全国紙の強みは取材力のある専門の記者たち

浜田敬子氏(以下、浜田):瀬尾さん、逆に新聞はどうなると思いますか?

瀬尾傑氏(以下、瀬尾):新聞はね、たぶん関口さんも思っていると思うけど、紙の新聞ってもう、将来はそんなにないですよね。20代の調査を見たら、新聞を取っている人って、数パーセントですよ。この人たちが50歳になったら、急に「日本経済新聞を読むか!」って、それはないですよね。この前、僕、東工大の先生と話をしたんですが、彼が東工大の生徒を調査したら、新聞を読んでいる人は10パーセントくらいだったんですよ。

ローブリー・ロス氏(以下、ローブリー):10パーセントも(笑)。

瀬尾:すごいと思ったんですよ(笑)。でも、それは、実はお父さんが取っている新聞を含めて10パーセントだったんです。自分で取っている人はほぼゼロだった。そういう状況なので、紙のこういう形態はなかなか難しいかなと思っているんです。

でも、浜田さんも仰っていましたけれども、全国紙としてありうることというのは、やっぱり取材力はあるので、そこにどんどん特化していく。専門の記者たちがいっぱいいるので、そういう人たちが作った、コンテンツメディアとして売っていく仕組みは、やっぱり役割として求められていると思うんですよね。

ニュース(記事)を書けるところに関して言うと、さっき、「動画はどうなんですか?」という質問がありましたけれど、動画は可能性があると思います。ですが、ライブ動画の事件や事故などの動画って、新聞社もテレビ局もぜんぶスクープ記事を入れていますよね。

TwitterやFacebookから火事の動画を拾ってきて流す。吉野家みたいな話なんですけど、その方が早いし、安いし、おいしい。逆に言えば、そこにはもう競争力がないので、専門性を突き詰めていく。もう一つ言えば、記者個人もそうしたほうがいいと思います。

マスメディアとしての機能は残るが、デリバリーの仕組みは変わっていく

浜田:だから、「コンテンツを出す側」としての新聞というのはあると思うんです。みんな「何新聞を取っていますか?」と言われたら(新聞を取っている人は)10パーセント以下だと思うんですが、読んでいるんですよ。Yahoo! ニュース、LINE NEWS、SmartNewsなどを通じて読んでいるのは、結果的に朝日新聞であり、共同通信であり、そういうところのニュースなんですよ。なので、ニュースを作っている人は変わっていないわけですよ。

私はやっぱり、レガシーメディアが日本にちゃんと必要で、民主主義のポストとして守らなきゃいけないときの役割が大きいのはプラットフォームだと思っています。ちゃんとプラットフォームがメディアにお金を還元する。この仕組みをちゃんと作ってほしい。

日経さんは出さないということで、ちゃんとビジネスを確立されようとしていますけれども、やっぱり私がデジタルメディアに行って気づいたのは、あまりにもプラットフォームとの関係が対等ではないということです。

関口和一氏(以下、関口):確かに、プラットフォームというのはさっき私が申し上げたように、まずはメディアの話として、媒体としてのメディアで見るのか、ジャーナリズムの担い手として見るかというところに話が戻ってきます。今の新聞というのは紙を印刷して、人間が配って、集金も人間がしている。こういうビジネスモデルなので、これはサステナブルではない。

ローブリー:膨大なコストがかかる。

関口:それはすでにうち(日本経済新聞社)なんかも電子版とかをやっていて、どんどんデジタルに置き換えるというかたちで、ファンクションとしてのマスメディアの機能というものを残していかないといけないし、残っていくと思う。ただ、見せ方とか、デリバリーの仕組みは変わっていく。一部の人は嫌だというのもあるかもしれませんがね。そういう分け方をしなきゃいけないですね。

日本人は世界で一番情報の出どころを気にしない

関口:ところで、私は6、7年前くらいから開成中学というところで英語の先生をやっているんですよ。

浜田:へえー!

