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【withnews books『平成家族』出版記念】サイボウズ青野社長と「これからの家族」の話をしよう 働き方・子育て・副業・夫婦別姓(全6記事)

サイボウズ青野社長「強制転勤なんてやめたほうが、業績は上がる」 個性を組み合わせる“石垣型”の組織論 

2019年5月31日、withnewsが主催する「サイボウズ青野社長と「これからの家族」の話をしよう 働き方・子育て・副業・夫婦別姓」が開催されました。withnewsでは、平成最後の年に、多様な生き方や働き方が広がる中で、昭和の価値観と平成の生き方のギャップに悩む人びとを紹介する連載「平成家族」を続けてきました。その連載をまとめた書籍『平成家族 理想と現実の狭間で揺れる人たち』(朝日新聞出版)の出版記念イベントに際し、夫婦別姓訴訟を続ける青野社長が、働き方改革の現実、子育て環境の実態などについて語ります。本パートでは、個性を活かすことで生まれる組織の在り方や、男性の家事・育児などのトピックスについて述べました。

そもそも会社というものは実在していない

青野慶久氏(以下、青野):続きまして、会社論の話をしたいと思います。「これからの会社って、どうなるんだろう?」というお話をしたいんですけど、そもそも「会社って何ですか?」という問いを投げかけます。答えを考えてみてください。

会社というのは、ないんですね。実在しない。なぜならば、会社は法人ですよね。法人ということは、法の下の人であって、法律がなければないんです。法律上、人であると定義をしようと言っているんですよ。実際にはそんなものはないんですね。

だから「会社を指さしてください」と言われても指させないですよね。「会社はこれです」と指さしても、床やビル、机だと思いますよね。会社は床ではない。会社というのは、ないんです。(法によって)あるものとして扱う人。それが会社というものです。

言い換えるならば、河童です。河童は、いないでしょう。でもとりあえず、あると思っておきましょう。それが会社です。なので「会社のために働く」ということは、「ないもののために働く」ということ。河童のために働く。「会社に迷惑がかかる」とか言いますよね。会社はないので、迷惑は絶対にかかりません。迷惑がかかるとしたら、同僚かお客さんか何かです。つまり、会社はないんですね。

実在するのは常に人間なんです。人間はいます。なので僕たちは、本当は人間に注目しないといけない。ところがこの法人、河童くんは資産を持つことができます。例えばサイボウズ株式会社という河童は、銀行口座を持っているんですね。自分の、サイボウズと書いた口座にめちゃくちゃお金が入っているんですよ。……そんなに入っていないか。まあまあ入っているんですよ。

すごいね。存在しないくせに銀行口座を持っていて、お金を持っているわけですよ。ところがこいつ(河童)は存在しないので、自分の意思でお金を使うことはあり得ないわけです。じゃあ、誰の意思でお金を使うのか?

虚構に過ぎない会社のために、人生を犠牲にするのはおかしい

こいつです。代理人がいるんです。それが会社法で定められた、代表取締役という人ですね。この人がこの河童くんの口座のお金を勝手に使うことができるんですね。これは、やばくないですか? ちょっとカルロス・ゴーンさんなんかを思い出したりするわけですけどね(笑)。

(会場笑)

こういう代理人がいるわけです。なので「会社のために働く」というのはそもそも言葉としておかしいわけです。こいつのために、代表取締役のために働いているんです。そこを僕たちは見誤らないようにしないといけない。

「ここでがんばっていたら、何かあった時には会社が守ってくれる」とも言われますけど、絶対に会社は守ってくれたりしません。守ってくれるとしたら、そこにいる実在の人だけです。人をよく見ないといけない。そいつが本当に守ってくれそうなのか。会社のブランドがよくても、(会社は)守らないんです。実際にそこにいる人しか守ってくれない。こんなことを言うのは私だけではありません。

これは昨年流行った『ホモ・デウス』という本ですね。ここにある一節を読みますね。

ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (上)(下)巻セット

私たちは物語がただの虚構であることを忘れたら、現実を見失ってしまう。すると、「企業に莫大な収益をもたらすため」、あるいは「国益を守るため」に戦争を始めてしまう。企業やお金や国家は私たちの想像の中にしか存在しない。私たちは、自分に役立てるためにそれらを創り出した。それなのになぜ、気がつくとそれらのために自分の人生を犠牲にしているのか?

