竹中氏が囚人たちを熱狂させた一言

福嶋聡氏(以下、福嶋):それをやるようになったきっかけは何なんですか?

竹中功氏(以下、竹中):吉本興業の会社の仕事で呼ばれたんがきっかけです。慰問ですね。フォーク歌手や落語家さんの慰問があるじゃないですか。僕が60分、芸人が30分という時間の割り当てでやっていました。

あるとき、お笑いタレントを連れて行って。若手漫才師は持ち時間が30分ぐらいあるくせに、10分で帰ってきたんです。「なにしてんねん。お前」と。お客さんにしたら年に一回の楽しみですからね。吉本興業の芸人でいうたら、「もらった時間を全うしなさい」と言ってんのに10分で帰って来て、「今日無理ですわ」と。「無理ですわって、お前が言うなボケ」言うて。

だから20分早く終わったから、僕の60分の予定が80分せなあかん。何も考えてへんのに。歌うわけでも踊るわけでもないのにね。その日は「何で若い人たちは芸人を目指すのか? 売れる芸人と売れない芸人の差は何だ?」とか1時間しゃべったんですよ。

そして、最後に20分残った。実は情報を得ていたんですよ。そこの刑務所ケンカが多かったんですね。泥棒とかヤクザとかばっかりだったんで。こんなこと言うてええんですかね。

(会場笑)

泥棒やヤクザとか、小さい犯罪者は刑務所内でケンカが多いのですよ。そう聞いてたから、「ここでケンカして、何か得しましたか? 褒められたとこありますか?」って。何もないんですよ。「勝っても負けてもええことないでしょ。男っていうのはこんなとこでしょうもないことせんと、世の中に出たときに、同性の男から惚れられたり、崇められたり、尊敬されたり、なんでも相談される。そんな男を目指してください。こんなとこのしょうもないケンカなんかして、勝った負けたはありません。男は漢字の『漢』一文字で「おとこ」って言うんです」みたいなどっかで読んだこと、そのまま言うたんですね。

(会場笑)

そしたらみんな、「オーーー!!!!」と声は出せないので、心の中で叫んで。

(会場笑)

そこから一年間、そこの刑務所でケンカがなくなったそうです。僕の考え方も損得ですよね。ここで勝ってもなんも得せえへんやん。ほんまに得すんのは、義理人情でやんのやったら、それで男になれですよ。

僕は「あんたたちヤクザやめなさい」って言うほどの力はないですから、「好きに生きていけ」ですけども。「男なら『漢』というおとこになりなさい」って言ったことが評判がよかったんで、今行ってる山形刑務所で出所者専門の釈放前の先生で呼ばれることに繋がりました。

「人殺しに合うのは、毎回僕のネタですよね」

竹中:交通費と泊まり代と弁当代が出ないんですよ。去年の4月から弁当代500円払うんですよ。予算がなくなったって、法務省どないしてくれるってね。

(会場笑)

刑務官に言うたんですよ。「法務省の問題が俺知らんけ、どこの教育課の1人が100円出したら、5人で俺の弁当代になるやないかい」って言ったらみんな、シーンとなって。「そんなこと大きい声で言わんといてください。一応みんな公務員ですから」「公務員でも100円くらい出せや。部長にも、部長も1人500円は出しや」言うて。俺は金のこと言うてんのとちゃうで。まあ言うてるんですけどね。

(会場笑)

嫌じゃないですか。500円の弁当を急に払わされるんですよ。おかずが選べないんですよ。刑務所で「ほっともっと」みたいなところに、明日は500円の弁当3つとか20個とか、そんな注文するらしいんで「もうちょっとお金払うから、おいしいの食べたい」言うて、「すいません。みんな一緒のですねん」と言われると。

ほんで交通費も出えへんし、ホテル代も出えへんでしょ。そしたら、一時間何円って時給は出るようになったんです。国立の大学の先生が講師で行ったときにくれるような、はした金あるでしょ、あれはした金ですよ。

