遠くないことだなと思うんだけどね。
河上:時間がだいぶ来たから、ちょっと後半戦に入っちゃうけどね。呉さんはこういう人なので、もちろん今のクリエイターズマッチもこれからだし、これからももちろん全力を尽くしていくんだけれど、少しプライベートも含めて、呉さんの未来みたいなものを聞いてみたいんだけれど。飲んでいてもあんまり聞いたことないから。例えば10年後とか、15年後くらいの時に、どんな風でありたい?
呉:プライベートですか?
河上:全部含めて。
呉:(笑)。
河上:もちろん、いろいろあるから、コントロールしながら、酔っ払ってるけど、コントロールしながらしゃべってもらいたい。10年後のありたき姿みたいなものをちょっと聞いてみたい。抽象的でももちろんいいし、具体的でももちろんいいけど。
呉:そうですね。まず、日本国内においては、今もやっていますけど、僕はやっぱり地産地消を実現したいなというのはすごくありますね。
河上:もうちょっと掘り下げて聞くけど、呉さんの「地産地消」ってどういうもの?
呉:いや例えば、僕は教育事業で47都道府県回ってるんですよね。全国を回ったんですけれども、現実的な問題で、地方の観光ビジネスとか、いろんなものあるじゃないですか。僕らは今年、宮崎県の観光事業を手伝わせてもらってるんですけど、地方のいいところって地元の人が一番知ってるんですよね。
河上:そりゃそうだよね。
呉:そうなんですよね。ただこれはおもしろくて、地元の人たちがいいと思っていることが、みんながいいと思っていないんじゃないかというのも。要は、地元の人にとっては生まれたときから当たり前のことであって、それがすごいとも思っていないんですよ。
河上:当たり前だからね。
呉:だから、地方の情報発信力ってそこに問題があると思っていて。要はもう生まれたときからある環境のことって、意外に発信しないじゃないですか。だって、当たり前なので。それが例えば東京に出た瞬間に、「あっ、俺らの地元ってけっこうすごかったんだ」みたいなね。でも、これに気付いてほしいと思ってるんですね。
去年の「CREATORS MATCH AWARD」の「Rethink Creator Project」アワードで、準優勝、準グランプリに輝いた人というのは、北海道の方で、その人は北海道のいいところをプロモーションするポスターを作ったんですね。彼女は今、東京にいるんですよ。東京に来て気付いた北海道の良さみたいなものをテーマに、ポスターを作ったんですよね。こういうことって、いっぱいあると思うんですよ。
河上:あるね。
呉:でも、今はほとんどが世の中の、例えば広告クリエイティブって東京に一極集中していて。地方のパンフレットも、だいたい作るのは東京みたいな感じで集中している。僕はやっぱり、地元のクリエイターたちが自分たちのすごさをちゃんと理解して、自分たちが発信する、と(いうふうになってほしくて)。
なぜかって、情報のソース元で言ったら、(地方が)一番ソースが多いわけですよ。あとは、そのソースがすごいのかどうかというだけの勘なので、それをちゃんとインプットしていけば、僕はたぶん地方創生って実現するんじゃないかなと思ってるんです。だから、地方創生って誰かが手伝ってできるものじゃないんですよ。東京の人たちがよく「地方創生だ」って言って、俺らが地方創生してあげるというのがあるんですけど。
河上:もう、あげるの時点でね。
呉:そう、だから地方創生なんてしてあげるものじゃなくて、地方の人たち自身が自分たちで気付いて情報発信しない限り、実現できないんですよね。僕らはどちらかと言うと、地方創生を実現すると言っていますけれども、僕らがやるんじゃなくて、それをちゃんと教育や学びを通して、みんなが情報発信できる世界を作りたい。
それが僕の中で10年か20年か、何年かかるかわからないですけれども、やりたい世界というのが一つ、いわゆる仕事として実現したい社会。
河上:なるほど。なるほどね。
呉:ただまあ日本限定じゃなくて、グローバルで見ても同じようなことが起きているので。やっぱり、世界中のクリエイターを幸せにしたいなっていうのが、一応僕の中で思っていることです。
河上:あーそう来るかー。グローバルでのクリエイティブ領域って、どう捉えていけばいいんだろうね。
