アドラー心理学を実践する方法

江川:先ほどアドラー心理学の考え方の5本柱ということで教えていただきました。それこそアドラー心理学に今日初めて触れたような方は、覚えるというよりも「こういう考え方なんだな」と理解するのが大事ですかね。

永藤:そうです、そうです。小難しいことは何もいらないです。ここからお話をしていくのが、「実践につなげるアドラー心理学」なんですね。それは理論云々ではなくて、じゃあ、どういう心の持ちようでいれば、「幸せか」とか「楽か」っていうところ(になれるか)だと思うんですね。

私自身も理論が云々というので心惹かれたわけではなくて。そんなことを言っちゃいけないんですけれども(笑)。自分の実践で活かすやり方が「こういうことですよ」というのを教えてもらって、それをやったときに「ああ、こんなに楽なものだったんだ」と。それこそ先ほどの『嫌われる勇気』の主人公のように、私が今まで「こうあらねばならない!」と思っていたものがですね。

江川:はい、「青年」。

永藤:「こうじゃなきゃ」「ああじゃなきゃ」と思っていたんですが、「いや、そんなことないんだよ。だってこういうふうに考えたほうがいいでしょ」というところに一番心惹かれて。これをみんなに伝えたいなって思ったところなんですね。ですので、その実践の部分をみなさんに、ちょっとだけでも今日お伝えできればいいなと思っています。

尊敬から出ている、「勇気」と「共感」

江川:はい。では基本的な考え方を学んだところで、どうやって実践するのか? というのを教えていただきたいと思います。

永藤:はい。先ほども出ましたように、勇気というのは「困難を克服する活力」であり、勇気づけというのは「困難を克服する活力を与えること」なんですね。その勇気づけのためのキーワードとして出てくるのが……。

まず、「尊敬」から車輪の両輪みたいに「共感」と「勇気」が出ています。この尊敬って、私たち日本人にとって……「崇め奉る」みたいなイメージがあるんですけども。

江川:(笑)。

永藤:そうじゃなくて、カタカナの「リスペクト」にすると、ちょっと印象が違ってくると思うんですよね。

江川:そうですね、はい。

永藤:年齢が上とか下とか、偉いとか偉くないとか、そんなことは関係なく。「この人がいてくれてうれしいな」とか、「この人がいてくれてありがとう」という気持ちを、相手に持つのが尊敬です。なので年上とか年下とかはまったく関係なく、その共同体にいる人に対して、まず尊敬・リスペクトの気持ちを持つということと、そこから車輪の両輪のように共感と勇気が出ているんです。

まずは自分を勇気づけること

共感というのは「相手の関心に関心を持つこと」。「この人はどんなことが好きなんだろう」「どんなことに興味を持っているんだろう」というのを、その人の目線に立って、相手の目で見て、相手の耳で聞き、相手の心で感じる、という言い方もします。それが共感の気持ちです。

そして勇気というのが、今出てきた「困難を克服する活力」。これを持ち合わせながら人と接していくと、何が生まれてくるかというと、信頼関係が生まれてくるんですよね。これが勇気づけのためにすごく必要なキーワードです。

それで、まずは何よりも先に、自分自身を勇気づけていただきたいんですね。他の人がどうこうではなく。なんでこんなことを言うのかというと、やっぱり自分自身の勇気がくじかれちゃっている人は、他者を勇気づけることってむずかしいんですよね。

泳ぎ方を知らない人が、溺れている人を助けることはできないので。まずは自分自身を大切にしていただきたいな、というところがあります。じゃあ、自分自身をどうやって勇気づけたらいいのか? ここからは実践的なところに入っていきます。

自分を勇気づける「オセロゲームの生活」

自分自身の勇気づけを「自己勇気づけ」と言います。それにはまず勇気づける生活を送っていただくこと。勇気づける人と接していただくこと、それから言葉、イメージ、行動を勇気づけで満たすこと、そして勇気づけを実践していくこと。この4つになります。これを一つずつ見ていきたいと思います。

江川:はい、ではひとつずつ詳しく見ていきます。

永藤:ではまず「勇気づける生活」からです。

「オセロゲームの生活」というのがあるんですね。オセロってご存知ですよね?

