大西洋ではなぜか見かけることのないウミヘビの生態

ウミヘビは、海に生息する爬虫類の中でもっとも多く見られるグループであり、実に70もの種が存在します。ところが、驚くべき多様性を誇るにもかかわらず、大西洋にはまったく生息していません。不思議であり、喜ばしいことですよね。

だって、ウミヘビがまったくいない海があるんですよ?

しかし、ウミヘビにとっては豊富なエサと生息地が望める広大な海が広がっているというのに、これはどうしてなのでしょうか。その答えは、ウミヘビの進化と生態、そして奇妙なことに海の「乾いた」領域にあります。

まず最初の答えは、一見難しそうでいて実はシンプルです。現生のウミヘビが、大西洋では進化しなかったためです。

現生のすべてのウミヘビは、「コーラル・トライアングル(サンゴ三角地帯)」と呼ばれる太平洋の一領域と、その周辺で進化を遂げました。さらに、ウミヘビのほとんどの種は、過去2,500万年以内に進化したものです。

ウミヘビにとってアフリカ南端の海は「乾燥しすぎている」

大西洋で生まれたのではないとはいえ、何百万年もあればウミヘビが大西洋まで移動して、新たに繁殖することは、理論上は可能であるはずです。しかし、それは実現されませんでした。

まず、ウミヘビのような小さな爬虫類には、海はあまりにも広すぎることが、一つに挙げられます。大洋に生息するのはセグロウミヘビ一種のみであり、他のほとんどの種は沿岸の浅瀬で暮らしています。

つまり、大西洋にたどり着く可能性があるのは、唯一セグロウミヘビのみ、ということになります。しかしその仮想ルートは、どれも論理上、とても困難です。

まず、南アフリカや南アメリカの南端を回るルートは水温が低すぎます。セグロウミヘビが繁殖するには20℃以上の水温が必要で、18℃以下に水温が下がると死んでしまいます。

仮に、南アフリカ沖の水温が17℃以下であった場合、移動は不可能です。実際にセグロウミヘビはアフリカの南端での生息は可能ですが、それ以西であれば水温が低すぎる可能性があり、やはり移動は不可能です。

さらに奇妙なことに、アフリカ南端を回るルートは「乾燥しすぎ」である可能性があります。ウミヘビは海水を摂取することができず、嵐などの後に海上にできる薄い層の真水を摂取します。不思議ですよね。これが自然のなせるわざなのです。

パナマ運河に海峡があった時代にウミヘビが進化していれば……

ところで、アフリカ南西部にはナミブ砂漠を擁することで名高いスケルトン海岸があります。この地域は海洋部であっても、年単位で降雨がありません。ウミヘビがこのルートを通れば、脱水症を起こして死んでしまいます。

別ルートでも南北アメリカ大陸が障壁となり、そううまくはいかないでしょう。何百万年も昔であれば、現在のパナマ運河がある場所に海峡が通っており、アフリカや南アメリカの南端を通るよりも遥かに温暖なルートが開けていました。

問題は、パナマ地峡ができたのはウミヘビが進化を遂げるよりも遥かに昔であったことです。そのため、ウミヘビが太平洋から大西洋へ楽に泳いで渡ることはかないませんでした。

私たち人類は、太古の海路をパナマ運河という形で再現しました。事実、コロンビアのカリブ海側にて、ウミヘビの個体が記録されています。恐らくは、運河を通ってきたものでしょう。

しかし科学者たちは、ウミヘビがこのルートで繁殖地を確保することは難しいとしています。大西洋がいかに温暖で、おいしいエサを豊富に擁する居心地の良い生息地であるように見えても、ウミヘビの生態と進化の歴史により、それはどうやらかなわないようですね。