次に来ると見込んだ技術を、組織にどう浸透させていくか?

大石良氏(以下、大石):じゃあ、3番目のご質問にいきたいなと思います。目利きをするということですね。今、技術の目利きのポイントなどをお聞かせいただきましたが、私がお三方を心から尊敬しているのは、例えばそれを会社にしたり、組織に浸透させたり、玉川さんの場合は、こういうかたちで日本全体に浸透させるところまで成功していることなんです。

組織に新しいアプローチ・技術を浸透させる。これはものすごく難度が高いと思うんですけど、どういうふうにやられてきたのかというのを、小野さんから順番にお聞かせいただけますか?

小野和俊氏(以下、小野):僕は最初のベンチャーのアプレッソのときは、このテーマは全然問題なくて。ベンチャーだから小さいし、すぐ浸透する。だけど、セゾン情報システムズのときにまさに取り組んで、一番力を入れていた課題でもあって、わりと機能したかなという感じがしています。

もともとどういう組織だったかというと、1970年にできた会社だったので、メインフレームの維持を中心としてやっていました。エンジニアのやっている技術って、メインフレームのCOBOLという感じだったんですよね。今COBOLのチームの金融系のチームで、170人ぐらいいる中の90人が、AWSのソリューションアーキテクトになっているんですね。

あとブロックチェーンで、すごくとんがった人が何人か出てきたりしたんですけど、最初はすごく抵抗感があるというか。「自分たちはきっとこのままCOBOL案件とかあるだろうに、なんでそんなことをやんなきゃいけないんだ」的な感じがすごくあって。

目利きしたはいいんだけど、広めようとすると「自分たちがやる必要はないと思います」みたいなことって最初はあったんです。手短に何がポイントだったかというと、やっぱり体験してもらうことなんですよね。

エンジニアにビットコインを支給する「ビットコイン体験会」

小野:例えば、実際にやったのがブロックチェーン。「初めてのブロックチェーン」みたいな本を読むと、最初に暗号が出てくるじゃないですか。暗号に至った瞬間に、もう「ちょっとキツい」ってなっちゃう人がけっこう多かったんだけれども、3年前くらいに、30人×6回で、みんなに「ビットコイン体験会」のようなものをやりました。

全員参加必須で、COBOLのエンジニア全員に「はい、このQRコード撮って」とか言って、ウォレットに入れてもらって、全員にビットコインの現物を配ったんですよね。

大石:へぇ~。

小野:そうすると、なんか「こんな勉強会いやだな~」とか、「これ業務だよな」みたいな文句を言いながら来ている人でも、とりあえず着金すると「おっ、来たよ、おい!」って。

(会場笑)

小野:とりあえず、お金が届くわけなので。

漆原茂氏(以下、漆原):儲かったんじゃないですか?

小野:いや、そのとき持っていれば儲かったんだけど、受け取るだけだと片方になっちゃうから、ちゃんと入金もしようと。それで、熊本の震災があった時にビットコインで寄付している口があったので、全員で寄付するから、僕らが勉強会やるごとに寄付がバーッと増えるということをやって、社会貢献もしたし。

そうするとやっぱり、「あっ、なんか体験としてはすごく簡単なことなんだ」ってわかるじゃないですか。そこから興味を持って「なーんだ」と言ってやり始める人が出て。AWSなんかもそうですけど、インスタンスをポチッと立ち上げてみると、「えっ、クラウドってこれだけだったの?」みたいな。

やっぱり「Practice over theory(理論よりも実践)」と(MITメディアラボ所長の)伊藤穰一さんがよく言っていますけども、まず体験してその要素を……。だから、水泳について概念的に教えるんじゃなくて、まず泳いでみれば好きかどうかがわかるみたいな。 

大石:うんうん。

小野:そういう体験をすると、わりとすぐに浸透していく感じは、手ごたえとしてかなりありましたね。

大石:なるほど。おもしろいですね。ありがとうございます。漆原さんはいかがですか?