関口:オフです。オフの時間帯にです。そこでベンチマークのように毎年、「新聞を取っていますか?」って生徒さんに聞くんですよ。そうすると、毎年だんだん減ってくるわけですよね。

減ってくるというのはどこでもそうなんでしょうけれど、こと開成中学で聞くことに意味があるのは、お父さんお母さんにインテリが多いことなんですよ。大学の先生だったり、学者、研究者だったり、お医者さんだったりします。そういう人たちも読まなくなってきている。

じゃあどうやってニュースを見ているかっていうと、ちゃんとインターネットで見ているわけです。だから、さっき浜田さんの話に戻りますけれど、ファンクションとして、あるいはジャーナリズムの担い手としての機能というのはちゃんと残していかないといけないと思いますね。

浜田:そうですね。

ローブリー:先ほども、実際にプラットフォームを通じて新聞が大切というのはよくわかりますけれども、我々のエデルマン・トラストバロメーターのデータを見ると、なんと日本人は世界で最もその大本をあまり気にしない(笑)。読んでいるんだけれども、それが日本経済新聞の記事なのか、朝日新聞の記事なのか、あるいはどこかのブロガーが書いた記事なのかは、ほぼ気にせずに読んでいる。私としては非常に気になるところですね。

プラットフォーム側がメディアのニュースとフェイクニュースを差別化すべき

ローブリー:あとは、Facebookでは先週、偽物だったんですが(アメリカ合衆国議会・下院の)ペロシ議長の泥酔の動画が流れました。削除の要請があったんですけれども、Facebookはその削除を拒否しています。Facebookのフィードを見ていると、その一連の流れに対しては「これはメディアとしてはどうなんだろう?」「メディアとしてはよくない!」という声があります。

みなさんに聞きたいのは、まず「Facebookのプラットフォームはメディアとして定義していいのか?」というのが1つと、もう1つは今後、みなさんのメディアにおいて、とくにデジタルメディアにおいて、フェイクニュースの対策と言いますか、クレディビリティ(信頼性・確実性)を上げていく施策についてお話しいただけますか? じゃあ、まず浜田さんから。

浜田:では、お話があったフェイクニュースについてなんですけれども、レガシーメディアにいると、フェイクニュースって、あんまり考えなくないですか? だって、ちゃんと取材をしているという自信がありますからね。

ローブリー:そうですね(笑)。

浜田:フェイクニュースの問題って、もちろんFacebookのようなプラットフォームにおいては入り込んでくると思うんです。だけど、私たちは記者が誰に取材をして書いてきたかというのは、「これの裏取りはどうなっているの?」って質問をしていけば取材をどこまでしているのか、していないのかというのが、すぐにわかります。

(自分たちは)デスク作業をしてちゃんと裏取りをやっているので、メディアの側にいる人が「自分たちのコンテンツの中に、フェイクニュースが入る」という感覚って、すごく違和感があるんですね。

よく「フェイクニュースについてはどうですか?」って言われるんですが、フェイクニュースを作っている人って、メディアの外部の人じゃないですか。なので、それが自分たちのオンサイトに載るということはあり得ないわけです。

フェイクニュース対策としては、それらと自分たちのニュースのどちらに信憑性を持たせるかというところだと思うんです。私たちのニュースというのもたぶんいろいろなプラットフォームで読まれるので、そのプラットフォーム側でちゃんと「メディア側のニュースとフェイクニュースとを、ちゃんと差別化してください」ということですね。

あとFacebookで言うと、日本はまだそれほどFacebookをニュースフィードとして読んでいる人は少ないですよね。

ローブリー:少ないですね。

浜田:例えば、Yahoo! ニュースというすごく大きいプラットフォームがあり、今の若い人はLINE NEWSが多いですが、そのLINE NEWSがあり、SmartNewsがあるということで、ニュースのプラットフォームが非常に強いので、あまりFacebookというのはない。ただ、アメリカではほとんどTwitterとFacebookで私たちのニュースが読まれているので、ちょっと日本とはFacebookに対する感覚が違うと思いますね。

ローブリー:確かに違いますね。

アメリカでは日本以上にメディアの信頼性や社会的責任が問われている

瀬尾:アメリカではやっぱりFacebookの問題ってすごくあるんですよね。ケンブリッジ・アナリティカ(という会社の事件)みたいな、「政治的な意図を持って使われているんじゃないか?」「人間をコントロールしているんじゃないか?」ということが出ています。それが今の「プラットフォーム叩き」の原因なんですけれどもね。

実際、SmartNewsはアメリカで伸びていて、Yahoo! ニュースを超えて英語のトラフィックごとの第10位に入っているんです。すごいんですよ。なんでかと言うと、1つの理由は……アメリカでSmartNewsのCMを観た方、いらっしゃいますかね? 日本は(お笑い芸人の)千鳥が出ている、クーポンのCMです。あれはすごく好評なんですけれども、アメリカのCMはまったく違っています。

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