同調圧力に弱い日本人だからこそ受け入れられた

永藤かおる氏(以下、永藤):じゃあ、なんでもう亡くなって80年も経つ人の心理学が、今の2010年代の日本で評判になっているのかをちょっとだけお話しします。

(スライドを指して)左側のピンクのほうが「長期的な背景」とありますが、どちらかというと日本人の特質的な部分ですね。なんというんでしょうね……私たちのどこかに「みんなと一緒じゃないと」という不安な気持ちがあったり、「出る杭は打たれる」みたいなことって、すごくあると思うんですよね。

「同調圧力」といって、日本人はこれに弱いと言われていますよね。「みんなと同じじゃなきゃ不安」っていうのは、やっぱりそこに勇気が見受けられない。勇気があれば、自分がユニークであることに対して、「どうしよう、どうしよう」なんて思わなくて済むと思うんです。

同調の圧力がぐぅーっとかかっていて、「ああ、もうみんなと同じじゃないとつらい」みたいになっていると、勇気がくじかれています。あと『嫌われる勇気』というタイトルにピーンときたっていうのは、どこか「みんなに好かれたい」「嫌われたくない」というのがあるから。

「誰かに認めてほしい」という承認欲求や、「失愛恐怖」「見捨てられ恐怖」みたいなもの。そういうのを強く感じてしまっているというのは、やはりどこか勇気をくじかれているんですよね。勇気づけというところと反対のほうにいるような感じ。

絆意識は、共同体感覚を指す

あともう一つは「中・短期的な背景」がありますね。これ1番目は、私たち日本人って毎年大きい自然災害を経験しますよね。そこに東日本大震災の例を出していますけれども、熊本や北海道でも震災があったり、あと中国地方や東北が台風ですごい被害を受けたり。

そういう自然災害を受けた時に、私たちが一番強く感じるのは「やっぱり人は一人じゃ生きていけないよね」というところだと思うんですね。「絆意識」とそこに書いてありますけれども。確か東日本大震災の時も、「絆」というのが年間の漢字みたいになったと思います。

江川みどり氏(以下、江川):はい、ありましたね。

永藤:絆意識って、共同体感覚のことなんですよね。そこの共同体にいて、「ここにいていいんだ」「この人たちのためになにをしなければいけないのかな」「この人と信頼しあって、そしてこの人たちと一緒になにかをしよう」という気持は、共同体感覚です。

バブル崩壊以降の揺り戻しがきている

あと2番目に「人間性の原理への回帰」とありますね。これはバブルが弾け、リーマンショックなんかがあって、そんな時に……95年くらいからですね。日本の社会がそれまでと違って、成果主義というのにガッとシフトした。結果を出さない人間はいらないと言って、リストラの嵐が吹き荒れたっていう時期がありました。

それまでは、会社がファミリーみたいになっていて。私もその尻尾の世代なんですが、私が入ったころの会社って、まだまだ「結婚する時に仲人が上司」とかの習慣があったんですよね。あと運動会があったりとか。それを楽しんでやっていたかどうかは別として(笑)。やっぱり会社って、ひとつのファミリーとしてのイメージがあった。

でもそれが、95年ぐらいの時にリセットされちゃって。成果を上げられない人間はいらないと言って、リストラされて、成果を上げる人間だけが会社に残りました。じゃあ、それでガーっと業績が良くなったかというと、実はそうではなくて。

その代わり、自殺率の数値が上がっちゃったりしたんですよね。日本人の自殺者数が、年間3万人を超えるというのが10何年続いてしまって。今は21,000人ぐらいまでに減ってきているんですけども。

そういう時に「それっていいの?」というのが戻ってきた。「そういうのってよくないよね、やっぱり人って大事にしなきゃいけないよね」というのが戻ってきたのが、その「人間性の原理の回帰」というところ。

100年前に提唱していたアドラーのすごさ

会社では、両サイドが思いっきりパーテーションで仕切られて、隣の人の顔も見えないというのが流行っていた時期があったんですけれども、今はずいぶんフラットになって。

江川:そうですね。

永藤:オフィスなんかもすごくフリーな感じになって。ちょっとした雑談からアイデアが生まれるといって、カフェスペースができて。そういうちょっとした話を大切にする。「共同体感覚の目覚め」とありますけど、やっぱり人って大事だよね、というところに戻っていった。そういうことじゃないかなと思うんですよね。

昔みたいにベタベタした人間関係がいいというわけではなくて、新たなかたちで。「でも、人と人との絆ってやっぱり大切なんだよね」という意識が、この「共同体感覚の目覚め」という言葉に象徴されているんですね。

この「勇気」と「共同体感覚」の2つって、アドラーが100年も前に言っていたことなんですよね。ここに今、私たちがハッと惹かれているのではないかな、という気がします。今の日本人の私たちにすごく引っかかるというか、刺さるキーワードだったんじゃないかなと思います。

数年前に流行った「KY」も…

江川:例えば、長期的な背景で言うと、数年前に「KY」という言葉が流行ったじゃないですか。

永藤:はいはい!

江川:それもまさにこのことだなと。

永藤:そうですね。

江川:「KYなことはいけない」みたいなのも、この長期的な背景に入るのかなと思ってお話を聞いていました。

永藤:うん、そうかもしれないですね。「KY」ってそういえば最近言わないですもんね。言わなくなりましたよね。

江川:言わないですね。なんか今度は逆にいうとちょっと恥ずかしい感じが(笑)。

永藤:死語になっちゃった、みたいな(笑)。

江川:そうです、そうです(笑)。そういうのもありました。そして先ほど「同調圧力」という言葉が出てきましたけど、それがやっぱり好きになれないという……「日本人特有の同調圧力は今でも好きになれません」というコメントもいただいています。