それでやっと、東京の事務所から、トントンで行けへんぐらいですね、でも人殺しに会うのは、毎回僕のネタですよね。いろんな人に会えるっていうのは、自分にとってプラスなんで続けてますね。

6万人に2400億円の税金を使っている

福嶋:ありがとうございました。僕らの全然知らない世界なんで、どういう感じなのかなっていうのは気になっていました。それと実際、刑法の議論があるときに、一番問題なのは再犯率ですので、それがほぼゼロというのはすごいなと思います。

竹中:すごいことですよね。だいたい年間で1人400万円くらい税金から彼らに経費がかかっている。女子刑務所もありますんで、6万人おるんで2400億円ぐらい、みなさんの税金を使ってるんですね。

たまに病気とかしはって、脳血栓や脳腫瘍で大きい病院行って頭蓋骨開きますやん。切って開いて治して閉めて、ハイ3ヵ月経って連れて帰って来ましたって言って、800万円くらいの請求書が来るんですね。

残念ながらあの人らは保険に入ってないんですね。「そんな高いんですか?」「そりゃ保険きけへんかったら800万円ですよ。どうしますの?」「それまた回してハンコついてもろたら、みなさん税金で負担してますねん」言うて。僕ら、彼らの高額医療費を払ろてるんですよ。

でも世間では、ばあちゃんの高額医療費も払われへんくて亡くなるんですけど、刑務所ではみんな生きてるんですよ。部屋も一番ええ部屋なんです。民間の人、みんな一緒の4人部屋とか嫌でしょ。手錠つけた人がいる部屋、三方向くらい窓があってユニットバス付のえらいええ1人部屋に手錠して寝かしてます。

矛盾ですけども、病気を責めてもね。人殺しやから病気で死んでええっちゅうわけじゃないと思うんで。ただ手厚いいうのもちょっとどうかと思う。それ、頭切るの半分にしとけちゅうにいかんでしょうからね。古い注射を打っとけというのもいかんでしょうからね。これは難しいんですね。

再犯防止を目的に 日本の刑務所は矯正施設としてまだ弱い

竹中:でもさっき言うたみたいに、再犯を犯さずに社会でしっかり生きていってもらうことが目的であれば、2400億円が減るわけですよ。その前に高い戦闘機を買うのやめや言うてね。この前墜落した飛行機も高いでしょ。2400億円くらいすぐやんね。

でも再犯っていうのは大事ですよね。日本はまだまだ矯正施設としての機能が弱くて。これはお金の問題なんです。ヨーロッパでめちゃくちゃ再犯率が減ったところっていうのは、向き合うスタッフたちがマンツーマンなんですね。

泥棒するやつだから、泥棒したらあかんでって先生が付くんですね。強姦魔には強姦したらあかんでって先生が付く。そうやって犯罪者に対応した教育をせなあかんけど、日本はここにまとまって20人とか30人みたいなことなっている。

個人対応がしきれてないんで、最後の最後は再犯してしまうらしいですね。プログラム作りはヨーロッパのほうが上手ですよね。

200年に一度の災害でも「想定すること」が大切

福嶋:さっき竹中さんが、あとでこの話をしたいとおっしゃっていた、「想定すること」についておうかがいできますか?

竹中:想定の話、しましたよね。謝罪の件でもそうなんですけども、謝罪のリスクマネージメントのなかで大事なことは、会社や団体、ご家族でもそうなんですけども、起こるべくする事故を想定するということなんですね。

言いたかったひとつが、去年一昨年とわりと大きな災害事故があったときに、テレビでは200年に一度のことやから、予想もつきませんでしたわと言うてね。

別に笑ろてへんですよ。でも気象庁が発表するんですけども、200年に一度のことやから想定できなかったと言うてるけども、じゃあそのときに鉄砲水に子どもさんと奥さんが流されて死んでても、200年に一度だから仕方ないないなみたいな言い方できますか? と思ったんですね。

