経営者としてどのように改革をしていくべき?

水野梓氏(以下、水野):真ん中で手を挙げてくださっていた方。はい、どうぞ。

質問者5:今日はどうもありがとうございました。ちょっと今の方と近かったんですけど、私もちょっと小さい会社で一応経営者をやらせてもらっていまして、社員が150人くらいの会社なんです。

やっぱり、できるだけ社員の思ったことをやれるようにしているんですが、例えば今私どももサイボウズさんを使わせてもらっているんですけど、「もう全部サイボウズさんで通せ」という話をしたら、「kintoneは使いづらいから嫌だ」という話になったりして(笑)。

それで、結局社員の言い分を飲んでしまう、ちょっと弱き経営者なんです。先ほどのお話の中で、そのビジネスモデルを変えると。私の会社は親から継いだ会社なんですけど、50年やっている会社で、みんながそのビジネスモデルに対して自信を持っていて。そこで「ちょっとビジネスモデルを変える」となると、かなりの勇気が必要だなと。

徐々にというか、変えられるところは変えて、ベースのところは残していくように自分も変えたいとは思っているんですけれど。やっぱりその中でどうしても、時間外労働というか、お客さんに合わせる業種なんですけど、時間がすごくかかってしまう仕事で。そういうときに、青野さんはどうやってその改革をしていくのかを教えてください。

会社のために自分が犠牲になるくらいなら、顧客に合わせなくていい

青野慶久氏(以下、青野):そうですね。先ほど会食に行かないというようなことを言いましたけれど、実はお客さんに合わせなくてもいいかもしれません。初売りを休む、初売りをやめるとかね。正月は休んじゃうのもそうですし。

例えばサイボウズだと、こういう金曜日の夕方に大事なVIP顧客から「ごめん、サイボウズ。これ今日中になんとかやってくれへんかな」「今日中に見積もり出せへんかな」ということを言われても、それは断っていいというルールにしています。

それをやったら、その人が疲弊しちゃうわけです。やりたかったらやってもいいですよ。でも、断ってもいいと。それを断った結果としてVIP顧客が離れていったらそれはしょうがないということを言っています。だって、まさに会社のために自分が犠牲になっている構図はおかしいですよね。

自分が幸せになろうと思って会社に入ってきたのに、なんで会社のために自分が犠牲になっているのか。そういうことになります。これをやると、意外とお客さんは離れないです。「ああそうやな、サイボウズやもんな」「次からもうちょっとはよ言うわ」と。それだけです。

もし、「VIP顧客の俺をこんなふうに扱うサイボウズは許せん」と言ってライバル会社に行ったら、それはそれでラッキーですよ。そんなクレーマー顧客がライバル会社に移動してくれるわけだから、「ラッキー!」みたいな。

(会場笑)

当たり前だと思っているビジネスモデルを疑ってみる

私の知っている不動産会社は、土日に店を閉めています。すごくないですか? 不動産の店舗は普通、土日にしか行かないでしょ。「いやあ、土日に店開けたら社員が大変なんで」と言って閉めているんですよ。

「(それで商売が)回るんですか」と聞いたら「いやあ回りますよ」「平日にもお客さんはいますから」と。あ、そんなもんか、と思いました。けっこう衝撃ですよね。

この間、松山で話していたら、松山の道後温泉にできた新しい「道後御湯」というホテルはなんと水曜日を定休日にしています。「旅館という装置産業で定休日を作るって、売上が減るじゃないですか」と言ったら、「ああ、売上は減りますけど利益は減らないんで」と。あ、そんなもんか、と。

だからもし今、自分たちのビジネスモデルで当たり前だと思っているものがあったとしても、実はそうじゃない選択肢だってあるんだと。そっちの方がもしかしたら社員の満足と利益は両立できるかもしれないよと、そんなふうに思います。ぜひ。まあ言うのは簡単なんですけど、やるのは大変です。

水野:ありがとうございます。

(会場挙手)

