2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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永藤かおる氏(以下、永藤):じゃあ、なんでもう亡くなって80年も経つ人の心理学が、今の2010年代の日本で評判になっているのかをちょっとだけお話しします。
(スライドを指して)左側のピンクのほうが「長期的な背景」とありますが、どちらかというと日本人の特質的な部分ですね。なんというんでしょうね……私たちのどこかに「みんなと一緒じゃないと」という不安な気持ちがあったり、「出る杭は打たれる」みたいなことって、すごくあると思うんですよね。
「同調圧力」といって、日本人はこれに弱いと言われていますよね。「みんなと同じじゃなきゃ不安」っていうのは、やっぱりそこに勇気が見受けられない。勇気があれば、自分がユニークであることに対して、「どうしよう、どうしよう」なんて思わなくて済むと思うんです。
同調の圧力がぐぅーっとかかっていて、「ああ、もうみんなと同じじゃないとつらい」みたいになっていると、勇気がくじかれています。あと『嫌われる勇気』というタイトルにピーンときたっていうのは、どこか「みんなに好かれたい」「嫌われたくない」というのがあるから。
「誰かに認めてほしい」という承認欲求や、「失愛恐怖」「見捨てられ恐怖」みたいなもの。そういうのを強く感じてしまっているというのは、やはりどこか勇気をくじかれているんですよね。勇気づけというところと反対のほうにいるような感じ。
あともう一つは「中・短期的な背景」がありますね。これ1番目は、私たち日本人って毎年大きい自然災害を経験しますよね。そこに東日本大震災の例を出していますけれども、熊本や北海道でも震災があったり、あと中国地方や東北が台風ですごい被害を受けたり。
そういう自然災害を受けた時に、私たちが一番強く感じるのは「やっぱり人は一人じゃ生きていけないよね」というところだと思うんですね。「絆意識」とそこに書いてありますけれども。確か東日本大震災の時も、「絆」というのが年間の漢字みたいになったと思います。
江川みどり氏(以下、江川):はい、ありましたね。
永藤:絆意識って、共同体感覚のことなんですよね。そこの共同体にいて、「ここにいていいんだ」「この人たちのためになにをしなければいけないのかな」「この人と信頼しあって、そしてこの人たちと一緒になにかをしよう」という気持は、共同体感覚です。
あと2番目に「人間性の原理への回帰」とありますね。これはバブルが弾け、リーマンショックなんかがあって、そんな時に……95年くらいからですね。日本の社会がそれまでと違って、成果主義というのにガッとシフトした。結果を出さない人間はいらないと言って、リストラの嵐が吹き荒れたっていう時期がありました。
それまでは、会社がファミリーみたいになっていて。私もその尻尾の世代なんですが、私が入ったころの会社って、まだまだ「結婚する時に仲人が上司」とかの習慣があったんですよね。あと運動会があったりとか。それを楽しんでやっていたかどうかは別として(笑)。やっぱり会社って、ひとつのファミリーとしてのイメージがあった。
でもそれが、95年ぐらいの時にリセットされちゃって。成果を上げられない人間はいらないと言って、リストラされて、成果を上げる人間だけが会社に残りました。じゃあ、それでガーっと業績が良くなったかというと、実はそうではなくて。
その代わり、自殺率の数値が上がっちゃったりしたんですよね。日本人の自殺者数が、年間3万人を超えるというのが10何年続いてしまって。今は21,000人ぐらいまでに減ってきているんですけども。
そういう時に「それっていいの?」というのが戻ってきた。「そういうのってよくないよね、やっぱり人って大事にしなきゃいけないよね」というのが戻ってきたのが、その「人間性の原理の回帰」というところ。
会社では、両サイドが思いっきりパーテーションで仕切られて、隣の人の顔も見えないというのが流行っていた時期があったんですけれども、今はずいぶんフラットになって。
江川:そうですね。
永藤:オフィスなんかもすごくフリーな感じになって。ちょっとした雑談からアイデアが生まれるといって、カフェスペースができて。そういうちょっとした話を大切にする。「共同体感覚の目覚め」とありますけど、やっぱり人って大事だよね、というところに戻っていった。そういうことじゃないかなと思うんですよね。
昔みたいにベタベタした人間関係がいいというわけではなくて、新たなかたちで。「でも、人と人との絆ってやっぱり大切なんだよね」という意識が、この「共同体感覚の目覚め」という言葉に象徴されているんですね。
この「勇気」と「共同体感覚」の2つって、アドラーが100年も前に言っていたことなんですよね。ここに今、私たちがハッと惹かれているのではないかな、という気がします。今の日本人の私たちにすごく引っかかるというか、刺さるキーワードだったんじゃないかなと思います。
江川:例えば、長期的な背景で言うと、数年前に「KY」という言葉が流行ったじゃないですか。
永藤:はいはい!