200年に一度の災難であっても、それを想定するのが想定やと思うんです。そういう意味でいうと、僕は最近いろんなとこでやっていて。(企業に対して)リスクの想定として、リスクを書き出してもらうんですね。1人50個ぐらい書く。

朝寝坊と言う人もおりますよ。SNS炎上もありますよ。会社によったら工場爆発もあるし、異物混入とかもありますし、いろんなケースがあるんです。それを全部書いてみませんか? っていうのが今のやっている想定なんですね。

想定できなかったってことは、知恵を出してないだけであって、ぜひともあらゆることを想定してほしい。今日いらっしゃっている友人と一緒にさせてもらったときは、ぜんぜん職種が違う方が20人参加しました。

リスクの共有化の価値

竹中:それで、Aさんが見たらびっくりするようなBさんのリスクとかがあって、「おたくの会社、団体って、そんなことあるの?」「うちらの業種、業態、組織はこんなありますねん」「すごいなー」と感心してるだけではなくて、気づきましょうと。

「それって、うちも有り得るやん」みたいなことでいうと、実はリスクを書き出すことと同時にやってほしいことは、リスクの共有化。書いたメモを壁に貼るだけです。今日もここに来る前、ある人に呼ばれて話をしてきたんです。

そこはひとつの株式会社なので、みんなで同じ仕事している。みんなが同じ仕事しているから、みんなが同じリスクかいうたら、絶対そうじゃないですよね。

同業種、自分とこの業種、支社の人も含めて全員に書いてもらったら、一度貼り出してください。きっと第一営業部と第二営業部の悩みも違うし、第一制作部と第二制作部の危機も違うはずや。全部違うの一回見ましょうと。

実はリスクを書き出すことで、それを共有化できるんですね。気付きがあるとないとでは差がありますよね。吉本興業でいうと、劇場があったんで、火災訓練をしょっちゅうやるわけですね。

劇場があって、下にテナントさんがいてます。上には楽屋があって、芸人さんが100人ぐらいいます。その上にも僕が所属していた制作部や営業部100人くらいがいます。これ、劇場のお客さんやったら千数百人おるんですね。

そのときに毎回の火災訓練が、劇場の楽屋で燃えましたいうたら、パターン化するんですね。だからちゃんと地下のラーメン屋で燃えましたとか、今日は4階の制作部の給湯室で燃えました、今日は楽屋で、桂文珍さんの部屋の前が燃えましたとか、いろんなことやりながらパターンに対応するのが想定じゃないですか。

吉本興業が設置するコンプライアンス研修委員会

竹中:吉本でいうと、そういう想定やってましたんやけども、やっぱり意外な事件や事故も多いもんですから、コンプライアンス準備委員会、コンプライアンス研修委員会ってことで、こういうことがないようにしようねってことで、研修が進められていくんですよね。そんなこと毎年やってもネタあんのか? っていったら毎年新しいことありますよ。

僕がおるときだけでも「飲酒運転はあかん」「酒・博打・薬物、男女問題、反社あかん」などが。あるときはピストバイクと言いましてね、自転車のブレーキがかたっぽしか付いてへんやつがあるんですね。

これ、街中で走ったら道路交通法違反で捕まるんです。そういうときに捕まえてくれるのが「チュートリアル」の福田くん。彼が捕まった。有名人を捕まえたほうがええからですかね。捕まってしまって注意されるね。

チュートリアルの福田くんは注意をされて、「自転車の片一方しかブレーキつんでないのはあかんですよ」って。変な話、警察の広報活動なんですね?社内でもそれ言うわけですよ。「福田くんみたいに捕まったらあかんから、みんなブレーキちゃんと付けてくださいね。夜は、電気もつけなかったら捕まりますよ」ってひとネタや。

その前の年は、「脱法ハーブいうの渋谷でも売ってるけど、脱法言うて法律を犯してるってことになる。ほかの薬と一緒やから、買うたり売ったりしたらもう逮捕。クビやで」。みたいなことを研修でやってましたですね。