江川:はい。あの角取ると勝つやつですよね(笑)。

永藤:そうです(笑)。黒と黒で真ん中の白をはさむと、一列全部が黒になる。

江川:あっ、そうです。ちょっと違うこと言っちゃったかな(笑)。

永藤:大丈夫ですよ。角を取るのも大事(笑)。

江川:はい、すみません(笑)。

永藤:(スライドを指して)この黒の列の人は何かというと、最初と最後が黒じゃないですか。この最初と最後って何かというと、朝起きた時と夜寝る時の話なんですね。

江川:はい。

永藤:朝起きた時って「あぁ……仕事行きたくないなぁ」みたいな、どんよりした気持ちで、自分で黒い石をポコッと置いてしまう。

昼間って共同体の中で生きていて、人と接するので、自分の機嫌って自分一人だけで決められるんじゃなくて、いろんな出来事で決まっていくと思うんですね。

そして夜になって、「あーあ……今日一日なんかろくでもない一日だったなぁ。最悪……」などと思いながら寝ると、黒と黒で挟んでしまう。そこで「ひと言でいうと、今日はどんな1日でした?」というと、「パッとしない1日でした」になってしまうんですね。

“あえて”白い石を置いてみることの大切さ

これ朝と夜がなぜ大事かというと、この状態のときって自分だけで自分の機嫌を決められるんですね。で反対の白の人。なんか「ピカー!」みたいな顔をしてますけど。

江川:こちらの方(画像左)。

永藤:そうですね。まぁ眠いのなんて誰だって一緒ですけど、朝一に「よし、今日もがんばろう!」って、自分であえて白い石をぺかっと置く。そして日中は、いろんなことがあると思います。クレームを言われて謝りに行かなきゃいけないことだってあるかもしれないし、つらいことだってあるかもしれないけれども、夜寝るときに「いろいろ大変だったけど、今日、私・俺はがんばった。今日も一日良しとしよう」と言って白い石を置く。

自分の機嫌を白の石にしてぺこっと置くと、「あなたの1日どうでした?」って聞かれた時に、「いろいろあったけど、なんとかいい1日にしました」って言えるんですよね。

これ一日だけのことだったらまだしも、1週間、1ヶ月、3ヶ月、1年、10年となるとね……。それを決めていくのは、この「オセロゲームで挟んだ1日」というのを基準にしていただきたいなと思います。この朝と夜というのは、自分で決められることなので。ぜひみなさん、今日の夜寝るときから、白い石を置いていただきたいなと思います。

江川:はい。まず「自分を勇気づける生活」をオセロゲームに例えて教えていただきました。

「選べる人間関係」と「選べない人間関係」

永藤:そして二番目は「勇気づける人と接する」というところです。私たちの人間関係で「選べる人間関係」と「選べない人間関係」があると思います。例えば、パートナーは選べるけど、パートナーのお父さんお母さんは選べないじゃないですか。

江川:そうですね、はい。

永藤:学校とか会社に入る時もそうだと思います。「この会社に入りたい」「この学校に入りたい」って(思って)入ったはいいけど、先生とかクラスメイトは選べない。選べない人間関係の時は、それはそれでまた心のマインドリセットが必要なんですね。

選べる人間関係の場合には、できるかぎり勇気づける人と接していただきたいなと思うんですね。

この「勇気づける人の6つの特質」の一番上が、「尊敬と信頼で他者と接することができる人」です。二番目が「楽観的な人」。三番目が「目的指向」で、四番目が「聴き上手」。五番目が「大局を見ることができる人」で、六番目が「ユーモアのセンスがある方」です。

リスペクトできる人の共通点

まず「尊敬と信頼で他者と接することができる人」とはどういう人か。そうじゃない人って、「この人と一緒にいると何かいいことあるかな」って、損得勘定で人と付き合うんですね。そうじゃなくて、「この人と一緒にいるとリスペクトし合える」「信頼し合える」というような人。みなさんにとって、そういう人はどういう人かというのを今、頭の片隅に思い浮かべていただきたいんですね。

