植物の狡猾さがわかる2つの論文

ハンク・グリーン氏:植物と聞くと、なんだか地味で面白くないと思われるかもしれませんが、実際は非常に興味深いものです。今週発表された二つの論文では、植物がどのように巧みで狡猾であるかを知ることができます。

まず、「ネイチャープランツ」誌で発表された論文によれば、ネナシカズラの、寄生植物であるネナシカズラは寄生する植物から何十もの遺伝子を盗んでいるというのです。

しかも遺伝子を盗むだけでなく、それを利用するのです。ネナシカズラはクロロフィルという色素を持たない寄生植物です。クロロフィルは光合成の際に光エネルギーを捉える役割があります。

それを持たないということは、自分の細胞内の化学反応に燃料を与える、光を使えないということです。それゆえ、寄生先の植物に心地よく馴染むことにより、自分に必要なものを得ているというのです。

ネナシカズラは寄生する植物の幹に巻きつき、「吸根」と呼ばれるものを差し込みます。

それにより、寄生する植物の「師部」、つまり葉から植物全体に栄養を送る管のような部分に直接繋がることができます。

そしてネナシカズラが寄生する植物から盗むのは、栄養と水だけではありません。科学者たちはネナシカズラが108のDNAの塊を他の植物からとり、自分のゲノムに加えていることを発見しました。

これらの遺伝子はネナシカズラの吸根をより良く育て、アミノ酸を代謝させ、少量のリボ核酸を生産させる助けをしています。しかもリボ核酸を寄生する植物に送り返すことにより、その防御力を鈍らせているのです。

盗みは3400年前からはじまっていた

もちろん科学者たちが寄生植物の中で「遺伝子の水平伝播」を発見したのは、今回が初めてというわけではありません。しかし注目するべきなのはそのスケールです。

これらの植物は、今まで研究された寄生植物の種類の中で、他と比べて少なくとも二倍もの盗んだ遺伝子を持っていました。ネナシカズラはもしかすると遺伝子を盗むのが他よりうまいのかもしれません。

なぜならその吸根は幹をしっかり掴んで離さず、幹にはDNAでいっぱいの若い健康な細胞が含まれているからです。他の寄生植物は寄生する植物の根の部分にくっつくことが多く、根の部分は幹よりDNAの量が少ないのです。

この遺伝子泥棒は突然始まったわけではありません。16から20のこれらの遺伝子はネナシカズラの先祖が約3400万年前に盗んだもので、それ以降、二つのネナシカズラの系統に別れて進化してきたのです。

他の盗まれた遺伝子は最近のものなので、この「遺伝子の水平伝播」は未だに続いているものと思われます。

このことは、遺伝子の伝播は植物、動物、菌類など他の複雑で区画された細胞を持つ物の中では珍しい現象であるとする世間一般の見解に真っ向から対立します。これらの植物がどのように盗みを成功させているのか、まだはっきりと解明されていません。

彼らはこっそりと細胞の壁を通り、寄生している植物の細胞の核を守る膜を通り、その遺伝子へたどり着く必要があるのです。

そして彼らがどのようにしてそれを可能にしているかを知ることにより、私たちは細胞やゲノムの内部の働きを知ることができるのです。

しかし彼らがどのような方法を使っているかに関わらず、「遺伝子の水平伝播」により、やがて寄生植物がその寄生する植物より一歩進んだスタートを切っていることに異論の余地はありません。

害虫に深刻な炎症を引き起こさせる植物

驚くべき植物の能力といえば、今週の「米国科学アカデミー紀要」の論文で、植物の中に、長期的に害虫と戦う独創的な方法を持っているものがいると発表されました。

この植物は化学物質とトゲを用いて害虫に「リーキーガット症候群」を引き起こすのです。私はそれに感染していなくて本当に良かったです。

この症候群にかかると、腸の内側が弱るので、食べ物のかけらやバクテリアが内臓の他の層へ漏れ出してしまいます。そうすると嫌なベトベトのカスが免疫反応を起こし、その生物のエネルギーを吸い、成長や繁殖に必要な分を奪い取ってしまうのです。

バクテリアが一番危険です。もしバクテリアが、そのいるべきでない場所に入ってしまうと、生命を脅かすような炎症を引き起こしてしまうからです。研究者たちはツマジロクサヨトウにそれが起こったのを発見しました。

彼らが食べる植物は、それを食べると害虫が自分のバクテリアに炎症を起こさせてしまうという防衛方法を持っていたのです! 

バクテリアの反応を調べるある実験の結果

この状況を解明するために、チームはツマジロクサヨトウの幼虫を無菌実験室で育て、内臓に自然のバクテリアがない状態にしました。それから、それらのいくつかに、野生動物の内臓によく見られる3種のバクテリアのうちの一つを含む食べ物を与えました。他のツマジロクサヨトウは無菌のトウモロコシを与えられたので、内臓にバクテリアがいない状態になりました。

そしてその幼虫に3種類のトウモロコシのうちの一つを与えました。一つ目は「毛状突起」と呼ばれる長い、尖った毛が表面に生えていました。もう一種類は内臓を突き刺す酵素を生み出すもので、もう一種類は短く、ほとんど害のない毛状突起が生えていましたので、それが一番美味しそうだったといえるでしょう。

ツマジロクサヨトウがトゲがあったり化学的に防御力を持ったトウモロコシを食べると、彼らは苦しみました。しかし、一番大きなインパクトを与えたのは彼ら自身のバクテリアだったのです。

内臓にバクテリアを持つツマジロクサヨトウは、内臓にバクテリアを持たないものと比べて、60から76%も小さく成長し、食べたトウモロコシに応じて、10倍も多く死にました。それに彼らには大きな免疫反応が見られました。そのため、成長が妨げられたものと考えられます。

そして、それぞれの種類の内臓のバクテリアにより反応は異なりました。このことから、植物の防衛方法は害虫それぞれが持つ細菌群集に大きくかかっていることがわかりました。

動物界よりも非情なドラマ

研究者たちは、これら微生物群集についてさらなる理解を深めたいと考えています。なぜならそれにより農業害虫との戦いに勝利を収めることができるかもしれないからです。この研究により研究者たちが、もっと効果的に害虫が「リーキーガット症候群」にかかれるよう互いに防御しあえる農作物などをデザインすることができるようになるかもしれません。

そうすれば、農薬を減らしながらも集中的に、虫が植物を食べてしまうのを防ぐことができるのです。もし最終的にこの知識を有効な手段として用いることができなかったとしても、単に植物がこのような症候群を害虫の身に起こすことができるという発見により、我々が思っていたよりも、植物が動物との間に持つ関わりはずっと複雑であることが分かります。

そして時には、植物の世界は動物の世界に比べてドラマが少ないように思われるかもしれませんが、植物はもっと狡猾で非情と言えるのです。