飲んだら書くな、書くなら飲むな

竹中:だからさっき言った、薬と女と博打と酒以外にしれっといっぱい出てきて、その中に出てきたんがSNSです。

「SNSも気いつけてや言うてたら、『ウーマンラッシュアワー』の村本大輔がよく失敗してるで」みたいになったから、村本の楽屋に行って言うたわけですよ。「お前、この頃よくトラぶってるけど、どういうことやねん」と聞いたらね、「お酒飲んで失敗する」って言うから、「だいたいSNSの失敗はお酒のときが多いから気いつけよな。

『飲んだら書くな、書くなら飲むなって言うやろ』交通事故と一緒やで。『飲んだら乗るな、乗るなら飲むなって』言うやろ。一緒や。SNSもそやぞ。覚えとけお前」って言うたら、その年の年末の『人志松本のすべらない話』ですよ。

村本に当たったら、「この前ね、SNSでよう失敗する僕に会社の偉いさんが来てね、言うたんですよ。『飲んだら書くな書くなら飲むな』って。僕、それ唱和させられましたわ」言うて。「すべらんのー」と言うてます、あれ僕のネタですからね。

(会場笑)

「飲んだら書くな書くなら飲むな」って、やっぱりホンマそうですよ。ケンカはせえへんけども、Amazonでポチっと押したりとかね。飲んでるから、同じものを二つも買ってるわみたいな。飲んだらパソコンは離れたほうがいいですよ。飲んだら触るな。僕らは危機管理という名前で失敗も多かったんで、いわゆるさっきの想定ですよね。

お酒を飲むことでケンカしたり、お酒を飲むことでおっちょこちょいなことしてしまうんやったら、お酒を飲むのやめましょうみたいなこと。そうやって、想定することが危機管理に一番近付くんで、この本を買ってない方は買ってください。いくつか書いてまいりました。サンプルもありますんで。

自分にはぜんぜん関係ないけども、「違う業種とか業態の人はこんなことが危機として考えられんねんな」ということで目で一度見てください。自分の中で目を通すだけで結構です。ひょっとしたらそのときに見たことがあることと、見たことがないことが起こったときの行動が、ぜんぜん変わってくる。まずは見てほしいです。

ゲーム的リスク訓練の必要性

竹中:でも本当はお金を払って、「リスク訓練」は僕を呼んでゲーム的にやってほしいんですね。僕が集まった数百枚のリスクの中から、パッと選んでそこにいる人に、「社長・総務部長・工場長・社外役員・弁護士さんの役ね。今から役員会をします」と。例えば『九州支社長10億持って逃走中』(をテーマにする)。「どうします? 情報はどこから入ってきますの?」「社長、土日ゴルフとかで電話切ってるって言ってませんでした?」「切ってるな」「ということは、対応が2時間3時間ずれますやん。情報入るの?」

「警察から聞いてきたら、誰が答えるんでしたっけ? 弁護士の先生ってこういう金の使い込みとかのこと詳しかったっけ?」「そんなん触ったことないですよ」「触ったことないけど弁護士さんでしょ」「そんなん弁護士もいろいろいてますやん」言うて、「それやったら先に言うといて下さい」と、先に言うといたらええんですよね。うちの弁護士さんは税とかお金のことには詳しいけども、刑事犯のこと弱いんやったら会社で、もしくは刑事犯のこと起こったら親しくできる弁護士さんを前以て紹介してくださいねと言うとかなあきませんよね。

そして九州で警察やマスコミが動く。「誰か知り合いはおれへんの?」「おれへんな」というときに、「いやいや、九州の誰々くんのお父さんは警察官やって言うてたで」と。「なんかあったら聞きに行って、教えてや」と言うてええんじゃないですか? だからネットワークを張っとくためには、手前の情報が欲しいでしょ。ということは想定です。さっき言ったみたいにどこで何が起こったか。だから僕がランダムにカードを引いてやるわけです。