江川:はい。

永藤:たぶんご自身のすごく仲のいい人とか、信頼できる人を頭の中に思い浮かべていただくと、どこかの特質に引っかかってくると思います。

2番目が「楽観的でプラス思考の方」です。楽観的でプラス思考といっても、べつに年がら年中24時間365日、楽観的である必要はまったくないんですね(笑)。

江川:はい(笑)。

永藤:なんでもかんでも「あははー、大丈夫さー」と言ってると、「リスクヘッジは大丈夫ですか?」ということになっちゃうので。楽観的な人って、どんなときに楽観的でいるのがいいのかというと、つらい時とかピンチの時なんですね。「あぁーどうしよう、まずい、ヤバい」っていう時に、悲観的な人はどうなるかというと「まずい、ヤバい……ダメだぁー」といって力が抜けていってしまうじゃないですか。

でも楽観的な人って、「まずい、ヤバい……いや大丈夫。なんとかなる。今までだってなんとかしてきた。できる!」となる。それが楽観的な方なんですね。

「目的指向」というのは、さっきもちょっとアドラー心理学の5本柱の中で出てきましたね。過去を見るのではなくて、やはり未来を見据えて、どうなったら自分はいいのか、どうなったら満足なのかというところを目指す方。

そして「聴き上手」。これはみなさんご経験あると思うんですけれども、つらいときに、この人に「うんうん、そうだったんだ」と話を聞いてもらえるだけで、ちょっとホッとしますよね。

江川:はい。

永藤:自分もそうありたいと思いますし、やっぱり自分がつらい時に接するとホッとする、勇気がもらえるというのは、聴き上手な方だと思います。

あとは「大局を見る」というのは、重箱の隅をつつくような「これダメ、あれがダメ」というのではなくて。これもピンチのときに、ふっと引いて、俯瞰でものを見られる方ですね。

コミュニティ以外の人でも問題ない

最後の「ユーモアのセンスがある」というのも、さっきの「楽観的」と同じで、年がら年中オヤジギャグを飛ばしていればいいというわけではなくて(笑)。みんながどよーんとして「どうしよう……」なんていう時に、ちょっと自分を落としたりして、クスッとみんなを笑わせることができるような人。皮肉とか、いやみとか、ブラックユーモアとかではなくて、みんなをニコッとさせるようなユーモアのセンスがある人ですね。

こういう人と一緒にいると、私たちは勇気づけてもらえるし、自分もいい影響がもらえて、自分も誰かを勇気づけることができると思うんですね。おそらくみなさんの周りで、一緒にいて気持ちのいい方というのは、これ6つ全部を備えている方はあまりいらっしゃらないと思うんですけれども、どこかに引っかかるのではないかなと思います。

江川:例えば、これはふだん自分がいるコミュニティ以外の人でも、もちろん大丈夫なんですよね?

永藤:もちろんそうです。

江川:ふだん、なかなか会えないけど、たまに会える人でもいいんですよね?

永藤:もちろんそうです。どこか心の中で「あっ、あの人そういう人だったな」と思い出す人で。自分がどよーんとしちゃった時に、ちょっと連絡をとってみてもいいと思うんですね。そうするとエネルギーをもらえると思います。

江川:なるほど、ありがとうございます。ということで「勇気づける人と接する」。主にその特質を6つ教えていただきました。ありがとうございます。では、続いてですね。

「言葉」「イメージ」「行動」は三位一体

永藤:はい。次に「言葉、イメージ、行動を勇気づけで満たしきる」というのがあります。これはなにかというと、「言葉」と「イメージ」と「行動」って三位一体なんですね。私たち、「〇〇したいんだけど、なかなか実現できないんだよね」ということってあると思うんですね。

例えば、一番わかりやすいのって、よく言われるのは「禁煙したいんだけど、まだできないんだよね」とか、「5キロやせたいんだけど、ぜんぜんダメなんだよね」みたいなのがあります。はいっ、江川さんは何かありますか?

