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今さら聞けないアドラー心理学(全5記事)

“褒める”は一方通行になりやすいーー誰でも聴き上手になれる「3分の魔法」

大人の学びに役立つ知識が無料で学べる生放送コミュニティ「Schoo(スクー)」。働き方やテクノロジー、ITスキルといった、最先端のノウハウが身につくオンライン授業を数多く配信しています。そんな「Schoo」で放送されている人気授業の書き起こし企画の第4回は、有限会社ヒューマン・ギルド 取締役研修部長の永藤かおる氏が登場。「今さら聞けないアドラー心理学」と題して、心理学者アルフレッド・アドラーの思想をわかりやすくひも解きます。本パートでは、勇気づけの実践方法を紹介。「褒める」と「勇気づけ」の違いや、聴き上手になるための方法など、目からウロコのお話を語ってくれました。

イチからはじめる「勇気づけの実践」

永藤かおる氏(以下、永藤):そしてやっぱり、これを実践していただくっていうのがとっても大切です。アドラー心理学は、実践の心理学です。机上の理論だけで終わるものではないです。ここに5つ「勇気づけの実践」というのが出ています。

ひとつ目が「感謝を表明すること」。これは自己勇気づけとともに、他者への勇気づけにも関わってくることです。感謝を表明する。「ありがとう」の出し惜しみをしないでいただきたいんですね。

これはなぜかというと、やはり「ありがとう」と言われると私たちは「あっ、この人の役に立つことができたんだな」と思うことができるわけです。それって先ほどの「共同体感覚」の中に出てきた「貢献感」という気持ちなんですね。

別に相手を喜ばせたくて「ありがとう」って言うわけではないです。だけど、例えば、私たちが「すみません」「ありがとう」と、どちらも使えるシチュエーションはたくさんありますよね。

江川みどり氏(以下、江川):はい。

「ありがとう」の出し惜しみをしない

永藤:例えばエレベーターで、ボタンを押して誰かが待っててくれたとか。あと私が両手に荷物を持っていて、誰かがドアを開けておいてくれたとか。こういう時って「あっ、すみません」とも言えるし、「ありがとうございます」とも言えるんですけれども。

こういうどっちも使えるような時に、ぜひこれから「ありがとう」というか、感謝の気持ちを伝えていただきたいんですね。それはなぜかというと、「すみません」とか「申し訳ありません」って、謝罪の言葉なんですね。謝罪の言葉を言われても「役に立てた」ってあまり思えないんですが、「ありがとうございます!」って言ってもらえると、なんかちょっと「役に立ててうれしいな」「貢献できてうれしいな」ってなる。

そういうお互いのキャッチボールみたいな、あたたかい気持ちの交流ができるというのが、感謝の言葉なんですよね。あとはとくに身近な人ですね。ご家族にご飯を作ってくれて「ありがとう」とか。ふだん照れくさくて言えないようなことでも、「ありがとう」の出し惜しみをしないで。ちょっとしたことでも「ありがとう」というのを使っていただきたいなと思います。

スイッチを入れるだけで聴き上手になれる

永藤:そして先ほども出ましたが「聴き上手」。私たちが「聴いてもらえてうれしいな」ということであれば、他の人に対してもやっぱり「聴き上手に徹する」のは、とても大切なことだと思います。どうやって聞いたらいいかは、おそらくたくさんの方が、会社の研修なんかで傾聴トレーニングなどをなさっていると思うんです。

そんなにむずかしいことではなくて、じゃあどうすればいいか。1回スイッチを入れちゃうんですよ。それは何スイッチかというと、「あなたの話を聴きたいです」スイッチをペチッと入れるんですね。そうすると絶対にスマホは見ないです。「江川さんの話が聞きたくてしょうがない!」と思うと、こちらに意識がいかないので。「あなたの話が聞きたいです」というスイッチをペチッと入れると、聴き上手になれます。

