他人を叩く快感を抑えられる人、抑えられない人

荒川和久氏(以下、荒川):他人を叩きたいということになってきちゃうと、けっこうどうなんだろうというところがありますよね。

中野信子氏(以下、中野):これってたぶん、人間の本質なのでそんなに変わらないと思う。意識していてもけっこうやっちゃうと思うんです。ただ意識的になることによって抑えることはできるかもしれない。

さっきの500万円、1,000万円問題と一緒で、抑えている人と抑えていない人がいたら、抑えていない人のほうが勝っちゃう。なので、抑えることは損だよねということになる。

荒川:ああ、そうですね。

中野:政治もトランプみたいなやつが選ばれるし、ヒラリー・クリントンのほうが抑えめですよね。そうすると、抑えていない人が勝っていくから、抑えようと言ってもそのエフォートは無駄になるんじゃないか。

荒川:それってなんか、歴史的には揺り戻しになったりしないんですかね。

中野:どうだろうな。これはすごく重大な問題だし、もっと丁寧に論調する人もいないといけない領域なんだとは思うんですけど、あまりちゃんと体系立ててやられていない感がありますね。

荒川:だからこそ、そういうのがネットで可視化されることによって、昔はそういう流れが見えなかったものが、今、みんなが見えるっていう状況になっているのはアウトですよね。

中野:叩いてもいい人を見つけやすいツールができたことは、この流れと無縁ではないと思う。昔は見つけるツールはテレビとか新聞とか週刊誌しかなかった。

それが、ネットというものができてしまったことによって、検出が比較的容易になったし、なんなら冤罪もできてしまう。一般の人が罪人を作れるわけです。何の落ち度もない人を「こんなことを言った」と。

拡大解釈であることもぜんぜん承知の上で、その人を攻撃したいがために、そういう解釈をわざわざするということが起きる。これはしばらく続くんじゃないかと思います。もっと悲観的な予測をすれば、かなり長い間続くんじゃないかとも個人的には思う。

自分より頭のいい女性が恋愛対象にならない理由

荒川:なるほど。こういうのって、脳科学的に……。

中野:ああ、これこそSchadenfreude(シャーデンフロイデ)ですよ。シャーデンフロイデって、妬みに付随して起こる感情です。

荒川:メシウマですね。

中野:メシウマか。あいつの不幸で今日の飯はうまいっていうのをメシウマという。シャーデンフロイデのフロイデ(freude)はドイツ語で「喜び」、シャーデン(Schaden)は「損害」という意味です。「相手の損害がうれしい、喜びである」ということです。

余談になるかも知れないんですけれども、東京大学というところに入って、間もないころの、すごく印象に残っている思い出は、駒場のときの男性の同級生が「どういう女の子が好きなの?」と聞いたら、「この大学に受かることが最低条件」と言うんですよ。「だけど、俺より頭が良くちゃダメだ」と言うの。ああ、そういうことなのねと思ったんですよ。俺より頭が良かったらもう対象じゃない。そういうやつとは付き合いたくない。

荒川:自分より頭のいい女の人とは一緒にいたくない。

中野:不快なんですね。妬みというネガティブ感情が生じるからです。もしかしたら男性のほうが、そういう状況を受け入れがたいのかなと思いました。

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