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「レールから外れたって怖くないよ」なんて言えない 好きなことで食っていけという、働き方のトレンドに感じる疑念

2019年5月27日、下北沢の書店B&Bにて「横石崇×吉田将英×高橋晋平『自分らしさの作り方、自分らしさの伝え方。』」が開催されました。ビジネスにおいて「共創性」「越境性」が様々な場面で求められるなか、自分が何者で、何がしたくて、そのためにどんな仲間とつながっていたいのか。また、そういった事柄をどう考えて決めていけばいいのか。ロールモデルはなく、すべては自分次第と言われる現代の「自分らしさの作り方/伝え方」について、ディスカッションが行われました。本記事では「レールから外れることの恐怖」について語ったパートを中心にお送りします。

いじる余白のない、キャラクターものを任されるつらさ

横石崇(以下、横石):もう少し言うと、バンダイとかのおもちゃ業界には、「ここを通れば出世」といったものがありますよね。

吉田将英氏(以下、吉田):「普通はここいくよね」みたいな。

横石:人気キャラクターを使うのが出世頭とかですね。

高橋晋平氏(以下、高橋):そういう感じです。だから、僕も辞める1、2年前とかは有名キャラクターをすごく担当してた。それまではギャググッズしかやってない、異質な社員だった(笑)。

それを気遣ってくれた上司が、そういう道を用意してくれました。「お前、がんばってきたから担当しろ」と言って、ほんとうに全員が知っているようなキャラを担当したときに、完全に潰れちゃった。

吉田:潰れたんですね。

高橋:そうですね。ぜんぜん向いてないし、ギャグの入れようもないじゃないですか(笑)。

(会場笑)

横石:ぜんぜん余白なさそう。

高橋:いじっちゃいけないから、もう決定的に向いていないと思った。それで、自分の進む道を考えはじめたというのは実際あったんです。だから今は、こうやってひょうひょうとして、「自分らしさなんていりませんよね」と言ってるけど。そのくらい「自分、これからどうしたらいいだろう」と思って怖かったですよ。

横石:ご結婚もされてましたよね?

高橋:いつ?

横石:辞めるとき。

高橋:そうですよ。ちょうど家を買って半年後で、子どもが1歳になったばかりみたいな感じですね。奥さんは主婦だし、全条件が揃ってる。

吉田:全条件。

高橋:だから辞めるのは超怖かったです。

「レールから外れたって怖くないよ」なんて言えない

高橋:それが現実で、「レールから外れたって怖くないよ」なんて言ったって、納得するはずがない。働き方の本で「好きなことで食っていけ」みたいなのが流行ってるじゃないですか。

吉田:「戦え!」みたいなね。

高橋:それで納得するのは無理ですよ(笑)。僕も最初、1、2年はビクビクしながら、「ほんとうに今月はぜんぜん仕事がなかった」みたいな。誰かのおかげで仕事をいただけてよかったけど、来月はまた仕事がない、みたいな。一喜一憂ですよね。

でも、これは僕が弱いからかもしれないですけど、みんなそうなってもおかしくないかなと思ってる。だから「レールを外れていいよ」に納得するのは難しいです。

吉田:それこそ、横石さんが歩んでこられたキャリアのレールもすごく普通じゃない……と言ったら、ちょっと失礼な表現かもしれないですけど。「何の人なんだろう?」と言われがちなポジションというか、あんまり他に人がいないところに立っていらっしゃる感じが、今はします。横石さんは怖いとかはありますか?

横石:僕は美大卒なんで、実は一般的な大学生がやる就活というのをやったことがないんですよ。キャリアを考えるときも「おまえはどうせ一般大じゃないし、まっとうな会社には入れるわけねぇよ」となるわけです。自分でそう思っちゃうというのもある。

電通とかをイメージしてみても「みんないいところの子でしょ?」と思っちゃうし、劣等感だらけなんです。そんなことを考えていると、もはや自分でキャリアを作るしかないなと思った。あと、1978年生まれで、ちょうど就職氷河期世代なんです。この世代って、けっこうおもしろい人が多いと僕は勝手に思っています。社会とどう関わっていくかを必死に考えた最初の世代……とまでは言いづらいですけど、必死に考えながら生き延びた人たちが多いなと。

そういった意味では、僕は大企業には勤めてないんですけども、自分のやり方というのは日々模索しています。レールに乗ったことがないから、レールから外れる怖さというのが実はあんまりわかってない。

吉田:なるほど。

恩師に連れられやってきた、謎の男・トーマスと起業することに

横石:そうそう。だから、僕からしたら「レール上に乗ったままなんだ?」って。吉田さんは本も出しているし、独立したりしないのかなと思っちゃうんです。

吉田:(笑)。そうですね……いや、僕はレールを外れるのはめっちゃ怖いですねぇ。

横石:怖い?

吉田:怖いのはありますけど、やっぱり高橋さんも横石さんも……これは誤解かもしれないですけど、それこそやりたい「Will」だったり、ギアを変えるなりレールチェンジしたほうがいいと思って辞めたのかと思いきや、例えば高橋さんの場合は辞めたくなくなりそうな条件がすべて揃っていらっしゃったのに辞められたわけじゃないですか。

高橋:僕の場合は体調の理由もあったんです。これは今考えるとすごく幸運なことで、それがなくて元気いっぱいの健康体で、どこまでも働けるくらいの馬力があったら、たぶん辞めてないと思う。

体調を崩して、入社5年目ぐらいで長期間で倒れちゃったあと、治ったんですけどまた体調が悪くなってきて。2回目はやばいなと思ったのが決め手でした。だから僕は自分の体が自分を倒したというか、止めたんだと思ってるんです。それはすごいラッキーなことで。

吉田:そうかもしれないですね。

高橋:長年一緒にいた弱々しい体が、「お前、そのレールを登って行くのはちがうから!」といってぶっ倒したんです。それで震えながら辞めて、どっかで再就職するのか、個人事業主なのかをぜんぜん決めないでいたら、恩師が「お前は会社を作れ」と言ってきた。「でも、なんにも考えてないです」「いいから作れ」って言って、トーマスというハーフの外国人を連れてきた。「お前ら2人で会社を作れ」と。

吉田:トーマス?