あとは「相手の進歩・成長を認める」。結果だけではなくて、その人がどれだけ進歩したか、成長したか、それもすごく大切です。この進歩や成長は、誰かほかの人、例えば「同期のなんとか君と比べて、きみは成長してるね」ではなくて、その人の半年前とか1年前とか5年前と比べてどう進歩したか、どう成長したかがとても大切です。

もちろん、結果を出すことも社会人には求められるんですが、それを見ることに私たちは慣れている。あえて一生懸命にならなくても、結果を見るということはできるんですが、進歩と成長というのも同時に見ていくのが大切です。

ダメ出しではなく、ヨイ出しを心がけよう

永藤:そして4番目の「ヨイ出し」ってあんまり聞いたことのない言葉だと思うんですけれども、「ダメ出し」の反対概念なんですね。

江川:なるほど。

永藤:ダメ出しって、ダメなところを「ここがダメだから直せ、そこがダメだから直せ」という感じじゃないですか。だけれども「ヨイ出し」って、当たり前かもしれないけれども「いいな」って思うところを、あえて口に出す。

これは自分が新入社員の時の経験で、新入社員なのでできることがなにもなくても、電話に出る研修はやったので、「とりあえず電話だけは出よう」と思って電話に出た。そうしたら3ヶ月ぐらいして、違う支社の人がたまたま東京出張に来た時に、「あなたが新人の永藤さん?」と言われて、「あっ、はいそうです」と(応えた)。怒られるのかなと思ったんですよ。そうしたら「電話、元気だねぇ!」と言われたんですよね(笑)。

江川:はい(笑)。

永藤:新入社員が電話に元気に出ることなんか当たり前のことなんですが、それを当たり前のことなのにニッコニコ笑いながら、「電話、元気だねぇ!」と言われた瞬間、「私もう電話に元気じゃなく出ることはできない」と思えたんですよね。

「ファイリングすごくきれいだね」「字をきれいに書くね」「メールの文章すごくいいね」とか、ある意味当たり前のことですが、それをきちんと言葉に出して相手に伝えると、いい部分は決して失われいんですね。

だから、やっぱり良いところは(褒めるようにして)、「新人が電話に元気に出るなんて当たり前」と思わないで、「元気だね!」「字きれいだね!」と言う。そうするとそこから先、絶対に悪化していかないんですね。「ヨイ出し」は、すごく大切だと思います。

失敗から教訓を引き出せるようにするのが大切

永藤:あと「失敗を許容すること」。失敗すると「なんだよ」みたいに思ってしまう。とくに自分が失敗した時もそうなんですね。「はぁー、もうどうしよ、最悪」みたいになって、どーんって落ち込むんですけれども。それを許容するというのは、「いいよいいよ。失敗してもOK、OK」と言うんじゃなくて。(もちろん)失敗をして反省をすることはすごく大切なことです。

ただ、それだけにとどまらずに、そこから何か教訓を引き出していくことが、さらに大切だと思うんですね。失敗って、学びにつなげないと意味がない。ただただ、ひたすら落ち込んで、自責の念にとらわれて、もしくは「あなたのせいでこんなんなったのよ!」と他人を責めるというのではなくて。

一時的に落ち込むのは当然なんですよね。落ち込まなかったら、逆におかしいぐらいですが。でも一時的に落ち込んだとしても、そこから「あっ、今回これだったからダメだったんだ。じゃあ、次にチャレンジするときはここを直そう」「あそこを直そう」「これを変えてみよう」という教訓を引き出すことが、すごく大切なことなので。

失敗をゴリゴリに責めて「お前なんかもうダメだ!」と言うのではなくて、「何が学べたと思う?」という持っていき方をするのが、すごく大切だと思います。ただただ「いいよいいよ、OK」という許容ではないです。もしかしたら誤解を招くかもしれないんですが。