九州支社長に限らず、「今度仙台の営業マンが交通事故でひき逃げして、逃げたままです。こいつは捕まりません」。どうします? さっき言うたように「社長がゴルフ行ってたから伝われへん」「社長に電話を入れなあかん癖つけたら?」とか、知らんけども、「キャディーさんに電話を持っといてでもええから、鳴ったら必ず教えてねってルール作ったら?」「俺、ゴルフ外交しとんねん」「いや、おたくの社員ひき逃げで逃亡しててどうすんの?」ですよ。

謝らなくてもいいための方法

竹中:みたいなことを全部想定するんです。想定するのは、僕が作ったリストじゃないんです。みなさんが作れるんです。隣の人が作ったものを見せてもらう。それで想定リストを目の前にして、全部シミュレーションするんです。そのぐらいの危機管理をせなあかんもんだし、実は危機管理はできるもんなんです。にもかかわらず、「うちの会社は大丈夫。竹中くんがやってくれるし、なんとか総務部長達者やし、うちに警察がOB来てくれてるから、あの人に言うたらええんちゃうか」言うて。

そんなことないですよね。警察のOBが来てくれはるけど、そこに新聞記者から質問が来たときにどうやって返していいか、習ってないこともありますよ。それはやっぱり、社内のプロパーを置いたり、社外の人を使ったり、人脈を敷き詰められてたらリスクも弱く済む。そして早めに軽く終わらせられる。それが想定できるんです。

これは載ってますね。謝罪の訓練で想定してくださいと載ってますんで、1人五冊ぐらいは買うていただいて、

(会場笑)

5人に配ってもらいたい。想定というとどうしても暗いし、悪いことじゃないですか。横領や業務上横領、詐欺、泥棒、痴漢などが出て来るんでね、嫌な話ですけども、じゃあ逃げてていいんですか? よくないですよ。家庭でもそうですよね。へそくりがバレたらどうしよ、浮気バレたらどうしよというリスクを管理せなあかんですよ。それも含めて載ってますからね。

福嶋:いろんなこと載ってます。

竹中:想定が載ってましたよね。謝罪訓練って書いてますんで。謝り方の訓練じゃなくてね。謝らなくていい方法のための訓練。ええこと書いてるわー。自分でも思う。

(会場笑)

始末書と謝罪文の違い

福嶋: そうですね。具体的に例えば、始末書は白無地の二重封筒にせよ、とかですね。

竹中:今回、始末書と謝罪文のことはわりと書きましたね。

福嶋:謝罪文がどう違うか。始末書はもちろん手書きで、顛末書はそうではないとか。

竹中:顛末書は時系列のレポートなんで、何月何日何時何分にこうしたということを並べるんで、ワープロでもパソコンでもええ。最後にサインとハンコでええんです。でも謝罪文って、心から詫びを表現するもんで、手書きをすすめます。ただこの頃、詫びのときにメールで謝ってときますという人は多い。

とり急いでメールでお詫びというか、メールでお知らせして、「時間の都合がつかなくても、今すぐ行きます」とLINEで送っとくのはいいと思います。それは電話の場合もいいと思います。でも大事なことは直接謝罪です。電話やメールだけでは済みませんよ。絶対に済みません。そういう意味でも、直接謝罪の意味もあるんで。それはもうコミュニケーション力です。さっきの話をしておきますか。怒る話です。

福嶋:怒る話。

勧進帳に学ぶ「イカリ→リカイ」の変化

竹中:これは吉本がいやらしいという小ネタなんですけどね。歌舞伎に『勧進帳』という演目がありましてね。例えば、今日たまたま石川さんがいた。僕と石川さんが遅刻して、石川さんという人が失敗した。で、2人で謝りに行くわけです。