江川:それもまさにこのことだなと。
永藤:そうですね。
江川:「KYなことはいけない」みたいなのも、この長期的な背景に入るのかなと思ってお話を聞いていました。
永藤:うん、そうかもしれないですね。「KY」ってそういえば最近言わないですもんね。言わなくなりましたよね。
江川:言わないですね。なんか今度は逆にいうとちょっと恥ずかしい感じが(笑)。
永藤:死語になっちゃった、みたいな(笑)。
江川:そうです、そうです(笑)。そういうのもありました。そして先ほど「同調圧力」という言葉が出てきましたけど、それがやっぱり好きになれないという……「日本人特有の同調圧力は今でも好きになれません」というコメントもいただいています。
永藤:うーん。やっぱり、決してみんな好きなものではないんだけれども、でもこう……「一緒じゃないと不安になってしまう」っていう心理はすごくあるというか。やっぱり日本って村社会的で。
江川:そうですね、はい。
永藤:しょうがないというか。それがすごく脈々と、私たちの中に流れているものだと思うんですね。何か変なことをすると村八分にされるとか。そうなっちゃいけないって言ってみんなと合わせて、合わせて……それがなんていうんでしょうね。「和をもって貴しとなす」という、聖徳太子が言った言葉がありますけど。
江川:はい。
永藤:その「和」というのを過剰に意識してしまうと、やっぱりちょっとつらくなってしまうんじゃないかな、と思います。
江川:はい、ありがとうございます。今のところで、「共同体感覚と同調圧力の違いが少しむずかしいです」というご質問をいただきました。こちら、いかがでしょうか?
永藤:共同体感覚って、誰かに強制されるものでは決してないんですよね。私がそこにいて居心地がいい。私がそこにいて安心感を感じる。この仲間の人たちに対して、「この人たちを信頼しても大丈夫なんだな」とか。あと「この安心感を持って信頼していられる人たちのために、自分はなにができるんだろうか」と思えるのが、共同体感覚なんですね。
だから、決して誰かに強制されるものとか、「共同体感覚を持ちなさいよ」って、ねじこまれるようなものではないんですね。同調圧力はどちらかというと、「あの人がなんかみんなと違うことをしてるわよ。それはよくないわよね」というプレッシャーに負けるみたいな。それが同調圧力になります。
江川:はい、ありがとうございます。まさに「同調はみんな好きじゃないけど、なくなると不安。これもわかる」といったコメントもいただいています。
永藤:そうですね、ありがとうございます。
江川:ここまで「日本人になぜアドラー心理学が響いたのか」という社会の背景を見てきました。続いて、アドラー心理学の基本的な考え方を先生にわかりやすく図にしていただいたので、見ていきたいと思います。
永藤:はい。基本的な考え方。5本柱といわれています。ひとつずつお話をすると、まず「自己決定性」。私たちは誰かに指示をされて、なにかをするのではなくて、「あなたを作ったのはあなた。あなたを変え得るのもあなた」という考え方が自己決定性です。
「目的論」というのは、自分が今の状況を「苦しいな、つらいな」という時に、「あんなことがあったからこうなっちゃったんだ。こんなことがあったからああなっちゃったんだ」と原因を見るのではなく、今の苦しい状況をじゃあ、どうなったらいいのかと。自分がどうなったら満足なのかとか、どうしたら自分の目的が果たせるのか、と考えるのが目的論です。
あっ、ごめんなさい。これは次のスライドのところで詳しくお話するんですね(笑)。じゃあ、全体的にお話をすると、「自己決定性」「目的論」「全体論」「認知論」「対人関係論」という5つが、アドラー心理学の基本的な5本柱といわれるものです。