経営者が「新しい技術が楽しくてしょうがない」というオーラを出す

漆原:組織に浸透させることは、本当に難しいですね。逆に、勝手に浸透させるカルチャーをどう作るかということの方が大事ではないかと思います。要は、みんな命令しても聞かないじゃないですか。誰も聞かない(笑)。

ただ、単に「こんなのおもしろそう」だけ言って、おもちゃを置いとくんですよね。それを勝手にいじってくれるような文化を作れるかどうか。そこが一番重要なんじゃないかな。

大石:なるほど。それってエンジニアが多いから成立するという側面は……。

漆原:それはうちの場合は大きいと思いますね。勉強会が中で頻繁に行われていたり、変なものをとにかくおもしろがる文化があります。あと、弊社の場合に幸いだなと思うのは、お客様がすごく先端技術が好きな方ばかりなので、いろいろなものを試させてもらえるんですね。

「こんな不思議なものを持ってきたんですけど、御社のところでしか使いたくないんです」と提案すると、「いいよ、やってごらん」と仰っていただける。それで、実際にやってみると確かにワクワクするような体験になる。小野さんもおっしゃっていたように。それはすごくおもしろいのかなと。

あとは、コミュニティをはじめとして、外とのつながりを作るように促しています。外に発信できる機会ということです。新しい技術や何か身につけたものを外に出すって、自分のためにもなるし、スキルも上がることじゃないですか。そういうことを自然にやれるようなカルチャーを作ることが、重要じゃないかなと思って。

大石:なるほど、おもしろいですね。カルチャーですね。その漆原さんの会社ウルシステムズさんのカルチャーを維持するために、漆原さんがこういうことに気をつけているとか、やっていることって何かあるんですか?

漆原:僕はとにかく「新しい技術が楽しくてしょうがない」という顔をずっとする。

大石:なるほど(笑)。

漆原:ひたすらそういう顔をする。経営者がそういうオーラを出しまくる。

大石:なるほど。それで四半期の速報もJSONで出したんですか。

漆原:それは……(笑)。むしろちょっと手を抜いているかもしれません。

(会場笑)

漆原:やっぱり経営サイドが技術をなによりも好きで、もうなんか「おいしい食事よりも僕はこれが好きだ」みたいにやっていることは、とても重要なんじゃないかと思っています。

ものづくりへの原点回帰と新しい技術への挑戦

大石:なるほど。小野さんも、セゾン情報システムズさんの場合はエンジニアが多かったと思うんですけれども、今の漆原さんと同じような状況だったんですか?

小野:いや、やっぱり漆原さんのところは立ち上げられたのが2000年ですよね。そこからだから、たぶん古豪のエンジニアがいっぱいいてというよりは、もともとJavaで漆原さんを知っているような人たちですよね。

漆原:そうです、そうです。

小野:そのトランスフォーメーションの必要性の程度でいうと、たぶんセゾン情報システムズのほうが必要性に駆られていたというか。古豪のエンジニア以外は、ほとんどいないようなところもあったので。

この10年ぐらい、SI業界が全体的に、自分たちで手を動かしてプログラムを作るところは外に出して、上流のほうが単価が高いからやっていこうという大きな流れがあったじゃないですか。

それで技術が空洞化しちゃっていた部分もあったので、ものづくりに原点回帰するのと同時に、今までのものを一切否定する気はないけれども、新しいものもちゃんとできるようにしよう、という。

そこのギャップというか。空いちゃっていた期間みたいなものはあったのかなと思っています。

大石:なるほど、ありがとうございます。最後、玉川さんいかがですか?

まだ事例がないものを使いこなせば、競争力を手に入れられる

玉川憲氏(以下、玉川):そうですね。うちの会社はもともとテクノロジースタートアップで、エンジニアが半分以上いて、みんなノリノリなメンバーなので、この問題は今はほとんどないんですね。むしろ、新しいことをやりすぎるのをどうやっておさえるかというような(笑)。

(会場笑)

尖ったサービスばっかり出てくるから、それをどれだけお客様視点で出すのかというところを、最後にもう一踏ん張り力を入れようというのが最近の方向性ですかね。

大石:じゃあ、ちょっと質問を変えていいですか?

玉川:はい。

大石:玉川さんやソラコムさんが思っているビジョンを、お客様に浸透させるためにやられていることってあります?

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