それが勇気づけの実践で、これは自分に対しても他者に対してもですね。チバさんが「全部自分に対して言ってもいいですね」とおっしゃってくださっているようにですね。

江川:うんうん、そうですね。

「勇気づけること」と「褒めること」の明確な違い

永藤:もちろん、ご自身にも他者にも使えるものです。ぜひやってみてください。

そして、ここでよく聞かれるところなので、ちょっとまとめてみました。

「『勇気づける』と『ほめる』ってどう違うの?」とか。あと「褒めちゃいけないの?」ということを聞かれるんですけれども、「褒める」と「勇気づける」って、かぶる部分もあると思うんですね。私たち、褒められてうれしかった思い出って、たくさんあると思うんですね。だから一概に「絶対に褒めちゃダメ」というのではなくって。ただ、「褒める」と「勇気づける」はちょっと違いがあるんだよ、ということをみなさんに知っておいていただきたいなと思います。

何かというと、順番に読んでいくと「褒める」というのは「優れている点を評価して賞賛すること」。「勇気づける」というのは「困難を克服する活力を与えること」。まったく概念が違うわけですよね。

そして2番目がすごく大きな違いで、「褒める」というのは「相手が自分の期待していることを達成した時だけ」なんですね。条件付きです。「勇気づける」というのは、「失敗した時でも成功した時でも、あらゆる状況で与えられる」。

例えば「褒める」というのは……じゃあ「子どもにテストで80点とってほしいな」と思った時に、60点のテストを見せられたら「うわぁ……」って思うわけじゃないですか。そしたらもう、決して褒めることはできないですよね。期待に応えてないから。

だけれども「勇気づける」の場合は、今回は60点だから、まぁ60点分がんばった。そこで「次もっとがんばろうか」って勇気づけることはできる。褒めることはできないけれども、失敗してしまった時でも勇気づけることはできます。

「褒める」は一方通行の考え方

永藤:(スライドを指して)下のイラストを見ていただくとすごいわかりやすいんですけれども、「褒める」って必ず上下関係なんですね。上の人は下の人を褒めることはできるけれども、下の人が上の人を褒めることはできないんですね。

江川:確かにそうですよね。

永藤:そうなんです。評価なので。例えば社長が新入社員を「やぁ、君よくやってるじゃないか」って褒めることはできるんですけれども、新入社員が「やぁ社長、今日のスピーチ上手でしたね」とか言ったら、「どういうことだ?」ってことになる。「お前は何様だ?」ってことになっちゃうんですよね(笑)。

江川:はい、なっちゃいますね(笑)。

永藤:だから下の人が上の人を褒めることはできない。「そのネクタイいいんじゃないすか」と言ったら、「なんだお前は」となっちゃいますよね。

でも「勇気づける」を考えていただくと、「社長である私は新入社員のがんばりに勇気づけられました」は普通にある。不思議もなく受け入れられる話だと思うんですね。

江川:そうですね、はい。

永藤:「勇気づけ」は評価ではありません。共感的態度であり、対等の関係なので、「褒める」みたいに一方通行ではないことがあります。それがやっぱり「褒める」と「勇気づける」の違いなので。

信頼関係があってこそ成り立つもの

永藤:あと「この言葉が勇気づけ」って、ワードとしては出しづらいんですね。それはなぜかというと、例えば、こちらの私の本にも書いたんですけれども、同じ「バカヤロー!」と言ったとしても、信頼関係ができあがっていて、「あぁ、自分のことを期待してくれてるんだな」「もっとがんばれよ、奮起しろよって言ってくれてるんだな」と思えれば、そこで「バカヤロー!」という言葉は勇気づけになるんですね。

そういう関係ができてない時に「バカヤロー!」と言われたら、「なんだよ」みたいな感じになるので。「この言葉が勇気づけです」というのは、一概には言えないんですね。つまり、関係性なんですよね。だから、やはり関係性というものを大切にしていただきたいなと思います。