江川:私はあるんですけど……(笑)。

永藤:「〇〇したいけど、まだできてないこと」!

江川:今ちょっと恥ずかしくて言えない……(笑)。

永藤:えぇー(笑)。言っちゃえ! 言っちゃいましょう(笑)。

江川:スクーが終わったあとに、お菓子を食べちゃうんです(笑)。

永藤:ああー、お菓子を食べちゃう。

江川:夜終わるのが遅くて。でもその時間に食べたら太るじゃないですか。というのをやめられない……(笑)。

永藤:はい。「お菓子をやめたいんだけどやめられない」。ありがとうございます。

江川:(笑)。

「As if」を使った断言・断想・断行のすすめ

永藤:これ、なにをしたいかというと。

(スライドを指して)下のところに「すでに実現したかのように、As if(まるで……かのように)を肯定的に使う」というのがありますよね。「お菓子をやめたいけどやめられない」。

江川:はい(笑)。

永藤:でも「お菓子をやめた姿を実現した状態」というのはなにかというと、「私は夜お菓子を食べてない」「私はお菓子をやめました」というのが、実現した姿ですよね。これを言葉で断言しちゃうんですね。

江川:なるほど、断言しちゃう。

永藤:「もう私はお菓子をやめました」、もしくは「私はお菓子を夜食べていません」というのを断言しちゃう。はいどうぞ、断言してみてください。

江川:私、夜お菓子を食べてないです。

永藤:はい。で言っただけだと、嘘つきになっちゃうんですよ。

江川:そうですね。今すごい噓つきでしたね(笑)。

永藤:すごい嘘つきなんですけれども(笑)。それをまずイメージしてください。お菓子を食べていないイメージをまず言葉で断言して。ここの「断想」って、実は辞書で引くとちょっと違う意味なんですが、きっぱり言葉にするのを「断言」、きっぱりイメージするのを「断想」という造語的な使い方をします。

江川:なるほど、はい。

永藤:食べてない姿を想像してください。

江川:はい。

永藤:……そうしたら家に帰って何してます?

江川:家帰って、すぐお風呂入る。

永藤:すぐお風呂入る。すぐお風呂入ったら?

江川:……すぐ寝る!(笑)。

永藤:すぐ寝る。よし! それを行動で「断行」する。きっぱり行動に移す。これなんですね。もう言っちゃったので、後には引けないので。本日からぜひお願いします。

江川:はい(笑)。

誰でもできる実践方法

永藤:これが言葉、イメージ、行動を三位一体にして、勇気を持って断行していくということです。

江川:でも確かに、ぼんやりと思ってるだけだと「まぁいいや、今日も食べちゃえ」って思っちゃうんですけど(笑)。

永藤:そうそう。

江川:私もう、今みなさんの前で言っちゃいましたし(笑)。

永藤:言っちゃいましたから(笑)。

江川:その様子をちょっとイメージしたので、ぼんやりと思っているというよりかは、自分ができるんじゃないかという気持ちにだいぶなりましたね。

永藤:ありがとうございます。「お菓子やめなくても」っていう悪魔のささやきがありますけれども。

江川:(笑)。

永藤:マエカワさん、ダメですよ。そういう悪魔のささやきをすると。

江川:はい、ありがとうございます(笑)。

永藤:まず、勇気づける生活を送って、勇気づける人と接して、言葉、イメージ、行動を勇気づけで満たしきる。そして勇気づけを……あっ、みなさんすごく宣言してくださっている。すごくうれしいです(笑)。

江川:そうですね。みなさんも宣言したいことがあったら、ぜひこのタイムラインを使って宣言してください!

永藤:そうですね!

江川:みなさんの宣言をお持ちしています。やめられないことがあるのは、私だけじゃないんですね。ぜひお待ちしております(笑)。

永藤:はい、ぜひお待ちしてます(笑)。シカマタさんって読むんですかね?

江川:あっ、カネマタさんです。

永藤:カネマタさん、すごく素敵です。ありがとうございます。オオハマさん、イメージはとても大切です。