ということなんですね。

会社というのは僕たちが幸せになるために作ったのに、なぜ会社のために僕らが犠牲にならないといけないのか。僕たちが作った、存在しないこの虚構のために犠牲になるのはおかしい。ここをまず僕たちは認識しないといけない。それを前提にこれから会社はどうあるべきかを語らないといけないと思います。

強制転勤の理不尽さを口にできる時代へ

この間は『クローズアップ現代+』に呼ばれまして、「強制転勤をテーマにするから、青野さんにぜひ出てほしいんです」と言われまして、僕は断りました。

(会場笑)

だって、「夜10時から生放送する」って言うんですよ? アホかと。夜10時に生放送やったら、もう家事・育児ができないじゃないですか。お断りしたら、なんとNHKのスタッフががんばって、「わかりました。青野さん、がんばります!」と言って、夜8時半からの収録になったんですね。NHK、やればできるじゃないですか。

ただ強制転勤がテーマなので、僕はその収録中に「そういうこと言ったって、NHKは強制転勤やっているじゃないですか」とツッコんでやろうと思っていたんですよ。そうしたら、武田真一アナがフリップを持ってきて、自分が過去にくらってきた強制転勤について語り始めたんですよ。

(会場笑)

「僕、最初は熊本の配属で妻と一緒にやっていたんだけど、松山に転勤になって妻が仕事を辞めなきゃいけなくなって、その後も転勤が、転勤が……」と。なんか、涙が出そうになりました(笑)。

(会場笑)

これ、NHKさんも思い切っていますよね。やっぱり「強制転勤ってどうなのか」と自分たちで口にできるようになってきたということです。「会社のために自分たちが犠牲になるのって、おかしくないか」と、みなさんが気づき始めたということだと思います。

社員の強制転勤をやめたら、会社の業績は上がらないのか?

昨年、日本労働組合総連合会の神津里季生会長と対談する機会をいただきまして、記事にさせていただきました。私がお願いしたのは、「強制転勤はおかしい。働く人の代表として、ちゃんと連合から言ってほしい。従業員の同意がない転勤は、禁止してほしいです」「これ(強制転勤)は、人権侵害もいいところです」と伝えました。神津会長は「おっしゃることはよくわかります」とおっしゃいました。以上。

(会場笑)

そういうことでね(笑)。やっぱり1人でやろうとすると、あまりよくないですね。経営者としてなんとか、強制転勤をしなくても、ちゃんと会社が回るところを実例として示していかないといけない。サイボウズは「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」ということで、本人の意思を尊重して、強制転勤は止めております。働く時間・場所・仕事の内容を、自分で選べるような組織にしました。

「こんなことをやっていると、業績はついてこないよ」といろんな経営者に言われましたが、実際に業績は伸びています。赤いほうが離職率です。一時期離職率が高かったのを、みんなが自由に働けるように、選べるようにしたらだんだん下がっていきました。メンバーのモチベーションが上がったおかげでもあります。経営者として、これをちゃんと示していかないといけないなと思います。

「強制転勤なんてやめたほうが、業績は上がりますよ」という話を、少しずつ聞いてくださるようになりました。この僕のイメージしている未来のかたちは、こんな感じなんですね。石垣のようなイメージです。人間を石に例えて申し訳ないんですけど、みんなそれぞれ違う。大きい丸いものもあれば、ちっちゃくて尖ったものもある。いろんなものがある。

これを無理矢理同じ形にして、ブロックのように扱うのではなくて、このバラバラのものをうまく活かしてうまく組み合わせれば、強い石垣ができるということです。これが僕のイメージしている、21世紀の組織です。

「こっちで午前中しか働けない人がいます」「えー? うわー! 困ったな」みたいな。でも、「こっちに午後しか働けない人がいます」となれば、「くっつければいいじゃん! 1日いけるじゃん!」となる。こんな感じですね。

一人ひとりの個性をうまく組み合わせれば、強い組織を作れます。それは「全員、朝9時にここで働け」「何時間残業しろ」と言うよりも、はるかにモチベーションも高く、強い組織ができるんじゃないか。こんなイメージを持っています。以上、会社論でした。

サイボウズでは育児休暇を取らない男性のほうがレアケース

最後のパート、男性の家事・育児にいきます。こんな偉そうなことを言っていますけど、私は基本的にめちゃくちゃ昭和型の人間です。育児休暇とかも取るつもりがなかったんですけど、私の住んでいる文京区の成澤(廣修)区長が日本で初めて育児休暇をとった区長さんで、彼の勧めもあって育児休暇を取りました。それから3回取りました。

一番下の女の子が生まれたときは、妻から「休まなくていい」「赤ちゃんは私が見ているから、上の2人はまだ保育園で送り迎えが必要だし、寝かしつけるのも含めてその辺をお前がやれ」というリクエストがありました。朝2人を送ったあと、午後4時半までに迎えに行かないといけないので、4時に会社からダッシュで迎えに行って、面倒を見る。そんなことを半年間やりました。

これをやると、会社の雰囲気が変わりますね。午後4時になったら社長が一番に「お迎えに行ってきます!」とだーっと出て行くわけですよ。そうしたら5時とか5時半とかに退社するお父さんやお母さんは余裕ですよ。「私も帰りますね」となります。私がこれをやるまでは申し訳なさそうに「すいません、すいません。ちょっとお迎えがあるので、すいません」とかって帰っていたんですけど、社長がこれですからね。「あれでいいんだ」となりますね。