はい、お願いします。

会社に在宅制度はあるのに「生産性が下がるかもしれないからダメ」

質問者6:本日は興味深いお話をありがとうございました。いま僕が働いている会社では在宅制度があるんです。それを使いたいと思って上司に申し出たら、在宅でなにができるのかを話し合おうということで一旦落ち着いて、次に上司と面談した際、「在宅は生産性が下がるかもしれないからダメ」と言われて。会社の制度なのにと思って。

(会場笑)

それでなにかやりきれない思いをしながら、僕は職場が大手町なので、日本橋の方に向かって「サイボウズさんいいなあ」と。

(会場笑)

青野:お待ちしております。

質問者6:僕はまだ今の会社で働いて1年しないくらいなんです。1年しないくらいなので、まだ成果もなにも出してないという理由もあってダメだと言われたと思うんですけれど、そこで青野さんが僕の立場だとしたら、どうやって戦うのかなと思って。

先ほどのお言葉をお借りすると、わがままを貫き通す、やりたいことをやれるようにどうしたらできるのか。どういうふうに考えるのか、ちょっと知恵を貸していただきたいです。

(会場笑)

よろしくお願いします。

選択肢は「変えるか」「辞めるか」の2択

青野:なるほど。もう選択肢は限られていて、変えるか辞めるか。シンプルに言うと2択ですね。もしその直属の上司と話し合って「あ、らちあかんな」と思ったら、もう1つ上に掛け合う。それが社長まで上がっていっても変わらないんだったら、もう辞める。イメージとしてはそんな感じでしょうか。

交渉するときにぜひ持っておいてほしいのは、いざとなったら辞める覚悟。辞める覚悟を持って向かわないと「こいつなんかまた愚痴ってるわ」「じゃあ飲みに連れて行こうか」となります。「ガス抜きしたろか」と言われても、なにも変わらないですよね。

それは経営者の思う壺です。ガス抜きするだけで、結局また我慢してやってくれるという。それが続いているから、経営は変わらないわけですよね。もうすごくシンプルに「在宅勤務させてください。認めてくれないんだったら、させてくれる会社に移ります。以上」と。

これぐらいの気持ちを持っていくと、相手も「うわ、マジか」「これを認めないとこいつ辞めるのか」「この人手不足のときに部下に抜けられたら、自分に罰点がつくぞ」みたいな。それぐらいのプレッシャーをかけられる、いいタイミングだと思います。ぜひ覚悟を決めて交渉をしていただきたいなと思います。

水野:ありがとうございます。じゃあお時間もあれなので、もしあればもう1問くらいの感じなんですが。

(会場挙手)

じゃあ短く1問ずつ。青野さんすみません。2人いらっしゃって、じゃあこちらから。

会社で交渉するときは、何人かでまとめて交渉したほうがいい

質問者7:今日はお話ありがとうございます。辞める覚悟で交渉するということだったと思うんですが、自分1人の問題だったら、自分が「そうだ、私は辞める」という覚悟で交渉することが可能だと思うんです。

それがほかの社員の、みんなの総意を取るという意味でいうと、マネジメントの意識改革と、社員同士の意識改革の2軸があると思っていて。会社というか全体が、組織全体が変わるには、それはどうお考えかをお聞かせください。

青野:ああ、すごい、1つ言い忘れていました。そのご質問を聞いて思い出したんですけれど、1人で交渉するより何人かまとめて交渉した方が絶対いいです。「在宅勤務を認めなかったら、僕、同僚と含めて3人で辞めますよ」と。

(会場笑)

「うわマジか!」みたいな。なので、1人で戦うよりは、ぜひつるんでほしいですね。その現場で同じ思いを持った同僚がいるのであれば、ぜひつるんでほしいなと思います。

水野:あれですよね、仲間のマインドがあんまり統一できないみたいなことですよね。

質問者7:バラバラで……。

青野:なかなかほかの共感を得られない?