(スライドを指して)これが全体像です。左に「態度や技術としての勇気づけ」とあります。先ほどから出ている「困難を克服する活力を与えること」です。そして真ん中に5本柱と、あと「その他」というのがあります。そこをちょっと見ていくと、「人間は環境や過去の出来事の犠牲者ではなく、自分が自ら運命を想像する力がある」と考える自己決定性。
それから「人間の行動にはその人特有の意思を伴う目的がある」という、目的論。
全体論というのは、例えば意識・無意識とか、理性・感情とかというふうに、私たちは分割ができるものではなく、「一人ひとりがかけがえのない、分割不能な存在である」という考え方ですね。
それから認知論というのは、「人間は自分の主観的な意味づけを通して物事を把握する」というもの。
そして最後に対人関係論というのがあります。これは「人間のあらゆる行動は相手役が存在する対人関係である」と考えるもの。実は私、(この理論を説明するのに)24時間の構想を持っていまして、お話しし出すと大変なことになってしまうので、これはざっくりと(笑)。
江川:ちょっと今回はね。ざっくりと(笑)。
永藤:こういう考え方があるんです、というお話だけになるんですけども(笑)。
永藤:そして、先ほど出てきた共同体感覚ですね。精神的な健康のバロメーターであり、「人間の対人関係のゴールである」とアドラーが言ったのが、共同体感覚です。これがアドラー心理学の全体像で、アドラー心理学の基本的なコースであるベーシックコースでは、これを4日間・24時間でお伝えしています(笑)。
江川:ありがとうございます(笑)。ということで、まずここまで、アドラー心理学の基本的な考え方を教えていただきました。ちょっと、みなさんからいただいたコメントを見ていきたいと思います。
先生のお話の途中で、たくさんコメントをいただいております。例えば、「共同体感覚は自分が主語、同調圧力は集団が主語ですか?」というご質問をいただきました。
永藤:あっ、主語という考え方は、私はしたことがなかったんですけれども(笑)。どこに自分の軸を置くかって、すごく大切だと思うんですよね。共同体感覚は、一人ひとりがその共同体に対して「どういう気持ちを持っているか」というか、「所属感を持てているのか」「信頼感を持てているのか」「貢献感を持てているのか」ということで主体は自分になります。
同調圧力はどちらかというと「圧力」なので、受けるものなんですよね。共同体感覚はそれを「感じるもの」であり、同調圧力は「受けてしまうもの」。でも、なるべく受けないでいられる強さや勇気というのは、持っていたいなと思います。
江川:ありがとうございます。では続いて、コメントのご紹介ですね。先ほど「村社会」というキーワードも出てきました。「みんなで高め合える村社会ならいいのですが、今の日本は足を引っ張り合っている気がします」というコメントをいただきました。
永藤:そうですねぇ。
江川:そしてこちらもちょっと似たような感じで。芸能人で最近こういう話題が多いじゃないですか(笑)。それに関して、「みんなで責め立てるあの感じは怖いなーと思います……」というコメントもいただいていました。
永藤:そうですね。その時にちょっと違う意見を言ったりすると、「何言ってんの!?」みたいな感じでまた炎上したり、とかいうのは怖い話ですよね。あれもやっぱりある種の同調圧力になるのかな、という気はします。
江川:はい。みなさん、コメントありがとうございます。
永藤:ありがとうございました。
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