そうすると男性の育児休暇も当たり前になってきまして、今サイボウズの社内では育児休暇を取らない男性のほうが珍しいです。やっている中で育児の大変さを学びました。24時間365日休みなし。休んだら子どもが死にますからね。休めない。しかも、命がかかっているのでめちゃくちゃ責任が重い。「これは1人に押し付けるような仕事じゃないよね」という気づきがありました。

育児をサボるだけで、人類は滅亡できる

もう一つは、子育ての大切さですよね。私も育児休暇を取るまでは、「仕事と育児とどっちが大事ですか?」と聞かれたら、けっこう悩んでいたと思います。もちろん育児が大事ですが、仕事だって同じように大事だと思っていました。でも、ある日を境に考えが変わりました。

辛さを感じながらも子どもを育てているときに、ハッと気づかされました。「育てている子どもは、20年経ったら大人になるぞ」「大人になったら働きもするし、物も買う」「しかも、僕の子どもだったらこいつはサイボウズ製品を買う確率がけっこう高いぞ」と。

(会場笑)

「こいつは客だ」「未来の客を、俺は育てているんだ」と。そこで気づくんですよ。子育てはある意味、市場を創造することなんです。労働者がいて、市場があって、その市場があるからこそ、僕たちみたいな商売人は安心して仕事ができる。だから育児をしない社会になった瞬間に商売人はいないわけですよ。もう商売をたたむしかない。

そうすると、商売なんかより育児のほうがまずベースにあるわけですね。まずしっかり育児をして、市場を作って、その上で僕らが商売をする。優先順位でいくと圧倒的にこっちが高いんです。

それを思うと、「今の日本は、市場創造というところをサボっているんじゃないかな」と思ったりします。言い換えると、育児をしない社会を作ったら人類は滅亡するんですよね。すごくないですか? 宇宙人が襲って来なくても、育児をサボると人類は滅亡できるんですね。「すげー!」みたいな。それぐらい大事だなということに気づきました。

社会を知らない人が商売をできるはずがない

この育児の大事さがなかなか社会で伝わらないんですけど、こんな言葉もあります。「学校を出て、就職すると社会人になる」と言いますよね。実はあれは嘘で、会社に入ったんだから、それは「会社人」ですよ。会社について知ることができるようになる。

社会人は、もっと社会について詳しくならないとなりません。だって、社会は広いですよ? 会社ももちろん社会の一部だけども、会社ではないところにもいっぱい社会はあります。子どもからお年寄りまで、みんな社会ですね。

会社に入社したからと言って、こんなことを学べるの? 学んでないですよね。企業だけではなくて、自治体や地域コミュニティ、医療、教育なども全部含めて社会ですね。

育児をすると社会人になれると思います。私たちみたいな商売人は、社会の問題を解決することでお金をいただけるわけです。そうすると、育児をすることは社会を知るとてもいい方法だと気づきました。

だから僕は今、待機児童問題も語れます。くらったんだよね。文京区で「104人待ち」と言われたんです。「うわー!」「それ、いつ俺のところに回ってくるんだ?」みたいな(笑)。僕は「会社人」になった頃よりも、より高い視点で意思決定ができるようになりました。

それはいろんなところでお話をしていまして、『日経ビジネス』にインタビューが載ったんですけど、「青野さん、育児をやらない管理職ってどうですか?」と言われたので、「いやもう、家事・育児をまったくしない男性管理職が多数を占める会社があったら、僕はそこに負ける気がしません!」とぽろっと言ってしまいまして(笑)。

(会場笑)

そうしたら『日経ビジネス』の最初のページの「今週の名言」にぼこーんと書かれてしまいました。「何だこの偉そうな経営者は?」みたいな感じで誌面に出ちゃいましたね。ただ、僕の本音でもあります。社会を知らない人が商売をできるはずがないと思います。

サイボウズ青野氏が考える、組織論と会社論

ぼちぼち時間なので締めたいと思います。2冊ほど本を書きまして、1つは『チームのことだけ、考えた。』という本で組織論のお話ですね。それともう1つは『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』という本。こちらはどちらかというと会社論の話です。組織論・会社論と2冊書きましたので、また続きが聞きたいという奇特な方がいらっしゃれば、読んでいただければと思います。

『サイボウズ商店』で買うように誘導しろ」と社員に言われています(笑)。ネット販売も、「サイボウズ商店」で検索すると出ます。ここからお買い上げいただくと、私が無理やりサインをさせられた本としおりがついてくるそうです。機会があれば本も買ってみてください。以上で私のお話は終わりにさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

水野:ありがとうございました。

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