(会場笑)

横石:パートナーがいて、しかもトーマスだったの?

高橋:そうですよ。僕とトーマスという2人で......。

(会場笑)

それでウサギという会社をやってました。

横石:知らなかった。

吉田:そうなんですね。

株式会社ウサギの命名者

高橋:「トーマスとお前は気が合うから、よ〜く話し合え」と言われて、2人でドトールで会って話したんですけど、ぜんぜん趣味が合わなかった。

(会場笑)

最初、一緒にやる理由も分からなくて。だけど、「登記しろ」と言われて、その恩師が税理士の人とかを連れてきて、書類が揃って、会社を作ったんです。だから、さっきの話とつながってきたと思って、いろいろ思い出すとやっぱりまわりでした。最終的に今の2人の会社にすごく満足してます。

横石:そうなんですよね。おせっかいな人がいてくれるといいですよね。

高橋:その「ウサギ」という社名も、僕は超気に入ってます。「寂しいと死んじゃうからウサギです」みたいな感じで言うと「けっこうかわいいですね」と言ってもらえます。ウサギというのはトーマスが考えたんです。

吉田:あっ、そうなんだ。

高橋:2人で社名の案を持ち寄ったときに、トーマスの箇条書きに「ウサギ」とあって、めっちゃくちゃいいと言って、「もう絶対これ!」と決めたんです。それだって相方がつけてくれたものだし、まわりが作ってくれてる。

吉田:そっか。僕はそういうのが来たら乗るかもしれないです。ちょっと変な出島みたいなとこでやってて、よく言うコンフォートゾーンに入りかかっているのかもしれないなと思うときあるんです。でもチャレンジはある程度させてもらっていて、いろいろご縁にも恵まれてやってるなとは思ってるんですよ。

そこで、できる範囲でがんばるというか、楽しくがんばるというのが前提にあって。どっかで、例えばお2人に現れたような「出たほうがいいんじゃないか」とか「こうしろ」とかがあれば動くと思うんですけど、そういうのって自分で待つのもなのかって思う(笑)。

高橋:いや、出なくていいんだったら出ない方がいい。これはまちがいない。

吉田:そんなに深く頷かれると……そうなんですかね。

大企業に残るか起業するか、どちらがいいかなんて「人による」

吉田:一方で、例えば年齢がある程度いくと、面倒ごとも増えていくのかなあとかたまに考えることもあります。調整とか政治っぽいこととか。

横石:そういうのが好きな人もいるわけで。

吉田:もちろんそうなんです。

横石:それが大企業のいいとこだよね。

吉田:向いてたり、好きだったりする人はそれ行けばいいと思うんですけど、自分がそっちに行く絵が描けないんです。50、60になってそういうことを自分がやってるというのは、今のところピンとこないので、悩むというか、どうなるんだろうというのはやっぱり考えますよね。

高橋:それはいろいろ悩みますよね。

横石:僕もこういう話をしていて、やっぱり強いなと思う人は、自分の脳みその使い方とか体の使い方を知ってる人なんですよね。吉田さんの場合はプランニングとかがベースになってるじゃないですか。企画する脳でありたい自分って、今電通のなかでできてるんだったら、僕はそれで十分だと思う。

どうしても毎朝会社に行きたくないというんだったら、それを理由に独立するっていう選択肢もあると思う。しかし、晋平さんは、そういった意味でいうと、自分の脳みその使い方と体の使い方を熟知したマスターだとは思ってます。

高橋;ありがとうございます。

吉田:さっきの体が止めたって、すごく覚えがある表現だなと思う。僕も一応、「自分の好奇心の使い方を自分でわかっていたほうが得だよ」というつもりで書いたんですよ、この「アンテナ力」という本では。

「何が好きで、何が嫌いで、何がおもしろいと思う人間なのか」を自分がわかってると得だし、損しない。さっきの高橋さんの話も、そこが鈍感だったらまだバンダイにいたかもしれないという話とも取れるなあと。

要は自分がつまんないと思っていることに気づいてないみたいな状況って、「そんな馬鹿な」って思うかもしれませんが、あるじゃないですか、実際。流している自分に気づいてないとか、気づいていてるけど我慢してるとかは不幸かなと。「大企業に残るのと独立するのと、どっちがハッピーでどっちが不幸ですか」とか、そんなのは人によると思います。

横石:持家派か、賃貸派かみたいな議論になりますよね。

吉田:そうそう。それは好きにしたらいいと思うんです。自分がやりたいとか、こういう状態だと気持ちいいとか、どういう状態であったらストレスなく日々過ごせるというのが、わかってた方がいいというのだけはまちがいないかなと思っています。

そこに気づいてないと、やっぱり、苦しいことに気づいてなくてずっとバンダイに残っちゃったかもしれない。さっきの話とか、ちょっとそうかなと思って聞いてたんですよね。そこだけちょっと鋭敏にちゃんと持ってて、それでも今の関係がいいと思えるんだったら、しばらくいればいいかなと。キャッチボールさせていただいて思いました。

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