質問者7:「そうだったらいいね」と言ったまま、実際には忙しさに追われて、職場環境を改革するところまで至らないんです。

青野:諦めてしまっている。

質問者7:はい。

青野:あるあるですね。

質問者7:驚くような現実を、もう受け入れているというか。

知らず知らずの「我慢」に気づくことが必要

青野:我慢しちゃっている。そうですよね。本当にあるあるです。私はもともとパナソニック出身で、同期だったメンバーも、もう中年の親父になって強制転勤をくらいまくっているわけです。

もう当たり前に受け入れていますからね。「いや本当に困っちゃってさあ、来月から俺上海で」「え!?」みたいな。「家族大変じゃん」「本当困っちゃって」「むしろ喜んでないか、お前」みたいな。

(会場笑)

あるあるですよね。大企業あるあるです。慣れすぎちゃって。大変ですね。

水野:我慢に気付くことがまず必要なんでしょうか。実は我慢しているんだぞ、みたいな。

青野:そうです。私たちも今、働き方のコンサル事業もちょっと起ち上げていて。まさに大企業さんの人事とかなんですけど、もうなにが悪いのかわかっていない。「こんなの当たり前じゃないですか」みたいな。

サイボウズの話を聞いてもらうと、異次元すぎてまったく想像もつかないみたいなことがあります。なのでそうですね、どこからどう変えるんでしょうね。それも変えるか辞めるか。やっぱり人生1回なのでね。

私なんかはもう本当に我慢できないタイプなので、「これ時間かかるわ」と思ったらサクッと辞めちゃうタイプだと思います。そうですね、我慢しすぎないように周りを説得されるといいかなと思います。ろくでもないアドバイスですみません。

水野:ありがとうございました。じゃあ最後に1問、お願いします。

サイボウズで一番大きな開発本部が、全員部長職を失ったわけ

質問者8:どうもありがとうございました。先ほどの石垣経営の話で、究極はマネージャーさんがいなくても動くようになればという話があったと思います。私はそもそも将来、会社組織はなくなっていくんじゃないのかなと考えていて。

個人個人が本当に自立的に動いていけば、会社に依存しないというか。究極はそういうプロジェクトベースで動いていくようなことがあるのかなという気がしているのですが、青野さんはどうお考えなのかなと。

すみません、もう1個だけ。そういう経営をされていながら、青野さんご自身はどんな仲間に来ていただきたいと思っているのかをちょっとうかがいたいなと思います。よろしくお願いします。

青野:まず1つ目、会社組織がどう変わるのかですけど、マネージャーがなくなるケースも出てくるだろうと思います。例えばサイボウズでも、一番大きな本部、開発本部がありまして、今200人弱くらいかな? 150人から200人くらいいるんです。

今年、なんとその本部の中にある「部」が全部なくなりました。全員部長職を失いました(笑)。部長という人たちが全員部長職を失うという、「これ、すげえぞ」ということが起きて。(その部が)ないほうが柔軟にチーム編成ができて、なんかよさそうな気がしたらしいんですよ。

そういうふうに、今トライしていますね。でも、それは決して今後は部長なんていらないということではなくて。今このメンバーにおいて、こういう仕事をするときには不要だと彼らは感じただけで、また状況が変われば部や課というヒエラルキーはしっかり作った方がいいのかもしれない。

僕は、そこは多様になっていくんだろうと思います。私みたいにどちらかというと「会社なんてカッパだ。もういつでも解散しちゃえ」みたいな人もいるだろうし、「いやいや、このカッパを崇め奉ることが私たちの幸せです」という人がいても、僕はそれを否定しない。

もしそれで幸せならなんにも悪くない。ただ、それはカッパだと理解しておいたほうがいいとは思いますけど、それで楽しいのであればなにも問題はないです。なので、もっといろんな組織、いろんなチーム、いろんな会社が世の中にあって、自分が気に入ったところに入って楽しめるような、そんな社会が来ればいいなと思います。

例えるなら、バンド活動みたいなものですよ。飽きたら解散してもいいじゃないですか。でもずーっと、メンバーが入れ替わってもAKBみたいにやり続けるようなところがあってもいいし。どっちもあったら楽しいなと思います。

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