呉:これもだから難しいですね。
河上:もちろん、その国ごとに特徴があったりするだろうし、クリエイティブレベルも違うのかもしれないんだけど、あんまりそれを測る尺度を持ってる人っていないと思うんだけどね。
呉:いないですね、はい。
河上:これをグローバルに切り替えたらどうなるんだろう? 例えば、フランスのテイストを日本に持ち込むとクリエイティブ効果が高いとかいうことは起こってくるのかね。
呉:これはものすごい難しいテーマなんですけど、やっぱりどうしても文化っていうのがあって、特に表現の仕方って難しいんですよね。だからその国によって表現力が違うので、例えば日本の企業がフランスで広告したいと言って日本のクリエイターが作った広告が刺さるかと言ったら、まずそれは違うわけです。
河上:あるよね。
呉:だから、僕は今作っているクリエイタープラットフォームを世界中で作りたいんですよ。地産地消も一緒で。
河上:流通ではなく拠点。
呉:おっしゃる通りです。
河上:拠点を作るんだな。
呉:なので、例えば日本の企業がフランスで広告を出したいと言ったら、僕はフランスのクリエイターと出会える場を作らないといけないというふうに思っているんです。
河上:この仕組みを各所に、各国に置いていきたい。そんな思いなの?
呉:まさに、そうです。
河上:今一番狙いたいところがあるとしたら、次にやる国はどこ?
呉:すごく上を見ると、欧米が一番のテーマで、行きたいんですけど。
河上:そっちにやっぱり最初に行きたい?
呉:僕らは作り手を育てるという意味では、可能性的にはやっぱり東南アジアの方なんですよね。
若見:そうなるよね、例えば貧困の環境だったりというものを、デジタルで変えてあげるというのは一つ、やり方としてあると思うんだよね。
呉:そうなんですよ。それで、一応2年前から取り組んでいるのが、僕らはフィリピンの大学とカリキュラムを提携していて。フィリピンのマプア工科大学という大学と、僕らの今日本でやっている教育コンテンツを提携して、向こうでクリエイター教育というものをテスト的にやっていたりしますね。これを言うともうすごくキリがないんですけれど、僕はデザインって気に入った人の数だと思うんですよね。
河上:見た側だよね。
呉:そうですね。だから例えば、今クラウドソーシングというビジネスモデルがあって、作っている人がフィリピンのデザイナーズですと。それで、そのことを知るじゃないですか。フィリピンのデザイナーさんが作ったんだったら、日本の5分の1の価格なんじゃないですか? みたいな。
僕はそんな発想がすごく嫌で。勝手な考えかもしれないですけど、要は最初に上がってきたアウトプットが自分の思い通りのものだったら、たぶん全世界どこに発注しても同じ金額であるべきだというふうに、僕はすごく強く思ってるんですよ。だから、フィリピンで実現したいなと思ったのは、フィリピンのクリエイターが日本のクリエイターと同じ年収を実現できたら、フィリピンってどういう世界になるんだろうなというのはすごく興味があるんですよね。
それで、もう1つがフィリピンって日本と物価差があって、年収も全然違うと。大体(フィリピンでは)年収で日本円で30万円くらいですよね。例えば日本のクリエイターの平均賃金が300万円と言われていると、要は10倍違うんですよ。
でも、フィリピンでもデザインをすると300万円の年収が稼げるとなった瞬間にどういうことが起きるんだろうな、と思った時に、例えば、上位の学校にいる人たちがデザイナーを目指すことも考えられるわけですよね。要は、日本で言うと東大に通っている人たちがデザイナーになりたいというような世界観が生まれると、クリエイティブ業界はいろんな意味で変わってくるんじゃないかなと思っていて。なので、1回フィリピンでそれにトライしてみたいと。
フィリピンのマプア工科大学って、私立で一番大きい大学なんですよね。そこの優秀な学生さんたちが、例えばクリエイティブのスキルを身につけると、どんなイノベーションが起きるんだろうなというのは僕の中ですごく楽しみで、今トライしていたりします。
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