福嶋:怒られて。

それで僕が石川さんと2人で行って、「すいません。こんなんで失敗して、納品も間に合わずに多くの方に迷惑かけてどうもすいません」と謝って、途中で僕が急にキレるんですね。何をキレる? 僕が石川さんに怒るんですよね。「お前がだいたいこんな失敗するから忙しいときに店長の大事な時間まで潰して」って言って。「お前なんかもういらんから、消えてなくなってくれ」といっぱい言うたら、店長が「竹中さん、もうそこまで言わなくていいですよ」「もうそこまで言わなくても石川さんもまた頑張るからもういいですよね。」とか言って。

僕はね、悪い言い方でなくて『勧進帳』と一緒だと思っていて、寄り添う気持ちが大切。この人、「イカリ」って変わっていくんですよね。どっかで落としどころを探さなあかんじゃないですか。そういうとき、僕がもう思い切りキレる。「お前がこんなことやらすからこんなことなってん」と言って、最後にこの人が「もう竹中さんいいですよ。石川さんも頑張れるよね。もういいよ」って(笑)。で、2人で後から「やったー!」と。

(会場笑)

その姿は見られたらあかんですけどね。

(会場笑)

実はこれ、小芝居のシナリオなんです。これは怒ってる人に寄り添うってことですね。この人って、どんなことでどれだけ熱くなっていて、逆にどこをちゃんとお詫びすることによって理解してくれはるかなということの、ひとつの表現方法がこっちに寄り添う。

福嶋:そうですよね。それは嘘とかじゃなくてですね、ホントに「イカリ」を「リカイ」に変えようという。その気持ちがひとつのシナリオを作っていったんだと思います。そうした動機を持っていなかったら、そううまくいかないような気がしますね。

台湾では『謝罪的藝術』のタイトルで発売

竹中:動機もそうですし、反省するとこをしっかり理解できてなかったら、謝罪もできないと思いますね。たまたま、この前の「よい謝罪」も2年前に台湾で中国語版が出たんですね。そのときに僕が台湾にトークイベントで行って、台湾の人、僕の本が多くの方読まれてたんでね、そこで「『よい謝罪』読まれてどうでした?」と聞く前に「みなさん、謝ったことありますか? 謝った人手を挙げて」と言ったら、誰も手を挙げない。50人もおんのに。

「謝ったことないのに、僕の本を読んでどうすんの?」と言うたら、「日本人って、謝って許してもらううえに、最後に応援してくれはる側に回るって考えられへん」と。台湾の人。怒ってる人は怒りっぱなし。謝ったりしたら、一生下に見られるから謝らない。アメリカ人と一緒ですよ。相手に対して「sorry(お気の毒にね)」って言うけど、台湾の人って、「I am sorry」って絶対に言わないですね。非を認めないんですって。

でも日本人って考えたら、許してくれますし、最後に頑張れとか応援に回ってくれるんですよね。あんだけ怒ってるのに「頑張れよ」にまでに変わるんですよね。それはもう芸術だってことでね。台湾では「謝罪的藝術」というタイトルで売られてます。

ゼロとイチだけじゃなくて、その間のグラデーションみたいな人間関係あったり、いろんなものが日本って絡み合うじゃないですか。例えば出身地が一緒やったとか、お母さん同士が知り合いやったとか、学校の先輩後輩やったとか。なんかいろんな縁みたいなことが、それを作っていったりするんですよね。これを探し出すのがコミュニケーション力ですよね。

誰にも失敗はあるけども、誰もやり直しがきくっていう前提なので、謝りゃええと思ってるんです。でもただ、謝るのはポーズじゃないということだけは、しっかり持っとかないといけない。謝るのが目的の人いるんですね。さっき言うたみたいに、「謝ってんのにあいつ許してくれへん」と言って。決めんのは向こうですよ。そんなことで、みなさんも謝り上手になっていただけたらと思います。今日の謝罪訓練の話で、もう謝らなくていい人になれたと思います。「謝り方なんか知らねえよ」というぐらい、自信を持って明日からいけると思います。

福嶋:どうもありがとうございます。

(会場拍手)