江川:はい、ありがとうございました。ということで、どうやって実践するのかということで、実践方法を教えていただきました。

世の中には「勇気くじきの名人」がたくさんいる

江川:では、ここからは受講生のみなさんのコメントや質問を見ていきたいと思います。この時間も受け付けておりますので、思ったことがありましたら、ぜひ投稿してください。お待ちしております。

ということで、みなさんのコメントを見ていきたいと思います。本当にたくさんのコメント・質問をいただいていまして、ありがとうございます。

永藤:ありがとうございます。

江川:それでは山岸さんからいただいていたご質問で、「部署の意思決定者が『勇気づける人』と真逆なんですよ。どうしたらいいですか?」というもの。

永藤:他人を変えることはできないんですよね。他人を操作するとか、コントロールするというのはできないんです。でも、私もいろんなところで研修をさせていただいたり、カウンセリングをしている中で、勇気をくじく「勇気くじきの名人」がたくさんいらして。それでみなさん心が疲れてしまっている、というのがあるんですね。

受け止め方ですね。アドラー心理学の中では「認知論」というのがそこでお話をする部分で、受け止め方を変えていくしかないんですね。私たちはその人を「変えよう」と(思って)、コントロールしようとすることはできない。コントロールしようとしたら、その勇気をくじく人と同じことになっちゃうんですね。

勇気くじきをする人って、自分の言葉とかで傷つけて操作しようとする人なので、同じ土俵になっちゃうんです。受け止め方を変えるとか、ある種の「スルーする力」をつけるというのもとても大切だと思います。

江川:はい、ありがとうございます。こちら山岸さんからのご質問でした。

永藤:ありがとうございました。

アドバイスをする前に、相手の話を3分聞いてみる

江川:では次のご質問いきたいと思います。こちらはジュンさんからいただいたご質問で、「他人を勇気づけるには聴くだけでも十分ですか? ついついなにか有効なアドバイスをしなければと思ってしまいます」と。

永藤:まずは「聴く」ということって、すごく大切なんですね。どうしても「こうしたらいいんじゃないか」「ああしたらいいんじゃないか」とアドバイスしたくなってしまう。とくに自分より年の若い方や後輩の方が相談に来た時に、私たちは実は「その答えを知ってるよ」ということもとても多いんですね。

なので、ついつい言いたくなっちゃうんですが、そうではなくて最初にまず聴く。相談をする人って、心がガッチガチになってしまっています。最初からベラベラ喋れるような人はなかなかいないじゃないですか。「はい、私はこういう問題を抱えておりましてー」みたいな人ってなかなかいないと思うんです。

だから、聴く側としては、まずは3分くらいはですね。カップヌードルの麺がほぐれるのも、お湯を入れてから3分かかるので。

江川:はい(笑)。

永藤:心がほぐれるのもそのぐらいかかるんじゃないか、という考えのもとに、まずはじっくり聴く。そうして、ようやくいろんなものが出てきた時に、「それであなたはどうしたい?」とその人に聞いてみる。

「俺はこうだと思うよ」って最初から答えをボーンって出しちゃうんじゃなくて、「あなたはどうしたい?」と、本人の気持ちとか、思っていること、理想としていることを出してもらう。それがすごく大事だと思うんですね。

そこがズレちゃうと、「なんかとんちんかんな答えをされちゃった」と終わっちゃうと思うんです。まずは聴く。そして本人がどうしたらいいかっていうのを引き出す。そうやって寄り添うというのが、勇気づけにはすごく大切だと思います。國岡さん、ありがとうございます。

江川:ご質問ありがとうございました。プロのカウンセラーは「ぜんぜんアドバイスをしないで聴くだけだ」という話を聞いたことがあるので、通じるものがあるのかなと思って聞いておりました。

永藤:うん、そうですね。アドラー派のカウンセリングって、聴くだけではなくて、そこからじゃあどう解決していけばいいか、とつなげていったりもするので。またそれはそれで、ひとつ講座ができるぐらいおもしろいものがあります(笑)。

江川:ありがとうございます(笑)。潤さんからのご質問でした。

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